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34 ボクはまんぷく!


「ありがとうございます!カルメンさん」ボクはもう一度カルメンさんにお礼を言った。

カルメンさんはボクに装備を仕立ててくれただけでなく、ボクの心に引っかかっていたダガンの思い出を、誇らしく輝けるものに変えてくれた。


くらい闇はいつでも忍び寄るけど、あかるい光もまた、いつでもまた照らしてくれるんだね。


うん!大丈夫!


それからボクは、この優しいカルメンさんに何かお礼がしたいと思って得意のコンペイトウを生成した。何だか手のかからない簡単なものでちょっと申し訳ないのだけれど、ボクの自慢の逸品なんだよね。


「あの!カルメンさん。これ、コンペイトウ魔法で作りました。どうか受け取って下さい!」


ボクがそう言って掌の4つのコンペイトウを差し出した。それぞれ白をベースに、緑とピンクの混合色、青色、黄色。それと有名な黄色いクマさんを作成した。

実は今やミニチュアコンペイトウ城も作れるけど、アレは食べ物と言うよりはむしろ芸術の域に達しているからね。だから今回は遠慮しておいたよ。


「まぁ、これが噂のコンペイトウ魔法ね。ふふふっ、何て可愛らしいのかしら。ありがとう、٩(๑•ㅂ•)۶ちゃん」


コンペイトウを受け取ったカルメンは言葉とは裏腹に、少しだけ真剣な表情で観察した。

しかし、やはり見た目は綺麗なコンペイトウであり、何か特別な力は感じられなかった。


「いただきますわ」


ニッコリ微笑んだカルメンはそう言って一つ口にした・・・


「あら・・・ホッコリする・・・」


よし!カルメンさんのホッコリを頂き、心の中で小さくガッツポーズを取るボク。これでカルメンさんもホッコリ同盟だね!


やったね !!


一方でカルメンはこのコンペイトウ魔法の発現に興味を持ちつつも、これは人をホッコリされる状態変化系統の魔法であると冷静に分析した。そして、元冒険者でもあるカルメンはそれ故になのか、戦闘での応用方法も本能的に思い付いてしまった。それは、何らかの方法で敵に食わせ、ホッコリさせた瞬間を狙うという鬼畜極まりない方法で、自ら考案した本人でさえも嫌な思いになり、取り敢えず黙っておくことにしたのであった・・・


「ありがとう!٩(๑•ㅂ•)۶ちゃん!」


ボクはカルメンさんの優しい笑顔とお礼を受け取り、とても充実した気分になった。それと同時に、ついあの疑問が再び心に浮かんだ。いや、正確には実はずっと聞こうと思っていてんだよ。でも何故か聞けずじまいだったという所かな。


「カルメンさん、訊いてもいいですか?あの、ボクの名前ってどうやって発音してるしてるんですか?この名前、ステータス魔法にエラーが起きて変な絵文字になって発音なんて無いんです・・・」


「・・・え”っ?何それ?ステータス魔法にエラーがあるの?」


ステータス魔法に異常があるなんて事は、人より遥かに長く生きたカルメンですら今まで聞いたことがなく、うっかり素に戻り身を乗り出してしまった。が、それも一瞬。スグによそ行き用の優しいカルメンさんに戻り話を続けた。


「そうねぇ、わたくしはあなたのステータスを閲覧する事は出来なくて、どんな絵文字になってるか分からないのだけれど、あなたの名前になってる٩(๑•ㅂ•)۶はね、地球人の言葉で表すと・・・・」


カルメンは人差し指をほっぺに置き少し考えてる素振りを見せた。そして出した名前は・・・


「わーい!まんぷく!かしら・・・そう、あなたの名前は、わーい!まんぷく。略してまんぷくちゃんです!」


カルメンはニッコリ笑顔でそう言った。


「・・マ?」


それを聞きてボクの目は点になった・・・


・・マ?・・ま・・まんぷくだとぉー!!?


わーい!まんぷく!って誰だ!そのバカみたいな奴は?出でこい!


んんん?ボクかっ!?


「なんて事だ!相変わらず神様は酷いことをするなぁ!」


きっとラスボスは神様ってオチに間違いないね!!変な名前をつけたがる邪神め!大事な所にパイルバンカーぶち込んでやる!!


・・・おっと、いけない、はしたない。


でもまぁ考えて見ると、ボクの本名と2文字しか違わないし、料理好きなボクと「まんぷく」には妙な共通点があるといえばあるンだけど・・・


ボクの名前はまんぷく。わーい!まんぷくだ!!


