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もうやだ、家に帰りたい。

アイと出会ってから一ヶ月が過ぎた。この一ヶ月は色々なことがあった。その分色々な事も分かった。


まず、アイと出会ったその日に襲ってきたノインは同じ学校で同じ学年だった。そしてアイとノインはケンカこそすれど僕から見れば仲がよかった。


ポポムが言うには、ノインは前世ではマジカルスイーパーと敵対関係にあった組織、魔の秘密結社バビロンの人間だったが別にアイとは前世から仲は悪くなかったそうだ。


ケンカこそすれど本気で殺しあったことは無かったっと記憶しているですぞっと言っていた。


じゃあ何故あの日襲ってきたかというと、どうやらノインは僕やアイを殺そうとしていたわけではなく、僕というマジックウェポンに適した契約者を取り合ってケンカをしていただけだったらしい。


言われて見れてば何度も致命傷になりそうな場面はあったのにそうはならなかったことからそれは本当だと思う。


それに、最近はアイとノインが同じくらいのタイミングで登校する前に我が家に押しかけてくるし・・・。仲は悪くないんだとおもう。


アイやノイン、ポポムが前世の記憶を取り戻したのは僕と出会う3時間くらい前だったらしい。突然ふっと気づいたらしい。気づいた直後は現世の記憶があいまいで自分が何故こんなところにいるのかと混乱したらしいが、10分もすれば転生したという結論に行き着き落ち着いたそうだ。


ポポムが言うには


「我々と同じ瞬間に覚醒した千年前の魔法使い達がまだ沢山隠れているはずですぞ」


らしいが、相手がおおっぴらに魔力を使わないと存在を感知出来ないため誰が魔法使いかは判別出来ないそうだ。少量の魔力やステルス能力をもつ魔法使いもいるためそいつらには警戒が必要らしい。


僕は魔力を持っていないから魔法使いを感知することは出来ない。だけど何か判別する方法はないかと思ってポポムから千年前の情報や魔術文字などを習っていたため分かったことがある。


同じクラスの青井瞳さんが魔法使いなのでは?っと。


昨日のことだ、青井瞳さんというクラスでも目立たないし自己主張もない。ショートボブの青みがかった黒髪に顔を隠すような大きめなメガネにきちっとした制服。地味の一言で済ませられる容姿の彼女だったが。そんな彼女の机の横を通った時だった。


たまたま青井さんがノートに書いていた文字と魔方陣のような絵が魔術文字にそっくりだったことに気がついたのである。1,2秒の出来事だったから見間違いだった可能性もあるし、もしかしたら彼女が中二病で本などで得た知識を落書きしていただけではないのかと思っていたためアイに言おうか悩んでいたが、現さっきたまたま理科の教科書を忘れたアイが僕に借りに教室に来た時に青井さんを見てもらおうと思ってそのことを言った。


これが間違いだった。


アイの性格を考えればもしかしたらっていう予想できたはずなのに。


アイはまどろっこしいことが嫌いである。出会ってからこの一ヶ月、常に正直単刀直入。


アイは青井さんの所までいって


「青井さん、貴方が魔法使いだということは分かっているの」


っと、言い切ったのである。


青井さんは言葉につまりながら焦っているのが離れていても分かる。疑いの段階なのにそんなはっきり言ってどうするんだよ。僕はフォローをしに行こうと立った時だった。


「ふふふ、よく分かったわね。マジカルスイーパー・アイ!っとう!」


青井さんはそう叫びながら教室の前のドア近くから教室の真ん中の一番後ろの僕の席までひとっとびしてきたのである。

そして僕の背後に回り込んで首に何か尖ったものを当てている。僕はそれをおそるおそる確認するとナイフにしては大きいし、包丁にしては形が違う刃渡り30センチほどのものを僕の首に当てていた。いったいどこからそんな刃物出したんだ・・・。


「動くんじゃないよ!この男がお前と契約したマジカルウェポンだってことは分かっているんだ!」


「っく、卑怯者が!」


二人とも声がでかいよ。


最悪だ・・・。


人質になっているという現実がではなく、目立っているということがだ。授業がもうすぐ始まるから教室には生徒が全員いる。全員の視線が僕やアイのほうを行き来しているよ。恥ずかしくて死にそうだ。この状況を早く終わらせるためにも説得するしかない。


「あ、青井さん。落ち着いて」


「黙れ!やっと普通の生活を手にしたと思ったのに。千年前、何十年も憧れた人としての生活だったのにお前らのせいで台無しだ!」


言ってることがあまりに飛んでるからどうやって説得すればいいかわからないよー(泣


えっと、つまりは千年前は普通の生活に憧れてたけど出来なかったってことだよな。ってことは青井さんの今の生活を脅かしにきたわけじゃないって伝えることが出来ればいいってことだ!


