15 ボクとダガンと・・・
ドロシーが授けた白波の腕輪。
白波の様なデザインと細かな星々が描かれており、クロノグラフの様な2つの針が特徴的な腕輪。と言っても腕輪にしては大きく、手首から肘の方にまであり、籠手に近いデザインであった。
その性能は相手の攻撃を吸収、弾き返すシールドモードと一撃必殺のパイルバンカーモードがある。
基本戦術はシールドで攻撃吸収、又は弾き返して相手の隙を作り、吸収したエネルギーをパイルバンカーに上乗せして放つ。
もっとも、シールドの性能にも限界値があり、全てをガード出来るわけでもなく、使い手の魔力値にも依存する。さらにパイルバンカーは、使い手の身体能力を越えたエネルギーを上乗せした場合は、その反動は使い手にも及ぶ・・・
格闘スキルを持つ者には大変重宝する逸品とされるであろうと推測できる、ドロシー特製魔導兵器であった。
ドロシーは数々の魔導兵器を所有している。その種類は大変豊富で使い勝手の良い魔導銃や魔導セーバーから、魔導グレネード、魔導ミサイルポッドまである。
そして、魔導兵器の特徴は幾つかある。
一 腕輪やネックレスなどキーホルダーの様な装飾品の形をなして、エーテル結晶が必ずある。結晶に魔力を込めると予めプログラムされた形に変形する。
二 威力は魔導兵器の性能と使い手の魔力値に依存する。性能の良い魔導兵器はそれだけで魔力の消費も大きくなり、レベルに合わない兵器はそもそも、発動しない。
ソード系は基本性能と使い手の魔力値、得意属性によって、同じ兵器でも形状変化や属性変化
が可能となる。
三 弾丸は弾倉に仕込まれている魔方陣に魔力を通して生成する。使い手の魔力値により、威力や残数が変化する。
例えば、魔力値も低くコンペイトウしか生成出来ない、そんなありえない使い手の場合、銃やソードを使った所で格下相手には対抗出来ても、同格ならジリ貧、格上なら全く歯が立たない。
故に、ドロシーは白波の腕輪を授けた。
吸収能力を使えば、例え格上に対しても必殺の一撃が与えられる可能性があるからである。無論、使い手の格闘センスや運にも左右されるため、決して有利ではなく、むしろ最後の手段・・・やけくそに近い選択であったのだが。
とはいえ、おバカさんから戦士に格上げされたボクはそんな事は知るよしもなかった。
────
「うわわわぁ!!」
洞窟内に響くバカでかい叫びと共に、ボクはシールドを構え、半魚人に突撃した。
戦略もクソもない。戦闘はもちろん、ケンカもまともにした事をないボクがパイルバンカーを当てるにはとにかく近づくしかなかった。
無謀なのは分かってる。・・・でも他に何が出来るの?何かあるかもしれないけど・・・
ボクにそんなの分かるわけないだろ!!
一方、ダガンは突撃して来る相手を見て、やはり未熟さを感じせずにはいられなかった。
だいいち、ドタドタと走ってくる相手はあくびが出るほど遅く隙だらけであった。だがしかし、あのシールドだけは油断出来る代物では無いとしっかり認識していた。
なので・・・
ダガンは迎え撃つべく水弾を放った。当然殺意を込めて・・・
「プシュッ!」
───
半魚人の口が膨らみ水弾が飛んで来た!それでも、ボクは腕輪を信じて足を止めない。
ドンッ!
正確にボクの顔面を狙ってきた水弾は、軽い衝撃と共にシールドに吸収された。
それがどうしたぁ!このままぶつかってやる!
「うりゃゃー!」
─── ダガンにとって牽制で放った水弾がガードされる事は想定内。上半身を防御させる事によって下半身を狙う作戦だったのだから。
下半身の隙を確認しニヤリと笑うと、ぶつかる直前にめっいぱいしゃがみ、水面蹴りをお見舞した!
「クラエッ!!」
───
ボクと半魚人の距離が縮まり、ぶつかる瞬間・・・半魚人が消えた!
あれ・・・
虚をつかれたボクはガクッとバランスを崩した、刹那!足に重い衝撃を受け、その場でゴチンと転んだ。
「あいた!」
何が起きたか全く分からない。でも、すごく痛い。一瞬呼吸が止まり、地面に肩と頭を打ち付けた。頭からドロリと血が流れる。
ボクの作戦としては気合いと共に勢いよくぶつかり、弾き飛ばすことだった。あわよくばパイルバンカーをお見舞いする隙が出来るかもしれないからね。
でも、現実はそう甘くなかった・・・
追撃と言わんばかりにダガンは相手のダウンに合わせて、今度は体重を乗せた渾身の蹴りを放った!
バッギーーン!
ボクは弧を描きながら5メートルくらい吹っ飛び、通路側の壁に当たった。
ドンッ!
「うえっ・・・」
・・・痛いよぅ。苦しいよぅ・・・
ジャージはズタズタになり下着が見えちゃうけどそれどころじゃない。身体中打撲と擦り傷まみれ。頭から血が流れ髪がベトベトする。呼吸もまともに出来ない。
うぅ・・・
やっぱり駄目だったみたい・・・
でもね、怖くないよ。痛いしフラフラするけどなぜか落ち着いているんだ。まだやれる!
