今はそれだけでいい。それだけで。
ドアを開けた僕の目の前の出来事が今だに信じられない。
壁中穴だらけで、前に来たときには綺麗に飾られていたオブジェクトのほとんどが壊されている。
こうなった元凶であるノインを止めるべくアイはノインにドロップキックをかまし、ノインはそれが顔面にあたり鼻血を出して倒れ、それを青井さんはお茶を啜りながら傍観している。
青井さんどうして落ち着いていられるの・・・
これはもう事件だよ・・・。
1時間前の静寂が嘘のようだ・・・。
1時間前、僕はいつものように塾の帰り道を一人で歩いていた。
クリスマスだというのに予定は塾だけ。家には誰もいない。帰ったところでしたいこともない。
嫌だな、なんだろ、こんな感覚ずっと忘れてたのに。
ズシーンっとしてドロッと重たい感覚、あの家にいたくないけど、どこかにいける場所もない。
いつもの自分の足じゃないように足を引きずるように歩いていた。
どこでもいい、どこかに行きたい、どこか遠くに。何度目だろうこんな風に感じるのは。
重たい足取りで歩いていたせいだろう、アイから着信が何度かあったようだが全然気づけずにいた。
5回目の着信でようやく気づいて電話に出るとアイは
「私からの電話とメール無視してんじゃないでしょうね!?三時間前に送ったメールいまだに返信ないんだけど!」
っと、少し怒り気味だった。
「ああ、ごめん。携帯を見る癖が無かったから気づかなかったや」
ここ2年、兄から以外誰からも連絡が無いから携帯を見る癖がついてなかった。
本当だ、3時間も前にメールがきてたや。
「あんた携帯を見る癖付けなさいよ。私の連絡気づけないでしょう」
「そうだね。これから癖つけるよ」
これからも連絡をくれるってことなのかな?ドキドキ、友達みたいじゃないか!
「それより、今日どうせあんたこの後もあの家で一人ぼっちなんでしょ?」
アイの言葉が心に刺さる。ズキっとして少し胸のあたりが重くなった。
昔、何度も感じた痛みだったのに・・・。
一人ぼっち。その言葉を聞くだけで顔を沈めたくなる。胸が重くなる。息が少し苦しくなる。
「今からでも来ればいいじゃない。みんな待ってるわよ」
アイの言葉で何かが少し軽くなった。みんなってノインや青井さんもってことなの?
「ノインもジェネスもいるわよ。つーか、大変なのよ。ポポムの奴に料理作らせてたんだけど、ノインのやつが酒癖悪いの忘れてて料理に酒使ったみたいで、ノインが酔っ払ったのよ」
女の子三人のところに僕が行っていいのかな・・・。
僕は考えすぎていつも動けなくなる。悪い癖だってわかってる。
でも、アイは僕の戸惑いなんてお構いなしに誘ってくれた
「一人ぼっちならくればいいじゃない」
さっきまでのモヤモヤが消えていく。
「ノインは酔っ払ったから分からないけど、少なくともジェネスが今日私の家に来たのはあんたとクリスマス過ごすためだと思う」
アイは僕が欲しい言葉を無意識にくれる。
「はやくしないとクリスマスケーキなくなるわよ。ノインのやつが・・・って、おい触覚私の分食うんじゃねー!食うならタクトの分にしろ!」
僕の分のクリスマスケーキまで用意してくれたんだ・・・。うれしいな。着くころにはなくなってるだろうけど。
行きたい。行きたいけど・・・。
「とにかく、一人ぼっちのクリスマスならはやくおいで」
アイがそう言った次の瞬間、ノインがアイの携帯を奪ったのだろう
「タクトさああああんクリぼっち確定ですの!?クリスマス・クルシミマスですのおおおお!?可哀相ですわあああ」
酔っ払ってるノインがそう絶叫しながら電話の向こうで泣いているのが聞こえた。
クリぼっち?なんだろう松ぼっくりの仲間・・・?くり・・・ぼっち・・・。ぼっち。ああクリスマス一人ぼっちの略か。だいたいクリスマス・クルシミマスとかなんだよ。大方私ずばり面白いこといいましたですわとかって思って用意してた言葉だろうな。
「っちょ、触覚!私の携帯返しなさいよ」
「だめですわよー、クリぼっちですのよおおお!クリぼっちでクリスマス・クルシンデマスですのよおおお。そんなの、そんなの悲しすぎますわあああ」
泣いている声がする。ノインが泣き上戸になったみたいだな。
「あ!汚い!!鼻水たらすな!」
「そんなのだめですわあああ。タクトさん、はやくいらしてーーー私たちがいますわよおおお」
「くそっ!酔っ払いの癖に力のつえーこと!あ、こら勝手に私の服で拭くな!」
「アイってばなんでそんな冷たいんですのおおお、タクトさんクリぼっち確定ですのよ!?クリスマス・クルシンデマスですのよおおおお。タクトさんは私が!私が守りますわあああ」
