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Reverse character rone storys  作者: 路十架
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第4話 お見合いと復讐

アンスール

 『言葉のルーン』の名をもつ神。

 この物語の主人公。


もう一人のアンスール

 『言葉のルーン』の名をもつ神。

 もう一人の主人公。


オシラ

 『継承のルーン』の名をもつ女巨人。

 美人だけどデカい。


ソウェイル

 『太陽のルーン』の名をもつ番人。

 白い服の紳士。


ティール

 『勝利のルーン』の名をもつ軍神。

 今日もまじめ。


ニイド

 『欠乏のルーン』の名をもつ邪神。

 たまにかわいそう。


ヤラ

 『収穫のルーン』の名をもつ神。

 やさしくてまめ。


イング

 『生命のルーン』の名をもつ豊穣の神。

 ヤラの息子。


エイワズ

 『復活のルーン』の名をもつ光の神。

 とてもイケメン。


ベオーク

 『誕生のルーン』の名をもつ結婚の神。

 おつかれさまです。


 私はアンスルガルドのアンスール、今日も世界を見守っている。


 スィアチがウィンを連れ去った事件から1か月が経った。


 リンゴを失うかもしれない怖ろしい事件があったことすら知らなかった神々は何事もなく過ごしていた。




 そんなとき、アンスルガルドに美しい巨人が武装してやってくるのを私は見た。


 彼女は番人をしているソウェイルに声をかけた。


「ごきげんよう。白い服の番人さん」


「ごきげんよう。オセルヘイムの住人」


「私はオシラ。今日はアンスルガルドの神に殺されました父の賠償をしに参りましたの」


「失礼ですが、オシラ殿。あなたのお父上は何というお名前でしょうか?お聞かせください」


「私の父はスィアチ・ヘレディタス。先日あなた方に焼き殺されたと聞きましたわ」


「そうでしたか……あなたのようなご聡明な娘さんがおられましたか」


 ソウェイルは申し訳なさそうな顔をしている。


「聡明だなんて……あなた、とても分かっておられますわね」


「私はソウェイル。ここの番人を務めております」


「ソウェイルさん。巨人族の娘も親族の仇はとるものよね?」


「えぇ、おっしゃる通りです。あなたは命の代わるものを何かお望みなのですか?」


「詳しくは、アンスール様にお話ししたいと思いますわ」


「アンスールですか……」


「私の館にいるものが、父が奪ったものを取り返しにきたのはアンスールだったといったわ」


「そうですか。あなたは話が分かる人のようなので、お取次ぎいたしましょう」




 私たちはすぐ呼び立てられた。


 もう一人のアンスールと私、ティールにソーン、ニイドがその場には来ていた。


「ごぎげんよう。みなさん」


 オシラは上品にあいさつをして見せた。


 美しく装飾された頑丈そうな鎧に楯、背中に背負った剣。


 動きやすさを重視したのか、ミニスカートの下に薄手の足にぴったりフィットする七分丈のズボンを身につけている。


 ――決闘にでも来たのだろうか。


「私、今日は父の賠償を請求しに参りましたの」


 一体いくら要求されるのかとその場はどよめいた。


「そもそもこんなことになったのは自業自得じゃないか」


 ニイドがオシラにいった。


「その点は父に代わってお詫びいたします」


 オシラは深く頭を下げた。


「しかし、唯一の身内を失った私としては、賠償を求めなくてはなりません」


 この世界では身内が殺されたとき、賠償を要求しないことが非常識とされている。


 巨人が神に対して賠償を求めることも問題ないのかもしれない。


「して、オシラ殿。いくらほどお支払いをすればよいか?」


 アンスールがオシラに尋ねる。


「お金など欲しくはありませんわ」


 その言葉に一同がぎょっとする。


「私が頂きたいのは夫。そして、父のことを忘れるくらい笑わせくくださいませ」


 ――笑わせるのも難題だが、夫だと?


