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22 ボクと穂積


異世界から戻ったボクは、しばらくはバイトに精を出しつつ、新しい装備であるロボット脚やコンペイトウ魔法の特訓をして過ごした。

理由は単純。自転車を買いなおしたら生活費が無くなっちゃったから。意外とビンボーなんだよねぇ、ボク。

そんなふうに過ごしていると穂積に連絡することをすっかり忘れてしまっていた事を思い出した!やれやれ、面倒な約束をしてしまったよ。一体どこまで話したらいいか分からないし、アイツはいつもボクをバカにするからナ。でも、一応助けてくれたから事情くらいは話さないとね。


・・・・という事でボクは穂積に連絡し、会うことにした。


冒険再開だね!


────


いつのまにか季節は3月に入り、夕暮れ時でもお日様が少し伸び始めたせいか比較的明るく暖かい。ボク達は近くの公園で待ち合わせる事にした。ちょうどナギサと会ったあの公園だ。


穂積を待っている間、ボクは公園の広場でいつもの様に魔導ブーツの練習した。初めて練習を始めた頃、ブーツを起動しロボット脚に形状を変えたら、とても目立ってドキドキしたけれど、意外にも時々通り過ぎる人からは何かのコスプレと思われるくらいで、特に珍しがられる事なかった。まぁ都会ではセーラー服のおじさんが歩いていても特に不思議では無いからね。ロボット脚なんて普通の部類だよ。それか認識阻害の影響で取るに足らないと思われてるかもしれないけど・・・まあ、それは考えないことにした。


真鍮色のゴツゴツしたロボット脚は見た目より重くない。たぶん、アシスト機能が付いていると思う。だって、動かすたびにモーター音が聞こえるからね。キュィンてね。そりゃもうカッコイイよ!

関節部は精密に造られているのか、特に違和感なく関節を曲げることが出来る。


まずは歩いて歩行訓練。慣れたら軽く走ってみる。走ると言ってもスキップする様にぴょんぴょんと跳ねながら進むんだ。だから走るというより前に跳ぶイメージに近いかもしれない。しかも軽く走るだけで結構なスピードが出たから多分本気で走ると足が振り切れて飛んでっちゃうかも・・・


それからボクはその場でジャンプした。軽く飛び跳ねただけでも2メートルくらい跳ね、結構な浮遊感があるけど着地はスプリングが効いているせいか衝撃はほとんどない。


ちなみにロボット脚は魔力を込めると基本性能が上がるようで、やはりステータスアップの必要性なんだな。


最後に右脚を上げ片足立ちをし、蹴りの体勢に入った。片足でもブレることなくバランスを保って立つことが出来きたので、そのまま蹴りを放つ。かかとの噴射口からボシュッと衝撃が排出され強力な蹴りを放った!


あら?


一瞬空が見えたかと思ったらそのままひっくり返ったよ!

ステンと転んで背中を打ったけど、レベルアップしたせいかダメージはなかったけどね。


ふっと一息ついて、ボクはそのまま休憩した。

何だか集中が切れてしまい、ふと我に返りボクは額に手を当て地面に寝っ転がりながらぼんやり夕焼け空を眺めながめた。

・・・なぜか起き上がる気がしない。陽の光が雲をピンクに照らして綺麗だけど、どうしてもお空のヒビ割れが気になってしまう。


・・・何だかなぁ。やっぱり落ち着かないや。


────


そうやってしばらくぼんやりと寝っ転がっていると、ボクの視界を突然黒い影が遮った。


穂積がポケットに手を突っ込んだまま、ボクをジッと見下ろしていた。


なんだ穂積か・・・


「遅いじゃないか穂積」


「先輩がいきなり変形したんで見てました。なんスかその脚」


「いいだろ、ロボット脚だ。凄い蹴りが出来るんだぞ」


「すっ転ぶくらいですか?」


「すっ転ぶくらいだ」


ボクはもう少しお空を見たかったけど穂積が邪魔だったので仕方なく穂積を見た。夕日の影になり表情が良く見えない。オマケにネックウォーマーをしてるせいか、まるで筒のようなシルエットをしていた。


