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28 ボクと穂積の風雲金平糖城 ~迎撃編~


「それでは先輩、作戦をもう一度確認しましょう」


「うん」


「まず、先輩がコウモリ魔獣を引き付けながら全力で城へ逃げ込む。そして、ボクは天守閣に立ち、集まったコウモリ魔獣の上を塞ぐ形で二つの火炎瓶を投射」


「そうだね。その後は?逃げるの?」


「うーん・・・敵さんの出方しだいですね。とりあえず城の中に入った敵を火炎放射で迎撃ですかね。ここは狭いから効果的と思います。もし逃げれそうなら、シールドと火炎放射で牽制しながら逃げましょう。なにか質問は?」


「もうないよー。さっそく行こうか!」


ボクは一生懸命作った金平糖城に額を当て、「いってきます」とそっと呟いた。出陣する時にちゃんと挨拶しないと帰って来れないからね。

それにしても、いざやるとなるとやっぱり怖いな。これからボクは竜巻のようなコウモリ魔獣の群れ相手にしなくちゃいけないからね。失敗したら死ぬかもしれない。火炎瓶が不発に終わったら、打つ手がなくなる。

それでもここで何もしなかったら状況は悪くなるだけだから。当たり前何だけど結局は「行動」を起こすしか選択は無いんだよね。


だから本当に大事なことは「行動」であって「結果」じゃないんだ。


もちろん「結果」が失敗で死んじゃったら何もかも終わりだけど、それは神様の領域。知性の向こう側。でも、「結果」を出すための「行動」はボク達の領域。だからボクの出来ることは「行動」だけだ。


大事なことだから、もう一度。


「行動する・・・」


よし!ボクの中に何だか闘志が湧いてきた。


「それでは行きましょう!」

穂積の一言を合図にボク達はそれぞれの持ち場に向かった。


────


ダンジョンの壁に這うようにそびえ立つ小さな

金平糖城を背にして、ボクは上空をキーキーと鳴きながら暴風のように荒れ狂うコウモリ魔獣をキッと睨む。

それと同時にロボット脚に魔力を込めると、ヴゥンという音と共に振動し、プシューと蒸気が排出された。


気合い充填準備OKだ!さぁ行くよぉ!


ボクは小さく呟く・・・


「よーい・・・・どんっ!」


合図と同時にボクは斜め上空、コウモリ魔獣の中心の下付近を目指し空を駆け上がった!


────


一方、穂積は天守閣に到着するや否や、いつでも着火出来るようにザイルを燃やし火種を作った。

メラメラと燃える火種を確認してから、城下の様子を伺った。


そこでは小さな身体ながらも上空を睨み気合を溜めている、穂積がいつも先輩とからかいながらも慕っている一人の女の子がいた。しかし、その佇まいは城を背にしている事もあって、まるで戦国武将のようだ。


全くいつの間に頼りがいのある人になったんですかねぇ・・・そんな人にならなくてよかったのに・・・


それが穂積の本心だった。これまでのようにのんびりバイトして、時々からかい邪険にされつつも、一緒にぼんやりと安いハンバーガーを齧る退屈な日々に穂積もそれなりに満足していた。


それがどうだ。ある日を境に今は何故か天守閣に立ち、映画や知識でしか知らなかった火炎瓶を片手にコウモリ魔獣の竜巻を相手に二人して命懸けの戦いを挑んでいる。


まさかって意外とある近くにあるだな・・・


・・・まぁ、やるしかない。そう決めたから。

穂積は現実を改めて確かめるように火炎瓶をグッと握り精神を整えた。


────


「おりゃゃーー!!」


前のめりで爆走するボクのロボット脚は一歩一歩確実に空中を踏みしめ、そのたびに蒸気噴き上げ、グングンとコウモリ魔獣へと近づいて行った。ボクはシールドを展開し、同時に右手にソフトボール大のコンペイトウを生成した。このまま爆走する勢いと今のボクの筋力を合わせれば、いくらかマシな威力になると思う。ダガンに投げた時のような山なりヘロヘロボールとは違うと思うよ。まぁ、それでもコウモリ魔獣にダメージがあると思えないけど、引き寄せるくらいの事はできるはず。


空中を駆けながらボクは狙いを定め、投射のフォームに入った。もちろん狙いはコウモリ魔獣の塊の中心!


