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12 ボクと魔獣 ─こんにちわ─


買い物を済ませたボクは自宅に戻り、夜まで待った。待ってる間に食事を済ませたが、緊張してあまり食べられなかった。


どうしよう、凄くドキドキする。おばあちゃんが言うにはそれ程強くないって言ってるけど、ボクもそれに負けないくらい弱いぞ。


・・・とにかく、作戦はこうだ。こっそり近づき、パイルバンカーでぶっ飛ばす。それで、自転車・・・クロスバイクね、フレームが白でホイールが赤なんだ。で、すぐ逃げる。


ただそれだけ。


もう、生き物を殺すのは可哀想だとか言ってられないね。そんな余裕ないや。


選択肢は強くなってからじゃないと無いんだと思った。


────


そんな事を思いながら過ごしていると、お外はすっかり暗くなり、いよいよ初陣の時が来た!


「いってきまーす」


・・・まぁ、部屋にはコンペイトウの残骸とご利益のあるツボくらいしかいないけどね。だとしても、そう言わないと戻って来れないって本で読んだことがある。



外の空気は澄んでいるけど寒くて暗い。しんと静まり返った住宅地には人の通りは全くなく、ボクだけ一人ぼっちになったような感覚に襲われる。所々の家には明かりが灯っているので、それを見て孤独感を紛らわしていると、やっぱり寂しくて安心を求めているんだなって思う。


仕方がない。行くか。


────


遠くの方から僅かに聞こえる車や鉄道を走る電車の音、人々のざわつきが、自転車のリズムよくシャカシャカと鳴らす音と混ざる。ボクは白い息は吐きながらぼんやりとそれの音を聴き自転車を走らせた。


そうして橋に着いたボクは辺りを見回したけど、やっぱり人は誰もいない。薄暗く光る街灯と少し臭い川、チョロチョロと流れる川の音だけがあった。


橋の下にどうやって降りようか考えてたら、思い出したよ。少し先に下に降りれる階段があるんだ。工事の時に使う階段が所々に設置されてるんだ。


ボクは階段の近くに自転車を止め、柵を越えて下に降りた。


川底は草がボウボウに生えていて、何故か木々も根付いて、ちょっとした湿原みたい。それでいて、洪水の時は木々もすっかり水没するけど、あくる朝には何事もなかったようにピンと立っている。まぁゴミとか絡まってるけど。ドブ川の底は生命のたくましさを感じさせられるスゴい場所だ。


ボクはそんな都会のジャングルのようなドブ川をテクテク歩いた。幸いにして壁沿いを歩けば足場はあまり良くないけど、湿地を掻き分けたり、濡れる事は無かった。

それにしてもブーツで来て正解だったね。実は長靴かブーツで迷ったんだけど、いざという時に走れるようにブーツにしたんだ。まぁ、その内濡れそうだけど。


・・・しかし臭いな。


程なくして、ボクは橋の下へ戻ってきた。


よし!作戦決行!


まずは草場に隠れる!


ボクは背があまり高くないから草場にしゃがみ込めばあっさり姿を消すことが出来る!


さっ!


ヒヤッ!


・・・おしりが少し濡れた。


くっ!いきなりダメージを食らうとは!しかも臭い属性だ。って、何やってんだか・・・


何だかとたんに全てが嫌な気分になったよ。


・・・もう帰ろっかなぁ。


こーゆー些細なことで挫けそうになるんだよな。


まぁ、しょうがないから、頑張ってよく観察してみよう。


橋の下をよく見ると、黒いモヤモヤが相当溜まっているけど魔獣の気配はなかった。その変わり下水道の支流に続くトンネルがポッカリ空いているのをボクは見つけた。


トンネルは大人数人が十分に歩けるくらいの大きさで奥まで続いており、排水がチョロチョロ流れ出ていた。


何だか完全に誘われている気がするよ。まっ、行くしかないよね・・・


ボクはトンネルに近づきそっとのぞき込んだが、真っ暗で何も見えなかった。今度は懐中電灯を点灯し照らして見た。

本当は暗闇でも見えるスコープが欲しかったんだけどね。どこに売っているのか分からなかったから諦めたよ・・・


な~んて思いながら意を決してボクはトンネルに足を踏み入れた。


────


・・・入ってすぐ、ボクは白波の腕輪のシールドを起動した。クモの巣とか、変なツルが伸びてるからね。それに首スジにピトッてなると絶叫してしまい隠密作戦にならないし。それにシールドは大きく、ボクの頭から膝くらいまですっぽり隠せるから、安心感がある。


