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39 ボクと穂積の決戦前夜


ボク達は各々の装備を改めて確認し、決戦への準備を進めた。新たに手に入れたボクのダガン装備と穂積のドラグーンは強力で頼もしいけど敵の戦闘力は未知数でどこまて通用するか分からない。

意外とオーバーキルで、「おやおや、強くなりすぎちゃったかな?」ってなことになったらいいなぁ・・・


・・・・ならないよね。


ついさっきまでボクは大見得を切って戦う意志を示したけれど、ごめんなさい。あれは強がりでした。だって負けたらコンテニューなんてきかないし、地球が滅ぶかもしれないんだからね。やっぱりちょっと怖いよ・・・


いつの間にか装備を確認していた手も止まり、魔導ランプの鈍くぼんやりと光る灯りを眺めていた。穂積もおばあちゃんもボクの雰囲気を察してくれたのか、はたまたそれぞれに思う事があるのか、みんな口をを閉ざして沈黙が場を支配していた。



「えーと、じゃあ、穂積。準備はいい?」


ボクはそんな沈黙を破るようにボクは言った。


「・・・全然良くはありませんが、どうやら訓練を積む時間もなさそうですし、ぶっつけ本番で行くしかなさそうですね。」


「なに、ドラグーンの精霊弾は弾数は少ないが精霊の力を宿しておる。心配はいらんよ」


「問題は魔力を使う無属性弾ですか?」


「うむ。そちらはちとコツが必要じゃろうて。まぁ、足りない部分は精々頭を使うしかなかろう」


「そうですね・・・先輩、という訳です。覚悟を持って挑むしかないでしょう」


「うん、そだね!おばあちゃん!帰ってきたらまた、美味しいご飯食べさせてくれる?」


「もちろんじゃ!カニも、まだ余っとるしな・・・おっと忘れるとこじゃった。最後にコレをやろう」


おばあちゃんはそう言うと引き出しから、青い液体の入った試験管を1つ差し出した。


「これは魔力回復ポーションじゃよ。穂積よ、魔力枯渇する前に飲むのじゃよ」


「ありがとうございます」


「それじゃあ、おばあちゃん。行ってくるね!」


「うむ、マナの加護を・・・」


こうして、ボク達はおばあちゃんの家を後にした。


一人残ったドロシーは時空の裂け目をそっと見守り、しばらくすると扉を出て、どこかへと消えた。


─────


ボク達が地球へ帰還するとお外はすっかり暗くなっていた。おばあちゃんの家には随分長く居ていたようだ。

商店街もそろそろ店じまいなのか、コンビニやカフェ以外のお店はシャッターを閉める準備をしている。この時間は半額のお惣菜が激アツ何だけど、あいにく今日はお腹いっぱい。


ボク達がそんな商店街をスタスタ歩いていると、穂積が空を見上げながら話しかけてきた。


「先輩・・・」


「何だ、穂積よ」


「アレが先輩の言う目玉ですか?」

穂積はそう言って遠くのお空からギラギラとこちらを睨みつける目玉を指さした。


「それに、空がひび割れてます・・・」


「おっ、穂積もついに見えるようになったのか。お空、奪われたな」


「・・・ええ、そのようです。今まで感じていた違和感はアレだっだんですね」


「うん、きっと魔力を持ったせいだナ。ちなみにボクは選ばれし者だから魔力が無くても見えたけど、やっぱり最初は凄くビックリしたよ」


・・・世界一のぼんやりさんという事は黙っておこう。


「あんなモノ止められるんですかね・・・」


穂積の奴、初めて見た目玉の強烈なインパクトに流石にビビってるのかな。


「アレを動かしている装置にパイルバンカーを当てればきっと上手くいくよ。ボカンと1発ね」


「先輩は随分前向きですね・・・本当にアレを破壊すれば終わりなんでしょうか」


「うーん。おばあちゃんが言うには、本体はやっぱり異世界にあるから、それも叩かなきゃ行けないかもね。でも、目玉さえ止まればひとまず安心安心だよ」


「・・・それもそうなんですが、僕は地球側にも内通者がいる気がするんです」


「ないつうしゃ?」


「はい。異世界側がこれだけ大規模な作戦を企てるには、地球側の協力も必要かと思うんです」


「なるほどね・・・「世界の半分をやろう」とか言えばホイホイ売る奴は大勢いるかもね」


「はい。それだけでなく、そいつらは相当な権力を持っているかも知れません。そうなると僕達はこの地球でお尋ね者になるかも知れませんよ。いや、既に当局から目を付けられているかも知れません」


「・・・穂積よ。あんまり怖い事言わないでおくれよ。ボクもだんだん怖くなったじゃないか。いいか、こういう時は良い事だけを考えるのだ!」


「先輩は呑気ですね。・・・でも、それ以外に何か出来ることは、今の僕達にはなさそうですね」


穂積はそう言うと、すっかり黙り込んでしまった。


それからしばらく歩いたボク達は、喧騒する商店街を抜けて、しんとした住宅地へ差し掛かった。静まり返った住宅地の各々の家には明かりが灯り人の気配はするけれど、道を歩くボクは何だか集団の中の孤独感を感じてしまう。


