27 ボクと穂積の風雲金平糖城 ~築城編~
ボク達のいるダンジョンの通路から、地上への出口へと続く通路に到達するためには洞窟広場を通らなければならない。距離はたぶん300メートルくらいだ。
初めてボク達がこの広場に来た時は、垂れ下がった鍾乳石や巨大な石柱、蒼く神秘的な輝きを放つ地下水の水たまりの美しさに、それはそれは見とれたものだった。
・・・でもぉ、そのあとにボク達の大活躍という名の爆音騒音のオンパレードで広場に生息していたコウモリ魔獣が大暴れしてしまったらしい!
ユニオンバット(コウモリ魔獣)────
ダンジョンコウモリは多種に渡りありふれた魔獣だが、このユニオンバットは一味違う。好戦的な性格ではないが、巣を荒らされると凶暴化し、爪と牙で攻撃を仕掛けてくる。爪にはにマナ毒と呼ばれる神性魔法でしか治癒が不可能な特殊な毒があり、解毒手段がない場合は決して手を出してはならない相手であった。そして、名前の由来にユニオンがあるように、彼らは強敵を前にすると合体する事がある。故に、冒険者の間では発見しだい殲滅魔法で一気にケリをつけるという手段が推奨される。
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とにかく今は範囲攻撃の手段を見つけなければまたもや恒例のジリ貧だ!
・・・ってゆうか、最近ジリ貧慣れしてきた自分が怖いナ。
とりま、穂積が持ってるホワイトガソリンで火炎瓶が作れるらしいけど瓶が無いんだな。でも、それくらいならボクの偉大なるコンペイトウ魔法をもってすればたやすい事だ。なんて言ったて、有名な黄色いクマさんですら造り出すことが出来るからね。というわけで・・・
「穂積、瓶なら作れるよ、ボクのコンペイトウ魔法でね」
ボクがそう言うと、穂積はチラリとボクを見ると、首の裏を掴みながら何か考え出した。
アイツが何を考えてるか分からないけど、取り敢えずボクはコンペイトウで瓶を作ってみることにした。
ワインボトルをイメージしながら手からコンペイトウをウネウネ生成させ、まず瓶底を生成した。ウッカリ瓶底メガネをイメージしてしまったので、瓶底はぐるぐる瓶底メガネになってしまったが、これはこれで趣がある!続いて、胴体、くびれ、最後に口先と生成した。強度はいつものコンペイトウよりやや硬めで素焼きのような肌触りになった。フタは後から別のコンペイトウで埋めればいいよね?
・・・そして出来た瓶はワインボトルと言うよりは1.5ℓの丸いペットボトル型になってしまった。
まぁお酒なんて飲まないから、どうしてもイメージがジュースのペットボトルになるのは仕方ないかな。
「ほら見て穂積。コレに燃料入れれば火炎瓶になるよ」
「・・・ありがたいのですが、問題はソレをどうやってコウモリ竜巻の中心に当てるかですよ。おびき寄せて投げつけても、こっちも相当被弾するかもですし、引火の恐れもあります」
そう言って穂積は再び首の後ろ掻きながら考え込んだ。
なるほど穂積のヤツ、どうやって当てるか考えていたのか。
確かに火炎瓶を30メートル近く打ち上げなければコウモリ魔獣の中心に当たらない。しかもヤツらは超音波レーダーがあるから、単なる投射程度では最悪の場合避けられ、有効打にはならないからね。
ボクもウンウン唸っていると、穂積が動き出した!どうやら何かアイディアを見つけたようだ。
「やはり、おびき寄せるって事は必要でしょうね。それでも投射程度では超音波レーダーで十分避けられるので、なるべく低い位置におびき寄せて、ボク達は高い位置から敵頭上を塞ぐ形で火炎瓶を二つ投げつけましょう。一つ目で混乱させ、二つ目で仕留める」
なるほどね。まぁおびき寄せるのはボクの役目だな。穂積が高い位置から投射だよね・・・高い位置ねぇ・・・
「ほいたらさ、築城しようよ!金平糖城!」
「は?築城?・・・・・・高台を作ることは賛成ですが、バレずに作れますかね?」
まぁ、穂積の言うことは分かるよ。広場のど真ん中でえっちらおっちら築城してたら、たちまちコウモリ魔獣の餌食になるよね。
「だから、ダンジョンの壁を利用するの。穂積、何でも良いからお城を想像してみて?それでナ、真上から縦に真っ二つに切るんだよ。それで、半分だけをこの壁にハリボテ見たいに貼り付けるのさ」
