17 ボクとダガンの地獄のデスマッチ
洞窟内に下水の臭いが混じり始めた。む、出口は近いな!ダガンはさらに足を早め突き進むと、通路がくの字に折れ曲がっているのが見えた。。
───くの字通路
前方がくの字に折れ曲がり死角を作り出している通路。先が見えない通路に対して慎重派のダガンは本来なら警戒し進むはずなのだが、彼は2つ事情から構わず突進することを無意識のうちに決めてしまっていた。
1つは、自身の怒りに身を任せ、冷静さに欠けている点。もう一つは、仮に冷静だったとしても、もはやコンペイトウ如きに足を止める訳にはいかないという、プライドからであった。
ゆえに彼は死角に飛び込む他に選択肢は無かった。たとえそこに罠があったとしても・・・
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ダガンがくの字通路に到着する少し前・・・
ボクは魔法を唱えた。
「おいでくまさぁーーん!」
ボクのオリジナル召喚魔法(コンペイトウ魔法)「おいでくまさん」は有名な黄色いくまさんを召喚する魔法・・・と、心の中で呟き不敵に笑う。誰も見てないけどね。
優しいくまさんモードとアングリーベアモードがある。
優しいくまさんモードには、下半身がちょっとおデブモードや寝るよーっ思わせる様な仕草のモード、その他に20種類くらいあるんだけと順番に説明するね!
・・・え? どうでもいいから急げ? あっ!
危ない危ない!!とにかく今はアングリーベアモード!
ボクの手をから勢いよくウネウネと黄色のコンペイトウが大量に生成されるコンペイトウはまるで飴細工のように形を変え、ボクのイメージした、短く太い可愛い足とちょっとおデブなおなか。胸の辺りには赤いシャツを着せ、短い両手は顔の辺りで爪を立て、がおー!と構えている。最後に現れるお顔は大口を開けて鋭いキバと目付き、頬の十文字の古傷が特徴的で例えるなら、まさにアングリーベアそのものだった!
そして何より、今回は全長は2メートルを越えダガンより一回り大きい巨体であった。
ただし、厚さは約5センチくらいのハリボテ。像というよりは、ベニヤ板に描かれたイラストに近かった。若干足回りがグラグラするので太くなるようにコンペイトウをさらに生成して付け加えた。
ここ数日の魔法訓練(コンペイトウ遊び)ためか制作はスムーズに出来た。部屋に散らばっているコンペイトウも伊達じゃないよね。
それからボクはパイルバンカーを起動するために、白波の腕輪に魔力を込めると、針がピンッと動き、歯車が高回転で回ると同時にカチャカチャと音を立て変形した。
───腕輪に装着されている結晶は、無色からやや赤みを帯びていた。これが真っ赤になった時、パイルバンカーの真の力が解放されるが、今のレベルでのフルパワーは間違いなく本人が吹き飛ぶ気がするよ。
しかし、初めて起動した時よりも不思議と軽く、体とパイルバンカーの境目の感覚が鈍い。パイルバンカーが体の一部になっている様な感覚だ。きっとレベルアップのおかげだよね!
頼むよ!ボクに力を貸しておくれ・・・
ボクは腰を落とし、右肩を前に出して左手を引き構えた。最後にくまさんのおなかに、人差し指で触れると、すぅっと穴が空き、そこから覗き込んだら準備完了!
さぁこい!半魚人!
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巨大なクマさんが洞窟に誕生するほんの少し前。
待っていろ! 忌々しいコンペイトウ使い!
ダガンは猛烈な速さで、地を這うように走り、くの字通路に迫っていた!
グングンと距離を縮めるダガン。くの字通路はすぐ目の前だ!
折れ曲がった通路の先が見えない事を認識しつつも、躊躇なく飛び込むダガンの意識は既に洞窟の外にあり、いかに早く捕まえてバラバラにするかを考えていた。
そして、ダガンは目下目先の事に注意を払うことなく、件のくの字通路にたどり着き・・・・スピードを全く緩めることなくクンッと曲がった!!
そして・・・
がおぉぉーーー!!現れたのはっ!巨大なくまーー!!
いきなり目の前に現れたそれにダガンは驚き目を見張り、信じられない物を見るような表情をしたが特に魚だからという訳でもなく、時、すでにおすし。慌てて急ブレーキを掛けたが当然止まれそうない。
ダガンの思考はまるで交通事故にあった時のようにスローになった!
不味い!こいつはイエローベア!!
迂闊!迂闊ぅ!まさか、召喚士だったのか!