「あ、青井さん。僕達は君と争うつもりも君の生活を邪魔する気もないんだ。僕達も普通の生活を送りたい」


「ほ、本当か・・・?」


青井さんが刃物を僕の首からどけたのが分かる。僕はゆっくり振り返り刃物の側面を左手で持ってゆっくりおろさせた。


「本当だよ。青井さんが普通に生きたいって凄く伝わってくるもの」


この言葉の何が青井さんの涙腺に触れたのか分からないが青井さんは


「よかった・・・、よかった・・・」


っと、言いながら涙を流した。女の子の涙初めてみた。僕は胸がキューっとするのを感じた。青井さんは持っていた刃物を放すとそれは霧のように消えてしまった。


これで一件落着か。っと思ったのは甘かった。


「チャーンス!でかしたはタクト!捕まえといて!」


アイはそう叫ぶと教室の前のドア付近から僕達めがけてジャンプをした


「マジカルー!ダイレクトジャンプキック!」


マジカル関係ないどうみてもただのドロップキックである。


「青井さん危ない!」


僕はとっさに青井さんを横に突き飛ばした。


「八神くん!」


青井さんが僕の名前を叫ぶと同時に激しい衝撃を受けて僕の意識は無くなった。



・・・・・・・・・・・・・・・・



意識が戻りかけてはいるが体が痛くて動かない。声だけは聞こえる。ああ、アイとノインが言い合っているのか。


「まーったく、早とちりもいいところだわ。昔から猪突猛進、それしかないのかしらね」


「はぁ!?今回は敵意のある魔法使いじゃなかったからよかったけどそうじゃない場合だってある!先手必勝!」


「先手必勝は確かに同意しますけど、この方が貴女より強かったら貴女死んでましたのよ?」


「う・・・、」


「とりあえず前世の名前を教えてくださってもよろしいかしら?青井さん」


「・・・、ジェネス」


呟くような元気の無い青井さんの声だった。青井さんも側にいるのか。


「ジェネスですって!?まさかソウルイーターの惨殺のジェネス!?はぁ~。この猪のせいで私達タクトさんの説得が成功してなければ殺されてましたわよ」


ノインの驚いた声。惨殺?そんな異名がつくほど青井さんの前世は有名だったのか?


「ジェネスって誰だっけ?」


「貴女って本当に脳みそつまってますの?前世の最後の時、メビウスでの戦闘で共闘したじゃありませんの」


「覚えてねーわ」


「はぁ・・・」


ノインが落胆したため息をついたのが分かる。


「それじゃこう言えば思い出しますでしょうか。ソウルイーターのナンバー3」


「うわぁ・・・、思い出した・・・」


アイの声のトーンが下がった。いい印象の記憶ではないということなのだろう。


ここで僕はあることに気がついた。誰かが僕の手をそっと握ってくれているのが分かる。誰なんだろう?アイ?ノイン?それとも青井さんなんだろうか?柔らかくて暖かい手だ。


初めて女の子と手をつないだ。その相手を知りたい。その一心でまだ痛む体に無理をさせ目を開けて首だけ起こして握っている相手を確かめた。


「おお、タクト殿意識が戻ってよかったですぞ」


手を握ってたのはポポムだった。握るというより小さな前足二本を僕の左手に添えているだけだった。どうやら治癒魔法をかけてくれているようだ。


他の三人はカーテンの向こう側で僕を放置して会話していたのである。


・・・、


もうやだ。早く家に帰りたい。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


次の日。


僕は昨日あんなことがあって今日学校になど行きたいわけがない。クラス全員の前であんな珍騒動を見せたんだ。僕は仮病で休む気満々だったがアイとノインが今日も登校前に僕の家にやってきて仮病で休もうとしているパジャマ姿の僕を無理やり引っ張って外に連れ出そうとしたことで諦めて登校した。


教室についた僕は恥ずかしさのあまり下を俯いてそそくさと自分の机に座った。僕に挨拶をする人間なんてもうずっといないから、自分がいま好奇な目にさらされて話しかけられていないのかそれともいつもと変わらず挨拶をされていないのかが分からなかった。


俯きながらカバンの中の教科書などを机に入れていた時だった。


「八神君おはよう」


この声は・・・。


青井さん・・・。


どうしたらいいんだ。昨日の今日。敵であるかもしれないし、珍騒動を引き起こした三人の一人だ。僕と青井さんが話していたら周りからもっと好奇な目で見られる。


僕が何も返さず黙って俯いていると


「昨日はごめんね」


っと、青井さんは落ち着いた口調で言った。


ごめんね、か。青井さんはきっと悪い人ではないんだと思う。昨日初めて話したけど、少ない会話の中で彼女がどれだけ今を生きたいと願っているかはなんとなくだけど分かった。でもそれを僕とアイが壊してしまった。謝るとしたら僕達のほうだ。


謝ろうと顔を上げた僕は青井さんの顔を見た時、言葉に詰まってしまった。


悲しそうな顔。今にも泣き出しそうな。


今を普通に生きたいという青井さんの願いをなんとなくしか理解してなかったが、それが彼女にとってどれだけ切実な願いだったのかがその顔を見てハッキリと分かった。


僕はなんてことをしてしまったんだろう


謝ろうとあげた顔をもう一度俯かせた。言葉が出せなかった。


”こちらこそごめんね”


そんな言葉で許されるわけが無い。何を言えばいいのか分からないよ・・・。


数秒が重たい。


どんな言葉も昨日のことを帳消しになんて出来ない。あの時と同じだ。おきたことは変えられない、そんなの分かってたはずなのになんでアイに話したんだろう、軽率だった。


「あー、昨日は八神君偉かったね。見直したよ。」


え?悩んで俯いていた僕に予期しない言葉が違う方向から飛んできた。左の席の宮川さんという女子からだった。


「そうだねー。八神君が青井さん庇わなかったら青井さん絶対顔怪我してたもの。ったく誰よねへんなゴミ投げたの」


宮川さんの発言に乗るように宮川さんの前の席の品川さんの発言。


どういうことだろう・・・?分からない。いったい何が・・・。僕が不思議そうな顔をしていると青井さんが


「あれ、八神君聞いてないの?ポポムさんが催眠術の魔法が使えるから昨日の事を記憶を改ざんして別のことにしたのを」


・・・、聞いてないんだが。っていうか、青井さんはなんで悲しそうな顔してたの、もしかしてただ眠かっただけなのか。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


そんなこんなで青井さんと僕との関係は始まった。アイやノインと千年前に何があったかは知らないが僕から見た青井さんはとってもいい人、優しい人、そして・・・、悲しい顔もする人だった。


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