地面から生える筒が全くもってお似合いな奴だナ。

そう思うとボクは可笑しくなって、ついクスリと笑ってしまった。


「あのー先輩。そろそろ、この前の話しを聞きたいんですが・・・あれから随分待たされていますんで」

穂積はやや不満げにボクを催促するかのように言った。


「すまんな。どっかの誰かがボクの自転車をぶっ壊したからバイトに精を出していたのさ」


そうボクが嫌味をいうと、穂積も嫌味な言い方で返した。


「なるほど、どっかの誰かに助けられて、バイトに精を出しているのですね」


全くコイツは相変わらずだナ・・・


「・・・話が聞きたいんだろ?寝ながら話そう」


と、ボクがそう言うと穂積は黙って両手を後頭部に起き、枕を作りながらボクの横に寝っ転がってた。


ボク達はしばらく空を見た。きっと穂積はボクと違うお空見ているんだろうね。


・・・だから、ボクは聞いてみた。


「穂積、何が見える?」


「夕焼け空ですかね。あと雲とか・・・」


「・・・だろうね、ボクはそれとヒビ割れが見えるんだよ。空いっぱいに。時空の裂け目ってやつ」


「信じますよ」


思いのほか穂積はあっさり信じてくれた。


「うん、ありがと。・・・少し前にな、ナギサに会ったんだ・・・」


こうして、ボクはヒビ割れたお空を見ながらこれまでの出来事を話した。


────


芝生に寝っ転がるなんで何年ぶりだろうか?


春夏ならまだ分かる。まだ少し寒い3月にするなんてひょっとしたら僕は初めてかもしれない。でも先輩は、変な言い方だけど、凄く慣れたように寝っ転がっている。多分年中寝っ転がっているんだろう。


そんな事を思いながら僕は先輩の横で寝っ転がった。高くて広い夕焼け空がよく見える。

たまには悪くないかもしれない。


そんな事を思いながらぼんやりと空を見ていると先輩はこちらに目を向けることなく、おもむろに不思議な話を始めた。


空のヒビ割れ。謎の女ナギサと夢の世界のミナモ。時空を越えた先にある世界のドロシー婆さん。機械仕掛けの目玉。そして、昨夜の出来事・・・


それにしてもこの前の調査は無駄にならなかったようだ。流石にアレを見なければ、にわかに信じ難い内容だったから・・・


話を聞き終えたあと、僕は再度確認するように先輩にいくつか質問をした。


「えーと。まず、その時空の裂け目から侵略者がやってる来る。そういう認識で良いんですか?」


「どうなんだろー。ボクはよく分からないんだけど、世界が同期して一つになるみたいな事言ってたよ」


「同期・・・」


なるほど合点が行く。あの下水道は明らかに謎の洞窟に繋がっていた。この街の地下にそんなものあるはずが無いのに・・・


「それと、先輩は一人でその機械仕掛けの目玉に挑むんですか?」


「まぁ、そうなるんだろうね。でもボクにはおばあちゃんやミナモがいるからね。大丈夫だよ。きっと・・・」


「なるほどねぇ・・・」


何も対策は無いということか・・・


どこか遠い目で投げやりに言う先輩は、きっと何となく分かってるのだろう。

僕達はお互いに未来のない現実を垣間見てしまったのか、黙り込んでしまった。


会話は途切れてしまったため、僕は改めては空を見上げ、情報の整理といくつか仮説を立てて見た。


まずは、何者かが地球を侵略し、それを阻止するためにナギサは先輩を利用していること。

但し、ナギサは普通の思考を持ち合わせていないため、単に地球を守りたいなんて、純粋な動機からではないと思う。


それからミナモ。夢の中で出会ったとか、さっぱり意味が分からないが、無敵の力を起動する役目を負っていた。という事はナギサと繋がっているはず。そして、結果的に任務を失敗した。普通じゃないナギサがそれをどう思うだろうか?