ボク達の戦いは人知れず、有り難がられることなく行われるけれど、命はかける。それに、たとえ勝っても被害が出たら批判されたりするんだろうね。


しかも自腹だし。


ふふっ。何だか馬鹿みたい。


「・・・穂積。ボクはこの戦いに負けたら地球人が全滅するかもしれないなんて追加情報はナシにして、自分のために戦うよ。余裕があればついでにみんなを守る位の気持ちでな!」


夕闇の中、ボクは穂積の方をくるりと向いてそう言った。


穂積はダンジョンに潜り魔獣と対決した経験を通して、この異変を現実として受け入れたつもりでいたのだが、やはりどこかでRPGかゲームの世界と混同していた。その行動はカニ魔獣との対決時に狙えもしない眼を狙ったり、決死の突撃を仕掛けたりという所に表れていた。

ただ、それは恥じる事ではなく、むしろ、ゲームとの混同が、「行動」を起こす起因となって、危機を乗り越えて来たという見方もある。

そしていま、初めて穂積は本当の意味での始まりを認識したのであった。


「奪われた空を取り返す・・・いいですね。それで行きましょう!」


「うん!それで行こう!じゃあ、明日、多分大体10時半くらいで!」


「了解です。10時半には来て下さいよ!」


こうしてボク達はそれぞれの帰路は着いた。



────


「ただいま!・・・」


ウチへ戻るとボクは誰もいない部屋に向かって挨拶した。


殺風景な6畳一間の小さな部屋にはころころと散らばったコンペイトウと、敷きっぱなしの布団。その上に鎮座する有名な黄色いクマさん。

ふと部屋の隅に目をやると、ぽんつと置かれている、何やらご利益のありそうなツボに描かれている目と、目が合った。


それにしても全く役に立たないツボだな。ご利益なんてありゃしない。


このツボを見ていると、明日の決戦に向けてちょっとでも神頼みしようとしていた気持ちが途端に消え失せる。


「お風呂入ろーとっ」


ボクはシャワー派なので、湯船には月に1回くらいしか入らない。でも、身を清める意味も込めて今日はお風呂に入る事にした。と言っても、足は伸ばせず体育座りだけどな・・・


ドボドボとお湯を溜めていると、ボクはふと良いことを思いついた。


ヒトデの指輪をダガンの爪に変形させると、掌に残った小さなヒトデに魔力を少しだけ込めて見た。すると、掌から清らかで澄んどお水がドボドボと出るではないか!


やっぱりな!


これで水道代が節約できるぞ!


それからボクはちょっとだけ、その水を飲んでみた。

・・・するとどうでしょう!メチャクチャ美味いではないか!


それはまるで山の湧き水のようだった!


とはいえ水はキンキンに冷えてるから、お湯がぬるくなってしまうデメリットもあった。多用は禁物だな。


続けて魔力を少しづつ込めてみると、ドボドボ出た水は徐々に水圧を増し勢いを増してきた!


ふむふむなるほど。コレは多分水圧レーザーが撃てる予感がするよ!


湯船をぶっ壊すワケにもいかないので、水圧を弱め、最後に軽く、クッと魔力を込めてみた!


ぼしゃん!!


拳大の水弾が発射され湯船に大きな水柱がたった!


なんて事だ!全部びしょ濡れじゃないか!しかもユニットバスだから、備え付けのトイレットペーパーも全滅してしまったよ。


まぁ、いいか。掃除は明日の死闘の後にしよう・・・・


そうしてボクはぱぱっと服を脱ぎ捨て、お風呂に入った。


お湯はすっかり冷めて、本当に清めの沐浴となってしまったので、結局シャワーも浴びた・・・


────


自宅へ戻った穂積は部屋のライトを消した薄暗い闇の中で、数珠からドラグーンに変形させると両手でしっかり構え、また数珠に戻すことを何度も繰り返していた。それは明日のための訓練とも言えるが、むしろ精神統一の意味合いの方が強かった。額にじっとり汗を滲ませ、鏡に向かって何度も何度も繰り返すその姿は、まるで、中二病を患ってしまっているようであるが、明日の戦いで死ぬかもしれない穂積くんとしては、そんな事もいちいち気にすることではなかった。


しばらくすると穂積はふぅっと一息きつき手を止めた。

ドラグーンが手に馴染んだとは言えないが、幾分か感覚を掴むことが出来た。


「ふぅ。あとは撃つだけか・・・」


穂積はそっと呟くと、その他の装備の手入れに取りかかった。こちらの世界でしかも素人が揃えられる装備は魔導兵器と比べると何とも心許ない。それでも前回のダンジョンで学んだ経験を生かしいくつか新たに新調した物もある。その一つであるジュラルミンの矢をテーブルに並べ、キュッっと磨くと、慎重に歪みがないか確かめ、そっと矢筒にしまった。ジュラルミンの矢は高額であるが前回の矢じりよりも長く威力、命中率がよい。それでもまだ不安のある穂積は新たに身に付いた「射撃スキル」に一握の望みを願うのであった。


暗闇の中でキュッキュッと磨きコトンと矢筒にしまう音だけが響いていた・・・


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