20 ボクの盗まれた経験値
カーテンの隙間から漏れ出る冷気は少し冷たく、布団の中にいるボクの肩をヒンヤリさせた。ぷるぷるっと震え、ヌクヌクを確保するためにボクは深淵へと深く潜り込んだ。布団洞の隙間から僅かな視界を確保して、外界を確認してみると、外からの陽射しはやや弱く、今日は曇りか雨だと知らせていた。
ボクがこうして布団の中でごろごろしているのには理由があった。
何て言ったて死闘の後だもの。もう少し寝かせてくれてもいいと思うけどな。それにまだ、体が鉛の様に重くダルい・・・
本当は物語の主人公見たく、二日くらい意識を飛ばして眠りに着きたかった。それで、仲間たちから、「お、目が覚めたようだな!丸二日は眠っていたぞ!」的な展開を期待したいところだけど、あいにくボクには仲間がいないボッチだ。だいいち、お腹が空いて二日も眠れないよね。
まぁ、そんなわけで、ボクはカメのように首をひょっこり出したり引っ込めたりして、起きるか惰眠を貪るかを天秤にかけ、真剣に悩んでるのさ。
・・・結果、おトイレが勝利したことは言うまでもない。
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さてと、今日も一日世界の平和のために頑張りますか!
まぁ、午後になっちゃったケドね。
まずはおばあちゃん家に行かないと。また、ダガン見たいなのに出くわしたら今度こそヤバいし・・・
・・・・ダガン。ボクはアイツの最後をふと思い出した。
そう言えばアイツ、コンペイトウ食べてたな。ホッコリするって言ってたっけ。
アイツも違いの分かる奴だったんだよな・・・
人間喰うやつだけど、もっと違う形で出会っていれば仲良く慣れたかもしれないね。
やっぱり神様は意地悪だなぁ・・・
・・・でも、そのおかげでボクは戦う事を知ることが出来たんだと思う。
命を懸けて相手に挑む時って相手もまた命を懸けて挑んでくるんだよね。それを迎え撃たなければいけないんだね。その覚悟はやっぱり死闘の中でしか経験出来ないと思うよ。
ボクね、戦闘の時怖かったけど、全てを出し切った時には不思議な高揚感も感じていたんだ。
最後の一撃を決める時、ボクは1匹の動物になった感覚を覚えている。ダガンはボクの中の野生を教えてくれたんだと思う。
そんな時でも、憎しみや怒りを暴力に代えてぶつかり合ったワケじゃないんだ。結局は暴力何だけど、ボク達は誇りのため生き残るため信念を貫き通すための選択をしていただけだと思うな。
誇りをかけた戦いって、たぶん日常の中で誰にでもある当然のシチュエーションなのかもしれないね。まぁ、魔獣と殺り合りながらってのはあんまりないけどね。
まぁ、そう言った類の戦いだったから、勝っても負けても、結局は自分自身を護る事は出来た。ボクはラッキーが重なりたまたま生き残っただけなんだ。
それからボクはダガンの爪を手に取った。
ターコイズブルー、緑に近い青色をしているそれは、とても綺麗で鋭く、野生の持ち合わせる美しさと残酷さを表していた。
きっとボクがこの先、生き残るためにこの爪を遺してくれたんだよね。わかるよ。
ダガン、ありがとう。
ボクはバックにダガンの爪をしまい、出発の準備をした。
じゃあ、いってきまーす!
─────
外へ出ると少し薄暗かった。確かに今日は曇り模様だから仕方ないにしても、黒く淀んだマナが、空いっぱいを薄く霧のように覆っていた。
ダガンが消える時のマナはとても綺麗でキラキラと輝いていた。でも、今世界を薄く覆っているマナは何だか少し違う気がする・・・
どうも、聞いていた話と食い違う事が多いな。
雑魚魔獣も一向に現れないしな。ダガンみたいなのにとはぶち当たったけど・・・
とにかくおばあちゃん家に急がなくちゃね!
それと、穂積だな・・・まぁ、それは後でいいや。
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雑居ビルに到着するとボクは一気に4階まで駆け上がった。初めて来たのはほんの3、4日前、ドキドキしながら、おでんの串、投げ入れてたっけ。何だか感慨深く感じるよ。
ではでは、異世界、こんにちわ!
