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32 おい穂積!カレー舐めんなよ!


と思ったけど寄り道したくなった。お腹もすいたからね。


「そーいえばさ、ネットで見たんだけどこの辺に美味しカレー屋さんがあるんだよね。まだギリでランチに間に合うから行こうよ!」


「先輩、こんな時によく食欲出ますね・・・まぁ昼飯はまだですから行きましょうか」


ボク達は一旦駅に戻り、そのまま通り過ぎカレー屋さんに向かった。やっぱり新宿にはあまり慣れてなかったのか、思ったより遠かったけどマップを頼りに無事に辿り着いた。


「おっ!ここだここ!インド料理!」


「先輩、カレー屋ってインド料理じゃあないですか!」


「ん??嫌い?まさか食べた事ないの?」


「ありませんよ。どうせカレーでしょ。なら、日本のカレーがいいです」


「あーあ、言っちゃた。どうせカレー・・・。取り消すなら今のうちだぞ。お前はインドのスパイス魔法を知らないんだナ」


「何ですかそれ、コンペイトウ魔法の親戚見たいな言い方・・・」


「おい!穂積、カレー舐めんなよ!黙ってついてこい!」


焦れったい穂積に対しボクは、上目遣いで睨みむように凄み入れた!それはサブタイトルの法則すら歪めるほど強かった!


ん?後半何を言っているだ?ボクは。まぁ、いいや。


「わ、分かりましたよ。入りましょう」


どうやら穂積にボクの気持ちが伝わった様だ。まぁ、心配するな。お前もボクに感謝すると思うよ。


────


「ナマステ!」


ボクは店に入るや否は開口一番、元気にインドの言葉でご挨拶をした!


「・・・イラッシャイマセ」


それに対して小柄なインド人の男はしれっとカタコトの日本語で返答し、いきなり微妙な雰囲気になってしまった・・・


しっ、しまった!こっちのパターンか!


インド料理屋ってさ、やたらノリノリの所と、結構シャイな所とあるんだよねぇ・・・


しん、と静まりかえる店内で穂積はポツリと呟いた。


「先輩・・・そういとこですよ。よく観察しないで突っ込んで行く悪いクセ・・・」


「う、うるさいな!説教タイムはなしだ!」


「アイテルオセキ、ドゾォー」


凍りつき、突っ立てるボク達をよそに小柄なインド人は席を勧めてきた。


ボク達もこのままではどうにもならないので、適当なテーブルに腰掛け、早速メニューを見た。


「オホン!ホントに穂積は初インド料理なんだナ?」


ボクは軽く咳払いをし穂積に尋ねた。


「はい、先輩が適当に選んで下さい。ちなみにカレーは甘口しか食べれませんから」


「お子ちゃまだナ。でも心配するな、インドカレーは別に「辛い」だけじゃないからな。・・・うーんそうだな、基本中の基本だがバターチキンカレーがいいんじゃないか?」


「ああ、それって、コンビニとかでもレトルトで売ってますよね。いいんじゃないですか?」


「よし、後はナンだな。名前くらいは聞いた事あるだろ?」


「それくらいは知ってますよ。大きいピザ見たいなパンですよね?先輩は何を頼むんですか?」


「そうだな、ここはメカジキのフイッシュカレー辛口だナ。本格的な謎の川魚もいいけど、さすがにここにはないからナ。まぁ、メカジキも絶品だけどね!後は・・・」


考えるまでもない。この店を選んだ理由は!?


「ドーサだ!」


「ドーサ?」


「うん。米粉のクレープなんだけど、太めの筒見たいになっていて、パリパリとしっとり食感が楽しめるのだ!筒の中にポテトマサラ・・・じゃがいものカレー粉風味の奴な。あと、キーマカレー見たいなのを入れたりするんだけど、今回は何も入ってないプレーンにしよう!」


南インド料理のドーサってあまり見かけないんだよね。でもさすがは新宿、しっかりあるじゃんか!