・・・・やっぱダメだこりゃ


やっぱりちゃんと訂正しなきゃいけないよな。そうと決めたらボクはまずはカルメンから改めてボクの名前を名乗ることにした。


「あのう、カルメンさん・・・」


「なあに、まんぷくちゃん?」


「ん?・・・あれぇ?今ボクのことまんぷくって言いました?今まで変な絵文字の謎の発音だったので・・・」


「あぁ、それはね。わたくし達の共通スキル、言語理解の作用ね。わたくしの世界も地球と同じようにたくさんの人種や種族が住んでいますわ。もちろん交わす言語も異なりますの。スキル、言語理解はそれら多言語を自動的に変換してくれますのよ。なので、実際にわたくしが発している言葉とあなたが聞いている言葉には違いがあります。それに、スキルは完璧ではありませんので時々聞き取れない発音があったり、意味を理解することで聞き取れるようになったりする事もありますの」


うーん・・・つまり、ボクの変な絵文字の発音も今では日本語に訳すとまんぷくという意味とわかったから、まんぷくって聞こえるわけか。


「なるほど、何となく分かりました。それはそうとカルメンさん・・・あのね、」


ガチャリ!!ギギギッィィィィイ!!


その音はボクの背後にある時空の裂け目模様の木製の扉が開く音だった。


何だか、敢えてボクの言葉を遮るかのような、わざとらしい音のように思ったけど、流石にそれは邪推だよね。扉がそんな事するわけないよね!!


ねっ!?


────


「おや、いつの間に立て付けが悪くなったかのぅ・・・まぁええワイ。ただいま。」


「お帰りなさいませ、ドロシーお婆様」


えっ?おばあちゃん?


ボクが振り向くとこの家のあるじ、ドロシーおばあちゃんがいた!


「あっ、おばあちゃん!こんにちわ!」


「おおぉ、お前さん、来ておったのかい。久しいのう。元気じゃったか?」


「うん!今のところ大丈夫だよ!」


「そうかそうか、いや実はな、ワシもここ数日忙しくてな、ラボに篭っておったのじゃよ。お前さんの集めた素材、ありがたく使わせてもらったよ。特に大量の結晶繊維はかなりの良質で助かったワイ」


おばあちゃんはボクの顔を見るや、嬉しそうに言ってくれた。


「へへへ・・」


おばあちゃんと出会ってまだあまり時間が経ってないけど、少しは褒められるようになった事に、ボクはちょっとはにかみ嬉しくなった。

だってそうでしょう。初めてあった時は、何も解らないひよっこのボクに厳しくも優しく教え導いてくれた。

そして今は少しだけど、お役に立てれるようになったからね。


おばあちゃんがいなかったら今ボクはここにいないからね。全く命の恩人だよ。


────


魔導ランプがぼんやりと周りを照らしオレンジの光と影が織り成すおばあちゃん家は、ボクにはほろりと苦いオレンジチョコレートみたい。同時にそれは、おばあちゃんもきっとそんな感じの人なんだなぁとボクは思うんだ。


ドロシーはいつもの定位置に腰掛けると、カルメンはすくっと立ち部屋の隅の簡易キッチンに向かい手馴れた手つきで紅茶を用意した。


「すまんのう。カルメンや」


「いえ、お婆様こそ、お疲れではございませんか?」


「まぁのぅ。じゃが峠は超えたようじゃ」


そう言ってドロシーはカルメンにそっと目配せして、話題を変えようとした。


「それはそうと、カルメンや、例のものはまんぷくに渡したかえ?」


おっ!今おばあちゃん、まんぷくって言った!たぶん絵文字の٩(๑•ㅂ•)۶を言ったんだ!

それにしても、おばあちゃんが帰ってきたのは嬉しいけど、ちょっとタイミングが悪かったな。何とか訂正したいけど、もうそんな雰囲気じゃなくなっちゃた・・・


わーん!言いたいよう・・・


────


「はい、水棲魔獣の衣ですね。先程お渡し致しましたわ」


カルメンはそう言ってドロシーにお茶を差し出し、次いで、ボクにもくれた。


チューリップの花のような形の小さなグラスになみなみと注がれた砂糖のたっぷりの熱々の濃い紅茶。


カルメンさんはグラスが熱すぎて持てないのか中指と親指でそっと持っていた。どうやらそれが作法のようだ。


三人は合わせた様子もないにも関わらず、まるで紅茶に敬意を払うかのように会話を一旦中断し、ズズっと一口飲んだ。


熱々で濃くてあまーい紅茶には見事な調和があり、身体を暖めると同時に緊張をほぐした。


これ、凄くいい!熱々が肝心なんだ!だからグラスもちょっと分厚くて小さいんだ。インドチャイを飲み損ねたボクには思わぬ収穫だった。


一息着いたドロシーは再び会話の口火を切って再開した。


「してどうじゃ、水棲魔獣の衣は?このカルメンはな、この街一番仕立て屋で魔導技術にも精通しておるのじゃよ」


と、ドロシーはカルメンの方へ顔をむけながら言い、カルメンもまたそれに応えた。


「いえ、お婆様の域にはまだまだ届きませんわ」


「まぁ、謙遜するでない。お前さんは一流じゃよ」


「お褒めに預かり光栄ですわ」


おばあちゃんは紅茶を1口啜ると今度はボクの方へ顔を向けた。


「・・・・ふむ、この様子じゃと水棲魔獣の衣の仕様は既に聞いておるじゃろう?」


「うん!カルメンさんから聞きました。まさかダガンの爪が可愛いくて凄いスキルのビスチェになったからビックリしたけど、ダガンも喜んでると思います!」


「ふむ、お前さんが喜んでくれて何よりじゃ。それと、ワシからもいくつかあるのじゃが・・・まずはお前さんの話を聞く方が良さそうじゃな。何かあってここに来たのじゃろう?」


そうそう、その通り。色々あったよね!