ボクはニワトリさんを思い出す。
最後の最後まで抵抗してやる!
ボクはポケットの中のポーションを何とか取り出し、口を付けた・・・
「チッ!」
ダガンは舌打ちを打った。殺すつもりで放った蹴りはシールドを掠っていた。シールドは大きく、半透明色をしているので見にくい。故にどうしても間合いがズレる。そのため威力は削がれ、見かけほどダメージを受けていないことは経験から察知していた。
このまま正面からシールドが壊れるまで叩きつけるのも十分にやり甲斐があるが、その間にどんな隠し技を使ってくるか分からない。敵からそんな不気味さも感じていた。
何故なら、戦闘経験がまるで無さそうなのに、燃える闘志。それに身に付けている逸品物の装備品。恐らく攻撃手段も何かあるに違いない。
それは、ダガンの推測は当たっていた・・・
敵がゴソゴソ動くのを見て間合いを取り仕切り直した。手負いの相手に決して油断しない慎重さも歴戦の猛者故だった。
─── ドロシーから授けられたポーション 。実はこれポーションではなくエリクサーであった。効果は万病を癒しHP、MPを全快させ、さらにステータスも若干上昇させる伝説級の薬であった。売れば末代まで遊んで暮らせる程の価値がある。
ドロシーはなけなしの3本を用意したが、おバカさんはここ数日の筋トレによる筋肉痛のために、風呂上がりに冷蔵庫から取り出し、腰に手を当てキュイっと1本!一気飲みした事は誰も知らない・・・
────
「うりゃゃゃ!!!」
よしっ!!
ポーション(エリクサー)のおかげで傷が治り体力と気力も回復したボクは気合いを入れ直した!
復活したボクは立ち上がり半魚人を再度睨みつけた。
とことんやってやるからな!覚悟しとけよ半魚人!
ボクには必殺のパイルバンカーがある!それさえ当てれば勝てる、と信じる!
あとは!
・・・コンペイトウ魔法か・・・
嫌いじゃないんだけどね・・・・
ただね、結局はコンペイトウでしょ?多少硬くしたり大きくしたりしてもね。
そりゃ、初見はびっくりはするけど、よく見ればそれがどうした?ってなるもんねぇ・・・
「あっ!」
コンペイトウ魔法・・・
ボクが初めてそれを見た時びっくりした記憶を思い出し、あるアイディアが突然生まれた。
そうだね!アレをやろう!そしたら半魚人もびっくりすると思うよ。ボクだって最初びっくりしたからね!
そうと分かれば、作戦は決まったよ!あとはタイミングを作らなきゃね!
さぁ、反撃開始だよ!
───
闘志を燃やし再び立ち上がった戦士が、こちらを睨みつけてくるのを確認しダガンは思った。
・・・やはり奥の手があるようだな。面白い。何をするか分からんが、受けてやろうではないかっ!
「せんしヨ、コイッ!!」
ダガンはまるでボクの気合いに呼応するかのように叫び、両拳を激突させ、再び構えをとった。
────
よーし、行ってやろうじゃないか!
ボクはそう思いながら、右手にトゲトゲのコンペイトウを生成した。
それは瞬く間にソフトボール位のサイズになり、トゲは鋭く、何者も拒むかような鋭さをは秘めていた。
「えいっ!」
ボクは半魚人に作るやいなや気合いと共におもいっきり投げつけた!
────
む!何か飛んでくる!
ダガンは一瞬構えたが、コンペイトウの軌道はゆっくりと大きく山なりを描き、惜しくもダガンには届かなかった・・・
そしてポトンと落ち、コロコロとダガンの足元に転がった。
一瞬ハテナ?と思ったダガンであるが、この土壇場のありえない程の緊張感が大変大きな誤解を生んでしまった!!
「・・・なっ!」
まっ!まさか、スティンガーボム!デカいぞ!
あんなものを隠し持っていたとは、やはり侮れん!
歴戦の猛者の致命的な誤解は無理もない事である。破格の性能のシールド、怪我を一瞬で癒す薬。実力はともかく、装備品は一級品ばかりだ。
スティンガーボムの1つや2つ持っていても何らおかしな話ではない。
この場でコンペイトウを投げつける奴なんて誰が想像できるか・・・
スティンガーボム ────それは、爆発と同時に針と火炎を撒き散らす、テニスボールサイズの手榴弾型の魔導兵器。
ダガンの弱点でもある、火属性に加え針と爆風を受ければタダでは済まない。
ダガンはすぐさま大きく後ろへ飛び、地面に伏せ、回避行動に走った
ヤバいぞ、時限式かリモコン操作か!?
とにかく、カウントだ!
1・・2・・3・・
4・・5・・6・・
7・・・・
・・・・・?
不発か!?
コンペイトウを相手に伏せるとは、一見すると間抜けに見えるかもしれないが、不発弾ほど危険なものは無い。不用意に近寄って、まともに食らったらシャレにならないのだから。
まぁ、不発弾ではないのだが・・・
一方その頃・・・・
え?ボク?
とっくに逃げたよ。
びっくりした?