「・・・先輩って食に対してはやたら情熱を注ぐんですね」


「まぁね!こう見えて、料理は得意なんだよ!あとぉ、これは賭けだがチャイも頼んどくか。薄口だったらパイルバンカーだな!」


そんなこんなで、ボク達は小柄なインド人に注文した。


「・・・先輩、呑気にカレー屋に来てますけど、これからどうしますか?はっきり言ってあれは完全に罠か・・・若しくは侵入者が来ることを前提にした警備だと思いますよ」


「うん、分かるよ。「認識阻害」掛けて、さらにイバラ狼の群れでしょ。・・・あのね、目玉が現れた時、雑魚魔獣も出現するって聞いてたんだ。でもさ、どこを探しても魔獣なんて見つからなかったじゃん。それでねボク思ったんだ。街中に雑魚魔獣が徘徊する代わりに、新宿御苑に意図的に魔獣を集めたんじゃないかな?しかもマナを濃縮させた強力な奴」


あのイバラ狼は明らかに雑魚って雰囲気がなかったからね。


「・・・僕は魔獣が見えないんで何とも言えないけど、それは十分有り得ますね。まぁ、見えてない時点でもうお手上げですけど・・・」


「たしかに・・・まぁ、ボクは通用するか分からないけど一応当てがあるからな。問題は穂積だナ」


「・・・それで。もし良かったら僕もドロシーさんに合わせてもらえませんか?」


「・・・だね。おばあちゃんに聞いてみるか」


成り行きとは言え、穂積も今や当事者だからね。たぶんおばあちゃんも迎えてくれると思うよ・・・


「ハイ。チャイ、ドゾー」


「わっ!」


ボクがレストランの壁をぼんやりと眺めながらおばあちゃんのことを考えていると、いきなり小柄なインド人が、そのイメージに重なって登場し、ちょっとビックリした。


「・・・まぁ、とりあえず、ご飯を食べよう

。話はそれからだ!」


・・・なんて切り替えの早い女なんだと穂積は思ったが、初めて嗅ぐチャイの特別なスパイスの香りに興味を引いた。



「ん?このチャイはダストティーをたっぷり使ってるな。あのビックリインド人、なかなかやるな!」


「ダストティー?」


「うん、ダストティーはな、粉状の茶葉、つまり売り物にならないカスなんだ。チャイはそのダストティーをたっぷり水から煮て、スパイスとこれまたたっぷりのミルクと砂糖をギャーギャー煮込んで、最後に布でカスを絞ることで、美味しくなるんだよ。繊細でロイヤルなミルクティーと違って、ぶっきらぼうに作るのがコツなんだ。熱いからチビチビ飲めよ」


穂積は言われるがままにチビりチビりとカップに口を付けた。


「ホントだ!スゴい熱いですね。それに甘くて体が暖まる・・・生姜とシナモンが入ってますね。後は色々入ってるけど分からないや」


「その他には、黒胡椒、羅漢果、グローブ、それとカルダモンが入ってるよ。ちなみに独特な香りがカルダモンだよ。これを好むかどうかが、インド料理にハマる分岐点だナ。まぁ普通は日本人用に少なめにしてるけどな」


穂積はチビりチビりとやりながら、ボクのうんちくを聞きいていた。


「確かにクセがありますね。でも、ホント体の芯から暖まって、悪くないです」


「お前が分かる奴で安心したぞ♪」


フフんっ♪


─────


「ドゾ、コレ、チキンカリーネ。コレハ、おさかなカレー」


チャイをチビりチビりと飲んでいたら小柄なインド人がカレーを持ってきた。今度は不意打ちを警戒していたので、驚くことは無かったよ!


丸く大きな銀色のプレートの上に2つのカトリ(銀色の茶碗に似た円柱のステンレス容器)。中にはそれぞれ、カレーとインド式漬物(カレー風味の大根)アチャール。


チキンカレーにはナン。フイッシュカレーにはドーサがそれぞれ乗っていた。


キタキタキターー!


フイッシュカレー!


