おまけ 父上は朝から嬉々として(セディ)
我が家での夜会を無事に終えた翌朝、秘書官室でいつものように机に向かった僕はぼんやりと考えた。
どんなウェディングドレスにしようか。
昨夜、セアラに選んだ黄色のドレスは想像どおり彼女にとてもよく似合っていて、クレアやノアや皆も褒めてくれた。
ところが、僕は致命的な失敗をしていた。あのドレスはセアラには少しだけ小さかったのだ。
セアラにそのことを謝ると、逆にお礼を言われた。やっぱりノアが選んだだけあって、セアラはとっても良い娘だ。
あんな良い娘が家族から非道いことをされていたなんて信じられないけれど、あんなおかしなドレスを着ていたのだから本当なのだろう。
とにかく、僕はもう失敗できない。セアラのためだけの完璧なウェディングドレスを作ってあげるんだ。
セアラは僕たちの娘になったんだから。
今朝、屋敷を出る前に、クレアにすぐにでも仕立て屋を呼んでと頼んだのだけど、もう少しセアラが落ち着いてからにしましょうと返された。
そのあたりはクレアに任せることにしたけれど、どんなウェディングドレスにするかくらい、今からしっかり考えておかないと。
「セディ、朝から何を悩んでいるんだ?」
隣の席の先輩に肩を叩かれて、僕はそちらを振り返った。
「あの娘にはどんなウェディングドレスが似合うかと思って」
「なんだ、シャーロット嬢もとうとう嫁に……」
僕は思わず先輩の言葉を遮って声を上げてしまった。
「ロッティの結婚なんてまだまだまだまだ先に決まってるでしょう。セアラの話です」
「わかったから睨むなよ。て言うか、セアラ嬢って誰だ?」
「ノアの婚約者です」
「ついこの前まで、ノアの婚約者が見つからないって言ってなかったか? いつの間に婚約したんだよ」
「ノアとセアラは昨夜出会ったそうです。ノアが朝一番に陛下に届けを出したはずだから、今頃はもう正式な婚約者になっていると思います」
「それはまた、ずいぶんと急な話ですね。その令嬢、本当に大丈夫なんですか?」
今度は反対側にいた後輩に訊かれた。気がつけば、秘書官室の皆が僕に注目していた。
「セアラはとっても良い娘です。ノアが選んだんだから間違いありません」
僕はきっぱりと言った。
「正式に婚約したってことは、クレア夫人が認めたってことですよね?」
「もちろん」
「それなら大丈夫か」
皆が頷き合い、あちこちから「おめでとう」と祝福の言葉が飛んできた。
秘書官室でも僕よりクレアのほうが信頼されてるのは仕方ない。だって、クレアだし。
僕は僕のできることをすればいい。
「あ、そうだ。昼休みにセアラのドレス買いに行かなくちゃ。ノアも誘おう」
僕が外交官室に行こうと立ち上がったところで、秘書官室の扉が開いて陛下が顔を出した。
陛下は僕に向かって、手にしていた書類を振ってみせた。
「セディ、ノアのこれは本当にサインしていいのか? セアラ・スウィニーなんて聞いたこともない名前だが」
どうやら、セアラはまだノアの婚約者ではなかったみたいだ。
「セアラはノアにぴったりのとっても良い娘です」
「クレアは承知してるんだろうな?」
「当然です」
「だったら大丈夫か」
陛下は納得したような表情になり、僕の目の前で書類にサインをしてくださった。
「ようやくノアの相手が決まって良かったな。おめでとう」
陛下も僕よりクレアを信頼しているのは仕方ない。だって、クレアだし。
それよりも、僕はセアラのドレスだ。
「それじゃあ、ノアのところに行ってきます」
「もう始業の時間だぞ」
「すぐ戻ります」
僕は陛下の横をすり抜けて外交官室へと駆け出した。




