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誇り高き千葉県民曰く男の名は、楯無 一刀といった。
この近くで宿屋兼酒場を営んでいるらしい。勝手に自己紹介を始めたかと思いきやいつのまにか女房自慢が始まったので言葉を遮る。
「で、あんたはここがどこなのか知っている知っているのか」
「あん?何だあんたあの自称女神の姉ちゃんに何も聞いてないのか?」
「は、何て?女神ぃ、なんのこったいそりゃあ」
「おいおい本当に知らねえのかよ…まぁ、いいや、まずここは異世界ってやつだ。そして俺とあんたがいるこの国は4大陸の一つ「ウルキア大陸」の約2/3の国々を支配する大国「ヴァルヴァラ」だ。そして、あんたや俺みたいな異世界からこの世界に飛ばされてきた人間を召喚者とこの世界の人間は呼んでいる。召喚者は基本的にみんな女神を自称する猫の着ぐるみパジャマを着たふざけた女の部屋を経由してこの世界に送られてきている。自称女神の姉ちゃんは格好こそふざけているが俺ら召喚者に贈物と呼ばれる規格外の特殊技能や才能、魔法や武器を授けてくれるもんで基本的に召喚者はこの世界で重宝されるんだ。なんたって街から一歩外に出りゃ、盗賊やら魔物がうじゃうじゃいやがる。さらには近隣諸国や海の向こうの大陸の国とも小競り合いが絶えない。今はいないが魔王って呼ばれる奴がたびたび現れては世界征服に乗り出すってんでもはやイベントを定期的に実施しないとサービス停止してしまうネットゲームみたいなイカれた世界情勢ってわけだ。以上、世界観の説明はおしまいだ。質問はあるかいルーキー?」
「じゃあ、一つ聞いてもいいかい、先輩どの?」
「ああ、いいぜ」
「あんたは強いのかい?」
言いながら逸軌は構える。左手は天を指し示すように掲げられ右手は腰の下まで下げられている。隙は存在せず、ただ無遠慮な殺気が空気を震わす
「おいおい、親切に解説役に甘んじている宿屋の主人になんて殺気ぶつけてきやがんだ、ええ?どこのドンキホーテだよ、あんた」
「ただの宿屋の主人が俺に気配すら悟らせず背後を取れるかよ。わりぃが、こちとら強敵に飢えきってのさ。嫌といっても相手になってもらぜあんちゃん」
背後を取った技術だけではない。決して鍛えられているわけではない身体。しかしこの宿屋が身に纏う雰囲気を逸軌は感じ取っていた。それはまるで歴戦の兵士のみが発する気配のようなものだ。
「やれやれとんだルーキーだ。確かに俺は一般的な宿屋よりは腕がたつがいかんせん今は丸腰だ。素手の俺とやりあっても満足出来ないだろあんた。それより面白い仕事紹介してやるよ」