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13 ボクとダガン


ハサギンの戦士ダガン。魚人である彼は全長2メートルを超え、頭部にモヒカンのようなヒレを生やし、獰猛な目と大きな口と牙。長い腕の先にある手には水かきと鋭い爪。ヌラヌラと湿った深緑の鱗に覆われた身体はたくましく、並の斬撃では全く歯が立たない。

その鋭い爪で獲物をズタズタに切り裂き、牙でバリバリ骨ごと齧り尽くすことが彼の食事方法であり、その獲物には当然人間も含まれる。


ハサギンは水棲魔獣としてはそれ程珍しくはないのだが彼は別格。あまたの強敵を倒しレベルを上げ、今やネームド魔獣として、冒険者の間では有名な存在だった。


当然、パンツを濡らしてイヤだな・・っとか

言ってる奴がかなう相手ではない。

ちなみに弱点は火属性であるが、その事は本人も熟知している。実はコンペイトウも弱点!なんてことはなく、そんなものははっきり言ってどうでもいい。


そんな彼、ダガンはイラついていた。彼の住処

に突如、薄汚い下水が流れ出し、ゴミが溢れ住めなくなってしまった。顔に似合わず人間より綺麗好きなのである。仕方がなく滝のそばを新しい住処と定め落ち着いた頃に怒りが再び込み上げてきた。


そして怒り狂ったダガンは洞窟を抜け、下水道見つけ出し、同期された地球へやって来てしまった。そして橋の下に辿り着き、たまたま橋を通りかかった地球人の少女を攫い・・・










・・・・喰っている最中であった。




口の周りを血で濡らし、腹に顔を突っ込み内蔵を夢中で喰らっている最中に突然何かがどんっ!とぶつかった。


ダガンもまた、滝の轟音と食事で油断しきっていたのだった。




こうして、パンツを濡らしてイヤだな・・とか言ってる奴と、怒り狂って内蔵を貪り喰ってる奴が、互いの油断の末に遭遇してしまった!



────


ボクはうっかり、どんっ!と何かにぶつかり、いつものクセで謝ってしまった。


ビチャッと変な液体が鼻先についてちょっと気持ち悪かったけど、見上げたら・・・ご存知の通り魔獣だったのだ・・・





「うんみゃーーーーー!みゃみゃみゃのみゃーー!!!」


絶叫を上げボクは後ずさりした。


ダガンもまた、その声に驚き、振り向きもせずに一足飛びて前に飛び出て距離を取り、臨戦態勢に入った。


それから振り返り相手を確認すれば、先程の獲物より臭くて不味そうだか、怒りをぶつけるにはちょうど良く、イジメ甲斐のあるちんちくりんがいた。


ダガンは残忍に笑い、死体を放り出してから、手をバキバキと鳴らした。


そして、挨拶がわりと言わんばかりに、口を一気に膨らませ・・・水弾をはなった!


「ピュッ!」


高速で放たれた水弾は岩をも穿つ!


────


その時ボクはとにかく怖くて無意識のうちにシールドを構えていた。


・・・そしてそれが生死を分けたんだ。


シールドにパシュッ!と当たる水弾の振動に、ボクはいきなりの即死攻撃を、たまたま偶然に防いだと同時に水弾はシールドに吸い込まれ腕輪の力に還元された。


・・・・え?何いまの?


ちょっ!ちょっと待ってよ!こんなの聞いてないよ! 何だよアイツ!・・・え?あいつ?


・・・え、魚?・・・え、半魚人?


ヤバいヤバいヤバい!絶対ヤバいよ!


顎がガクガクし、ブルブル震えながら、反射的的に後ろに下がったが壁にぶつかってしまった。


ダガンはその隙を見逃さず、一気に距離を詰め、鋭い爪で切り裂いた!


「・・・ひぃ!」

ボクの情けない声と共に思わずシールドを構えた。


バッッキーーーン!!


ダガンの渾身の攻撃はシールドに阻まれ弾き飛ばされて、力も吸収されてしまった。


ダガンは弾き飛ばされる勢いを利用し距離を取り、相手の出方を観察し始めた。とりわけあのシールド。半透明で大きく、しかも重さもほとんど感じられないシールド。それでいて衝撃を吸収し一部を弾き返すそれは歴戦の猛者である彼にとっても厄介極まりないものであった。


だとしても十分に攻略可能である事は言うまでもない。単なる獲物と思っていたが、どうやら相手は戦士らしい。そうダガンは認識を改めた。


────


ボクは腕輪に護られ全くダメージは無いけれど、信じられないくらいの殺意を浴びせられ、気力がごっそり削り取られ、生まれて初めて殺される恐怖を味わった。


心音と呼吸が乱れ、恐怖に支配されるボクの心。それでも、戦闘は始まってしまったんだ!いつまでもパニクってはいられない。冷静さ取り戻さなきゃ!