・・・・何だっけ?


紅茶を飲んだらすっかり落ち着いて忘れちゃったよ・・・


ボクは一度思い返してみた。


えっと、目玉の再活動でしょ。それと敵の拠点の発見・・・あと、ドーサの恨み・・・ドーサの恨み・・・ドーサの恨み・・・恨みと言えば・・・おっ!穂積だ!


「恨み」のおかげで穂積を思い出したよ!今頃有名なカフェチェーン店でお茶をしばいているだろうナ。


「えーと、まずは知り合いを紹介したいのだけど・・・おばあちゃん、いいですか?今回の素材集めとか戦闘に協力してくれたんだよ」


「ふむ、仲間が出来たか!良い事じゃて。もちろん良いぞ。ワシも会って見たいものじゃ」


「ホント?じゃあまずは呼んでくるよ。その方が話が早いと思うから」


「じゃが魔力を持たぬ異世界人が時空の裂け目を通ることはちと不味いのう・・・」


そう言ってドロシーはカルメンへと視線を向け、カルメンもまたその視線の意図を察したのか、すぐさま応えた。


「はい、そう思いまわ。まんぷくちゃん、あの目玉が創り出した裂け目は次元魔法によるものです。わたくし達はここを通ることは可能ですが、相応の代償を支払わなければなりませんの」


「代償?」


「はい。わたくし達がマナの薄い若しくは存在しない世界に滞在するという事はマナの恩恵も失われるという事です。具体的にはレベルダウン現象が起きて、これまでの経験値がほとんど失われ弱体化してしまいますの」


「なるほど。だから侵略者もおいそれと来れないわけなんだ」


侵略した途端弱くなったら自衛隊とかにワンパンされるからね。


「はい。それでもわたくし達の技術、魔導によりいくつか解決手段を見出すことが出来ましたこの点に着いてはお婆様の方がお詳しいかと思います」


と、カルメンはドロシーに続きを託した。


「ふむ、そうじゃな。これはワシも技術開発に関わっておるからのぅ・・・」


ドロシーはどうやら話が振られる事を察していた様だった。そして、それは同時にドロシーもまた、どういった形であれ地球侵略に対する技術提供をしていたという事実でもあった。


「まずはアバターじゃ。一定のレベルを消費することによって、仮の姿に術者の能力を封印し持ち出す方法じゃ。レベルダウンのリスクの割には力も一時的、限定的で実戦向きではないのじゃが、特定の相手とコンタクトを取ることはできる」


アバター・・・あ!ナギサが言ってたやつだね!


「そして、封印結晶。レベルを全てマナ結晶に注ぎ込むことによって、術者の力を全て持ち出す方法じゃ。しかし、その変換効率は最悪でしかも再変換不能。爆弾片手に生身で乗り込む自爆にも等しい方法じゃ。加えて、レベルが高いほど強力になる訳じゃから使い捨てにしてもリスクが高すぎる」


なるほどねぇ。そう簡単には自爆攻撃もできないんだね。ボク達からしてみれば安心だね。


「最後は同期じゃ・・・」


あっ・・・またまた出たよ同期。


「同期はな、マナを無理やり流し込み、さらに時空間の隙間を埋め二つの世界を一体化することじゃよ。さすれば、直接侵略する事も可能じゃからのう。しかし、それは膨大な労力を要するからおいそれと出来んわけじゃ」


「でも、それは今やってるよね」


「そうじゃな・・・」


おばあちゃんとカルメンさんは少しすまなさそうにすると、ちーん・・・と沈黙が支配した。


でも、二人のせいじゃないよね!ボクはそんな事で誤った選択はしないよ!


「大丈夫だよ!おばあちゃんもカルメンさんもボクに力を貸してくれてるし!何とかなるよ!」


そうだよ!何とかすればいいじゃんか!ね!


「そう言ってくれると助かるわい」


「まんぷくちゃん。ありがとうね。わたくしもできる限りお手伝い致しますわ」


少しだけしんみりした雰囲気の中に、魔導ランプのようなぼんやりと明るい光が灯った。


忍び寄る暗闇避けられないけど、人の心の在り方しだいで光はいつでも灯るんだからね!

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