そして最後に・・・おそらく既に何者かが侵入している。もしくは内通者がいる。


仮に首尾よく侵略したとしてその後はどうする?歴史を見る限り統治か皆殺しだろう。

皆殺しを選んだとしたら地球側の抵抗は避けられない。結果地球側が負けたとしても、侵略者も消耗はあるだろう。もし核兵器を使用すれば誰も地球に住めなくなる。それでは本末転倒だ。


それでは統治はどうか。人類を奴隷にするのは結構だが、誰が60億人を管理する?半分殺しても30億人を管理しなければならない。


それは不可能に近い。となると、既に何者かが侵入して、裏工作の一つでもしているに違いない。


侵略者は作戦を実行する前に緻密に計算し不測の事態を徹底的に排除しているだろう。そして一度実行されれば後は自動的に結果につながるように立てているはず。それはまるでブログラムのチャートの様に。特に大規模な作戦ならなおさらだ。


・・・そして作戦は実行され、先輩は全てを覆す無敵のチートを捨てた。


よって先輩は既に詰んでる・・・如何にパイルバンカーが強力でも、集団が組織的に仕掛けてくれば勝てるわけが無い。


それにしても、なぜ先輩はチート能力を捨てたんだろうか?それは誰もが欲しがる能力のはず。確かに強すぎる力に畏怖の念を覚える事は理解出来きる。それに人々はその力を利用しようと画策するだろう。ならばさっさと世界を救って隠居生活でも楽しめば良いじゃないか。お金にも食べ物にも困らないなら、世間に干渉することなく好きなところで好きなように生きればいい。


それに、人の悩みはチートの有無に関係なく尽きないのなら、チートがあるだけマシじゃないかと思う。少なくとも死の危険だけは無くなるって事をなぜ考えなかったのだろうか?


結論として、今の先輩にできる事は逃げるのみだと思う。それなら充分に生存は可能だから。


そう仮説を立てた穂積であったが、彼はチート能力の先にある危うさと責任、そして無限に湧く欲望を追い続ける事が出来てしまう事は、まるで飢餓地獄の様相を呈しやがて破滅してしまう事までは想像出来なかった。


────


「センパーイ、逃げましょーよー。後は自衛隊とかアメリカ軍に任せましょう」


「へー、どこに逃げるの?おばあちゃんちかな?」


「それは良いと思いますよ」


「ふーん、何時まで逃げるの?」


「そうですねぇ、人類が事の重大さに気付いた時までですかね。その時に理由を話せばきっと世界中が先輩の味方になってくれますよ。それまで、一時撤退です」


先輩から投げやりな返事は僕の提案にあまり。ただ今は身を引くべきだと思う。そして状況が変われば打って出るも良し、ダメならそのまま逃げれば良い。


「うーん。あのね、穂積。逃げても多分追いつかれるよ。それにニワトリさんはね。例え敵わぬ相手にでも最後の最後まで抵抗するんだよ」


「確かにそうかもしれませんが、それは逃げ道を塞がれたからです。大抵の動物は、天敵から逃げますよ。それに、もう先輩一人の問題じゃないですよ。今は身を隠すべきです」


「・・・そうかもね。でもね、これはボクの問題なんだ。お空を見上げるとヒビだらけ、黒く不安気なマナがそこらじゅうにある・・・分かるかなぁ?敵が誰だか知らないけど、ボクは奪われたんだよ。綺麗なお空にとのんびりする時間をね。ボクの一番大事なものが奪われたんだよ。奪われたものは取り返す為に戦うンだよ。ボクは戦士だからね」


