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11 ボクと穂積


それから二人はそれぞれの想いを抱き、スチームの漂う部屋に戻り、椅子向かい合って腰掛けた。


ボクはコンペイトウ生成し、一つ食べた。


「ホッコリするね・・・」


白波の腕輪はボクに戦う力を貸してくれる。コンペイトウ魔法はボクの心を癒してくれる。この二つの力を持って戦えって事なんだよね。それが、生きるって事なんだね。うん。分かってきた。


「おばあちゃん、ボク、大丈夫だよ。何だかニワトリさん食べたくなっちゃたよ」


おばあちゃんは一度、ボクを見た後に鳥肉シチューを準備しお皿に移してくれた。


鳥肉の旨みと野菜の甘み、スパイスのいい香りがするシチュー。これは間違いなくうまい!


「これと一緒に食べなさい」


そう言ってパンも用意してくれた。


「では頂くとしようかのぅ。お前さんの初の獲物じゃよ」


「そうだよね!いただきます!」


ボクは祈るように手を合わせた。


────


シチューはとても美味しかった。肉はスーパーで買ったそれと違って新鮮でしっかり旨味がある。スパイスもピリッときいていて、それでいて甘みがあった。


パンでお皿までキレイにし、口の周りにシチューを付けたボクを見ておばあちゃん感心したように言った。


「お前さん、中々の食べっぷりじゃ。その分なら大丈夫じゃの」


「初の獲物だからね。全部キレイに食べないと、ニワトリさんに失礼だよ」


「そうじゃな」


ドロシーはそう言って、機械の手をカタカタ動かしながらそう言った。



すっかり食べ終わり、ボクはゆっくりお茶を飲みながらコンペイトウをつまんだ。部屋の中は、パイプオルガンがプシューっと弱めの音を立て、食洗機のスプリンクラーを回していた。


あのパイプオルガンは全部の動力なんだ。よく見ると何にでも繋がっている。

それにこの部屋は常に何かの音がする。それでも気に障ることなく、どこか遠くから見守られている気がして、心地よい。


・・・そういえば、あの目玉も何か動力があるのかな・・・同じ機械だよね。


「・・・ねえ、おばあちゃん。あの目玉はどうやったら止められるの?」


ボクは頬に手をつき、片方の手でコンペイトウを転がしたまま聞いてみた。


それに対し、おばあちゃんはお茶をゆっくり飲んだ後に一息入れてから教えてくれた。


「・・・あの目玉はな、マナをお前さんの世界に送る装着じゃ。本体はワシらの世界にある・・・そして、受信機がお前さんの世界にあるはずじゃ。・・・それを破壊する事は出来る」


「じゃあ。それにパイルバンカーお見舞いすればいいのね」


「・・・そうは簡単に行かん。まずはどこにあるか分からん。それに、恐らくガーディアンがおる」


「ガーディアン?」


「そうじゃ、要するに装置を護る魔導ロボットじゃ。お前さんでは到底勝てん」


まぁそうだよね・・・


「ますば、もっと強くならなくちゃね。」


「そうじゃな・・・幸い目玉の運転には膨大なマナを必要とするからの。それにまだ試運転の段階のはずじゃ。そのうち休止状態に入るじゃろう」


「休止?そう言えばさっきもそんな事言ってたよね」


「うむ、時空に穴を空けてマナを注入する装置じゃ、連続運転なんてとても出来んわい。だからその時が勝負じゃ。淀みから生まれる魔獣を倒し、経験を積みなされ」


魔獣を倒してレベルアップね。そして、マナに還すと信じられている行為。


「それまでに強くならなきゃね。それにしても敵か・・・誰が装置を動かしてるの?」



「・・・うーむ、それを知るにはワシらの世界の歴史を知る必要がある。今はまだどうにもならん。今は戦いに慣れるのが先決じゃ」


どうやら、事は複雑らしい。きっとナギサやミナモも関係してくるのかなぁ。


とにかく力を示さないと話も聞いてくれないのかな。ボクがどうしたいかを願う前に・・・


今は、目玉が休止状態に入るのを待つしかなさそうだね。それから生まれる魔獣と戦いながら、受信機の捜索かな・・・


よし!方向性は見えた。


「おばあちゃん、ボク、やれるだけ頑張ってみる!」


ボクは立ち上がり先へ進む決心をした。そろそろ行こう!


