24 ボクと魔獣さん。穂積、おまえもナ
マヌケな気合いと共に放たれたパイルバンカーの威力は必ず殺すとも言わンばかりのものであった。それは岩魔獣のどてっ腹に腕が楽々入るくらいの穴を開け、衝撃は魔獣の体内をかけめぐり、最後に大穴をあけ貫通した。
あれぇ?おかしいなぁ?
ボクはそんなに強く打ったつもりは無かったんだけど・・・腕もジーンとするくらいだし。
パイルバンカーはどうも調整が難しいね・・・まぁ、いいか!
「見て見て穂積!やったよ!」
ボクは振り返り穂積に手を振ったけど、穂積は頭をおさえフラフラしながらも、こちらを指さす。
アイツ何してんるだ?・・・あぁ、爆音で耳が逝ったか。ボクはステータスのおかげで、そんなに影響はなかったけどな。でもまぁ爆音に違いなかったね。
すまんね。穂積よ。ボクはそう思い、頭の後ろをポリポリかいた。
穂積は余裕をぶっこいているボクをいまだに指さしてる。しつこい奴だナ。
ん?何か言ってるけど、よく聞こえないや、やっぱりボクも耳がチョイとおかしいのかなぁ?
なになに?うしろ?
え?・・・・後ろだっ!
ボクはとっさに振り返り岩魔獣を見た!
そいつはゴゴゴゴ!と音を立て、折りたたまっていた幾本もの足を開き、右手の巨大なハサミは胴体並に大きい。
これは岩の魔獣じゃない。カニさん魔獣だったのだ!
そして、悪いニュースがある・・・カニさんは既に大バサミを振りかぶっていた!
ヤバい!
シールドに変形する余裕もなく、ボクはとっさにパイルバンカーで頭を守り、全力で後ろへ回避した!
ガッチィィンンー!
大バサミは振り下ろされ、衝撃と共に巨大なハサミがボクの目の前を通過した。それはとてもゆっくりにみえた。
どうやら間一髪で何とか受け流すことに成功したらしい。
あっぶねー!いやほんとあっぶねー!
後ろへ跳躍したボクは、命からがら穂積のそばまで戻っることに成功し、さっきまでいた場所を見ると、岩盤がごっそり削られ、ボコんとへこんでいた。
まともに受けていたら死んでいたかもしれない・・・
全く止めも刺さないで敵に背を向けるなんて、もうB級ホラー映画も馬鹿にできないねぁ。
でもでも、言い訳させてほしい。普通は「やっぱ念の為もう1発殴っておこう」なんて発想はなかなか出来ないよ。手応えを感じたらどうしても油断しちゃうよぉ。
一つ教訓を得たよ・・・
隣にいる穂積から何だか嫌な視線を感じたボクは恐る恐る首を向けると、案の定、怖い顔していた!
「先輩!あなた!バカですか!アホですか!両方ですか!!?」
「ゴメンなさい・・・」
ボクはまだフラフラしている穂積に思いっきり罵倒され、少しシュンとした。この件は流石のボクでも反省した・・・
とはいえ!落ち込んでもしょうがない。今は戦闘中なのだ!
パイルバンカーを確認したら、どうやら無事のようだ。防いだ腕も力を受け流すことが出来たため、それほどダメージはない。
ボクは再び岩魔獣改め、カニさん魔獣を睨み対峙し、パイルバンカーに魔力を込めると、カシャコン!っと音を立て杭は再装填された。
見ればお腹に穴を空けたカニさんは泡をブクブク吹きながら、ハサミを振り下ろしたままの状態でズドンと音を立て前に倒れ込み絶命した。
それでもまだ終わりじゃあない。倒れ込んだカニさんの後ろには、ボク達をギョロリと見下ろす、怒り狂ったカニさんが満を持して現れた。
「プッシャーッ!!」
見れば相手はやる気満々でのようで、変な奇声と共に右の自慢の大バサミをシャキン、シャキンと動かしていた。
そして、カニさんの左手のハサミは右に比べると幾分小さいが、折りたたんだ腕をカシャカシャと音を立てながら伸ばし始めた。おまけに多関節のためか独特な動きをしていて、何処から攻撃されるのか全く想像がつかない。
不意打ちで1匹仕留めれたのはホントにラッキーだったと思うよ・・・
───
「先輩!眼、潰します!」
突然、穂積はそう言うと、カタパルトをサッと構え、矢を発射した!