「夫?」


 私も驚いたが、ティールが聞いた。


「私は、夫としてエイワズ様を頂きたいのですわ」


 不敵な笑みを浮かべるオシラ。


「しかし、エイワズは……」


 渋い顔をするアンスール。


「この国の時期王になるであろうお方。身長も私より高く、何よりとても美しいお方とお聞きしております。これ以上の方はございません」


 うろたえる一同を見てニイドがいった。


「じゃあ、ちょっと変わった趣向のお見合いにしようか。それをのんでくれるなら、受けてもいいんじゃないかな」


「ちょっと待て、ニイド」


 うろたえるアンスールにニイドが耳打ちする。


「わかった。それなら問題はないだろう」


 アンスールは力強くうなずいた。


「変った趣向とはどんなことか?」


 オシラの質問にニイドが答える。


「君は足だけを見て結婚相手を決めるんだ。エイワズはとても美しい。だから、君にも一発でエイワズがわかるはずだよ」


 オシラは必ずエイワズの足を当てられるだろうと確信していた。


「えぇ、いいわよ。必ず、私は彼の足を当てて見せるわ」




 このことで、この国の独身の男を椅子に座らせ、布で姿がすべて隠された。


 椅子には左からティール・ソウェイル・私・エイワズ・ヤラ・ニイド・イングが並んで座っている。


 布で覆われた先ではオシラとアンスールが話をしている。


「一番左は違うわね」


 ――ティールは除外されたようだ。


「その隣も違う」


 ――ソウェイルも違うか。


「その隣……とてもきれいな足ね」


 ――なんか褒められておる。


「その隣は綺麗だけど、エイワズの足とは思えないわ」


 ――いや、エイワズの足だぞ!?


「その隣は違うわね」


 ――ヤラは違う……。


「残りの二つも違うと思うわ」


 ――ニイドとイングが外れたとなると……。私が!?


 確かにオシラは美女だ。だが、私としてはこんな形で結婚することになるとは不本意だ。


「ということは、左から3番目の足が私の未来の夫よ!」


「では、夫と思う足の前に立っておれ、変更は絶対にしないように」


 ――頼む! 他の足に行ってくれ!


「覆いを外すぞ」


「えぇ、ドキドキしてきたわ!」


 バサリと布が落ちる。


 私は覚悟が出来ず、目を強くつむっていた。


「さぁ、この者をオシラの夫とすることを許そう」


「え? この綺麗な足がこの人?」


 ――オシラの顔が……あれ?