「うむ、ワシからも出来るだけ手助けしよう。何かあったらいつでも訪ねてくるがよい。それと、これは土産じゃ」


おばあちゃんから試験管をいくつか受け取り、中を見ると赤い液体が入っていた。


「なーにこれ?」


「怪我したら飲みなさい。お前さん、回復魔法も使えんからの」


あっ、きっとポーションだ!


「ありがとうおばあちゃん!じゃあボク行ってくるからね!」


────


こうして、ボクは時空の裂けめをくぐり、おばあちゃんの家を後にした。


雑居ビルを降りて外に出た時にはすっかり暗くなっていた。

ボクは目玉をチラリと確認して、それから白波の腕輪を見た。


いつかあの目玉と対峙する時が来るかもしれない。そう思いながら、ボクは足早に自宅へ帰った。



──────


・・・数日後



ボクは惰眠を貪るのを我慢して、ベットから起きた。


ん?決意とは裏腹に随分のんびりしてるって?


実はね、ここ数日は目玉が監視しているから迂闊に動けなかったんだよ。だから、お昼寝したり、コツコツ勉強したり筋トレして、ちょっとでもステータスあげる努力してたんだ。でもやっぱり昨日の今日ではあまり変化はないね。


でもね今日は違うんだ。


何と!目玉が無くなっていたんだ!今朝辺りから急に変なプレッシャーが消えていたんだ。不思議に思って窓を開けると、目玉の代わりに大きな歯車がマンホールの蓋のようにかぶさっており、ゆっくりと回転していた。


・・・とは言え。


バイトに行かなきゃ!


ボクは倉庫で軽作業のバイトしてる。自由出勤だし、時給も悪くない。体動かすの好きだしね。

たとえ、世界のピンチであっても、日常は変わらない。いっそ異世界転生でも出来れば話は早いんだけどね。現実はそうは行かない。

だから、バイトも疎かに出来ないんだ。


バイト先の倉庫内はとても広くベルトコンベヤーがいくつもあり、荷物がひっきりなしに運ばれてくる。それを捕まえては大きなカゴにどんどん詰めていくという単純なもの。


「せんぱーい、あの噂知ってます~?」


ボクがせっせと荷物を運んでいると、声が聞こえた。チラッと見ると、そこには両手をポケット突っ込んだ男がボサっと立っていた。


・・・なんだ、穂積か。


コイツは穂積。いつもボクをからかったり嘘ばっかり着く同僚。話題はいつもウソかパチンコ。


無視してもずっとペラペラ話す奴だ。


「何だそれは?お前が残念な噂か?手、動かせよ。」


「違いますよ~、近くの中学校の生徒、行方不明なんですって~」


穂積はいつも眠そうな目をしながらダラダラ話す。身長が高く、まぁまぁのイケメンで意外としっかりしてるんだが、なんか勿体ないよな。


「それは悲しい話だナ、サッサと仕事するゾ」


こいつに対しては大体こんな塩対応で十分だよ。


それにも関わらず、穂積は勝手に話し続ける。


「ドブ川でカバンが見つかったらしいですよ~。ほら先輩の家の近くの~」


「ふーん・・え?ドブ川?」


ボクは家の近くと聞いて、ちょっと興味を示した。


穂積は抜け目なくボクが興味を示したのを見抜き話を続けた。まぁ、興味を示さなくてもコイツは話すんだけどナ。


「それに何か最近、変な視線とか違和感、感じるんですよね~。ってか何すか、その腕輪。下さいよ~」


「やらん!」


面倒な奴だけど、話の中に違和感と聞いてボクは急に魔獣が関係しているかと不安になった。


それにひょっとしたらコイツもぼんやり体質だから、何か感じてるのかも?