「いっくよ~!!えい!!」


コンペイトウボールはレーザービームとはいかないまでも、一直線に吸い込まれるようにコウモリ魔獣の塊に突っ込んで行った・・・


が、しかし、命中する前にコウモリ魔獣全体が同調しているかのようにブワッと上空に回避し、数瞬だけ奴らはコンペイトウボールを何事かと確認するように追い掛けると、やがて興味を無くし今度は投射位置、つまりボクに一斉に目を向けた!


ゾワリ!!


ボクは全てのコウモリ魔獣から一斉に殺気を向けられ、もの凄いプレッシャーを感じ背筋が冷え鳥肌が立ち、オマケに吐き気をもようした。


うへぇ・・・やっぱり怖い・・・


でも恐怖は誰でも感じるしそれは正常なことだと思う。大事なのはそれを克服し乗り越え、戦士として戦い抜く事。ダガンがボクに教えてくれた事だ。


・・・だから大丈夫!!


戦い抜く!と言ったそばから逃げるのがいまいち締まらないけど、これも作戦の内!ボクはすぐシールドで頭を守りながらロボット脚への魔力供給を断ち真下へと自由落下した。


コウモリ魔獣はそんなボクを敵と定めたようで、一斉に追撃を開始した。ボクのすぐ近くを飛んでいた数匹のコウモリ魔獣が一番槍としてボクの耳元でバサバサと羽音たて、キーキーと鳴きながら、まるで「ここにいるぞ!」と言うように威嚇した。


その間実に数秒程度の落下であったが、頭を守るシールドにコウモリ魔獣達はバサバサとぶつかり、シールドは真っ黒に染った。衝突による衝撃は大したことはないが、奴らの決死の突撃による振動や音は、ボクがバラバラに食い散らかされる事を思い浮かべるには十分で、背筋に冷たい汗がツーと流れた。


それでも構ってる暇はない。生きる為にはやる事をやる。これもダガンが教えてくれたことだ。地上はすぐそこ。ボクは着地の瞬間に再びロボット脚に魔力を込め、ブワッと逆噴射をして衝撃を回避、そのままその力を加速に利用し今度は地上を一気に滑るように走り、金平糖城へ向かった。


────


天守閣から先輩の活躍を見ている僕は火炎瓶にに火を付けベストのタイミングを待った。


・・・そろそろだな。


遠目で見る先輩はまるでコウモリ魔獣を引き寄せる竜巻の目そのものだった。

実際には膨大な数に襲われ今にも喰われかねない状況なのだが、僕は不謹慎にもコウモリ魔獣を率いてる美しくも奇怪なゴシックホラーの女王のように見え、その凄みと気迫にしばし目を奪われてしまった。それでも距離が近付けば、・・・まぁ、悪いけど、健気に頑張るいつものちんちくりんの先輩だった。


美しくも奇怪なゴシックホラーの女王は幻だった。


・・・という事は、いよいよ僕のターンだ。向かってくる大軍にこの火炎瓶で決定打に加えなければならない。

穂積はそう思い、火炎瓶をグッと握った手は震えていた。


ブルブル震える手を抑え込もうとしたが収まらない。あまり感情をオモテに出さない穂積の心中は実際、恐怖に支配されそうになっていた。


震える手を止められない事を悟った穂積は、恐怖を抑え込むことを諦め、受け入れることにした。すると少しばかり気が楽になり、冷静になった。


「うん、まぁ、震えは単に神経が通っている証拠だ。むしろ正常、問題ない。失敗は不味いけど瓶は二発ある。真剣に気楽に行くだけ。あとは祈るしかない!」


・・・そう強く言い聞かせて、いくばかりか平常心を取り戻した穂積は細い目をさらに細くし、迫り来る大軍を睨み狙いを定めた。


・・・来る!!


大軍から発せられるもの凄いプレッシャーが穂積に射程距離に入った事を知らせた!


「ダァッ!」


穂積は気合と共に力一杯に火炎瓶を投射したっ!


