電車にて
それだから?
「俺は電車が大好きだ」
「そーですか」
「どうした?」
「なんでもないですよー」
規則的に揺れる電車で隣に座る少女は退屈さそうに窓の枠の中で動く模型のような景色を眺めながら言った。
「なにかやなことでもあったのか?」
「強いて言うなら今この瞬間がやなことなんですが」
「聞こえなかったなー。あーあー。なーにも聞こえナーイ」
「わざとらしいですね」
「いや、元々俺は少し耳が悪くてね。小声だと本当に聞こえないんだ。さっきのは聞こえたけど」
「やっぱり聞こえてるじゃないですか!」
少女は頬を膨らます。
「わっかりやすく怒るなー」
表情が分かるのは良いことだ。表情が変わるのは良いことだ。なんでも写してくれる心の鏡とはよく言ったものであるが、世の中にはそうじゃない人もいることを世間は知るべきである。
「それで?おじさんはどこに連れていってくれるの?」
おじさんって。
「俺はまだ20代だぞ?おじさんじゃない。お兄さんと呼びなさい」
「ロリコンお兄さん」
「最初のはいらないよ!」
「じゃあ、おじいさん」
老けたし。
「まぁ、いいや。えっとね。これから向かうところは町の外だよ」
このやな町の外だよ。
「あれ?おじさんそんな切符よく買えたね?」
この電車の切符は時々ネットオークションに掛けられるレア物なのだ。偶然2つも余計に競り落としてしまった俺はその片割れをこの少女に分けてあげたのだ。
「あぁ。俺はちょいとばかり運が良かったようだ」
本当に運がいい。今日は丁度雲ひとつない晴天。こんな日に外に出られるなんてほんとうに幸せだ。
「でも、おじさん」
「なんだ?」
「今日って何曜日?」
いきなりなんだ?今日は確か……
「火曜日だ。それがどうしたんだい?」
少女の顔を再び見ると少女は真っ青になり、少し震えていた。
「ど、どうしたんだい!?おい!しっかりしろ!」
誰もいない客室に俺の声が響く。
「わ、私……」
「どうしたんだ?今日が火曜日だとなにか都合が悪かったのか?よし。今からでも降りよう!まだ町中だし、降りれるはずだ!」
そう言って止まった駅で降りようとするが、ドアが開かない。
「おじさん。私はどこ?だれが私?」
少女は虚ろな目で告げる。
俺は叫んだ。
「ここは町中で、君は………」
ふと思う。思い、想うことを思った。
ここは、だれか。
君がだれか。
「いや、ここに俺はいなかった」
なにかが違う。
それが目の前に迫っていた。
それは精神を犯す。
次回→町の外にて