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それって何?  作者: ミーケん
二章
8/15

観客席で

それは彼女?

「あなたはなぜ──」

 美しい声が会場に響き渡る。伝説の彼女の姿はこの目に収めるに留まることをせず、網膜まで引っ張っていきそうな程だ、、

「ねぇ、あの人?」

 隣に座っていた彼女に小声で尋ねられた。彼女と付き合ってもう5年になるが、最初と変わらず今でも気持ちは変わらない。

「あぁ、彼女だ」

 俺は別にここに舞台を楽しみに来た訳では無い。いや、半分は楽しみに来たんだが、もう半分は全く別の理由である。

「彼女が俺の─」

 ふと、目線を舞台に移すとその彼女が血だらけになっていた。

「何があったんだ?」

 彼女は目を離した隙に血だらけになっていた。

 なぜ?一体何があった?

「あーあ。もしかしたらだけど、あれの餌食になったんじゃない?」

 隣から声を聞く。

「あれ?あれってここにもあるのか?」

 こいつはよく怪しい噂を持ってくる。しかし、その全てが大方根拠を持っているため馬鹿にできない。

「あるよ。しかも、最近活発になってきてるの」

「だ、だとしたら俺たちは……」

「うん。逃げないといけなかった。でも、もう遅いよ。彼女は既にそれに呑まれてしまった」

 彼女を見るとそれであることが伝わった。周囲にすでに人は無く、静寂がその場を支配していた。

「俺たちはどうなっちゃうのかな?」

 俺はふと隣に聞いてみた。しかし、俺の声に答える音はなかった。ただ、静かで無駄に広い空間に俺の声が響いただけだった。

「……おい?」

 隣を見ても彼女はいなかった。

 それは俺の想像を超えていた。それに支配された彼女は舞台から未だに声を響かせていた。

「助けて。私をここから助けて」

 彼女は助けを求めていた。

 両手を天に向かって掲げて、目を見開いてありえない方向に首を曲げて、それで尚、俺に向かって助けを求めていた。

「私は一体何を──」

 なぜ?彼女はなぜあそこにいるんだ?

 俺はついさっきまで、隣にいた彼女と舞台の彼女について話していたじゃないか。

 ん?待て。一体彼女はどっちだった?いや、そもそも俺の言っている彼女は誰だったっけ?

「た、助け──」

 その時、音が聞こえた。

 生魚を手で無理やり握り潰したような、生肉を無防備に投げたような、そして、頭と胴体が首を境に捻じ切れた音が聞こえた。

「や、やめてくれ…」

 なんの支えもなくなった体がゆっくりと倒れていく。

「なんでこうなったんだよ」

 舞台の上で彼女が死んだ。

 観客席で座る俺はずっとその死体を眺めていた。

 いや、眺めさせられていた。

それは認識を狂わせる


次回→交差点で

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