36 ボクと穂積の反省会 with おばあちゃん
穂積の不公平なヒーロー補正に大いなる不満を感じつつもボク達は雑居ビル4階時空の裂け目前に辿り着いた。
別に穂積が憎たらしいというわけじゃない。まぁ、少しは憎たらしいけど、最近のコイツの活躍は中々のものでな。ボクもコイツに対する見方は雀の涙くらいではあるが変わっているんだよね。
それなのに何が不満なのかというとな!この不公平感なんだよ。たぶんボクが鈍臭い星の下に生まれたのかもしれないけど、やっぱりちょっと切なくなるよ。
・・・それでもまぁ、世の中手元にあるカードで勝負しないと行けないんだよね。たとえそれが鈍臭いカードでも。だからちょっとでも良い手を増やさなきゃね!
気持ち・・・切り替えよう!
こうしてボクは気持ちを切り替え、お風呂上がりのようなさっぱりと清々しい気分を取り戻した。
・・・それにしても鈍臭いって、鈍くて臭いって書くんだよね・・・結構酷いよね。自分で言っといて何だけど、傷ついたよ・・・
気持ちがまた切り替わってしまった・・・
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時空の裂け目の前でコロコロと気持ちを切り替えていると穂積がボクを心配そうにボクを見た。
その視線に気づきチラリと見れば、穂積と目が合い、はたっとした。
「どうした穂積、何かモンクあるか?」
「いいえ、モンクはありませんが、やっぱり少緊張しますんで、先輩のいつもの妙ちくりんな雰囲気はしまっておいてください。余計に不安になります。」
妙ちくりんだとー?なんて言い草だ!
・・・まぁ、考えてみれば、穂積は初めて時空の裂け目を通る時空移動初心者だったね。ボクがしっかりしなきゃいけない番じゃない!?
「よし、穂積。切り替わったぞ。えっとな、これから時空の裂け目を通るわけだけど、特に注意することは無い。ただゆっくり水に入るように、壁に身を沈めれば勝手に通り抜けれるからな!物は試しだ、やってみよう!」
「はい」
穂積の珍しく真面目な返事から真剣味が感じられる。穂積は本当に緊張していたようだ。
「じゃ、ボクから入るからついてきてね」
そう言ってボクはいつもの様に壁を跨ぐようにしてくぐり抜けた・・・どっこらしょっと。
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「やっほー、おばあちゃん。また来たよー」
裂け目をくぐり抜け開口一番にご挨拶したけど、その声は誰かに届くことは無く無人の部屋に木霊し、行き場を失ってやがて消えた。
・・・おや、おばあちゃん居ないや。
おばあちゃん、どこいっちゃったかな?たぶん例のご飯の準備をしているのだろうか。奥の部屋からシュンシュンと圧力鍋のような音が聞こえる。それにほんのり良い香りがする・・・
おや・・これはどこかで嗅いだことのある匂いだね?はて?
その時、何かにドンッと背中を思いっきり突き飛ばされた!
「うわっ!」
ドテンと転んだボクは、思いっきり床にキスした。
「痛いじゃないか!床に顔面をぶつけたぞ!」
「ここが時空を超えた異世界か・・・」
立ち上がりながらボクは抗議をしたけど、穂積はそれを完全に無視し辺りを注意深く見回し、
感動に浸った。
壁を抜けたら現れるスチームパンクな世界。まず目に映るのはパイプオルガンに似た動力の制御装置。そこらから壁や天井、床にと這うようにして引かれた大小の真鍮製のパイプと途中にあるバルブと計器。そして部屋全体を魔導ランプが鈍く温かみのある灯りで光と影を作り出し照らす。
「あんまり変な物に触るなよ、結構あぶないものもゴロゴロしてるからナ、おばあちゃん家は」
ボクは先輩風を吹かしたつもりは無いけど、ウロウロする穂積が心配になりそう言った。
「分かってますよ、先輩じゃあないんですから・・・」
「うゞ・・・」
穂積はボクを見ること無くそう言った。
「ふぉっふぉっふぉっ・・・仲が良さそうじゃのう。なによりじゃ。」
声と共にギィと奥の扉が開くと、ドロシーは大きな鍋を持って部屋に入った。
「あっ!おばあちゃん!んん??・・・この匂いは!まっっ!まさか!」
アレだ!ボクに状態異常を掛けたアイツだ!
「カニさんだぁ!」
やっほぉーい!やっほぉーい!