僕は言葉を失った。まさか、のんびり屋でぼんやりの先輩から戦士なんて言葉が出るとは夢にも思っていなかった。

これはきっと先の死闘の影響だろうか?それが何か変えたに違いない。いや、変えたというより本来あった強さを引き出したようにも見える。



それでも穂積は思った。この戦いに生き残ったとしても、死闘を越えた眼で見る空は同じなのだろうかと・・・


────


「お前はパチンコ以外の事も考えられるんだナ・・・」


ボクは真剣に考え事をする穂積を少し見直した。普段は嘘とパチンコの話題しか無いくせに、今日はボクが思いもよらない考え方を披露した。それでもボクの意見は変わらないけどね。


「先月6万負けてから行ってません」


「その負けがお前を救ったナ」


「・・・それはそうとこれからどうするつもりですか」


これからねぇ・・・残念だけど、もっと強くならなきゃ選択肢なんて無いんだ。


「ダンジョンに潜るよ。橋の下は異世界に繋がってるんだ。そこで、おばあちゃんに頼まれた素材を集めるんだ。レベルアップもかねてね。素材クエってやつだなナ」


「またあそこに行くんですか?」


「あれ?穂積、なんで知ってるの?お前もダンジョンに行ったのか?」


「はい、遺体もありましたので一応埋葬しておきました」


あっ!


遺体と聞いて思い出したよ!すっかり忘れてた・・・どうしよう!


穂積はボクの気配を察したかのように付け加えた。


「言っときますが、少なくとも今は世間に公表出来ませんよ。確実に容疑者にされます」


・・・まぁ、そうだよね。


下水道が異世界に繋がっていて、そこから現れた半魚人に食べられちゃいました!何て言えるわけがないよ。いくらボクでもそんな事は百も承知だった。


あの女の子とご両親には申し訳ないけど今はそっとして置くしかないよね。あんまり意味ないけどしっかり仇はうったからね。ごめんね・・・


────


お日様もビルの森にほとんど身を隠し、遠くのお空を紅く照らすのみとなり、周りは青く染まってきた。


青い時間だ!そろそろ家に帰ろう。


ボクは話を切りあげるように、よっと身を起こし穂積に言った。


「さてと、これで大体の事は話したつもりだよ。とりあえずボクはやれるとこまでやる。・・・穂積はもうパチンコに行くなよ。じゃあね」


そう言って立ち上がろうとした時、穂積も身を起こしボクに言った。


「ダンジョン・・・。一緒に行きましょう」


えっ!


穂積・・・お前はその意味は分かっているのかナ?


「死ぬかもしれないよ。おなかに穴くらいは空くかもよ!」


「僕の事なら大丈夫です。この事件に前から興味ありましたし。それに先輩を止めるのは無理っぽいんで。なら僕も行ける所まで行ってみますよ」


「ふーん・・・穂積も戦士なんだな。じゃあ明日の朝、橋で待ち合わせしよう。多分、だいたい10時くらいだな」


「10時って随分お寝坊ですね・・・しかもアバウト」


「ん?なんか言った?」


「いえ、じゃあ、10時頃で」


────


まさか穂積がついて来るとは思わなかったな。

今回の素材クエは比較的安全とは言え・・・安全だった事なんて1度もないか。やっぱり心配だな。


まぁ、イザとなったら穂積抱えて逃げればいいか。今のボクなら穂積一人なら何とか抱えられるし。


・・・それからボクは、明日のためにしばらく公園内をロボット脚でうろちょろ動き回ってから帰宅した。


────


日の沈んだ公園で僕は一人になり、ロボット脚でうろちょろする先輩を遠目で眺めながら、頼りなかった先輩の変貌について考え込んだ。


先輩の心の奥底に何か特別な覚悟の様なものが感じられ、凛と輝きを放っていた眼が印象的だった。


先輩、ほんとに雰囲気変わったよな・・・


それでもなぜか脆く繊細な印象は変わらなかった。

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