ん?そうなると、コイツよりもぼんやりさんだからボクが選ばれたかな!?何だか急に嫌な気分になるナ。


「おい、穂積、カバン見つかったとこってどこ?」


「じゃ、仕事終わったら一緒に行きましょうよ~」


「なんだ?ボクとデートでもしたいのか?」


「ちんちくりんには興味ないです~」


「おまえっ!今なんつった!」


決めた!今決めた!コイツにはパイルバンカー食らわす!


「せんぱーい、手、止まってますよ~」


ボクがプルプルと怒りで震えてると、穂積はニヤニヤしながらそう言った。


・・・大体いつもこんな感じで嫌な奴だ。


────


それから仕事を終えたボク達は、くだんのドブ川へ向かった。

今どき行方不明くらいは珍しくも何ともないのか、人は特に集まっていない。


穂積から来る途中に詳しく話を聞いてみたけど、どうやら、昨日の夜に、塾帰りの中学生が行方不明になったらしい。橋の上でカバンが見つかり、ここで誘拐されたのでは無いかとの噂が立ったようだ。


「ここッスよ、先輩」


ボクは辺りを見回したけど、一見するといつものドブ臭い川だ。それでも分かる。この辺りにマナの淀みが集中してることが。


街を歩けば時々黒いモヤモヤが立ってるけど、それが淀みなのは何となく分かる。ドブ川ではそれが寄り添うように集まっていて、真っ黒な塊を形成していた。どうやら橋の下に何かあるようだね。


・・・多分ここに間違いないね。ここがボクの初の戦場になるね、きっと。ボクは無意識の内に白波の腕輪に触れていた。


実戦の日が近いことにボクは緊張した。


「せんぱーい!」


突然、穂積が耳元で大声をだした。


「うあ!ビックリするじゃないか!穂積!」


「だってセンパイ、川を見ながらぼんやりしてますからね~、一度ぼんやりし出すと止まらないじゃないですか~」


くっ!否定は出来ないけどムカつくナ。


「・・・それで、何か用か?」


「いや、ようって言うか、何かこの辺り変な感じするんですよね」


「まっ、・・・まあね。ドブ臭いからね」


ボクはドキリとしながらも何とか答えた。コイツ、やっぱり何か知ってるんじゃないか?


「穂積、噂の出どころはどこ?」


「噂?ネットですよ。ネット。都市伝説とか怪奇現象の噂が集まるサイトがあるんですけど、最近そこで、空に線が見えるとか、変な違和感があるとか、よく聞くんですよ〜。で、ここも変な違和感ポイントとして認定されてたんです~。そこに来て、行方不明。ね?気になるでしょ?」


「ふーん。」


いやはや、ネットの力は侮れないね。というか、例の同期が進んでるって事だよね。

こうなったら何とか橋の下に行きたいけど、穂積が邪魔だナ。


やはりここは・・・パイルバンカーでぶっ飛ばすか!


まぁ、冗談なんだけどね。夜になったらもう一度来るしかなさそうだね・・・


「ありがと、穂積。じゃあボクはもう行くよこういう不気味な場所にはあんまり近づくなよ」


「あれ?センパイ、急にどこに行くんですか?」


「どこって買い物に決まってるだろ」


ホームセンターで長靴かブーツと懐中電灯を買わなきゃね。

それでも、穂積は細く眠たそうな目でこっちを見てくる。


疑われてるかな?


「分かったよ。ほれ、コレでぼんやりバーガーでも買うんだナ」


そう言って100円あげた。


「・・・ファンタは?」


「ち、はいはい、もう100円ね。じゃあね」


────


穂積は何気なく振った話題にここまで食いつかれるとは思ってもいなかった。それに本人は全く気付いて無さそうであったが、この件に対する姿勢には何か真剣みを帯びていた。いきなりアンティークな腕輪でイメチェンした点も気になる。第一、200円もポンと差し出して、さも邪魔だと言わんばかりにあしらおうとする行動はとても考えられないことだった。


何かある・・・


来た道をひとり戻る穂積は振り返り、橋の下をぼんやりと眺める先輩を見つめ、そう思った。

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