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16 ボクとダガンの地獄の鬼ごっこ


半魚人がコンペイトウとにらめっこしてる間に、ボクは走ったさ!そりゃもう全力でね。で、気が付いたんだけど、何だか足がやたら早くなった気がするんだよね。たぶんステータスが上がったからだけど、今ならきっと高校の陸上部にスカウトされるレベルだと思うよ。まぁステータスを確認する暇なんてないんだけど!


今はとにかく走らなきゃ・・・


────


一方のダガンは・・・


「・・・・?」


・・・む?時限式なのか?


・・・ダガンは未だに伏せていた。洞窟内での爆発は逃げ場がなく非常に危険である。実際、投げた本人も時間稼ぎの為かユルい山投げをして、さらに全力で距離を取っている。と、ダガンは判断してしまった。


実は投げた当人としては顔面に全力で投げつけたつもりだったけど、悲しいかなキャッチボールをした経験があまりなく、結果、やたらリキみすぎた事による投球ミスをして山投げになってしまっただけである・・・


無論そうとは知らず、ちぢこまるように伏せていたダガンであったが、さすがにこの場に流れるヘンテコな違和感に気付き、恐る恐るコンペイトウに近づいた。


そのコンペイトウ・・・それは、近づくなっ!!と言わんばかりの恐るべき鋭さの針を装着していた。


ダガンは自慢の長いターコイズブルーの爪があるにも関わらず、器用にそして用心深く持ち上げ、鋭い針を摘んでみると、意外にもポキリと折れた。


んんっ??


それによく見れば、落ちた時に地面に接した部分は既に何本も折れていた。


・・・一体全体なんなんだ!?コレは?


それに微かに甘い香りがする・・・


ダガンはついに興味をそそられ、つまみとった針を一口、パクッと食べてみた。


・・・甘い・・・ホッコリするぜ・・・


その味その香りが、ダガンを追憶へと誘う。そしてダガンの脳裏に封印されし忘れ去られた記憶が今、目を覚ました!


マナの淀みから水棲魔獣ハサギンとして生み出され、人を襲う運命ゆえに人間達に狩り立たれる日々。その中で家族、同胞を殺された悲しみ。復讐を誓い、人間を襲い喰らった時の達成感。最強を求めて旅立ち強敵たちとの戦いに明け暮れたあの日。ついにはネームド魔獣に数えられ、マナから知性を授かった時の超越感。家族を持ち子を持った束の間の幸せ・・・


目を閉じ追憶に耽っていたダガンの目頭が少しだけ熱くなった!


・・・はっ!


熱くなった目頭にじわりと溜まったものはダガンを現実に呼び戻した!


ダガンはそれを払うように目をぱちくりさせると、戦闘中にも関わらず、いつの間にか追憶に浸っていた事に気付いた!



「って!コンペイトウじゃねーーかぁぁーー!!!」


絶叫と共に何かがキレた!無論それは堪忍袋だが。

ちなみに、正しい日本語で正しいツッコミを入れる事が出来たのは、ダガンの驚きと怒り、その他の感情が、次元を超え言語を越え文化を超えた事による現象である。


何がニードルボムだっ!!何が時限式だぁぁ!!


何がホッコリするぜ、だぁぁぁぁ!!


オレは・・・オレは!!コンペイトウ相手にビビって伏せていたのかぁーー!


恥ずかしい!恥ずかしいぞぉ!!


許せねぇ!絶対に許せねぇ!!!


戦士をコケにしやがって!!


ダガンは怒りに任せコンペイトウをバキバキと握り潰した。


「ツッ!」


針で手を傷付けたらしい・・・


忌々しい奴!忌々しい奴ぅぅ!!


・・・さらにキレたようだった。


「ウォォォォ!!!」


言葉にならない感情が絶叫を呼び、洞窟内に響き渡った!


────


「じゃねーーかぁぁぁ・・・」

「ねーーかぁぁぁ・・・」

「かぁぁぁ・・・」

洞窟内に木霊する半魚人の雄叫びは、必死に駆けるボクに追いついた。


ふふ、怒ってる怒ってる。激おこ半魚人だネ。バカだね!ボクの必殺のコンペイトウ爆弾も満更じゃないね。


投げた本人は呑気なおバカさんなので、直撃させたと誤解しているらしい。まさか、コンペイトウ相手にビビって挙句、食べてほっこり、追憶に浸っていたとは、夢にも思わなかった。


まぁどちらでもヘンテコな結果には変わりないのであるが、どうやら次の行動も相手をおちょくる事に極振りしたような作戦のようだ。



ボクはペースを緩めることなく走りながらトゲトゲのコンペイトウを次々とたくさん生成した。


・・・コンペイトウ魔法の良いところは、魔力を全然消費しない事。戦闘向けじゃないからあまり意味は無いけど、疲れないから走るペースが落ちないね。


・・・ん?悪いところ?