そうしてボクは時空を超えた。
────よいしょっと!─────
「おばあちゃーん!」
・・・あれ?
誰もいないねぇ。
裂け目をくぐり抜けた先の部屋はドロシーの家。
相変わらず魔導を動力とする機械仕掛け設備がゴチャゴチャとあり、天井の魔導ランプがぼんやり鈍く輝いて、導力の制御装置たるパイプオルガンが時おりブシューと蒸気を排出し、ビッシリと装着された歯車が、ガチャガチャと忙しなく動いている。
床下からはいつもの如くゴォォンと何かの落下音。スチームの温もりが部屋全体をほのかに暖める。
どうやら、ドロシーは留守らしい。
ボクは椅子に座って待つ事にした。
色々面白そうな物がいっぱいあるけど、我慢。勝手に人も物をいじるのは良くないしね。それよりも、今のうちにステータスを確認しなくっちゃね。
あんまり好きじゃないんだよね。称号見るたびにイヤになるから・・・・
─────
名前 ٩(๑•ㅂ•)۶
Lv2→17
職業 コンペイトウ使い
力・・・・9→28
敏捷・・・12→33
守備・・・11→30
知力・・・7→10
体力・・・12→34
魔力・・・8→28
HP・・・102→210
MP・・・42→60
スキル
認識阻害 (小)
リンキング
魔法
コンペイトウ魔法
称号
■ ■ ■ ■ ■ ♪
マナに祝福されしもの
勇敢なる戦士
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おお!レベルが一気に15も上がってるよ!ステータスも軒並み上昇してる!
やっぱりダガンは相当強かったんだね!
しかも職業がコンペイトウ使いになってるし、称号「勇敢なる戦士」だって!!
きっとダガンが名付けてくれたんだね。何だかかっこいいぞ!
・・・それに、変な称号が付かなくてホントに良かったよ!
─────
ステータスを確認しほっとすると、ボクは辺りをキョロキョロしながらしばらく待った。するとは玄関の扉がガチャリとあきドロシーがやって来た。
「よう来たのう、また会えて嬉しいぞい」
いつもと変わらないおばあちゃんは相変わらず、義手をカタカタ動かしながら、優しく迎えてくれた。
「あっ、おばあちゃんこんにちわ!でもおばあちゃん、まだ4日くらいしか経ってないよ」
「初のクエストからの帰還は、だいたいその位で帰ってくるのが相場じゃからな。して、どうじゃった?」
ドロシーは初クエストから帰還できなかった冒険者達を多く目にしている。それゆえ、この時期に帰還したことで内心ホッと安心していた。
────
この数日間の出来事は本当に色々ありすぎて、
何処から何を話したら良いか全然分からなかったけど、ボクはゆっくり丁寧に話した。
下水道からダンジョンに繋がっていたこと。
ダガンとの出会いと、初めての戦闘。
コンペイトウ魔法と白波の腕輪の力で一撃決めた事。
お腹に穴が空いちゃったこと。
ポーションを全部使ったこと。
地球に充満するマナが薄暗いこと。
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話をじっと聞いていたドロシーであったが、内心は驚きを隠せなかった。
既にに同期が始まっていたことに加え、繋がった先がローレンハット大洞窟であること。さらにネームド魔獣に遭遇してしまい、生き残ったこと。
─────
「お前さん、よう生き残ったのう・・・」
ドロシーは初のクエストでネームド魔獣に出逢うことな今までに聞いたことがなかった。
正攻法で装備をまとめていたら確実に死んでいただろうに。コケ脅しと必殺の一撃が見事に噛み合った成果と言えよう。だが、この次も上手く行くとは限らない・・・いや恐らく次は無い。そう考えるドロシーであった。
「へへ、ギリギリだったけどね。それと、おばあちゃんのポーション、また分けてくれると助かるな」
「すまんのぅ。ありゃ伝説級のエリクサーでな、流石のワシでも恐らく二度と手に入らんものじゃて・・・」
「えっ!?」
それを聞いたボクの脳裏には一瞬、風呂上がりにパンツ一丁で(腰に手を当て)一気飲みをしているおバカな自分がよぎった。
・・・ボクは、あわてて記憶を改ざんした。
「あっ!・・ダガンは強敵だったからね~。三本全部使っちゃったよ。大丈夫だよおばあちゃん。ありがとう!」
───たった今称号「嘘つきパンツ」を受け取った事は知るよしもなかった。───
初クエストでエリクサー全部使ってしまうとは、随分贅沢なことではあるが、ネームド魔獣
相手にそれで済んだら安いもの。むしろレベル差を考えるとエリクサーが何本あっても足りない位だった。
「その爪を鑑定する限り、奴のレベルは50を越えよる。生き残っただけでも大金星じゃて。変わりにはちと役不足じゃが、ポーションなら分けてやろう。病や魔力の回復は出来んが、怪我くらいなら治せるぞい」
「ありがとう、おばあちゃん!」
ボクは全てを無かったことにするかのように、大きな声でハッキリとお礼を言った。
「・・・それはそうとお前さん、レベルは本当に17なのかえ?」
「そだよ!一気に15も上がったよ!」
ちょっと得意げボクは言った。
「うーむ、確かによう上がったと思うがのぅ、ちと計算が合わん気がするぞい」
「ほえ?」・・・計算?