 目を開けるとオシラはヤラの前に立っているのがみえた。


 そして、彼女は泣き出してしまった。


「オシラ殿……」


 ヤラがオシラに声をかける。


「いやよ、こんなちんちくりん」


 ヤラは私より少しだけ背が小さな男だった。


「私は騙されてしまったんだわ」


 その言葉に、ヤラの足がきれいなことを知っていただろう、ニイドがしてやったりと笑っている。


 ヤラは毎朝海に足を浸していて、そのことが美脚を生みだしていたのかもしれない。


「オシラ殿、私の足を美しいと褒めてくれたということ。とても光栄に思う」


 ヤラがオシラに慰めの言葉をかけている。


 ――なんと、心が広い男なのだろう。


「あなたは隣の邪神ニイドや、豊穣の神イングを選ぶ可能性もあったことを忘れてはいけない」


「ヤラ、あなたは優しいのね」


「ヤラは本当に心優しい男だ。きっとオシラ殿ともうまくやっていけるだろう」


 アンスールが声をかけた。


「まだ、私の賠償は終わってませんわ。私、知ってましてよ……」


 オシラはキッとニイドをにらむ。


「邪神であるあなたが、女神を森に案内しなければこんなことにならなかったということを」


 彼女のいう通り、スィアチはニイドが関わらなければ今もヘルディタスヘイムにまだ無事でいたかもしれない。


「では、ニイドよ。お主がこのオシラ殿を笑わせる役をお願いしようか」


「そうね、私ここのところ父のことで気分が沈んでいたので、どうにかしてほしいものだわ」


「……まったく、無茶ぶりをするねぇ」


 ニイドは頭をかきながらも、昔話をし始めた。


「どのくらい前のことだったかな……僕はお使いを頼まれたことがある」


「おぉっ、あの時のことか」


 アンスールは懐かしそうにニイドの話に耳を傾ける。


「その日のお使いは二匹のヤギを家に送り届け、買い物をした荷物を沢山家に持って帰ることだったんだ」


「この話のどこがおもしろいのかしら?」


「最初頼まれたとき、僕はアンスールとやるなら楽勝だと思って二つ返事で引き受けたんだ」


「あぁ、私も簡単だと思っておった」


「すると、ヤギを引いていたアンスールが一頭逃がしてしまって、大荷物の僕に言うんだ『もう一頭のヤギを見てて』って」


「私はヤギに逃げられたことで軽くパニックになっていたんだ」


「それで、荷物で手がふさがっている僕を見てアンスールはどうしたと思う?」


「見当もつかないわ、どうしたの?」


「アンスールは僕の外皮にヤギをくくりつけて、もう一頭のヤギを結び付けていったんだよ」


「ガイヒってなんですの?」


「両手が塞がっているのを見て、あろうことかアンスールは僕の股間にヤギを結び付けてたんですよ」


「そのとき、ニイドは買ったものを袋に詰めてもらって受け取るところだったので周りがよく見えていなかった」


「その状態でヤギが走り出して僕は悲鳴をあげたよ……『ギャーーーーーッ』って声にならない声で、目から火が出るかと思った」


「私がヤギを連れて戻ると、ニイドは悲鳴をあげながら、そのニイドから逃げ回るヤギを追い回しているんだ」


「まぁ……」


 オシラは状況を想像できたのか少し笑いだした。


「僕は手の荷物も離すわけにはいかなくて、前もよく見えないけれどヤギのロープが張り詰めないように『まって、まって、本当に待って』って叫びながら必死に走った」


「その周辺にいた誰もがその光景に呆然としていた。私はその異様な光景に散々笑った」


 アンスールは凄くまじめな顔をしてそういう。


「僕は叫んだ『アンスールのばか! 笑ってないで止めておくれよ』でも、アンスールは笑い過ぎてまたヤギを逃がしてしまったんだ」


「そう、まさか逃げると思っていなかった」


 アンスールがまた真顔でいった。


「だから、ニイドが『早く連れ戻して! やっぱりすぐとって! とってから追いかけて』っていうもんだから、まず早く連れ戻しに行ったんだ」


「ひどい話だよねー『ひーひー』笑いながら、ヤギを追いかけていくんだもの。最初に逃げたときよりヤギは早く逃げていったんだ」


「なんだか、オシラはあの状況を想像できないようだから、もう一回実践してみようか?」


 アンスールが意地悪そうに笑うと、ニイドは『勘弁して』と悲鳴をあげる。


「大丈夫、結構よ。十分わかったわ。すごく面白い。あなたたちが面白い人ということはよくわかったわ」


「その後もニイドはヤギに『うーごーくーなーいやーーーっ、やめてっ』とかもう大パニックで痛みをこらえてヤギと綱引きをしたり、ひたすら走り回っていた」


「アンスールは最初にヤギを探しに行った時の三倍くらいの時間、ヤギを探しに行ってしまったんだ」


「市場で騒ぎを起こしたので『手がふさがっていても股間にだけは、もうヤギを結びません』と言う張り紙をして、反省するように言われ、私たちはしばらく『ヤギの人』と呼ばれたのだ」