流石は穂積!敵がカニさんと判断すると、装甲の厚さを加味して眼を狙うとはね。
緊急時に冷静で的確な判断をする事は、意外と難しい。最近色々合ったからよく分かるよ。
でもナ、穂積よ・・・
そこは当てろよナ・・・ちゃ、ん、とっ!
矢はカニさんの眼の近くを通り過ぎ、ダンジョンの壁に当たると、コツンと音がした・・・
奇襲失敗を確認したボクは腕輪をシールドに変形させ反撃に備える!
次はカニさんのターンだ。ここで突撃したらヤバい。
案の定、カニさんはガシャガシャ音を立て、正面移動で間合いを詰めてきた!
実はボク、子供の頃に沖縄でヤシガニを見た事があるんだ。ヤシガニは正面移動するからカニさんイコール、ヨコ移動じゃあないんだよね。ふふっ・・博識でしょ?
その自慢の博識はとどのつまり、ボクがピンチにあるという事だった。カニさんは多関節の腕をしならせ、ブン!っとムチのように打ってきたのだ!
バシィン!バシィン!
カニさんの連続ムチムチ攻撃!
ボクはシールドでらくらく弾き返すけれど、カニさんは隙を見せることなく振りかぶり、次々とムチを繰り出してきた!
ずるいよー!
半透明のシールド越しに見えるのは、カニさんのビシバシ連続攻撃と、ボクを見下ろす眼、そして、いまかいまかと、待ち構える必殺の大バサミ!
しかもカニさんの脚がワシャワシャと動いて、ひっ掻かれそうで迂闊に近付けない。
「ひょえ〜〜コワいよー!!」
何か変な声も出るよー!
このままではいつものジリ貧だ!どうしようか迷っていた時、穂積が再び動いた!
穂積はまるでレーザビームの様な光量をもつフラッシュライトでカニさん目をくらましたのだった!
「プッシャーッ!!」
カニさんは変な奇声を上げ、思わず両腕で目を隠し、お腹がガラ空きになった!
今だっ!ここがチャンス!
「穂積!汚名挽回だねっ!!」
ボクはそう言って、ロボット脚をグっと踏み込むと、プシューと発せられた蒸気と共に一気に距離を詰めた!
パイルバンカーを起動する時間はない!だからボクはそのまま胴体を思いっきり蹴っ飛ばしたんだ!
バッッカーン!!
大きな音と共にカニさんの装甲がバキバキに割れ変なカニ汁がじゅわっと出た!
ボクが華麗に着地したその刹那!ボクの横を穂積が颯爽と駆け抜けて行く。バチバチと放電するスタン警棒を持って・・・
穂積はボクの横を通り過ぎる時、呟くように「返上です」と言ったけど、全然意味が分からなかった。
それから、穂積はカニさんの間合いに入ると、スタン警棒をカニさんの装甲の剥がれたお腹に思いっきり突き刺した!
「プッ、シャャャーー!」
脅威の130万ボルトの放電は魔獣の内臓に電熱と衝撃を直接与え、バリバリと感電させた。腹部が焼け焦げると、食欲のそそるカニの匂いが辺りに充満した!
────
ボクだってただ見てるだけじゃないからね!
パイルバンカーを素早く起動させながら、バリバリ感電して身動きが取れなくなっているカニさんに一足飛びで接近、そのまま勢いをのせ・・・
「えい!」
パイルバンカーを放った!
ドッゴッーーッン!!
本日2発目のパイルバンカーは例によってカニさんのお腹に大穴を開けた。
でもボクはさっきの教訓を忘れていないよ!
すぐさまその場で跳躍し、思いっきりドロップキックをお見舞いした。
「おりゃーー!」
どぉん!!
ロボット脚の全力ドロップキックはカニさんに甚大な衝撃を与え、後ろにすっ飛ばした!