その絶叫のあと、ドタドタと走り始める音がしたと思ったら、バリン!ガシャン!っと何かが壊れた音が聞こえた。
「おいいいい、酔っ払い、家の物壊すんじゃねー!」
アイの絶叫。携帯の向こうの出来事だから姿は見えないが色々と繰り広げられているようだ。
「タクト!早くこいや!このままじゃノインに家の物全部壊される!」
戸惑ってる暇なんてなさそうだ。
携帯を通話状態のまま僕は歩いてすでに5分。電話の向こうの会話を笑いながら聞いてるうちにあの角をまがればもうアイの家ってところまでついた。
玄関まで着いたところで冷たい何かが顔に触れたのに気づいた。
雪だった。まだ降り始めたばかりで積もるのかも分からないくらい小さな結晶が舞い降りてくる。
降り始めた雪を見上げ、僕は少し黄昏た。
12月24日。やっぱり今年もサンタを見ることは出来なかった。
だけど
1ヶ月ちょっと前にサンタに願った
「友達が欲しい」っていう願いは聞いてくれた気がする。
本気でそう願った僕の前には3人の魔法使いが現れて、今はまだ知人以上友達未満だけど
彼女達を友達だって言える日が来る気がする
彼女達と一緒にいて分かったことがある
僕は・・・
「タクト!何してんの!家の前に来たならさっさと入る!」
ドア越しにアイの怒号が聞こえた。黄昏てる暇はなさそうだ。
ドアを開けた僕の目の前の出来事が今だに信じられない。
壁中が穴だらけで、前に来たときには綺麗に飾られていたオブジェクトのほとんどが壊されている。
こうなった元凶であるノインを止めるべくアイはノインにドロップキックをかまし、ノインはそれが顔面にあたり鼻血を出して倒れ、それを青井さんはお茶を啜りながら傍観していた
青井さんどうして落ち着いていられるの・・・
これはもう事件だよ・・・。
酔っ払ったノインが
「こんなものがあるから!こんなものがあるからいけないんですわー!」
っと、叫びながら棚にあった酒を片っ端から投げはじめた。そのせいであたり一面が酒臭い。
そのうちの一つがアイに当たった。
「イッタ!何しやがる!」
アイもそこらへんにある物をノインに投げ始めた。
そのうちの一つがポポムだった。ポポムは投げられたが、猫であるため綺麗にノインの近くに着地したが、それをノインがすぐさまポポムの頭を掴んで
「こんなもの・・・こんなのがいるからいけないんですわ!」
っと、投げ返した。アイはそれを
「お前が変なの食わせるから!」
っと、飛んできたポポムをそこへんのビンを拾ってバット代わりにして打ち返した。
ポポムはブニュァ~っと叫びながら壁に激突した。
僕はその光景の何がつぼにはまって楽しかったのかはわからない。だけど
「あは、あははは」
僕は気づいたら声をだして笑っていた。
なんて楽しいんだろう。笑ったクリスマスなんてあったっけ?初めてな気がする。
僕はもう一度玄関前で黄昏ていた言葉を紡いだ。
12月24日。やっぱり今年もサンタを見ることは出来なかった。
だけど
1ヶ月ちょっと前にサンタに願った
「友達が欲しい」っていう願いは聞いてくれた気がする。
本気でそう願った僕の前には3人の魔法使いが現れて、今はまだ知人以上友達未満だけど
彼女達を友達だって言える日が来る気がする
彼女達と一緒にいて分かったことがある
僕は・・・
楽しいって。こういうことなんだって。
「八神くん危ない!」
笑いながら黄昏ていた僕は青井さんの注意虚しく、ノインが投げた酒ビンの一つが頭に当たって気を失った。
それからどれくらい彼女達がはしゃいだのかはわからないが
深夜2時に意識が戻ったときには全てが終わっていた。
そこらへん中が壊れ、廊下とリビングを仕切っていた壁が消えていた。
アイとノインはそこらへんの瓦礫の上で横になっていて、青井さんの姿は見えなかった。
アイからは焦げ臭い臭いがするあたりノインに雷撃系の魔法でも食らって気絶したのだろう。ノインは単純に騒ぎ疲れて寝ただけだろう。青井さんは気絶してる僕に掛け物をしてくれてから夜も遅いしと帰ったと推測。
もう一度惨状を見渡した僕はため息しか出なかった。
はぁ・・・、
僕、何もしてないのに明日は大掃除か・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・
14歳のクリスマス。
ケーキもチキンも食べなかったクリスマスなんて始めてだけど
今までで一番楽しいクリスマスだった。
友達がいたことがなかったから友達の作り方なんて分からなくて
もしかしたら一生できないのかもって不安だけど
アイ達と出会って
もしかしたら、友達が始まっているのかもしれないって思えた
今はそれだけでいい。
それだけで。