女の子の部屋に初めて行きました。
かつて、世界史に残らなかった大戦があった。
4つ魔の勢力の争い。魔道大戦。
人を食らう魔・ソウルイーターに対して人を助ける魔・マジカルスイーパー
世界支配を目論む魔の秘密結社・バビロンに対してそれを阻む魔の秘密結社・マジカルウォーリア。
4つ魔の争いは熾烈を極め、その戦いが終わった時にはどの勢力も歴史から消え去っていた。
「ここまでがこのしなびたジジィが記憶している情報よ」
アイが空を飛んでいるコウモリの羽が生えたラグドールのような猫を指さした。
「し、しなびたですと!?我輩は由緒正しきマジカルスイーパー・ヘルシフォン家の使い魔ポポム15世ですぞ!」
ラグドールが唾を飛ばしながら必死に喋っている。猫って喋れたんだ。
「なによ、きったないわね。唾とばさないでよ。だいたいあんた千年前の大戦で死んだはずじゃないの。死ぬ前は年とっただけの何の生物かわからない物だったじゃない」
「それを言うならアイ様とて死んだはずではないですか?何ゆえ生き返ったのですぞ!?」
「私は転生よ。それよりポポムこそ何でしぶとく生き返ったのよ。あんた喋るだけで千年前も何の役にも立たないじゃない。さっきだって影に隠れてずっと出てこないし」
アイの言葉に怒ったらしい猫がさっきよりもさらに唾を飛ばしながら喋った。
「な、な、な、わ、我輩の武器は知識ですぞ!我輩の知識があったからこそ千年前の大戦も負け戦にならずにすんだんですぞ!」
「っちょ、本当に汚い!千年前はもしかしたらそうかもしれないけど、今ポポムが言った知識なんて私だって知ってるわよ。私が知りたかったのは私やノイン、ポポムが転生してるのはなんでかってことよ」
「それは知りませぬぞ」
「じゃあやっぱり役立たずじゃないのよ」
アイの発言に猫は入れ歯でもなくしたかのように口をフガフガさせている。
「ふぁっ!?っふぁ!?ふぁふぁ!?こ、小娘が。このポポムがしたでに出ておれば調子にのりおって!ヘルシフォン様に会う前に成敗してくれるですぞ!」
猫の顔が真っ黒になり目だけが薄く光り、鋭い眼光をアイに向けている。
「ああ!?やろうってのいい度胸じゃない、かかってきな!泣かしてやる!」
「それはこっちのセリフですぞ!」
アイが猫のヒゲをひっぱったり、猫がアイの足に噛み付いたり、顔を引っかいたり。
猫と本気でケンカをしている中学生少女。そんな姿を見て僕は思った。
僕は何故ここにいるんだろうか?っと。
30分前。
ノインや黒ローブ達を倒した後の僕とアイは物陰にずっと隠れてたこの猫と合流して帰路に着いた。
アイの家のほうが近かったため僕はアイを玄関まで送り届けて一人で帰ろうとしたらアイが
「そんな服で帰ったらご両親心配するわよ。兄貴の服貸すから上がって。両親は今旅行でいないから安心して」
っと、言った。
アイに言われてから気づいた、僕の服はノイン達から逃げていた時に転んだりぶつかったりしたせいでドロだらけになっていた。
別に心配する人なんて家にいないけど、確かにこのままドロだらけの服で帰るには街中を通らなければいけないためそれは恥ずかしかった。だからアイの申し出を受けることにした。
アイの家は僕が住んでいるこの葉座凪市でも高級住宅街とされる場所に立っていた。しかも他の家の2,3倍くらい大きい家だった。裕福なんだな。
玄関を入るとアイが
「シャワー使っちゃって。その間に着替え用意して置いておくから」
そう言われたからシャワーを使っていたら・・・、油断した。
まさか脱いだものを洗濯し始めるとは思わなかった。これじゃ着替えてすぐ帰ろうと思ってたのに出来なくなってしまった。
シャワーを出た後は乾燥機の中の服が乾くまでということで仕方なくアイの部屋にいたらこんな状況に。
はぁ・・・。帰りたい。
「ちょっと、タクト!黙って見てないで加勢しろ!」
少し考え事をしていた間にアイの顔が引っかき傷だらけになっていた。ってかもう呼び捨てなの。
「猫とのバトルに加勢なんて出来るわけないだろう」
僕がそういうと猫が毛を逆立てて怒っているように見えた。猫はするりをアイの股下を抜けてこっちに向かってくる。ってか、この猫さっきから見てたけど一発もアイの打撃攻撃当たらなかったな。
「ね、猫ですと!?我輩にはポポムという代々受け継がれてきた立派な名前があるですぞ!」
汚い、本当に唾を飛ばしながらしゃべるな。
「ごめんよポポム。まだ自己紹介もしてなかったから名前が分からなかったんだ。僕は八神タクト」
実際はさっき名乗ってた気がするがそういうことにしといたほうがめんどくさくなさそうだ。
「むむ、そうでございました。我輩としたことが失礼でしたぞ。我輩の名前はポポムですぞ。ヘルシフォン家に使える15代目ポポムですぞ」
「よろしくポポム」
「よろしくですぞタクト殿」
ポポムは僕の顔の高さまで浮遊して静止した。そして右前足を出してきた。握手をしようということなのだろうか?とりあえず右手でその右前足を握ってみた瞬間アイが叫んだ
「チャーンス!そのまま捕まえといて!」
アイが突如空中に舞った。
