おまけ ヘンリー叔父上は面倒、頼るならユージン叔父上が適任(セディ)
大広間の真ん中で、ノアとセアラが踊っている。
淡いピンクのドレスの裾がヒラヒラと舞って、とっても綺麗。
やっぱりセアラにはああいう可愛らしいドレスがよく似合う。
だけど、どうやらセアラは大人っぽい感じのドレスに憧れているらしい。だから、次はそういうドレスを着せてあげたい。
ここが僕の腕の見せどころだ。いや、僕が作るわけじゃないから、目かな?
そういえば、ノアはドレスを選ぶことに興味がなさそうだったのに、いざとなったらセアラにとても似合うドレスを選んでいた。
僕と違って、ノアは本当に何でもできる。ダンスだって完璧。
「あのふたりは本当に良い組み合わせだね」
クレアがいたはずの僕の隣に、いつの間にかユージンがいた。あたりを見渡せば、クレアはレイラやエマたちとお喋りしていた。
「うん。……ユージン、色々ありがとう」
僕はユージンに頭を下げた。
実家との関係を断つために、セアラはウォルフォード家の養女になった。ユージンとレイラがセアラの両親になってくれたのだ。
今夜のウォルフォード家の夜会でそれを発表したのだけど、ついでだからとノアとセアラの婚約も正式に披露した。
もちろん、ユージンが全部やってくれて、僕はいただけ。持つべきものは頼りになる弟だ。
ユージンは笑って首を振った。
「いや、大したことはしてないよ。だけど、戸籍上のこととはいえ、セディより先にセアラの父親になってしまったな」
「戸籍上はまだだけど、セアラはもう僕たちの娘だから大丈夫」
ユージンに笑い返そうとした時、背後から別の声がした。
「おい、セディ。何で俺に頼まなかったんだよ。俺じゃ役不足か?」
そっと振り返ると、ヘンリーの恐い顔がすぐ傍にあった。
「そんなことないよ」
咄嗟に否定しながら、ノアとクレアが話していたヘンリーでは駄目だった理由を思い出す。
ええと、ヘンリーに頼むと後が面倒だから、じゃなくて……。
「コーウェン公爵夫人が2代続けてバートン家出身だと、煩いことを言う人がいるかもしれないからだよ」
「へえ」
ヘンリーは疑い深い目で僕を見つめた。
大丈夫。しょっちゅう恐い顔をしていても、ヘンリーは恐い人ではない。
小さい頃はよく意地悪されたけど、あれはヘンリーもクレアが大好きだったからだ。
それに最近、ヘンリーの恐い顔とノアの不機嫌そうな顔が似ていると気づいた。
ノアはクレア似だから、どことなくヘンリーにも似ているのだ。
でも、ノアの瞳は僕と同じ色だもん。
「それにしても、ノアはやっぱりセディの息子だね。よく似てる」
「そうだな」
ユージンの言葉にヘンリーが同意したので、僕は目を見開いた。
「本当? どこが?」
「こうと決めたら一途なところかな」
「愛情が重すぎるところだろ」
そうか、ノアは僕に似てるんだ。僕の息子だもんね。
「おまえ、何をにやけてるんだ。褒めてないぞ」
「うん。ありがとう」
なぜかヘンリーは呆れた様子で息を吐いた。
「そんなことより、ユージン。せっかく父娘になったんだからセアラと踊ったらどうだ?」
「え、それなら僕が踊りたい」
「おまえがセアラと?」
「うん。まだ踊ったことないから。ユージン、いい?」
「もちろん」
ちょうど曲が終わってノアとセアラがこちらに戻ってきたので、僕はふたりのほうへ向かった。
「セアラ、次は僕と踊ろう」