実はここ数日、腕輪の起動とパイルバンカーへの変形も練習して、結構早く出来るようになったんだ。たぶんもっと練習すればほとんど隙なく変形出来ると思うよ。



ピチャピチャと音を立てながら一歩づつ確認しながら進む。ブーツはまだ濡れてないけどおしりの不快感が凄くイヤ。あと臭い。


あーあ・・・臭いのせいで急にトイレで気絶した事を思い出したよ。・・・何だかナギサをパイルバンカーでぶっ飛ばしたくなってきたな。


そんな事考えていると、何だか闘志が湧いてきたぞ!!



それからしばらく歩くと下水道は、くの字に曲がっていた。

ボクは先が死角になって見えないから、一旦立ち止まり、さっ!と素早く後ろを振り向いた。


こういう時いきなり後ろからこんにちわ!の展開があるからね。


・・・が特に後ろには何も無かった。お外の光がぼんやりと入口を光らせていただけだった。


それでもボクは安心することなく、今度は素早く正面を向いた!さっ!とね。


実は正面でした!のオチもあるからね。


・・・もちろん正面にも特に何も無かった。


ちなみに、実は上でした!を警戒したけど何も無かったよ・・・


・・・誰もいないのに1人でキョロキョロとコントを繰り広げていると、少し悲しくなってきた。でもでも油断大敵だから、コレでいいのだと思うよ。普通みんなやるよね!?



さて、気を取り直してボクは懐中電灯で、くの字の先を照らしひょっこり首を出しながら、確認したけど、やはり何も無い。というかずっと奥まで続いており光が届かないぞ。何か不自然だ。


でもまぁ、ここにいてもどうにもならないので、とりあえず先に進むことにした。


────


・・・それからしばらく歩くと、だんだん慣れてきたせいかシールドを構えるのも忘れトコトコ歩いていた。トコトコ・・・



・・・え?トコトコだと?



ピチャピチャじゃない!


それに、下水の臭さもほとんどない!ってゆうか、臭い。ボクが!




・・・・なんて事だ!


辺りを見回したらいつの間にかダンジョンになってるじゃないか!


周囲の壁はコンクリート特有の平らで滑らかな特徴は姿を変え、ゴツゴツした岩肌になっていた。それに、ダンジョンを構成する岩盤に光を放つ鉱石でも混じっているのか、目が慣れれば懐中電灯なしでもある程度は視野の確保もできる。


ボクは立ち止まり一旦懐中電灯を消して警戒体制に入った!


と言っても、おしり丸出しで頭だけ岩陰に隠して、ビクビクしてるだけなんだけど・・・


怖よぅ・・・


別に情けなくないよ。こんなの誰だっては怖いと思うよ!


どうしよう・・・とにかく落ち着かなちゃ!


ボクはガタガタ震える手のひらに素早くコンペイトウを生成させ、一つ食べた。


・・・甘いね。ふふっ・・ほっこりする・・・


ってなにやってんだ!ボクは!


落ち着こうにも、既にどうにもならない程パニクっているボクは、一人でボケて突っ込みを入れるという、緊張感があるんだか無いんだかよく分からない状態異常にかかってしまった。

それでも、一人漫才を繰り返しているうちにだんだん落ち着いてきた。


はぁはぁ、疲れた・・・さすがにもうネタが追いつかないや。って!そうじゃないだろ!


・・・今ので最後ね。


えーとだな、まず次元の裂け目を通った覚えはない。これは分かる。裂け目があるならお空から地面まで亀裂があると思うので、外で見ればすぐ分かるからね。



そうなると・・・たぶん同期・・・


そう思って改めて洞窟をよく見たら、岩盤には多少のコンクリートも混ざっていた。今ボクが立っているこの場所はボク達の世界と異世界のちょうど中間だった。



よし!そうと分かれば、帰るか!