穂積は細い目でダンジョンの壁を見つめ、じっくり考えた。
・・・なるほど、壁を利用してこっそり築城する事は充分可能かもしれない。それに高さは5メートルか、それ以下で充分だ。まぁ、城に拘る必要はないと思うけどそれは言わぬが花だな・・・と、思う穂積。
「では先輩、早速建設にかかってくれますか?僕は火炎瓶を作ります」
「おっけー。とりま、瓶もう一個作っておくね!」
こうして穂積は瓶を受け取ると、火炎瓶の作成のためにダンジョンのやや奥に引っ込んでいった。
ボクも金平糖城の築城に取り掛かった。
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さて、築城に必要な事はなんだ?もちろんまずは石垣だよね!100年経っても崩れない石垣を作らねば!
・・・っと思ったけど、残念だけど時間が無いから、今回作るのはハリボテ。
まずは、広場側の出入口をコンペイトウでバリケードのようにコの字で囲い壁を作る。真ん中は開けて通り道を作る。L字が間を空けて二つ対象になる感じね。色は灰色で石垣のイメージを乗せてみよう。高さは大体ボクの身長くらいかな。
ひょいひょいっと頭の上に手を前後させ、目測で図るボク。
イメージを固めたら忍び足で広場に出て、両手からウネウネと大量にコンペイトウを生成し、石垣の壁の作成に取り掛かった。手から極太のマヨネーズが出てる見たいで面白い。それに認識阻害(小)の効果のためか、ボクは取るに足らない雑魚と思われコウモリ魔獣からは相手にされなかった。何だかムカつくスキルだけど、結構役立つよな。
こうして出来た土台は結構大きく厚めに出来上がった。縦が1.5メートル、横に3メートル位で中心に人が通れるくらいの隙間のあるコの字になった。
さて次は石垣の上に白のコの字型の壁と2階部分になる天井を作る。外側の上部には破風を付けてみよう。あっ破風っていうのはね、お城の途中にある三角形の屋根みたいなやつのことね。今回は唐破風って言うのかな、やや丸みのある弓を横にした形の破風を屋根に取り付ける。コンペイトウ魔法は使ってみると分かりやすいんだけど、直線より、曲線の方が描きやすいんだ。
ちなみに、普通のトゲトゲのコンペイトウは、何も意識しなくても一瞬で生成出来るよ。他人から見たら掌にポっと現れるから召喚魔法見たいだね。
それと穂積が登る時に懸垂じゃあ可哀想だから内側に階段も作っておこうか。
・・・コンペイトウを生成しているうちに、要領がどんどんと良くなっていき、いつの間にか自分が3Dプリンターになった気がしてきた。想像したものが手からコンペイトウになって出てくる不思議。うっかり油断すると変な形になるから集中力は必要だけど、階段とか単純なものはスグに作れちゃうようになった。硬度も結構あって、拳で叩くとコンコンと頼り甲斐のある音がでる。たぶんつるはしの一撃くらいは何とか耐えられそうだな。
2階に登って外側の屋根と唐破風を作ったらいよいよ天守閣だな。
・・・・ふと、ボクは一体何をやってんだか我に返る時がある。たかだか4、5メートルの高台なんて、5分もあれば作れちゃうのにねぇ。
でもやっぱりロマンは大事だから。ロマンを追い求めてこそだよ!と言い聞かせてるボクはすっかり宮大工っぽくなってしまった。
最後は天守閣だな。さらにコの字を積み上げて、平な天井を作る。壁側には穂積が通れるように穴を開けておき、壁にでっぱりを作って置けば天守閣に登れるようになる。本当は螺旋階段とかもう天守閣への階段を設置したかったけど、スペースが足りないんだよね。それに残念だけど足場として最悪だから屋根は三角形の破風には出来ないね。変わりに天守閣の正面に千鳥破風を貼り付けることは出来そうだな。
破風は色々種類があるからね。
まぁ想像し難いなら三角形のおでんコンニャクでも貼りつけて下さいな!って誰に言ってるんだろ?まぁいいや。
こうして出来たヘンテコな金平糖城は高さは4メートル弱、屋上の足場は2メートル四方は十分にある。
因みに屋上の左右の端にはシャチホコの代わりに大きなトゲトゲのコンペイトウを置いた。内側に針を出すと穂積に刺さるからトゲは外側に向けた。
よし!出来た!
