町の外にて
どこにそれはあるの?
それはあれなの?
私は町出身の異質者だ。
この外の世界において私はいるはずがなく、いることで多くの悲劇を招く悪魔の使者と言ってもまったく過言でもなんでもない。
事実、私が外に出たことで起こった悲劇は数知れない。
ここ最近はそんな私に恐れをなしてか、人がからっきし寄ってこなくなってしまった。寂しいことではあるが、しかしそれは正しい判断である。
外に出てもう1年になる。
今、町はどうなっているのだろうか。
私がいなくなった後でも〝それ〟はあるのだろうか。いや、あるのだろう。〝あれ〟は別に私の所有物でもないし、私が作り出したわけでもないのだから。
ただ、あそこにあった。ただそれだけのものなのだから。
「お姉さんも死ににきたの?」
ふと、声をかけられた。幼い少年の声だった。
それまで寄りかかっていた鉄柵から手を離し、そちらへ視線を送る。その声の主は私のすぐそばに見上げるようにしてすっと立っていた。
薄手のパーカーを着て、ズボンは転んだのかわからないが少し泥で汚れていた。髪はボサボサで目が見えないほど前髪が伸びていた。
しかし、目の代わりに必死につぐまれた口が見えた。
私は返答に困り、少し決まりの悪い笑みを浮かべた。
「僕の死に場所に何か用?」
「ここは君の死に場所なの?」
「そうだよ。昨日から決めてたんだ。ここで死のうって」
少年は暗い口調で言った。滑舌も安定しておらず、もしかしたらここ最近人と話していないのかも知れない。
「私は別に死にに来たんじゃないの。ただここから見える景色が好きでね。ときどき寄ってるのよ」
私はこの光景が好きだ。景色が好きだ。
ここから見える沈む大陽が私のいた町を照らしている姿を見るととても考えさせられる。
〝もし今、私があの町にいたらどうなっていたのか〟
そんなありふれた妄想をする。
もちろん答えなんてないから適当に切りがよくなれば思考を止めるのだけど。
それでも楽しいことには変わりない。
「お姉さん。あの町のこと知ってるの?」
「え?なんで?」
「いや、知らないんならいいんだ……」
そこで少年は少し呼吸をおいて再び口を開いた。
「……ただ、僕。あの町がどんなところなのか気になってて。おと─」
慌てて少年は訂正する。
「お母さんに聞いてもなにも教えてくれなかったから。ただひと言『行っちゃだめ』って言われて」
「なのに気になるんだ?」
「だから気になるんだよ。人間、だめって言われたらやってみたくなるものじゃん?」
「さ、さぁ?どうだろう。でも、そうね。確かにそうかも」
「それで?お姉さんあの町のこと知ってるの?」
私にとってこの少年はどうでもいい存在だった。だって少年はこれから自分の意思で飛び降りようとしていた人間だ。自殺しようとしていた幼い少年だ。
どうせなら冥土の土産に聞かせてやろう。
…なにげに冥土の土産とか使うの初めてだなぁ。
「じゃあ、少しだけ教えてあげる。私けっこう詳しいのよ?」
「やった!」
少年は初めて年相応な笑みを浮かべた。
1章終了。
それはそれ。
2章はちょっと前の〝彼ら〟のお話。
もしくは〝彼ら〟に関する人々のおかしなお話。
それは人?