だって、当初の話は黒いモヤモヤが弱めの魔獣を生み出すからそれを相手にする作戦じゃん?


でも、いきなりダンジョンにご招待なんて、話が違うじゃん?たぶんヤバいのいるよ。


とりあえず、パイルバンカーで出入口ぶっ壊しておこう・・・


それでめでたしめでたし!




・・・・にはならんか。



行方不明の子も気になるしね。


やはり行くしかないのな。


残念だな。


仕方ないな。


困ったな。


やっぱり行く?


・・・ボクはしぶしぶ先に進んだ。


────


ダンジョンの岩盤に混じっていたコンクリートはいつの間にか無く、今では完全な岩肌に変わっていた。そしてしばらく進むと道は二手に別れていた。


「うん、お約束だね」


こんな時は左に行くのが正解なのさ。

そう言って僕は自信がたっぷりに右に進んだ。


あれ?なんでかって??


ボクが左って思うと大抵右が正解になるからね。

ボクの勘はだいたい外れるから、それを利用したのさ!


右の道を選んだボクはどんどん先に進んだ。

ダンジョンの通路は奥に進むにつれて広くなっていき、今では天井も相当高い。狭いながらもいくつか横穴も見かけ、入ったら迷いそうになる。

やがて、岩盤には鍾乳石がにょきにょきと生ええ始め、また、滝のように垂れ下がり、オマケに巨大な石柱が立つ地帯に突入した。地面の窪みには地下水が溜まっており、碧く神秘的な輝きを放っている。


辿り着いたここは既に通路では無くオーケストラでも出来そうな広場となっていた!


「ほらね!大正解だ。」


ボクはどうやら大洞穴にぶち当たったようだ。


「それにしても凄いな!こーゆーのテレビでしか見た事ないな」


と、ボクは思ったが声にも出てた。


ちなみに、ここまでは入口から大体1時間くらい。これ以上の深入りは確実に迷うね。自信がある。それにジャージで乗り込むには場違いだ。


この先は装備を整えなければ踏み入れては危険と判断したボクは、一度別れ道に戻って、左側を進んで見る事にした。


それにしても、魔獣がの気配が全然ないね。せいぜいコウモリとか、水たまりの変な魚、あと虫しかいないね。慣れてしまえば中々いいネ。夏とかに来たらいい避暑地になる。まぁ下水道通らなきゃだけど・・・


─────


そんなわけで、ボクは来た道を慣れた足取りでしばらく歩き別れ道に戻ってきた。それでは左に行きましょうか。


左の道も右と同じくコンクリートと岩が混ざったような地形だったけど、やがて、岩肌になり、完全な洞窟になった。


こちらの道は大洞穴にぶち当たることなく、平坦な通路が続いていた。

特に変化が無いんだけど、あえて付け加えるならだんだん下っているようで、帰りが登りでちょっと嫌だなという程度だった。


程なく歩くと、やがて遠くからかすかにごうごうと音が聞こえるようになってきた。

地下水脈が近くにあるのかな?


「下水じゃなきゃいいんだけどナ」


臭いのにやたらと縁のあるボクはそう呟かずにはいられない。


全く誰のせいだ・・・


それにしても、まともな音を聞いたのは久しぶりだ。ずっと暗い洞窟をトコトコ歩いていただけだったので、ようやく何か目的のようなものを見つけることが出来きて少し安心した。




・・・・だからボクはすっかり油断し切って観光気分ですたすた歩いていて・・・

いつの間に最悪が近づいていることに全く気づかなかった!



どうやら本当の正解はこっちをだった事をボクはまもなくに知ることになる・・・


まさに油断大敵とはこの事だ!


でも、ズルいよね。ずっと油断してなかったのに。ちょっとぼんやりしただけで、すぐ油断認定されるなんてね!


────


ごうごうとした音は次第に強くなっていき、もはや爆音に近かった。

川か滝が近くにあることを確信し、ワクワク感が先走っていたボクは足早に最後の角を曲がり・・・・


どんっ!!


何かに鼻をぶつけちゃった。


「あっ、すみません」


反射的にいつものように謝り、上目遣いで見あげたら・・!!








なんと、魔獣だった!



こうしてボクは初めて魔獣と対峙するのであった・・・

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