38 ボクとダガン装備
穂積が受け継いだ渋くてカッコイイ銃はドラグーン。なんか名前までカッコイイよナ。正直、ちょっと羨ましい。・・まぁボクの白波の腕輪も負けてないから、良しとしておこう。それにボクの分もきっとあるしね!
「ねえねえ、ボクには!?ボクには何かあるかなぁ?」
つい身を乗り出しておばあちゃんに催促しちゃった。
でもね、それには理由があるんだよな。ダンジョン探索の時に遭遇したコウモリ魔獣。アイツにパイルバンカーやロボット脚の蹴りの相性は最悪だった。思い返してみてもあの時、穂積の機転とコンペイトウ城が無ければヤバかったと思う。一撃必殺技はロマンかも知れないけどやっぱり何か牽制手段がないと、この先たぶん死んじゃうよ。
おばあちゃんはそんなボクの期待と将来の不安を見据えていたのか、ニヤリと笑いこう言った
「もちろんあるぞい。ダガンからのプレゼントじゃよ・・・」
やっぱりあるんだ!ダガン装備だ!
ドロシーは机の下の引き出しからシンプルなリングケースを取り出し、ボクにすっと差し出した。
「ほれ、ダガンの意志じゃ。受け継ぐがよい」
・・・あれま、ダガンの奴ずいぶんちっちゃくなっちゃったね。
ボクはもっと巨大な怪獣の爪みたいな装備になる事を想像してたんだけど、まさか指輪になるなんて、ちょっと拍子抜け。
でも感謝の気持ちは変わらないよ!
ありがとう!
ボクはさっそくリングケースをゆっくりと開け、中の小さな指輪をのぞき込んだ。
銀色の土台にターコイズブルーの五芒星。でも、少しだけ曲線を描いてる。何だろうか・・・あっ!ヒトデ柄か!
おおっ!かわいいじゃん!ダガンかわいいじゃん!
「ふっふっふっ。どうやら気に入ったようじゃのう。さて、お前さんはどの指につけるのじゃ?」
お、おばあちゃん、何か意味しん・・・誤解してないかな?
だけと、ボクのお顔はちょっとだけ熱くなり、無意識に手でパタパタと扇ぎ、暑さを冷ました。
でもダガン。残念だったな。左手は白波の腕輪で予約済みなのさ。
フフ♪初めて貰ったよ!ゆ・び・わっ!!
さっそくボクは指輪を右手の薬指にはめてみた。キラリと光るターコイズブルーの指輪はとてもよく馴染む。
・・・でもそれだけではなかった。
ボクが指輪に見とれていると突如指輪から力が溢れ出しボクに流れた。
「お、おばあちゃん何か凄い力を感じるよ!指から全身に力が、廻る!」
「それはダガンの力がお前さんにインストールされているのじゃよ」
そうおばあちゃんが言ってる側から力はドクンドクンと溢れ出し、ボクの頭のてっぺんから爪先まで優しく包み込んだ。しだいに身体全体に浮遊感を感じると共に、心の奥に熱く、力強い意思が宿るのを感じた。
こ、これは凄いよ!何だか生まれ変わる気分だよ!!
ま、まさか!このままナイスバディになるんじゃあないかな!!うん!間違いない!!
と、思ったその時、力は霧散した・・・
「あれ?終わった・・・」
キョトンとしているボクにおばあちゃんはこう言った。
「どうやらインストール完了したようじゃの。どれ、指輪に魔力を込めて見なさい」
スーパーヒロインモードからいきなり現実に引き戻され、いまいちスッキリしないけど、確かに何か新しい力が宿っている感覚は残っていた。
「あっ。うん・・・えい!」
ボクが魔力を指輪に込めると、ターコイズブルーのヒトデがブルブルと動き出し、ぶわっ!っと一気に巨大化し、ボクの手を覆った。その勢いは手首を少し越えたところで止まり、今度は表面がメタリックブルーの金属のように硬質化し掌も分厚い黒皮で覆われ、掌の真ん中には水色のヒトデ模様がぽつんと残った。
ボクは全体を眺めるように確認した後、グローブをグッと握ってみた。すると、拳からツルッとした丸ノコのような鋭利な刃がにょきっと生えた。
そのメタリックブルーに光る刃は、決して長くはないが、殴りつけた物を切り裂くことが出来るようになっていた。
こ!これは噂に聞く残酷拳だ!