「あわわわわ。タ、タクト殿早くお手をお離しくださいですぞ」
ポポムはそういって慌てているが、僕は突然のことにジャンプしているアイを凝視して動けなかった。ポポムは必死に僕の右手に猫パンチをくりだすが柔らかくて気持ちいい~。
「つっかまえたー♪さてどう料理してくれようか。この顔の傷の恨み」
「タクト殿お助けをー」
ポポムは助けを求めているがアイは悪人のような顔をして楽しそうだ。こんな悪人面してる相手に僕が言えるのはこの一言だけだろう。
「ほどほどにね」
ポポムの目と口を大きく開いて驚いた表情が笑えた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・
「これが今日あったこと」
僕は月明かりだけの薄暗い部屋でベッドに横になりながら天井を眺めながらつぶやいた。
「マジカルスイーパーか、いったい何が起きてるんだろう」
時間が遅かったし詳しい説明は後日ってことで帰ってきてしまったけど。ノイン達から逃げてる最中に携帯壊れて連絡先交換でき無かったな。
初めての友達?なのかな。友達なんて言葉でいったからなれるものじゃないことは分かってるけど。
今日は大変な目にあったなもうこりごりだ・・・。
・・・、
でも。楽しかったな。また会えるといい・・・な・・・。
携帯・・・、しゅう・・り・・
横になって考え事をしているうちに意識が薄くなり僕は気づいたら寝ていた。
夢の中で僕は何かに追われていた。
「タクトー!八神タクトー!」
僕の名前を呼ぶそいつの姿は分からないが僕は怖くて必死に逃げていた。
どこまで逃げても名前を呼んで追ってくる。こんな夢はじめてだ・・・。
僕は特殊能力とでもいうのだろうか、昔から夢と現実の違いがはっきりと分かっていた。
だから今見ていることが夢なのだと分かっているのだが、こんな夢を見た要因は昨日の出来事が原因なのか?
クトー、タクトー!
ん?んんん?僕は不自然な呼びかけに気づいた。それに気づいた時、夢の中で俺を追いかけてくる奴が消えていてなおかつ夢から覚めかけていることに気がついた。これは現実世界のほうで誰かが僕を起こしに来たってことか?
僕は自分の体を無理やり覚醒させて目を開けた。部屋を見渡すが誰もいない。
「誰も、いない・・・。はは、当たり前だよな。一人ぼっちなんだから・・・」
僕は夢も最悪なら寝起きも最悪な気分で一日が始まってしまったと後悔した。
だが、一分後。そんな気分は吹っ飛んでいた。
「タクトー!八神タクトー!」
窓の外から僕を呼ぶ声というより怒号が・・・。僕の部屋は一軒家の二階なのにこんなに響くなんて近所中に響いてるぞ!
僕は急いで窓を開けて外を見た
「ったく、ようやく出てきたわね!この寒空のした待たせるなんていい度胸じゃない!」
窓を開けた外にはアイがいた。
「なんで僕の家を分かって・・・って、あれ?その制服、うちの中学の・・・」
「そうよ!同じ中学の同じ学年よ!家が分かるのはここが学校いく通り道にあるからよ!」
そっか、だから連絡先をメモとかで渡されなかったんだ。でもこんな子が同じ学年にいたなんて知らなかった。いや、僕は同じクラスの人間の顔だって満足に知らない、か。
僕が少しだけ考え事をしているとアイは不機嫌顔で怒号を飛ばしてきた。
「三分で支度して出てくるか!今すぐ家にいれるか!どっちか選べ!寒いんだよ!」
「直ぐに玄関あけるよ!」
僕は駆け足で階段を下りて玄関に向かった。玄関の外からはドアを挟んでも不機嫌なアイのオーラが分かるほどだった。急いで鍵を開けてドアを押したらチェーンをはずし忘れていた。少しだけ開いた隙間から何かが入り足元を通過した。
「お邪魔しますですぞ、タクト殿」
ポポムだった。
「私より先にポポムを入れるとはいい根性してるじゃないの」
ドアで見えないがアイの不機嫌オーラが増大したのがなんとなく分かった。
「不可抗力だよ、直ぐ開けるよ。だいたいポポムが着てるなんて知らなかったよ」
僕はドアを開けながら思った。
産まれて初めて女の子を家に入れたシチュエーションが怒号を飛ばされながらとは・・・。
チェーンが外れると同時にドアを勢いよく開いて僕の顔面にクリーンヒットさせたアイがお邪魔しまーすっと言いながら入ってきた。
アイは不機嫌ながらも外よりは少し暖かい部屋の中に入ったことで少し機嫌がよくなったのが分かった。それを見た僕はほっとしたが、次のアイの一言にドギモを抜かれた。
「ったく、これから学校のある日は毎日来るってのに私が来る前に部屋温めておきなさいよ」
え?
「とりあえず、お茶!女の子がきたのにお茶もださないとは何事!」
「は、はい」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
そんなこんなで僕とマジカルスイーパーとの関係は始まった。
こんな出会いが退屈しない学生生活の始まりだなんて友達いない暦14年の僕にはほんの少しも想像も出来なかった。
アイと出会った事で、世界さえ巻き込んで僕というコンプレックスの塊を変えることの始まりだなんて
ほんと、想像出来てなかった。