下から見上げれば、まぁ、お城に見えなくもないな。
・・・でも石垣のゴツゴツした立体感がなく、これではただの雑で分厚い壁だな。
うーむ、まずいなぁ。足元にロマンが足りないぞ!
そう思ったボクは両手を石垣モドキの壁に向けて、ポワッと大きなトゲトゲしいコンペイトウを生成し、貼り付けてみた。
おっ!意外と良いかも!何だか金平糖城の個性が出て来たよ!きみぃ!やれば出来るじゃないか~!!
こうしてどんどんカラフルなコンペイトウを貼り付けて行くと、石垣が虹色の幻想的な模様にになり、しかもトゲトゲの凄みが出て来た!
良いよ良いよ!!!映えるよぉ!!
鼻息が荒くなりハァハァと興奮し、目つきが危なくなってきた。
天守閣に穂積が登ることを考えるとちょっと嫌だけど、コンペイトウ職人として良い仕事が出来たことにボクは満足したのであった!
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一方その頃、穂積はダンジョンの少し奥でタバコを吸っていた。それだけではない、燃やせる紙類は片っ端から燃やし、灰を集めていた。
砂糖類は可燃性だが、それだけだとジュウジュウと溶けて滴り落ちるだけである。が、灰が混ざることによって、一気に燃えやすくなるのだ。
かき集めた灰を2本の瓶の内外に塗りたくりホワイトガソリンをタップリ入れ、ついでに ザイルにも染み込ませ完了。あとはコンペイトウ魔法でフタを閉じれば良い。
簡単な作業であるが、不発に終われば命に関わる。慎重で丁寧な仕事が重要だ。
こうして出来上がった2本のコンペイトウ製の火炎瓶。瓶底は何故か漫画に出てくるようなググルグルメガネのようで、人を馬鹿にしている感じがするが、瓶それじたいは素焼きのように滑らかで薄いながらも丈夫に作られていた。それに灰ですす汚れている為か武骨で頼りがいのある印象もある。
コンペイトウ製のクセに、イザとなったら容赦なく火炎を撒き散らすその火炎瓶は、何かを彷彿とさせるものであった。そしてその何かは今、コンペイトウ魔法で真剣な表情でお城を築城していた・・・
まるでチビの親方だな・・・
一足先に作業を終わらした穂積は、真剣な表情でお城を築城している相方を見てそう思うと同時に少し不安になった。
何故なら、あの真剣な眼差しは明らかに今どこでなんの為に築城してるかなんて完全に忘れ、城に情熱を注ぎ込んだ一人の職人の眼差しだったのだから。
全く、命を賭けているというのに・・・・なぜそうも無邪気なんだ・・・
やっぱり先輩は見ていて本当に飽きさせないよな。
しかしその目には恋愛感情はなく、おもしろ動画を見るような目であった。
それからしばらくして、二人の準備はついに整った。