「お前さんが大好物そうで何よりじゃ。コイツはなキングクラブという魔獣でな。とにかくデカくて美味いのじゃよ。お前さんら良い狩りをしたのう」
ドロシーはカニ鍋をドシンとテーブルに置き、会話が途切れたタイミングで穂積が挨拶をした。
「はじましてドロシーさん。穂積と申します」
「ふむ、お主が件のお仲間か・・・活躍は聞いておるぞ。色々聞きたいこともあるようじゃが、食事でもしながらでも遅くはあるまい」
おばあちゃんはそう言って何故かボクに視線を向けたけど意味がわからなかった。まぁどうでもっ、いいネ!
「・・・それが良いかと思います」
穂積はドロシーのその視線を理解しすると同意した。
───
キングクラブのドロップアイテム、蟹の爪は非常に大きくボクが両手で抱えるくらいあった。殻の中には蟹の身がこれでもか!と言うくらいぎっしりパンパンに詰まっており、そのままオーブンで丸焼きにするのが異世界流だそうだ。
ドロシーもご多分に漏れずキッチンにある大きな魔導石窯でじっくり焼いていた。ちなみに火加減はいつもの部屋のにあるテーブルの上の魔導釜の台座。あのダイヤルはパイプオルガン型制御装置を通して台座の上の釜だけでなく、キッチンの火加減、エアコン、魔導ランプと大抵の動力を制御できた。
そうして出来た大きな焼きガニはひび割れた口からブシュブシュと旨味のスープが溢れ出している。
言うまでもなくボクの口からもヨダレが溢れ出している。
「タレは3種類。スイートチリとヨーグルトガーリック。ホットチリとマヨ。ハバネロトマトじゃ」
おばあちゃんの用意したタレは、日本の味付けと違うが、どれも食欲をそそられるね!
ちなみにボクはハバネロとトマトをすり潰した真っ赤なタレが気になるよ!
ちなみに穂積も興味深々で見つめている。そりゃそうだよね。ボク達が命懸けで仕留めた初の獲物だからね。
「では、頂くかのぅ」
「うん!いっただきまーす!」
ボクがお箸で殻を突っつくと「キュィン」って音がして弾かられた。
・・・なんて硬さだ!
これはパイルバンカーで殼むきしなちゃいけないレベルだね。
「おばあちゃん、パイルバンカー使う?」
そう言ってボクは席を立ちパイルバンカーを起動しようとすると、隣りに座っている穂積が止めた。
「先輩、待ってください、それで殼むきしたら部屋に飛び散りますよ」
たしカニ。目が点になり、ピースするボク。
「どれ、ここはワシの出番かのう・・」
するとドロシーの義手の人差し指だけがカチャカチャと音をたて鋭いナイフに変化した。
出たよ!おばあちゃんの十徳義手!カッコイイなぁ!!
「おい、穂積よ。見たか!おばあちゃんの義手!凄いだろ!!」
「・・・ええ、そうですね。ヨダレめっちゃとんでますよ・・・」
おっと、すまんすまん。
「驚くのはまだ早いわい」
ドロシーはカニの殻にナイフを当て、縦にすぅっと切り裂いた。
それはまるで豆腐でも切るかのように滑らかな動作で、パイルバンカーでもぶち当てないと破壊できなかったあのカニの甲殻とは思えなかった。
「ふっふっふ・・このナイフは特別性じゃ。お前さんのシールドですら易々と切り裂くぞい」
お、おばあちゃん、サラッと怖い事言うね。
たぶんダガンとかコウモリ魔獣でもおばあちゃんならボコボコにできるんだろうね・・・
そう考えると流石のボクもタジタジしちゃう・・・
さて、切り開かれた殻の中からぷりっと弾力のある真っ白なカニの身が出てきたよ!見た目は巨大な裂けるチーズ見たいだけど、キラキラと輝くカニさんスープが染み出している。
「どれどれ・・・」
ボクは箸で身を掴むと、すぅっと裂け切れた。
それをお皿に乗せて、ハバネロトマトをちょいと垂らす。
ふっふっふ、この時を待っていたよ!いや、この時のために生き残ったと言ったら大げさかもしれないけど過言ではない!
ぱくっぅぅぅ!
うーーー・・・からぁぁぁーーい!
そしてうましっ!!
ビシィ!!!
あのね!カニさんの身はもうそれだけで、塩気けのある旨味なんだけど、それにハバネロの強烈な辛みと絶妙なトマトの酸味が合わさって、噛むたびに口の中で旨みが大暴れするよ!まさに三位一体の味!
カニのハバネロトマトダレ!これはヤバいよ!パイルバンカー三発分の威力があるよ!!
一方穂積は、お子ちゃま舌のせいか、スイートチリとヨーグルトガーリックタレを付けていた。
「先輩!これも、美味いですよ。甘辛いスイートチリとヨーグルトの爽やかさと微かに残るニンニクの辛みが病みつきになります。まさに三位一体の味ですね!」
おっ、穂積も自力で三位一体の領域に辿り着いたな!