・・・一度でもおバカさんのペースに乗せられると誰もが残念な子になるのは、この世の理であり、ダガンもまた例外ではなかった。
──森林の悪魔イエローベア。
体長は大型でも3メートル弱と決して大きくはないが、素早い動きと鋭い爪とキバ。底無しの食欲で獰猛に喰らい尽くす。厄介極まりない強敵。
無論ダガンにとって、決して不覚を取る相手では無いが、不意を付かれた今なら非常に危険な相手もである。
──────
クマさんのお腹に空けた穴を覗き込み半魚人を待ち受けていると、凄まじいプレッシャーが近づいてくるのが手に取るように分かった。
ドンドンドンとリズムよく近づいてくる足音は次第に大きくなる。
このプレッシャーに負けたら全てが終わる!意識を持って!集中しろよボク!
そしてついに相対する時が来た!
来る!そう思った刹那!
・・・・え?は、はやいっ!
覗き込きこんでいた穴が一瞬にして真っ黒になった。
それはボクの予想を上回る速さで一気に突撃してきたのだ!
ドッカァァンッッ!!!
半魚人は案の定、急ブレーキに間に合わず激しくコンペイトウに激突した!
コンペイトウにビシビシとヒビが入り、ボロボロに砕けボクは吹っ飛ばされそうになった。
「こんのぉぉぉー!!!」
ボクは壁越しから伝わるとてつもない衝撃に負けないよう気合いを入れ、おデコで必死に押さえつけた。そして左腕に装着されたパイルバンカーを壁に当て全力で魔力を込め、ついに発動させた!
刹那の内にパイルバンカーの歯車がけたたましい音を鳴らし高速で回転しながら高圧の蒸気をプシューと排出されると同時に禍々しいまでの極太の杭は発射された!
ドッゴォォーーーン!!!
洞窟内に爆発音が響き渡り、その音を発したパイルバンカーの衝撃は、ダガンの腹部を異常なまでに陥没させた。内臓は荒々しくミキサーで掻き混ぜたようにぐちゃぐちゃになり、口からは何か得体の知れないものを吐き出しながら地面と並行に吹き飛んだ・・・
・・・静まり返る洞窟内。今この瞬間に音を立てる存在は何も無かった。
はぁはぁはぁ・・・
キーーンと激しい耳鳴りがボクを支配し、ボクは呼吸のみに集中し、感覚が戻るのを待った。
最初に感じたのはかつてない程の倦怠感と全身を駆ける激しい痛み。衝撃を一身に受け止めた額からは、ドロリと血が流れ出る。そして、パイルバンカーを装備している左腕は明らかに骨折していて、その変形を直視する事でさえ本能が拒んだ。
それでもボクは賭けに勝ち、渾身の一撃を決めて生き残ったことに対する達成感が全てを上回った。
「やった・・・」
ほっと一息をつきボクはそう呟いた。
あっ、生存フラグ立てちゃった・・・まさかネ
。
ヘヘっ・・・
・・・無理やり余裕かましてみたけど、やっぱり
これ以上は戦えないや。・・・とりあえず逃げよう・・・
ボクはよろよろ歩き出し出口を目指した。
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一方、ダガンは辛うじて意識を保っていたが、もはやピクリとも動くことは出来ない状態であった。
ぐふっ・・・
口から変なものが色々吐き出される。
うぅ・・・ なんて事だ・・・一体何が起きたのだ。・・・どうやらあのイエローベアもハリボテか・・・追撃を始めた時からオレは既に罠にかけられていたのか・・・
・・・コンペイトウ使いめ、とんでもない隠し球を持っていたな。それにしても・・・見事!
ダガンの今にも途切れる意識を支配したのは、戦士として最後まで戦い抜き、誇り高く死んでゆける充足感だった・・・
しかし、ダガンは薄れゆく意識の中で何か納得のできないモヤモヤとした違和感に気付いた。
それは、何も分からないうちに致命傷を負わされた自分が、果たして誇り高い死を迎える資格があるのだろうかという疑問、そして何より、あの勇敢なる小さな戦士を侮辱してしまったという自責の念だった。
・・・オ、オレは勇敢なる戦士に謝罪とそして、敬意を示さなければならん・・・
それが我が誇りなり。
行かねばならん!
我が命、全てを賭として、いざ!全力を持って戦士としての敬意の意を示そうぞ!!
我の全てを持って!!
霞のように消え往く意識をダガンは強引に取り戻した。
ギンッ!と目付きが鋭くなり、ギュッ!と拳を握りしめた。腹筋には全く力が入らなかったが、下半身は何とか動かす事が出来たので何とか立ち上がる事は出来た。
壁に手を付き、よろよろと歩き出すダガン。瓦礫となったコンペイトウのクマの頭部を見つけ一瞥し、フッと笑った。
その笑いは蔑むような笑いではなかった・・・
「オォォォォーーッ!!」
ダガンは雄叫びを高らかにあげた!
最早、あるのは気力のみ!!
行くぞっ!!
こうして地獄の鬼ごっこ第2幕は開けられた!