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35 ボクとおばあちゃんの処方箋 穂積覚醒


ぼんやりと鈍く光る魔導ランプの下でドロシーはおもむろにテーブルの上の台座のスイッチを入れた。普段は魔導釜を使用する時に使うスイッチだが、今は何も置いていない。それでもケーブルは何処かに繋がっているのか、パイプオルガンからプシューっと蒸気を発すると、別の部屋からシュンシュンと高圧蒸気が吹き出す音が聞こえてきた。

ドロシーはその音を確認すると、まだまだ熱々の紅茶を一口飲み、一息つくとドロシーは再び話を始めた。


「ふむ、話がそれてしまったわい。・・・お前さんの話では、魔力の持たない者がワシらの世界に踏み込むとどうなるか、と言うことじゃったな。・・・おそらく急激にマナの影響を受けてしまうだろう・・・」


ドロシーは注意深く台座のダイアルを回しすと、カルメンはドロシーの代わりに話し出した。


「まんぷくちゃんもご存知のように、この世界はマナが満ちています。そのマナを利用するために生物は普遍的に魔力を宿していますが、稀に魔力を持たない生物も誕生してしまいます。そういった場合、マナ酔いと呼ばれる体調不良を起こし最悪の場合は死に至りますの」


「ふむふむ、つまり穂積はおばあちゃん家に来たら酔っ払って死ぬのか・・・」


・・・なんて事だ!穂積、お前はコチラではおでんの串にも劣るか弱き男の子だったんだナ。すまんナ・・・


・・・ん?待てよ。


「でも穂積は一度こっちの世界に来てダンジョンに潜ったよ。それにダガンもボク達の世界に来たしね」


すぐ死んじゃったけど・・・


「ふっふっふ、お前さん良い事に気付いたのう。それは同期され繋がった世界を通ったからじゃよ。同期された地点は世界が曖昧になり、大気のマナも曖昧になり中和されてしまうのじゃよ。じゃからその周辺はお前さんもワシらも安全に過ごすことが出来るのじゃよ。ただし、その地点から離れてしまえば、たちまちマナの影響を受けてしまい互いに代償を払う事になるのじゃ」


という事は穂積のヤツ、呑気に奥まで探索してたらやばかったナ。命拾いしたナ。


「でもそれじゃあ連れてこれないね。残念無念だね」


「まぁ、そうとも限らんぞい」


「はい。かつてはこの魔力欠乏は不治の病とされて来ましたが、魔導技術の発展でわたくし達は既に特効薬の開発に成功致しておりますわ」


「うむ、今では大きな病院に行けば簡単に手に入るくらいになっておるし、当然ワシも持っておるよ。・・・カルメンや、スマンが薬箱を取ってくれんか」


「はい」

そう言ってカルメンさんは棚へ薬箱を取りに行った。


そう言えば、ボクも初めは魔力なんて無かったよね。忘れもしない、あのナギサにトイレでグチョグチョグリーンスライム注射され、それから、ミナモにステータス魔法を起動してもらったんだよね。


・・・・という事は!特効薬ってあのグチョグチョグリーンスライムか?穂積にブスっとぶっ刺すのか!


・・・まぁ、それはそれで悪くないナ。ふっふっふ・・

ボクは誰にも悟られないように仄暗く笑うのであった。


────


カルメンさんが薬箱から取り出しテーブルの上に置いたのは1錠のカプセルと錠剤。どちらも白色で地球でも見かけるありふれたお薬だった。


残念なことに特効薬はグチョグチョグリーンスライムでも無く注射でも無かった・・・


ちぇっ!穂積、運のいいやつだナ。


────


「ありがとう。カルメンや」


ドロシーは礼を言うとカルメンは優しく頷いた。


「まんぷくよ、これを仲間に飲ませるのじゃ。このカプセルの中にはのぅ、魔導結晶ナノマシンが入っておる。それを摂取すれば一時的に、体内に魔力が宿る。それから、こちらの世界でステータス魔法を起動すれば体内魔力が確立され、はれてこちらでも過ごす事が出来るのじゃよ」


「・・?なるほど、ボクもそういう事だったんだ!もう一つのお薬は?」


「副作用で胃が荒れるのでな。胃腸薬じゃよ」


ずこっ!