・・・そんな噂は聞いたことないけど、とにかくボクはこの迫力にちょっと引いてしまった所に、ダガンが「どうだ!凄いだろう!」と自慢してる姿が脳裏を駆け抜けた。
しかしダガンよ、お前はやっぱり危ないヤツ何だな。でも、そうでなきゃ生き残れないんでしょう。ありがと・・・
「どうやら気に入ってくれたようじゃのう。どれ、お前さんのステータスも、確認してみるとよい。いくつか補正もついてるはずじゃよ」
「うん!ためしてみる。」
ボクは言われるがままにステータス魔法をむむむっと唱えた。
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名前 まんぷく
Lv17→20
職業 コンペイトウ使い
力・・・・28→35(+30)
敏捷・・・33→38(+30)
守備・・・30→39(+30)
知力・・・10→9
体力・・・34→40(+30)
魔力・・・28→39
HP・・・210→250
MP・・・60→ 80
スキル
認識阻害 (小)
リンキング
(水中生活)
魔法
コンペイトウ魔法
(水魔法)
称号
■ ■ ■ ■ ■ ♪
マナに祝福されしもの
勇敢なる戦士
うそつきパンツ
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「・・・・」
何か色々おかしいぞ・・・
それにいつの間にかとんでもない称号を貰ってるし。凄いステータスと変なのが一緒に来てしまい、ボクはとても複雑になった。最近このステータス魔法もまともになったかと思った矢先、またこれよ。
こういう時はいい事だけを考えよう。いい事だけを考えよう!
・・・考えてみればヘンテコなコンペイトウ魔法とか他人から無視される認識阻害(小)、よくわからん玄人向けのリンキング・・・いまいち使い勝手が難かしかっよね。
でもここに来て、何と水魔法をゲットしたよ!これでボクも魔法使いだ!カルメンさんの言っていた水中生活スキルも役立ちそうだしね。
ボクは改めて掌のそのヒトデ模様をよく見てみると少しだけ呼吸をしているかのように動いており、意識を集中させるとじわりじわりと水が滲み出た。
「ねぇねぇ、おばあちゃん!水魔法が使えるようになったよ。この掌から水弾がでるのかな?」
「うむ、水弾は撃てるじゃろが、正確には言うと、ダガンの固有魔法を受け継いだのじゃよ。他にも何かあるやも知れん。」
他にもあるのかぁ、何だろね。色々使えばきっとわかると思うな。楽しみは後に取っておくことにしよう!
それに強敵ばかり相手にしていたせいかレベルも意外とすぐに20に到達してしまった。ステータスも軒並み上がり・・・って、あれ?知力下がってる・・・?
・・・そんな事より(+30)の補正よ!ダガンの指輪のおかげだよね。数値が2倍位になってるよ!これはもうチート級だよね!やったね!うふふ。
知力ダウンは見なかったことにした・・・
かんそう!
ステータス魔法は相変わらず悪意たっぷりだけど、成長を感じさせられる結果となり、ボクは満足!!
PS
うそつきパンツは後で黒塗り送りだな・・・
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一方穂積は、さっきから横にいる変なのが気持ち悪く笑っている事に対して、きっと良いことでもあったんだろうなと解釈し安堵した。何しろ
「先輩、良かったじゃないですか。遠距離攻撃が出来ると戦略も立てやすくなりますね!」
「うん!それに穂積のドラグーンがあればイバラ狼も倒せそうな気がするしね!」
新宿御苑で感じたあのプレッシャーも今なら跳ね除けそうだよ!何だか目玉に炎が宿るよ気がするよ!!
「水をさすようじゃがのう。ガーディアンの存在を忘れてはならんぞ!」
あっそうだった・・・
おばあちゃんの一言に不安がちょっぴりぶり返してきた。
「ねえ、おばあちゃん。ボク達だけで勝てるかなぁ・・・」
「・・・お主らだけでもワシらの世界に逃げて生き残ることは出来るが、どうじゃ?」
その言葉は勝てる見込みは限りなくゼロに近いことを暗に示しているようだった。
ボク達だけで逃げる・・・
そう言えば穂積も少し前にそんな事を言っていたよね。穂積はどう思っているのかな?
「ねぇ、穂積。お前はどうしたい?逃げたいか?」
「先輩。逃げる事は恥ずかしくないし、悪い選択でもないと思います。でも、先輩は逃げる気はないんでしょ?だから僕だけ逃げたりしません。先輩に死なれちゃ目覚め悪いですからね」
穂積はボクの質問にそう答えた。
穂積のくせに中々かっこいいこと言うな。
そうだとも、ボクは逃げる気なんてさらさらないよ。奪われたお空を取り返すまではね。
でも・・・これ内緒。イザとなったら穂積には最後まで付き合わせる気は無いよ。
「おばあちゃん、ボクの考えは変わらないよ。奪われた物を取り返すためにボクはやる。それに、地球の人がみんな死んじゃうかもしれない時にのうのうとしていられないよ」
「そうか・・・・」
おばあちゃんはボクの眼を見ると一言だけそう呟いた。
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奪われた物を取り返すためか・・・
ワシも人のこと言えんが、結局は皆それに辿り着いてしまうのじゃな・・・
奪われたものを取り返すことは、他者から見れば奪うと同じ意味になる事もあるんじゃよ。
しかし、これでこの者らもこの舞台に立つ資格を得たとも言うべきか・・・
受け継がれる意思と憎悪と狂気が渦巻くこの舞台にな・・・