「よし!」
スタッと着地し、パイルバンカーに再び杭を装填しながら、ぶっ倒れたカニさんを警戒しながら構え直す。
隣にいた穂積を見ると、どうやら耳を塞いで、丸く縮こまっていた。
・・・まぁ、締まらない格好だこと・・・でも結構カッコよかったぞ!
・・・特に意味は無いけどナ。
ボクはそんな穂積に声を掛けた。
「おい穂積。大丈夫か?」
「ええ、何とか・・・先輩が来た時にスグ離脱しましたので」
おっと、危なかった。あんな至近距離でパイルバンカー打っ放したら穂積の耳が完全に壊れちゃうかも知れんかったね。すまんな。穂積よ。
それにしても、今の連撃は凄かった。何だか初めて本当に戦闘した感があるよ!
今までは戦闘と言っても地獄の鬼ごっこと騙し討ち、あと不意打ちでしょ?
残酷にカニさんを殺したのに、死闘を生き残った高揚感が勝ってる気がする。ボクって意外と戦闘狂なのかなぁ?ふとそんな事を思った。
────
ボク達は改めて、硬い岩盤に倒れ込んだカニさんを見下ろした。カニさんは食欲をそそる香ばしい匂いをただ寄せながら、光の塵となりマナへ還ってゆくのを確認した。
「どうやら仕留めたっぽいですね」
「そうだナ・・・」
と思いきや。・・・・あれぇ?
何故かボクの身長位のある、カニさんの自慢の大バサミだけがマナに還らずに、ボク達の目の前にでんっ!と残されていた。
「おい、穂積。何でハサミだけ残ってるんだ?」
「それは僕に聞いても分かりませんよ・・・ですがこれは、いわゆるドロップアイテムじゃないかなと思います。あの半魚人も爪を残す事に成功してましたから・・・」
なるほど。そう言えばそうだったね。まぁ、こーゆー案件はおばあちゃんに聞くのが一番かもね。
そう思ったボクは地面に転がっている大バサミの前で膝を付き、レッグバックに当て転送を開始した。すると、大バサミはレッグバックの宝石にシュルっと吸い込まれて行った。それはまるで四次元ポケットに吸い込まれるようだった。
うん!この位の大きさなら、問題なく転送できるようだ・・・・
・・・うひひひ、絶対食材系アイテムだよな♪
ジュルリとヨダレが出るのを必死に堪えようとしたが、無理だった・・・うひひひ。
────
「うひひひ♪」
僕に背を向けカニの大バサミを転送中の先輩は何かブツブツと呟いて、少し気持ちが悪い。どうせ焼きガニの事だと思ったので無視した。
・・・それにしてもさっきは熱くなり過ぎた。ガラでもなく3メートルはある相手に生身で突撃するとは・・・ たぶん先輩の活躍に当てられたんだと思うし、カタパルトの失敗もある。やれやれ、先輩の事をあんまり言えないや・・・
ふぅっとため息を吐いた穂積は、改めて身体の状態を確認してみても、ダメージは負ってないようだった。
まだ耳が少し痛いけど大丈夫、まだ平気だ!
しかし、スタン警棒を失ったのはイタい。4万位のしたからな・・・仕方がない。
僕は気持ちを切り替えて、先輩の方を見た。
どうやらまだしゃがみ込んで、ブツブツ言っている。
「カニさんカニさんこっかくかにかに♪」
変な歌を歌っているようだが、これでもまだ、いつもとそう変わりがないという事を僕は知っていた。
「先輩そろそろ行きませんか?」
「穂積、カニさんだよ!カニさん!カニさん!いっぱだよぉ!!」
振り向いた先輩の目は虚ろになり、ヨダレがタレて、さながら食欲グールのようだった・・・
「・・・まだ食用と決まったわけではありませんよ。それにここはダンジョンです。自重して下さい」
「はっ!ダンジョンっ・・・・おおっ!そうだった、そうだった!今、ダンジョンにいたんだよね。ボクはすっかりカニ道楽かと思ったよ。行ったことないけど・・・」
どうやら先輩の状態異常が解除され、いつものおバカさんに戻ったようだ。
「・・・そうですか。先輩、この先から光が漏れています。何かあるかも知れません、進みましょう」
そう言って、今だにうつつを抜かす先輩をおいて僕は先に進んだ。