10 ボクとドロシー
「こんぺーとー魔法じゃ。お前さんはこんぺーとー魔法の使い手じゃ」
「こんぺーとーまほー?聞いたことがないなぁ」
ボクが頭をひねった。
・・・なんだこりゃ?ファンタジーの世界でも聞いたことない魔法だな。
ドロシーは全く検討のつかない新種の魔法の考察は後にして、とりあえず続けてギフトを確認した。そして表れたスキルは・・・
・・・リンキング
うーむ、これはまた伝説級のスキルが出よったようじゃな。さてどうしたものか・・・
リンキング─────
無意識の内にたがい合うものを繋げる能力。ただし、本人が能力の存在を知れば弱まり、過信すれば失われる。そして、絶対的では無い。
恐らくこれは万物の根源であるマナからの願いであろうか、それともこの子に元々備わっていた能力なのか・・・
神もまた人に祈るのか・・・
いずれにせよ儚く脆い祈りじゃ・・・
────
少しばかり険しい表情になっていたドロシーはそれを悟られまいと、咳払いをし再び話し始めた。
「ゴホン・・よいか、まずはステータスを確認するのじゃ」
「はい!」
そう言われてボクは確認してみた。
─────────
名前 ٩(๑•ㅂ•)۶
Lv2
職業 パートタイム
力・・・・9
敏捷・・・12
守備・・・11
知力・・・7
体力・・・12
魔力・・・8
HP・・・102
MP・・・42
スキル
認識阻害 (小)
リンキング
魔法
コンペイトウ魔法
称号
■ ■ ■ ■ ■ ♪
マナに祝福されしもの
───────────
あっ、レベルアップしてる。
ちょっとだけ強くなったみたい。それにコンペイトウ魔法とリンキングが増えてる。
・・・名前と■を見るたびに少し複雑になるけどね・・・
「コンペイトウ魔法って何?おばあちゃん」
「ワシにもわからん。感触からして生成魔法の一種じゃな。とりあえず使ってみるがよい。念じてみな」
「はい」
ボクは手のひらを見つめコンペイトウ魔法を念じてみた。むむむ!
するとどうでしょう!!手のひらが温かくなり、ぼんやり光る。そして・・・
・・・コンペイトウができた。3こ。
なんと!!コンペイトウ魔法はコンペイトウを作る魔法だった!万物の力を借りコンペイトウを作る魔法。職人さんが長い年月をかけて習得し絶え間ない努力の末、作り出すコンペイトウを一瞬にして作る・・・まさにチートだった!
「す、すごい!コンペイトウだ!いっこ食べよ。ぱく」
「どれワシにもおくれ。ひょい」
「「・・・美味しい」」
「これはホッコリする味だね!もういっこ食べよ。ぱく」
「・・・そうじゃな良い味じゃ。・・・しかしじゃ、お前さんはこれでどう戦うのじゃ?」
「・・・・あっ」
そういえばどうしよう・・・ボクは目が点になり言葉を失った。
ボクはしばらくコンペイトウをたくさん生成しながら考えた・・・なんてネ!
そんなの後でいいよ!何とかなるよ!コンペイトウだよ!コンペイトウが一杯だよ!
手から溢れ出してきた色とりどりのコンペイトウに夢中になり、ウキウキしながらテーブルにあったお皿に移し替えるのだった!
わーい、いっぱい出来た!
