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33 ボクとカルメンさん


こうなってしまったら残念だけど、ボクはもう完全に食欲を無くしてしまった。まだメカジキは3分の1くらい残ってたけど、どぎついプレッシャーの中、食べるにはややくどかった。


許すまじ!


せっかく奮発したドーサを残させるとは!許すまじ!あの目玉はボクの大切なものを何から何までも奪うつもりなんだ!一体ボクはお前に何をしたというのだ!


重ねて言おう許すまじ!


最後は若干半泣きで涙目になになりながらも、拳を固く握り復讐を誓うのであった。


・・・って、とにかく、今はそんな場合ぢゃない!


穂積と小柄なインド人には悪いけど、ボクは会計を済ませさっさと外に出ようと決め、穂積もそれに察したのか、早々にバターチキンカレーを諦めボクに続いた。あっ、もちろん割り勘な。


店の外は相変わらずかわり映えのない日常を映し出していたけど、ひび割れたお空からズシンとのしかかる異様なプレッシャーが現実がまた壊れ始めたことを告げていた。


やっぱり機械仕掛けの目玉だ!また動き始めたんだ!!


横目でチラリと見上げれば、そいつはまるで、薄目でボクを睨み、取り巻く歯車はガヂリ・・ガチリ・・と音を立てゆっくりと確実に動き、じわりじわりとプレッシャーを与えてくる。


たぶんボクの体内にある魔力か何かに勘付かれたんだと思うよ。この世界で魔力持ってる人間なんて、敵かボクくらいだからね。それか目玉の真下に来てしまったのがマズかったかも・・・


いずれせよ、これまであったギョロ目でなりふり構わずあちこちを監視するというより、完全にボク個人を観察するような視線に変化していて、ボクはマークされたということを直感で感じた。


「穂積、悪いけど今からおばあちゃん家に行ってくるよ。お空の目玉が動き出したの!しかも、なんかバレたかもなんだ」


「先輩・・・外に出て分かったんですが、実は僕も変なプレッシャーを感じるんです。エスカレーターに乗っている時に背後から背中をじっと見られているような、そんな感じがするんです・・・」


穂積は顔色を青くし、声も少し震えながらそう言った。


「うん、分かるよ穂積・・・ようこそ、ボクの世界へ・・・ここではな、まずは出来ることから始めるんだよ。上は向くなよ。知らんぷりだ!それから新宿を離れよう」


ボクは額から冷や汗をつぅーと冷や汗を長しながらそれに返した。


「異議なし・・・」


こうしてボク達はぎこちなく歩きだし日本一忙しい新宿駅に向かった。


────


新宿を離れたボク達は電車をいくつか乗り継ぎ、おばあちゃん家に続く時空の裂け目のあるいつもの商店街にやって来た。新宿から離れ地元に戻ってこれば、流石に目玉のプレッシャーは和らぎ、ボク達は少しだけ安堵した。それでも、視線はこちらに向いていて、やっぱりマークされた事は間違いないようだ。なので、おでん屋さんなど寄り道する余裕はなく例の雑居の四階、亀裂の前へ直行した。


本当は明日辺りにでもおばあちゃん家に行こうと思っていたんだけど、目玉が急に活動を再開してしまい、しかもボク達はマークされてしまった以上、もはや予定がどうとか言っていられないので、穂積も一緒に向かうことにした。

とはいえ、まずはボクがおばあちゃん家に先に行って、穂積を連れてくる許可を取る事にする。何故なら、辿り着くには時空の亀裂を通らなきゃ行けない。魔力を持たない穂積が亀裂に入ると、いきなり分子分解してバラバラになるなんて事もありうるから、って穂積が言ってたよ。


あいつは心配症だよナ。おでんの串でも大丈夫なのに・・・


でもまぁいくら優しいおばあちゃんとはいえ、よそ様のお宅ですからね、初めてなら一言あった方が良いよね。うん!


「と、言うわけで穂積よ、ここで待っていてくれ!」


「・・・何が、と、言うわけなのか分かりませんが、ここってこの壁の前ですか?」


そう言いながら、穂積は顎に手を当て壁を探るように眺めた。


「そうだよ。ここが、おばあちゃん家の入口なんだよ」


ボクはそう言いながらも、穂積にはただの壁にしか見えないわけに気付いた。なるほど、このまま壁に向き合ってじっとしているのも何だか可哀想だナ。


「じゃあさ、商店街の入口にある有名なカフェチェーンで待っててよ。後で電話するから」


「・・・そうですね、そうします。じゃあ先輩、ドロシーさんによろしくお伝え下さい」


「あい、分かった!何か合ったら呼ぶからナ。」


そう言って、ボクは壁に向かい合い、裂け目を跨ぎくぐり抜けた・・・・


・・・よいしょっと・・・




あっ!これは余談なんだけど、ボクって裂け目をくぐるとき、「よいしょっ」って言うじゃん。アレはね、ほら、裂け目って一見すると壁に亀裂がツーと入ってるだけだから、いざ入ろうとすると壁に膝とか、おでこ、激突しそうな気がするんだよね。 だから念のため、足からよいしょってまたぐようにしているんだ!


まぁ、どうでもいいね・・・



─────


さて、時空の裂け目をくぐり抜けた先はいつものドロシーの家。

シュンシュンと沸くスチーム特有の暖かみと相ゴチャゴチャ並ぶ機械仕掛の魔道具。天井の魔導ランプは相変わらずがぼんやり鈍く輝いて窓はなく、外の気配が全く感じられない。床下からはいつもの如くゴォォンと何かが落下する音が響き渡る。この音は地上に何かが落下する音なのか、地下へ落ちる音なのか、はたまた地下で何かが動いている音なのか、全くわからない。最近ね、おばあちゃん家は実は異世界でも何でもなく、ボクとおばあちゃんだけのテレビショーか何かのセットなんじゃあないのかなって錯覚するんだよね。



でも・・・・


それはやっぱり錯覚だったよ!