────


真正面の天守閣から穂積が火炎瓶を投げたのを確認したその刹那、それは勢い良くボクの頭上を通り過ぎ、後方のコウモリ魔獣の中心に吸い込まれて行った。


コウモリ魔獣の大軍は、その優れたレーダーで火炎瓶を探知する事は出来た。しかし火炎瓶は上空への回避路を塞ぐような位置にあり、逃げ場のなくなった大軍の一部はパニックとなり衝突を回避出来なかった!


ボッカァ!ーーン!!


その音は、パイルバンカーの風物詩ともいえる轟音と言うよりは、燃え上がった空気が膨張し破裂する様な音だった。


ボクのすぐ後ろで炸裂した火炎瓶は、炎を撒き散らすと同時に群れに次々に引火しすると、さながらそれは火炎がボクを追いかけてくるようだ。迫りくる熱がボクの背中を炙る。



しかし、直撃と思えた火炎瓶は実の所、コウモリ魔獣に致命傷を与えていなかった。何故なら大軍はギリギリの所で四方八方めちゃくちゃに回避し、群れを解除してしまったのだ。


そしてその意味は、もはや止めの火炎瓶を当てる中心が消え失せた事を意味する。


そうとは知らず、とにかくボクは、金平糖城の出入口に滑り込むと即座にシールドで出入り口を塞ぎ、燃えながら突っ込んでくるコウモリ魔獣を分断する事に成功した。

シールド越しからは、火ダルマになりながらも、なお、必死にもがき侵入を試みるコウモリ魔獣の眼。その視線は、せめて視線だけでも侵入しようとしているかのような執念を感じた。


────


穂積は止めの火炎瓶を投射するチャンスを失ってしまったが、大軍に大ダメージを与えることには成功していた。不足の事態が起こることは想定していたのか、二発目の火炎瓶投射は直ぐに諦め城内に戻り、1階まで駆け下りた。それから用意してあったガスバーナーとスプレーを装備し迎撃体制に入った。


────


ボク達のタイミングはバッチリ合い、ほとんど同時に城内(と言っても3畳くらい)で集合する事に成功した。


こうなってしまった以上、次の作戦はボクが出入口をシールドとコンペイトウ魔法で塞ぎ、天守閣や出入口の隙間のから侵入してきたコウモリ魔獣を穂積がバーナーで焼くというものだった。



・・・だけどねぇ。


あれれ?おかしいな!?


確かに、火だるまとなってコウモリ魔獣は突撃してきた。でもその数はそれ程多くなく、奴らは出入口からの侵入をあっさり諦めてしまった。かと思えば本命のガラ空き天守閣からの侵入を警戒し上を確認したが、そちらからは1匹も侵入してこない。


そして、コウモリ魔獣の奇妙な行動はそれだけには留まらない。奴らのバサバサと鳴らす羽音やキーキーうるさい鳴き声も次第に遠ざかって行った。


まさか諦めたのかな・・・?


ボク達は顔を見合わせキョトンとした。


それから穂積が無言で人差し指を出入口に向け、ボクに覗くように合図した。


オッケー・・・


シールドの出力を弱め隙間を作り、ボクはひょっこりカメさんの如く首を出し確認した。


────


そこには一旦距離を置き態勢を整えるコウモリ魔獣軍団がいた!


奴らは火炎瓶をまともに喰らい全盛期の半分位の勢力となっており、今でもチリチリと燃え上がったり塵となって漂うコウモリ魔獣もいた。


それでも奴らは諦めていなかった!


なぜなら今、ボクの目の前ではとんでもない事件が起こっているのだから・・・


1匹のコウモリ魔獣を中心に奴らは濃密濃厚に全員集合し次々と合体しつつあったのだ!


1匹残らず集合したコウモリ魔獣はやがて互いに吸収し合い、ウニウニと形が形成されていく・・・


あれま・・・どうしよう・・・


変身合体だ!間違いない!


そして現れたその姿は、二本の足を持ち、両手から足まで伸びる皮の羽根。大きな目玉と耳、そして豚のような鼻をもち全身が短い毛で覆われた、体長2メートルくらいのコウモリ魔獣だった!


腕をクロスさせ羽で身を隠しながら、こちらを睨み見る凄みはまさに、物語に出てくる最終形態の怪物ドラキュラのようだった。


つまり、ボクの目の前のコウモリ魔獣軍団はなんとコウモリ魔獣さんとなって降臨した!


しかも激おこで!!

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