額に手を当てドロシーは呆れつつも、目の前のおバカさんがコンペイトウを夢中で生成していることが妙に気になった。
「・・・お前さん、疲れないのか?1度MPを確認してみろ」
「えっ?・・あっ、はい!」
ボクはすっかり夢中になり反応が遅れた。まぁいつもだけど。
・・・で、確認してみた。
「MP、全然減ってないよ。疲れないしね、ぱく」
「・・・ふむ、生成魔法はマナを直接物質に変換するのでな。安易に連続生成出来んものじゃて。どうやらコンペイトウ魔法はMPをほとんど使わない性質があるようじゃのう。ぱく」
・・・だからと言ってそれがどうした。
「・・・コンペイトウについてはまた後で考えようかのう。さて、次はリンキングじゃな。・・・このスキルはマナにリンクし生成魔法に干渉することが出来る。つまりじゃ、コンペイトウの形や大きさ、硬さを変えることが出来る・・・・」
「なるほどー。トゲトゲにして投げつけることも出来るんだね!これは痛いよー!ふふふっ!」
・・・ドロシーは嘘をついた。実は生成魔法が使える時点で形状変化や硬度変化は可能だった。最も、普通は魔力のによる影響に左右されるが。
・・・すまんのう、これは伝えることができんのじゃて。お前さんはあるがままの自分でよいのじゃ。
目の前でコンペイトウに夢中になっている様子を見つめながら、そう思うのであった。
────
ボクはとりあえずコンペイトウを有名な黄色いくまさんの形にしてみた。
すると、コンペイトウはぐにぐにと形状を変えながら生成された。
「おっ!有名な黄色いクマさんになったよ!頭だけ、ぱく」
マナってすごい!何でも出来るんね!?
・・・そう言えば聞いてなかったね。マナってなんだろー?
「ね、おばあちゃん。マナって何?ナギサが信仰がどうとか言ってたけど・・・」
「うむ、マナを知らんのか・・・そうじゃなぁ」
おばあちゃんは少し考え込んだよ。難しい質問だったのかな?
────
ドロシーはおもむろに話し出した。
「マナとはな、森羅万象、全ての生き物がマナがあると信じることで、生まれる力じゃ。信じ無ければ失われてしまうと考えられておる。故に信仰とも呼ばれる」
うーん、やっぱりイマイチよく分からない。
「マナが生み出される時、生き物の感情。喜び、怒り、哀しみらが含まれてな。そして、負の感情が溢れるとマナは澱み、魔獣が生まれる。魔獣は負のマナが大気に充満する事を防ぐためと言われておる」
「ふーん、万能の力ってわけじゃないんだね。ぱく」
・・・・そしてマナを濃縮し液体化したものをエーテルと言う・・・ドロシーは何かを思うように心の中でつぶやいた。
「さて、お前さんはこれから魔獣と戦わねばならぬ。機械仕掛けの目玉がマナをお前さんの世界に送り込んどる。魔獣も生み出されるかもしれん。じゃがお前さんの世界がマナで満たされるにはまだ時間が掛かるじゃろう。ということは、たとえ魔獣が生みだされても、少数で弱い。まだ勝ち目はあるぞ。それらを探し狩って、経験値を貯めるのじゃ」
ん?経験値?レベルアップに必要なのかな。RPGと同じく要領でいいなら助かるナ!
「おばあちゃん、経験値って何?」
「経験値とはな・・・魔獣にも想いや記憶、特技、即ち経験がある。魔獣を倒す事によってその一部を経験値として得られるのじゃ。倒した魔獣はマナに還り浄化され去れ消える」
「・・・何だか殺して食べる事と同じだね。・・・本当に倒した魔獣は浄化されマナに還るの?」
「うむ、・・・確証は無いがそう信じられん事もないじゃろう。いずれにせよ奴らは人を喰う。相慣れぬのじゃよ・・・」
「うん!分かった。大丈夫な気がするよ。ありがとう、おばあちゃん」
結局は自分を正当化しなきゃ生きてけないんだね。たぶんきっと悪い事じゃないんだと思う。ごめんね自己正当化さん。キミは本当はボク達を助けているんだね。祈りる事と同じなんだね。
だから・・・ボクは受け入れるよ!