脂の乗った大きめのメカジキを揚げ炒め、トマトと玉ねぎ、スパイスを入れさらに炒めた後に水を入れ軽く煮込む。


辛口のフイッシュカレーは炒めることで引き立つトマトの爽やかな風味と魚の脂の相性が非情に良く、付け合せのアチャールの酸味が、単調になりがちのインドカレーには良いアクセント。


そしてボクはメカジキをスプーンでほぐし取り手でちぎり取った、ドーサにくるめば・・・・


「おいひぃー!!」


口の中で広がるガラムマサラと強めのカルダモンの香り。肉厚ジューシィなメカジキとトマトの酸味!玉ねぎの甘みと最後に来る辛口のキレ!


うふっ!うふふっ!!


ボクはあまりの美味しさに恍惚状態になり、頭が勝手にフラフラと左右に揺れた。


───


一方で穂積はというと、初めて目にするバターチキンカレーに対して日本のカレーより水っぽいという印象を持つものの、バターの濃厚な香りに食欲を刺激されていた。


薄い黄土色のバターチキンカレーの具材にはゴロっとチキン、トマト、玉ねぎ、砕いたカシューナッツと至ってシンプルだが、仕上げに生クリームの白ラインが引かれており、見た目にも十分気を使ってあった。


穂積はスプーンでチキンを掬い、ちぎったナンの上に乗せて一口で食べた!


生クリームと強めのバターのコクで刺激は抑えられているが、香り立つスパイスとカシューナッツの風味、食感は失わることなく、甘みと辛味が見事に調和していた。それにチキンはホロホロと崩れ、微かに広がるヨーグルト風味。


これは新しいぞ!チキンのヨーグルト漬けだ!


「先輩、いけますね!カレーにヨーグルトの風味って意外に合いますね。それに辛味も単調な辛さじゃないですね。コショウや生姜、ニンニクも使って引き出してるから、複雑で立体感のある味に仕上がってます。それにナンには炭焼きの香ばしさがありますね!」


「タンドリー釜って言うんだ。細長い水瓶見たいな形で底に燃料の炭があるの。その釜の内側にペタンと生地をくっつてけ焼くんだよ。それとナンはおかわり自由だからね!」


ボクは自分の指も食べる勢いで、ドーサを口に運びながら早口で言った。


────


それにしても穂積が気に入ってくれてよかったよ!いきなりマトンカレーとかオススメしたら羊の臭みで一気に嫌になるかもしれないからね。アレは何度も何度も食べ続けて味覚を変えないと美味しさが分からないからねぇ。


・・・・ウンン


ボクも初めは全く美味しさが分からなかったけど、マトン特有のクセって、やたら記憶に残るんだよね。それに店員さんにオススメを聞くと大体マトンを勧められるからね。


ヴンっ・・・


だから、今度こそ美味いかも知れないって思いついつい何度も頼んじゃうんだ。


ゴォォォォォ・・・


で、ある時、もう食べるのをやめたんだよね。それでほうれん草カレーを頼んだんだけど、なーんか味に物足りなさを感じたんだよね。


ギギギギィィィ・・・・


で!分かったんだよ!マトンの凄さがね!ボクはあのパンチ力にいつの間にか魅力されていたんだ!


ギギギギギィィィィィイイイ!!!!


・・・だからね、臭みって意外とつよい旨みなの・・・


ギュュゥゥワァァァッッツ!!!!グリグリゴキィィィ!!!


「何なんだよ!さっきから!うるさいぞ!!」


ボクは思わず立ち上がり叫んでしまった!


・・・ガランとした店内に響くボクの声に、厨房にいた小柄なインド人が何事かと思ったようでひょっこり首を向ける。


ボクは耳を両手で塞いでも、まるで地球全体がが立体音響装置となって、雑音をボクのアタマに直接届けた。


それと同時に、未だかつて一度しか感じた事のないプレッシャーがボクの肩に重くのしかかっった!


「せ、先輩!大丈夫ですか!?」


脂汗がタラタラと湧き出るボクの急な変化に驚き、穂積は食べる手を止め心配そうに声を掛けた。


「う、うん・・ごめん。気持ち悪くなっちゃった・・・」


・・・間違いない。アレだ!


もちろん女の子の日じゃない。


おのれ目玉ー!!


カレーに釣られて起きちゃったのは分かるけど!よくもボクのゴハンを邪魔したな!!フイッシュカレーとドーサはけっこう高いんだぞ!!


久しぶりにボクは怒ったよ!

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