まぁお薬あるあるだよね。つまりはお薬を呑めば全部解決って事だね。


・・・・穂積め!なんて至れり尽くせりなんだ!


ボクなんか、臭いトイレでグチョグチョグリーンスライムに混ざったナノマシンを、後頭部にぶっ刺されたのにな!しかも騙されてっ!それに・・・・・まぁいいや。何だか思い出しては行けない事が盛り沢山な気がするのだ。


「じゃあ早速穂積を呼んでくるよ!」


「込み入った話もあるでしょう、わたくしはおいとま致しますわ」


「すまんのう、気を使わせてしまったな」


「いえ、お構いなく。それではまんぷくちゃん、また会いましょう」


「はい、カルメンさん。色々ありがとうございました!」


カルメンは辺りを一瞥すると颯爽と扉から出て行った。


────


「また会いましょう!」か・・・


カルメンさんの別れ際の一言。ますますボクはこちらの世界に興味をも持っちゃうよな。扉1枚しか隔たりがないのに。次元を超えるより近くて簡単なのに・・・遠いね。でも、そう言う事って時々あるよね。ボク達はボク達の出来ることを一つ一つやるしかないんだよ。たった一枚の扉の向こうの為にね。


ボクはふとそんな気がして、扉の向こうに想いを馳せ心の中の拳を強く握った・・・


・・・おっと、その第一歩、今は穂積に会いに行くことだナ。


何でこーゆー時に穂積なんだよ・・・


まぁ、いいや。


「じゃあ、おばあちゃん。一旦戻るね!」


「時にお前さん、飯は済んだかえ?」


「ん?ご飯?」


そう言えばドーサは半分くらいしか食べれなかったしな。と言うか、ご飯はいつでも食べられるよ!つまり・・・


「まだだよ!」


「ほいたら、ご飯用意しておくかのぅ。積もる話は飯でも食いながらするとしようか」


「いいね!きっと穂積も喜ぶよ!それじゃあいってきまーす」


やったね、おばあちゃんの手料理だよ。これは絶対美味しいよぉ!何かな?何かなぁ!?


目玉よ!ドーサの恨みはいずれ晴らすけど、今は忘れてやろうか!あっはっはっは!


ルンルン気分で雑居ビルに戻り階段を駆け下り、穂積の元へ急いだ。


言っとくけど、階段からコケるなんてお約束はないからね!


────


地球に帰って見ればすっかり日も暮れていた。あれま、結構待たせちゃったかも知れないね。穂積ごときとはいえちょっと申し訳ない。


ボクはすっかり慣れた商店街を素通りし、入口にある有名なカフェチェーンにやって来た。すると窓越しに穂積がスマホをいじってるのが見えた。どうやら外からでもすぐに分かるところに陣取っていたようだ。


「おーい、穂積」


ボクは窓越しから、窓をコンコン叩いて穂積を呼んだ。


下を向きスマホをいじっていた穂積は不意をつかれ驚き、一瞬ビクッとなった。穂積には珍しく普段あまり見かけないリアクションをボクは目撃し、思わずボクがニヤニヤしていると穂積は窓越から冷たく不機嫌そうな目でボクを睨んだ。


ボクはそんな穂積を気にも止めず手で「おいでおいで」と合図すると穂積は飲みかけのコーヒを片手に席を立つと店内を通り過ぎ、外にやって来た。


────


「先輩・・・脅かさないで下さいよ。こう見えて、結構ナーバスなんですから」


おっと、そうだった。穂積も目玉のプレッシャーを少しばかり食らってたんだっけか。


「やあやあ、すまんね。それよりもこれからおばあちゃん家に招待するヨ。段取りは整った。でも、やっぱり魔力が無いとマナで酔っちゃうんだって。マナ酔い。最悪死ぬらしいから、お薬処方されたよ」


ボクはポッケから薬包を取り出し穂積に渡した。


「はいこれ、カプセルは魔力で錠剤は胃薬ね。飲んで!」


「・・・説明、それだけですか?それでポケットから取り出した未知の薬を飲めと言うのですか?」


穂積は薬包を胡散臭そうにしげしげと眺めながらそう言った。


おっ!穂積の奴、ボクの説明に何やらご不満があるようだナ。生意気なやつだ。ボクが観音様くらい優しいとも知らずにナ。

この世の中には騙し討ちで、グチョグチョグリーンスライムを後頭部にブスっと注入する輩もいるんだぞ。しかもトイレでな!