「・・・とはいえお前さん。コンペイトウを投げつけても何も殺せんぞ。なまくらナイフの方がまだマシじゃ」
「そりゃそうだよね。うーむ困った・・・」
いくらトゲトゲにしてもコンペイトウはコンペイトウだもんね・・・
「コンペイトウはコンペイトウだもんね・・・」
「コンペイトウはコンペイトウじゃ・・・」
そう言いながらも、ドロシーには一案があった。そして、心の中でため息をついた。
やれやれワシもミナモのことをあまり言えんのう。ミナモもこの子の純粋さに触れてしまったようじゃな。
やはりアレに頼るしかないのじゃな・・・
ドロシーそう決心し、部屋の隅に向い、大きく古ぼけたブリキの箱を開けた。
────
その箱の中にはドロシーが今まで作製した大量魔導兵器が収められていた。小型の魔導銃から超兵器まで、大抵のものはある。ただし、それらはのほとんどは、腕時計をやや大きくしたサイズの腕輪であったり、アンクレット。ベルトやネックレス等のアクセサリーの形状をしており、とても兵器には見えなかった。共通するのは、どれも機械仕掛けなのか、歯車や細いパイプの装飾が施されており、また、宝石のような結晶が装着されており、中には様々な紋様の魔法陣が埋め込まれてあった。
ドロシーは箱の中をガチャガチャと漁りぶつぶつ呟いた。
「あの者にはどれが良いかのう・・・これは腕が吹き飛ぶわい。これは街が瓦礫とかすじゃろうて・・・」
物騒なことを言いいながら、取り出したのは一つの腕輪。素材は何かの金属を薄く延ばした様であり、手首すっぽり覆うサイズ。クロノグラフのような針が2つ。それと連動するように大小の歯車で繋がってあり、ビールの王冠くらいの無色の宝石が装着されてある。肘の方にかけで白波の様なデザインと細かな星々が描かれてあった。
ドロシーは腕輪をテーブルに置いた。
「おばあちゃん、これは何?」
「これはな・・・魔導兵器じゃ。ワシらの世界はな、魔獣がウヨウヨしよる。かつては魔法による撃退が主流じゃったが、魔法は人の能力に依存しよる。強力な魔法を扱う人間は限られており魔獣の被害が絶えんかった」
ドロシーはため息をつき、話を続けた。
「ある日、一人の学者がマナを濃縮し液体化することに成功した。ワシらはエーテルと呼んでおる。さらにそれを固体化したエーテル結晶。それが魔導兵器の主導力じゃ。魔導兵器も個人の魔力に比例するのじゃが、それでも十分な威力を証明した」
「うーん、何だかみんなの想いが兵器に利用されるのって、寂しいね」
「そうじゃな。じゃが、兵器だけではないぞ。この魔導釜やランプもそうじゃ。生活の役にも立っておる」
おばあちゃんは話し終えるとボクに腕輪を渡した。
「白波の腕輪じゃ。これを左手にはめて、魔力を込めなされ」
ボクはそう言われて、白波の腕輪を装着した。蝶番のようなものがあり、パカりと開きピタリと閉じた。とてもフィットしており違和感がない。
むむむ!っと念じると、腕輪の歯車が回転し、腕輪はカチャカチャと変形した!金属が這うように手の甲を覆い、中指の付け根にリングが現れそれに繋がる。
「お!おばあちゃん!これカッコイイよ!すごいよ!これ!」
「もう一度魔力を込めなされ」
「はい!」
その途端、気だるさを感じたと同時に、六角形の大きなシールドが展開された。シールドは無色であるが光に反射してチラチラと輝く。
ボクの少しばかり疲れた症状を見て、おばあちゃんは言った。
「これは障壁のプログラムが内蔵された腕輪じゃ。魔力を込めると変形し、シールドを展開する。シールドは相手の攻撃を弾き返したり、吸収する事が出来るのじゃ。それから魔力を使うと倦怠感が表れるから、使い過ぎに注意が必要じゃ」