ボクがいつもの様に裂け目をくぐると今日はなんと知らないお姉さんがいたんだもん!


────


「あら、いらっしゃい。可愛らしいお客さん♪」


「あっ、どうもこんにちわ・・・」


年の頃は三十路前だろうか・・・身長は穂積と同じくらいで180cmくらいの長身。肩にかかる薄い紫色の髪から見え隠れする耳は尖り、長いまつげと大きな瞳。物腰の柔らかそうな大人の余裕のある雰囲気をかもし、どこかおっとりした口調のお姉さんが、おばあちゃん家にいた。


あっ!きっとエルフだわっ!初めて見たよ!


異世界ファンタジーに王道のエルフのお姉さん。ここに来て満を持して登場とはね。でも初対面でいきなり種族とか聞くと失礼かもしれないから、とりあえず知らんぷりだ。


「あのう・・おばあちゃんいますか?」


ぱっちりとした瞳で優しくボクを見つめる眼差はどうも苦手で何だか落ち着かない。


「ドロシーお婆様ですか?お婆様は今は作業中なので、わたくしが留守番を任されておりますわ。あっ申し遅れました、わたくしカルメンと申します。よろしくね٩(๑•ㅂ•)۶ちゃん!」


「ええっ!な、なんでそれ知っているんですか?」


またしても絵文字の٩(๑•ㅂ•)۶発音してる!?


「ふふふ、あなたの活躍はドロシーお婆様からよく聞いていますわ。それにわたくしは仕立て屋。あなたのお洋服をお作り致しましたのよ」


「えっ!?服を作ってくれたの?ボク、頼んだ覚えないけど・・・」


「お婆様からのご依頼ですわ。水棲魔獣の素材を使って仕立てるように、との事ですわ」


水棲魔獣・・・?ダガンだ!ダガンの爪で服を作ってるれたんだ!!わーい!!


「ありがとうございます、カルメンさん!」


「いいのよ、お代は頂いてるからね。それにしても素晴らし素材でしたわ。いえ、素材以上の何か強い想いがこめられてましたわ。きっと

٩(๑•ㅂ•)۶ちゃん、あの水棲魔獣に愛されていたと思いますわ」


「えええーーー!!ダガンとラブラブだとーー!!?」


ボクは心底驚いたけど、実はボク達の間には何か特別な絆が合ったことは感じてたんだ。たぶんね、だからこそあの夜の出来事について、なるべく考えないようにしていたと思う。


だって、ボク達の出会いはどちらかが死ななきゃいけない運命だったから・・・


それに・・・今思えばダガンはあの時ボクを殺す事に躊躇したと思うんだよね・・・


でもね・・・ボクは躊躇しなかった。そんな余裕無かったのもあるけれど、やっぱりあの時戦士になる道を選んだんだと思う。


そして、ダガンは戦士をやめたんだと思う。だから死んだ・・・


優しい方が死んだんだ・・・


シュンシュンとスチームだけが響く部屋に灯る魔導ランプは、ぼんやりと鈍く輝き闇を照らすがエネルギーの供給バランスが不安定なのか、時おりボク達の間に薄暗い影を作る。こういった仄かに暗い闇はいつでもふとした瞬間に現れ

、ボクの心の隙間からもじんわりと闇が漏れ影となって広がっていった。


カルメンさんはそんなボクの心に広がる影を察したのか、それを振り払いうかのように優しく、暖かみをボクに注ぐかのように話した。


「ねえ、٩(๑•ㅂ•)۶ちゃん。魔獣の素材にはね、時々その魔獣の想いが宿る事があるの。そういった素材は例外なく特別な能力が付与されているのだけれど、その想いとは大抵は憎しみや悲しみで呪われているのよ。でも、コレは例外。姿形を変えてもあなたと共に生きて守りたいという想いがありったけ込められているの。ね。まずは、受け取って感じてみてください」


カルメンさんはそう言って、テーブルの上に置いてあった茶色の洋服箱を手に取りボクに差し出した。ボクはそれを校長先生から卒業証書を受け取る時のような、神妙な気持ちになって受け取った。


蓋を開けてみると、中には鮮やかなエメラルドグリーンのフロントホックビスチェが入っていた。


わぁ、可愛いね!


こう見えても可愛いのは嫌いじゃないぞ。それに、手に取って見ただけでも可愛さとは裏腹に強い意志を感じる。


「どうやら気に入ってくれたようね。それにこのビスチェ、丈夫て可愛いのだけでなく二つのスキル効果もありますのよ」


「二つのスキル?」


「そう。一つはダメージ軽減。攻撃された時に、不可視の障壁が張られ、ある程度衝撃を軽減できますわ。水属性の防具は炎属性に弱いのだけど、このスキル効果で補える事が出来ますのよ。・・・それと、水中生活。これは水中呼吸と水中移動、二つのスキル効果を併せ持つ大変稀なスキルですわ。きっとこの水棲魔獣が一緒に あなたと水中で過ごしたいと思ったために現れた効果と私は想像致しますわ。本当に素敵な事です」


カルメンさんからその話を聞いたボクの脳裏には、ボクがダガンと一緒に異世界を冒険するifの世界が一瞬よぎった。ダガンもきっとそんな世界に思いを馳せたんだよね。ボクには分かるよ。


そっか、ダガンの奴、そんなにボクと一緒にいたかったのか・・・ふふふっ。


運命は残酷で出会いは最悪だったけど、良い出会いだったな!


ありがとうダガン・・・


一緒に行こうね!ボクをしっかり守って下さい。

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