「これはおばあちゃん印の安心安全の穂積用の薬なんだぞ。ありがたく頂くように!」


そうなのだ。おばあちゃん印なのだ!トイレの変な女じるしよりよっぽど信頼性の高い代物なのだぞ!


・・・ここで少し穂積は思った。こんないい加減で胡散臭い説明を聞いて誰が納得するのだろうか?しかし単にドロシーの説明をよく理解していないだけと考えると、妙に納得できる。それに、ここは飲まねば何も始まらない。自分にとっての分水嶺だと思い摂取する事に決めたのだった。


「ハイハイわかりました。では、残念な子に・・」


そう言って穂積は薬を飲みかけのコーヒで呑み込んだ。


ゴクリ!



・・・・・・・・・


・・・・・・・


・・・・・


おや?しばらく経っても穂積になんの変化も無いね。もしこのまま何も無くて、とりあえずおばあちゃん家に行った途端、穂積が爆発四散するんじゃ無いかとボクは不安になる。


「・・・どうだぁ穂積ぃ、何か変化あるか?ボクの経験では膝が震え、脳ミソが溶けそうになったりしたぞ」


ボクは身長の高い穂積を上目遣いで見上げ、過去の経験に想いを馳せながら、心配そうに言った。


「どんな経験ですかそれっ!ってか、先に言ってくださいよ。やっぱり危険じゃないですか!」


両手を交互に見つめ、身体の変化に注意を払っていた穂積は髪を掻き上げ、不安そうに頭の状態を確かめながら言った。


すると・・・


「・・・あ、先輩。待ってください。何かあります・・・なんだコレ?大気から何かが集まる感覚・・・いや、体内に吸収されていく感覚があります。何だこれ・・・これがマナなのか?何か新しい力が宿って行くようです・・・」


穂積は魔力を得る事によって受けられるマナの恩恵を感じ取り、身体能力に補正が掛かり始めている事を認識した。


「凄いぞ!!何だか新しい力が目覚めるようだ!」


穂積は新たなる能力とそれに対する希望にその驚きと興奮を隠せなかった!


「なるほど、理解した!」


─────


ちなみにボクは興奮する穂積を尻目に急激に冷めていった・・・


何が「なるほど、理解した!」だ!


・・・穂積め。その展開はまるでヒーローじゃないか!しかもボクが「どうだァ?」なんて聞いたから自動的に噛ませポジになっちゃったしナ!


あー不満だよ!はっきり言って不満!


「おい穂積。じゃあもうイイよナ。おばあちゃん待ってるからさっさと行くぞ!」


ボクはググッと不満を堪えるよう努めた。ここがボクの分水嶺だ。ここで不満をぶちまけたら何もかもが悪い方向に向かう気がした・・・

だからボクはジト目で睨むも、何とか感情を呑み込みそう言った。


「あっ、そうですね。何だか今までに感じたことの無い万能感で、つい興奮してました。先輩もこんな感じだったんですか?」


そうとは知らず穂積は興奮冷めやらぬままボクに聞いた。


あっいま聞いちゃいけない事を聞いちゃった・・・


・・・うぅ・・口惜しいよう。口惜しいよぅ・・・もう涙腺崩壊5秒前だよぅ・・・


ボクがウルウルと涙を溜め、よろよろと崩れ落ちそうになると、穂積は心配そうに聞いてきた。


「先輩さっきから情緒不安定ですけど大丈夫ですか?」


「お前にボクの気持ちが分かってたまるか!もういいから行くぞ!」


ボクは最後の力を振り絞りそう言うと、穂積を置いて雑居ビル4階、時空の裂け目前へとスタスタと歩き出した。


ふんっ!

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