・・・とりあえず距離を詰めないとパイルバンカーは当てられない。相手の方が素早しリーチも長い。それに経験も豊富そうで油断がない事はすぐにわかった。


・・・まずいぞ。このままではジリ貧だよ。


ボク位置を変え洞窟の通路側へ少しずつ後ずさった。


その時偶然、視界に入ってしまった。








・・・バラバラになった少女の身体、絶望に歪み、無気力に虚空を見つめる眼差し・・・


ボクは初めて遺体を見た。それも無残に引き裂かれた少女の遺体・・・


・・・ああ、なんて事を・・・


酷いよ・・・酷すぎるよ・・・


全く酷い現実だ・・・


ボクはブルブルと震え、涙がぽろぽろ流れた。


・・・でもね、怖いからじゃないよ!





これは、怒りだ!!



「おまえ!何やってんだよ!」


ボクはビシっと人差し指を突き出し、怒りに任せ怒鳴ってやった!


───


ダガンは、意外にも鋭い威圧を受け少々戸惑った。

だがしかし、実際に怒りたいのはこちらの方だ!!

勝手に下水を流しゴミを放り込こみやがって。勝手に住処に入り込みやがって。


何やってるだと!?お前らこそ何様だ!


ダガンは、思わず全く検討外れで勝手な言い分を喚き散らす人間に対し怒りが込み上げ叫んだ!


「オマエラコソナンダ!!キタナイミズ、ナガシヤガッテ!!」



────



・・・えっ!コイツ話せるの?


ボクはとにかく怒りに任せて怒鳴ったけど、日本語で反応され逆に面を食らった。


「・・・おまえ、話せるのか?」


「アタリマエダ!ワレハ、ねーむどマジュウ。アマタノ、キョウテキヲタオシ、マナニエラバレシモノダ!」


ネームド魔獣?

・・・よく分からないけど特別らしい。


「な・・なぜ弱い人を襲う!?」


面を食らってしまったが、ここで引き下がってはいられない。ボクは心が折られまいと必死に言葉を発した。


しかし、それに対し半魚人はしごく真っ当な正論で返してきた!


「クウタメニキマッテルダロ!ソレニ、キタナイミズ、ナガシタノハ、オマエラダ!」


「うっ・・・」


全くその通りでボクが困惑して言葉に詰まっていると、半魚人はさらに畳み込んできた!


「オマエラ、クウタメニ、コロサナイノカ!?シッテルゾ!オマエラ、ワレヨリ、ザンコクニコロス!」



あっ・・・そうだね・・・


・・・言われてみればそうだよね。ボク達は食べるために効率的に無慈悲に、機械のように生き物を殺す。しかもそれを汚い物のように隠し、考えない様にする。そんな事みんな知ってる・・・


・・・そうだね、ボク達は汚いね。


・・・何だか悔しいけど、こいつの言ってることは正しいね・・・

残酷な奴だけど、それに向き合いもしないボク達は残酷で卑怯だ・・・


この半魚人は単に生きたいだけなんだ。そして人間のせいで怒ってるんだ。


・・・ボクは人殺しのこいつを理解してしまった。


・・・そうだよね、勧善懲悪なんてないよね。


ボクはふいにどうしようも無い脱力感を感じた・・・


悪いのはボク達人間だった・・・・・・


正義の味方気取って乗り込んだらボクの方が悪役だったなんてね・・・



あはっ・・・なんかバカみたい・・・もう辛いよ。滑稽だよ。恥ずかしいよ。泣いたり怒ったりしてさ。


あーあ、結構ボクなりに頑張ったんだけどなー。

珍しく頑張ったんだよ!

でも全部的外れの検討外れの空回り。



頭の中で、今まで頑張ってきた事やボクなりの熱い思いがまるで滑稽なピエロのようにピーヒャラ笛を吹きヒラヒラと踊り狂った。


・・・恥ずかしい。


ついにボクはヘラヘラっと笑い、足から崩れ落ちるように座り込んでしまった・・・・


誰か何とかしてよ・・・・タスケテ・・・


涙が止まらない・・・








もうやーめた!・・・疲れた。

終わり、めでたしめでたし。バイバイ!!









ねぇ・・・・















「殺して・・・・」


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