食べ過ぎてデブになることくらいかな。まぁ、ボクはお腹、引っ込んでる方だよ。


今度の作戦は生成したコンペイトウをマキビシの様にたくさんばら撒くこと!


これは痛いよー。


もしかしたら転んで死んじゃうかもよ!


ひひひっ、と悪い顔をしながら笑うボクだけど、のんびり遊んでる場合じゃない。とにかくあそこまで走るしかない。


あそこまで行けばたぶん、パイルバンカーを決めるチャンスがある。


ボクがアイツと戦って見て、分かったことは一つだけ。アイツに近寄るなんて不可能なこと。それと、まともに対峙したら負けること。あっ、二つか・・・


・・・走らなきゃ!


────


一方こちらは怒涛の追撃をするダガン。

彼は推測する・・・きっとあの許されざるコンペイトウくそチビは外に逃げるに違いない。外に逃げれば助かると思っている、と。


バカな奴め!逃げ切れると思っているのか!

おまえなんぞ喰うにも値せん。

バラバラにして、汚い川にばらまいてやるわぁ!


・・・しかし、ダガンは怒りの渦巻く心中で、何故かふと、家族の事を思い出してしまう。家族は既に人間に殺されてしまったが、あの時間はダガンにとってかけがえのない瞬間だった。

とはいえ、人間に家族を殺されたとしても、それは仕方が無いことだとも思っている。何故なら弱い者は食われてしまう事がこの世の理と理解し、自分もまたその理の中で生きているのだから・・・



追撃と追憶の狭間の中・・・


「ツッ!」


ダガンはコンペイトウ踏んづけ、足に刺さった!


歴戦の猛者ダガンにとって、ダメージは微々たるものであったが、またしてもコンペイトウにしてやられた事が彼をさらにイラつかせた。


ダガンは咄嗟に三角飛びの様に壁を蹴り、その反動で壁から壁へ飛び移りながらトラップ地帯を進んだ。


・・・くそっ!忌々しいコンペイトウ使いめっ!


────


洞窟の先が少し開けているのをボクは見つけた。あれは分かれ道だ!近いぞ!


ボクは迷わず下水道の方を選択し走った。


・・・実はボクは一度ダンジョン内部へ逃げる事も考えた。たぶん半魚人はボクが下水道へ逃げると思っているから、裏をかいてダンジョンへ逃げるのも悪くないと思ったんだ。でもあそこはまだ分からないことが多すぎるし、もし他の魔獣にでも出くわせばたまったもんじゃあない。なのでその案は却下した。そして・・・


・・・さぁ、もうすぐだよ!あとちょっとで、くの字の通路だ!


────


あれからしばらくして、ダガンはトラップ地帯を抜け、彼もまた分かれ道に到着した。ダガンは忌々しいコンペイトウ使いが外へ脱出を図っていると見当していたが、念の為一度立ち止まり、忌々しいコンペイトウ使い手がどちらに行ったか思案した。


とは言え、足跡を注意深く観察すればどちらに行ったかは明白。

ダガンは下水道へ続く足跡をスグに見つけ、ニヤリと笑い、足を早め追跡を再開した!


もし、ダンジョンへ逃げられたら少々面倒であった。あそこは入り組んでいて、手強い魔獣もいる。もし三つ巴になったら獲物を取られるか逃げられていただろうに。


・・・愚か者めが!



どうやら地獄の鬼ごっこも終わりを迎える時が来たようだった。


────


「はぁ・はぁ・はぁ・・・着いたよ!」

ステータスが上がり持久力もついたとはいえ、流石に疲れた・・・


でも、ここからが本番だからね!


今ボクは、くの字を曲がったすぐ先の所にいる。

ここは死角になっているから半魚人からは見えない。だからここで待ち構え迎撃する。でも、ここで待ち構えるだけなら、たぶんぶっ飛ばされるのはボクだと思う。運が良くても相打ちかな。

だからボクはここに罠を張ることに決めた。もちろんコンペイトウでね。でもチャンスは一度しかない。そして、失敗すれば殺される。


・・・だから、本当は怖いよ。


・・・でもボクは、心が折れそうな時、力と知恵をもたらす偉大な言葉を知っている。


それは・・・


「アロンゾッ!!」


ボクはそっと、でも力強く唱えた。


さぁ、行くよ! 次はボクのターンだ!

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