「では、ワシはホットチリマヨで頂くかのぅ・・・ぱくっ」
ドロシーは義手のナイフをフォークに変えてカニの身を器用に切り分けると、タレをつけて口に放り込んだ。
「うむ、久しぶりのキングクラブじゃがやはり美味いのう。チリソースの辛味とマイルドなマヨがよく合うのう・・・」
それからボク達は無言でカニを切り分けひたすら口に運んだ。
カチャカチャとカニを切り分ける音だけがいつまでも響くのであった・・・
────
食事も一段落し、みんなでコンペイトウをつまみながらボク達は洞窟探検の反省会と、ついさっき再起動した目玉について話し合った。
洞窟探検について、やはりコウモリ魔獣との一戦が焦点となった。素早い敵と戦う準備不足がネックとなり、苦戦したあの戦いだ。
おばあちゃん曰く、コウモリ魔獣は本来合体する前に範囲殲滅魔法で一気に焼き払うのが効果的らしい。それで経験値もがっぽり頂けるオイシイ相手だとか。だから穂積の火炎瓶作戦はかなりイイ線行っていたらしく、穂積の機転はとても高評価だったので、穂積も満更ではなさそうだ。
しかし、良い話はここまで。
目玉の再起動と黒く淀んだマナについては、おばあちゃん曰く、結構マズイ状況とのことだ。
「うむ、お前さんらはどうやら、監視の目に引っかかってしまったようじゃのう。それに黒く淀んだマナはまさに魔獣を生み出す淀んだマナじゃろうて・・・」
やっぱり敵さんは地球で魔獣を生み出す事も考えていたんだね!でも、ボクはいまだに発見出来ていないよ。実はどこかで生み出されている可能性はあるけれど、それよりも一点集中で強力な魔獣を作り出している可能性もあるかもしれないね。
そんな中、穂積がおもむろに質問をした。
「すみませんがドロシーさん。マナで満たされた世界では、魔力を持たない人間はマナ酔いを起こし最悪の場合の場合死に至ると伺っています」
「うむ・・・お前さんの言わん事はわかるよ」
おばあちゃんは、何かを察したらしくそう言った。もちろんボクは分からない。
「では、やはり地球人は・・・」
「ほとんど死んでしまうじゃろうな・・・」
「なんだってー!!!」
ボクは叫んだ。
どどどどどういうこと?人類殲滅計画?この人たち一体なんの話しをしているのかな!?
「おい、穂積!どういう事なんだ?なんでみんな死んじゃうんだよ!」
「・・・先輩、僕達がマナのある世界に居られるのは人工的に魔力を取得したからです。地球にマナを送ることは、魔力の存在しない地球では毒になりうると言うことになります」
「えーー!じゃあ、目玉を早く停めなきゃじゃん!!」
「まぁ、落ち着きなさい。いまここで慌てても無駄じゃよ」
「でもでも、一日も早くやっつけないと、害がでてからじゃ遅いよ!」
「先輩の言う通りです。でもこれで状況は大体把握出来ました。ドロシーさん、僕のステータスを起動して頂けませんか?」
「うむ、お主の覚悟の程はワシにも伝わったぞい。それにどうやらタイムリミットも近いようじゃしな。穂積とやら、額を借りるぞ」
ドロシーは自身の人差し指を穂積に当て、ブツブツとおまじないを唱えた!
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ポーン
「ステータス魔法を確認しました。起動しますか?」
どこか軽い効果音と共に僕こと、穂積圭介の頭の中に機械的な女性の声が響いた。
何なんだこれは?ステータス魔法の起動?これが例の魔法とやらか。
ドロシーさんは指を離すと、起動するよう目で促す。たぶんこの起動をもって僕も後戻り出来なくなるんだろう。いや、僕は既に後戻り出来ないところにいる。あのコウモリ魔獣との死闘を制した時から・・・
「ステータス魔法、起動・・・」
僕はそう呟いた。
「・・認証コードを受理しました」
僕の頭の中の謎の声がそう言うと、何か暖かいエネルギーが頭から首のうしろを通って肩から手、背中、腰を経由して、膝の裏側、足へ。つま先から折り返し膝の表側へ、内蔵、肋骨を伝って肺、最後に心臓へ通った。
そのエネルギーはとても優しく、僕の中の魔力と混じりあった。
「・・・3・・・2・・・1・・・接続完了・・インストール開始・・・・・・・・・完了・・・出力開始・・・」
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名前 穂積 圭介
Lv1
職業 パチプロ
力・・・・18
敏捷・・・14
守備・・・13
知力・・・17
体力・・・15
魔力・・・6
HP・・・120
MP・・・40
スキル
射手
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魔法
無属性
称号
イレギュラー
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