「ダガンのレベルは少なくとも50はあるはずじゃ。とすると、お前さんレベルは当時は2じゃから・・・ワシらの経験からすると最低でも30にはなってるはずじゃて」
「30!?えーと、つまり消えた14はどこにいったのかな?」
「消えたのは13じゃよ・・・恐らく討伐経験値が反映されてないんじゃよ。お前さんはダガンを倒しとらん事になっとる」
「そんな事ないよ!最後に打ち合いになったのを、ボク、覚えてるもん!」
ボクの左手には最後に食らわしたパイルバンカーの感触は未だに残ってる。
「・・・あっ、でもその前に穂積が自転車をぶつけてた!でも、その後にボクが食らわしたもん!」
「食らわせた自転車はそれからどうなった?」
ボクの自転車、あの後どうしたっけ?あの時、暗かったし、必死だったからよく覚えてないや。たしか・・・
「・・・ダガンに絡まって、動きを封じてたんだよな・・・」
「・・・なるほどのぅ。時々あるんじゃよ。絡まった攻撃が継続ダメージとしてカウントされ、それが止めの一撃になるんじゃよ」
つまり、穂積が、止めの一撃を食らわせたことになる・・・の?
「えーー!どうしよう、おばあちゃん!」
「ステータス魔法を使えん奴が止めを刺す事は、ワシらの世界ではありえん事じゃ。恐らく経験値はマナに還元され消えたと考えるしかないじゃろう・・・惜しいことしたのぅ」
なるぼど!穂積をぶっ飛ばせばいいのか!少しは経験値の足しになるからね!問題は簡単にかいけつした!
────
ボクが穂積をぶっ飛ばす計画を練っていると、おばあちゃんは、爪を持ち上げ興味津々に観察していた。
「・・・それにしてもこの爪はタダのハサギンの爪を超えよるわ。どうやら、水属性と特別なマナが込められておる。お前さん、ダガンに相当気に入れられたのぅ」
実はダガンは死ぬ間際に最後の力を振り絞って、体内に宿るマナを爪に込めたのであった。
「へへっ」
ボクはちょっと得意げなって、鼻の頭をかいた。
なんて言ったって、ボクとダガンはお腹に穴を空け合うくらいの、仲だからね!
「もし良ければ、そのダガンの爪をワシに預けてくれんかのぅ?ワシが魔導兵器を作ってやろう」
「うん、おばあちゃん、お願いします!」
ボクは二つ返事で承諾した。もともと何か作ってもらうお願いするつもりだったからね。
「本当に良いな?形は全く変わるかもしれんぞ?」
おばあちゃんの魔導兵器には何度も助けられたからね。信用してる。それにこの爪も記念品になるより、戦うことを望んでいる事はボクにでもわかるよ。
「大丈夫!」
そう言って、ボクは胸をポンポンと叩いた。
「うむ。そうと決まればちと、頼まれてくれんかのぅ」
頼まれごと?キョトンとボクがしているとおばあちゃんは話を続けた。
「魔導兵器を作るための素材が不足しておってな。剛鉱石と繊維結晶を集めて来てくれんかのう」
「剛鉱石?繊維結晶?」
これはもしや!おばあちゃんからの素材クエの依頼だよね!わくわく。
「場所はローレンハット大洞窟じゃ!」
ドロシーは声高らかにそう言った。
・・・え?どこそこ?