なるほどー。コンペイトウ魔法とは違って何だか疲れたよ。ほら、神経を使う仕事した後の一息入れたい様な倦怠感だね。でも、起動のたびに疲れるだけで、後はMPが減ることはなさそう。
「ふむ、今度は戦う気持ちになって、魔力を込めなされ」
「はい!」
ボクはやるぞー!と言う気持ちになって、魔力を込めた。
すると、カチャカチャ音を立て腕輪はまた形状を変えた。金属が這うように展開し、拳から肘まで覆われ、手の中には金属を握っている異物感が表れる。そして腕の外側に細いパイプがいくつも集まり、1本の太い杭が生成され、それを囲む様に金属が広がった。最後に肘の辺りに蒸気排出用のパイプが突き出したそれは・・・
「うっ、重い・・これっていわゆるパイルバンカーだよね!かっこいいけど。重いね・・」
「これは特別製でな、シールドで攻撃で吸収して力を蓄積し、至近距離から杭をお見舞いするのじゃよ」
ボクは装着されたパイルバンカーを食い入るように見つめた。どうやら、拳を相手に向け突き出し、手に握られている金属に魔力を込めると発動する様だ。威力は申し分なさそうなんだけど、接近戦かぁ。
「おばあちゃん、やっぱり接近しなきゃダメなのかな?」
「・・・確かに魔導銃の方が扱い易いのじゃが、お前さんの世界に発生するかもしれん魔獣は今の所そう強いものでは無い。今のうちに接近戦を覚えなければ後で苦労するわい。それに魔導銃はその性質上、お前さんにはまだ早い・・・」
ボクは魔獣がパイルバンカーで吹っ飛ばされる所を想像した。
「どれ、試し打ちしてみるかのぅ。着いてきなさい」
ボクはスタスタ歩くおばあちゃんの後ろをパイルバンカーを抱えながら、さっきの中庭に行きました。
おばあちゃんは柱に廃材の鉄板を括りつけ、コンコンと叩いて状態を確認した後でボクに言いました。
「これを撃って見なさい。良いか、一撃で決める覚悟を持つ事が重要じゃ」
「・・・一撃。ね」
「そうじゃ、接近しとる上に次弾装填には時間が掛かるからのぅ」
「それに、一撃で仕留めないと可哀想だからね・・・」
ボクはニワトリさんを思い出す。
そして鉄板に拳を向け、ボクは真剣に魔力を送り込んだ。
「えい!」
刹那、歯車が激しく回りクロノグラフの針がピンと動き・・・
ドゴンッ!!
鈍い音の後にブシューと蒸気か吹き出しガチャコンと音がする。
鉄板はべコンと凹んでいた。衝撃はボクの手から全身まで伝わり痺れた。
「はっ!はぁ、はぁ・・・」
何とか呼吸を整え・・・
「こ、これは怖いよ・・・これを人に向けるの?」
「そうじゃな。そして、敵からお前さんに向けられる力でもある・・・」
「おばあちゃん・・・ボク、出来るかな?すごく怖いよ・・・」
「すまんのう。やるしかないのじゃよ。それに、力を吸収したパイルバンカーはこんなもんじゃすまんぞ」
少しだけ魔力を込めると、パイルバンカーはカチャカチャと音を出しながらまた、元の腕輪に戻った。
「こんなに綺麗な腕輪なのに・・・何だか可哀想だね」
何でかな?武器ってかっこいいけど実際に使うとなるととても怖い気がするよ。
そうだとしても、ボクはこれに頼らなければ死んじゃうんだよね。
・・・ゴメンね。怖いって言って。キミも本当は綺麗な腕輪でいたいんでしょう?
ボクは左手の腕輪をそっとだき抱えた。
よし!一緒に行こう!
────
何かを決心したような優しい子を見てドロシーは思う。
この優しさが凶と出るか吉と出るかと・・・
そしてそれは神の領域・・・
そしてドロシーは空を見上げ神に祈るのだった。