「それから、しばらく僕はヤギがこわかったよ」


「私も、ヤギを見るといつも笑ってしまう」


「私も笑わせてもらったわ」


 オシラは馬鹿馬鹿しい話を聞きいってとにかく笑った。


「心は晴れただろうか?」


「えぇ、それと心ばかりなのだが……」


 アンスールはスィアチの遺骨を取り出した。


「私は彼の死を防ぐことができなかった。今まではアンスルガルドのゆかりの者だけを空に浮かべていたのだが」


 そういうと、遺骨を空に浮かべた。


「スィアチ・ヘレディタス殿を星に加え、二人の結婚の祝福としよう」


「では、ヤラ殿。私の居城ヘレディタスヘイムへ来ていただいて構わないでしょうか?」


「私はかまわないが……」


 アンスールはいった。


「私としても仕事のルーティンがあるのでな、何日かごとにこちらの館に来るのでも構わないだろうか?」


 ヤラはとても計画的に動くタイプだったので、色々なことを二人で話し合った。


 アンスールはベオークを呼び結婚の契約書をしたためた。


 ここまでたくさんの決まり事を記した結婚証明書は今まで一度もないと驚いていた。


 ペットについて、財産分与について、一年のイベントについて、里帰りについて後で揉めないようにとベオークを巻き込んだ夫婦の話し合いは9日におよんだという。






 その後、改めて二人の結婚式が開かれた。


 オセルヘイムの巨人たちや、ジェラヘイムの神々も駆けつけた。


 アンスルガルドで開かれた挙式はそれはもう盛大なもので、宴は1ヵ月ほど続いたのだ。


 ヤラは20cmのシークレットシューズを履いていたとアンスールは嬉しそうに語っていた。






 ヤラは海が好きで、オシラは狼がいる土地が好きだった。


 趣味も釣りとスキーとやりたいことは全然違った。


 そのせいで二人はわずか1年で別居での結婚生活になっていったという。


 それについての取り決めも事前にしていたので、二人は揉めることなく幸せに暮らしていたそうだ。


 お互いの時間をそれぞれが思い、二人の時間はそれはもう見ているのが恥ずかしいくらいだ。


 ヤラの息子イングもオシラの見合いにいたのだが、その様子にあきれ果てていた。




 しかし、その光景を見たアンスルガルドの神々にも結婚ブームが訪れた。


 私も結婚を意識し始めた。


 女神は美しいドレスをたくさん用意した。


 目立ちたがりで美しいものに目がない女神たちだ。


 その争いは日に日に加熱した。




 かつて、ジェラヘイムの争いの元を作った魔女グルヴェイグは女神たちが美しいものばかりに興味を持ち、貞操観念が軽くなってしまう魔法をかけてしまった。


 そこから、結婚をせずにたくさんの男と遊ぶのが彼女たちのステータスになりつつあったのだ。


 この結婚で、彼女たちの価値観は大きく変わっていった。


 オシラの結婚はそれだけの影響があったのだ。


 たくさんの人が祝福した。


 それだけに真面目なヤラは責任をもって彼女を幸せにしてやろうとお互いの気持ちを温めていくのを皆が感じていた。




『ヤラ』は『収穫のルーン』の名をもつ神である。


 継続をしていくことによって、目標を叶えることができることをあらわす。


 そういう意味では、あの場にいた独身の神の中で一番オシラを幸せにできる人間だったのかもしれない。




 結婚は巡り合わせとタイミングだ。


 どんなに相性がよくともタイミングが悪ければスタート地点に立つことすらできない。


 結婚とは二人三脚で一緒に走る相手を決めることだ。


 ゴールは二人で決めるもの。




 あなたは結婚を考えるとき、ゴールをきちんと話し合っただろうか?


 目的地が二人とも大幅に違うのなら、途中で別々のゴールをすることを選ぶことも手だろう。




 何となく妥協してどちらかに合わせるのでは不公平だ。


 走るペースを合わせ、二人がきちんと前に進まなければそのゴールは困難になる。


 結婚というスタート地点についたとき、あなたは最後まで相手の背中にしがみついて何とかしようと思ってはいないだろうか?




 それをやすやすと許してくれる相手に出会ったのなら、それは幸せなことかもしれない。


 だけど、同時に覚悟してほしい。


 自分を背負って走ってくれると誓ったパートナーが、急に自分を放り出して走っていってしまうことがあるということを。


 私は、もしかするとまだどのパターンの覚悟もできていないのかもしれない。


 だけれど、隣を走る大切な人を選ぶときが近づいているように感じている。




 私はヤラほどこと細やかに決めごとをしようとは考えてはいない。


 だけれど、相手の好みや、やりたいことは先に話を聞いておきたい。


 相手のことを知るということは、相手の走り方を知るということ。


 走り方を知っていたら、相手が困難にぶつかったとき助けることもできるようになる。




 汝、病めるときも、健やかになるときも、富めるときも、貧しいときも……


 この言葉をきいたとき私は自信をもって本当の意味で『誓います』といえるようになりたい。


 軽々しく誓いの言葉を述べるなと、私の父はいった。


 私の義母は、その誓いを覆すことは決して許さないだろう。


 そして、私の母は私の幸せを願ってくれている。




 私の母は幸せだっただろうか?


 貧しい暮らしが続いていたけれど、辛いとは絶対に言うことはなかった。


 パートナーがいるから幸せなのではない。


 いないから不幸なのでもない。


「私は私の生きる道を自分の思うように決めてきたから、あなたも自分の持つすべてをいいわけをせずに楽しみなさい」と母はいった。


 母は今元気にしているだろうか?


 幼い頃に別れた母。


 私は今、急に懐かしくなった。


 会いに行こうと思う。


 ――オセルヘイムの地へ。

今回はスカジとニョルズの結婚をベースにお話を作っております。


ヤラのルーンの積み重ねを大切にするところが伝わってくれたら幸いです。


まだ、追記したい部分満載なので、徐々に追記あると思います(A;´・ω・)フキフキ

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