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決闘は誰が為に

「僕に何か用でしょうか?」


 好青年モードで振り向きざまに返事をする。


 レンヤに声を掛けたのは一人の少女。制服からして違う科のようだ。燃えるような真紅の髪を束ね、ポニーテールにしている。目つきの鋭さ故か、女性受けするような凛々しい顔つきだ。

 さらにその少女の傍で、先程クートが歓迎会に誘おうとしていたジーナが申し訳なさそうに目を伏せていた。


「アタシと決闘だ!」

「決闘、ですか?」

「そうだ!」

「でも僕は一般科ですよ?」


 決闘。


 それはヴェンダル帝国総合学園に存在する三つの科の一つである戦闘科で頻繁に行われるものである。


 文字通り戦闘技術を磨く科である戦闘科の生徒は、卒業後はその技術を活せるような職に就くのが一般的である。

 そしてその数ある就職先の中で最良とされるのが国直属の帝国騎士団である。国を守る最前線に立つというその役割から、在籍しているだけで多くの者から憧れの存在として見られ、騎士達本人も誇りを持って役目を果たしている。

 当然人気があり、戦闘科のほとんどの生徒が目指している為、当然倍率は高くなる。


 しかし帝国騎士団は民の命を背負う為、生半可な実力の者では入団する事など出来ない。

 その為に学園側が用意したのが順位システム。

 生徒一人一人に実力に応じた順位を付けることで、帝騎士団に入れるかどうかの一種の目安にするためだ。その中でも、一位から十位までの生徒の入団は確実とされている。


 ではどうやって順位を決めていくのか。

 それは至って単純なもので、相手に決闘を申し込むという形で決める。自身より上位に決闘を挑み、勝てば相手の順位と入れ替わる。


 これらのことはレンヤはきちんと把握していた。

 しかし、あくまでもそれは戦闘科の中での話。一般科であるレンヤには関係ないはずだ。


「学則には戦闘科以外の科の生徒と決闘してはいけないなんて書いてない!」


 自信満々に胸を張り、少女は答えた。

 レンヤは予め読んできていた学則の内容を頭の中で確認したが、少女の言う通りだった。


 それもそのはず、学園側は戦闘科の生徒が一般科の生徒に決闘を申し込むとは想定していなかった。

 そもそも一般科の生徒が勝てる訳はなく、帝国騎士団に入ろうとする者がイジメのようなことをするはずがないという考えも根底にあったからだ。


 つまり一応は少女の言うことは正しい。

 そしてレンヤの答えも決まっている。


「お断りさせていただきます」


 どう考えても面倒臭いことにしかならない。というよりは既になっている。

 キッパリと言い放つが、少女は食い下がってくる。しかしレンヤはそれすらも無視し、別のことを考えていた。


(この女はなぜ俺に関わってきた? 俺はただの転入生のはずだぞ?)


 転入生が来たという情報は学園の生徒なら簡単に手に入れられるだろう。しかしそれがレンヤだということを知っている者は今のところクラスメイトしかいなかったはず。

 なのにこの少女はレンヤが転入生だと把握しており、さらには何故か決闘を申し込んできた。


(裏に誰かがいるのか?)


 レンヤがこの学園に転入生として来ることを予め知る事が出来、なおかつこの少女の現状のように人の心を上手く扇動出来るような者。

 ふと浮かんだのは、一人の仕事仲間。


(後で確認するか)


 それを決めると、レンヤはもう用は無いとこの場を去ろうと歩き出す。

 その後ろを慌ててギル達も付いてくる。


「よかったのかレンヤ? いや、そもそも異例のことだし受ける必要はなかっただろうけどよ」

「いいんですよ。さて、早く向かいましょうか」


 後ろで先程の少女が何かを叫んでいるが、気にすること無く足を進める。

 今度こそ歓迎会の会場になる店に向かうはずだった。だが――


「貴様の家族がどうなってもいいのか!!」


 瞬間、少女は膝をついた。少女のみをピンポイントに狙った、濃い殺気によって押し潰されそうになる。


「お前、今何て言った? 俺の家族をどうするって?」


 コツ、コツと足音を響かせながら少女の元へとレンヤは近付いていく。


「別に俺に何が起きたっていい。どんなに俺が貶されてもいい」


 口調が無意識に戻ってしまっている。

 そんなレンヤの心に湧き上がるのは、怒りの感情。


 ついに少女の前に立つと、据わった目で見下ろす。


「だがな? 俺の家族に手を出す奴は、絶対に許さない」


 先程とは違う、圧倒的な威圧を放つレンヤに何が起きたのかと少女は混乱している。


「お前、名は?」


 そんなことはお構い無しにレンヤは問いかける。


「ロゼッタ……キャンベル……」

「ロゼッタ=キャンベル。お前の決闘の申し込みを受ける。やっぱり無しとは言わないよな?」

「あ、当たり前だ!」

「そうか。ならさっさと行くぞ」


 キャンベル。家名があることからロゼッタは貴族の子女であることが分かると、レンヤは小さく舌打ちをする。

 仕事柄、貴族の汚いところを飽きるほど見てきた。それだけに貴族にあまりいい感情は持ち合わせていないからだ。




 レンヤとロゼッタは戦闘科の生徒用の訓練場で一定の距離をを開け対峙していた。

 ドーム状の天井に、平でひらけている横長の地。訓練の様子を見れるように囲むようにして観客席も存在する。

 そして現在、その観客席は全て埋まっていた。

 先程のレンヤとロゼッタのやり取りを見ていた人から、さらに人へ。戦闘科の生徒が一般科の生徒と決闘するという話が広がった為だ。その観客の中にはギル達も混ざっている。


「さっさと始めるぞ」

「……本当にそれでいいのか?」

「気にするな。どうせすぐ終わる」


 ロゼッタは動きやすいように着替えていたが、レンヤは制服のままだ。さらに槍を構えている彼女に対して、無手である。


「なあ、どうせだ。何か賭けないか?」

「賭けだと?」

「あたしが勝つのは目に見えてるが、簡単に終わったらつまらないだろ? だから貴様が士気を高められて少しでもアタシに抗えるようにな」


 レンヤが無手であることからどうやら余裕を取り戻したようだ。怯えは消えている。


「別にいいが、お前は何を望む?」

「……貴様自身を望む。あたしが勝利した暁には、奴隷になれ」

「いいだろう。なら俺は……」


 レンヤがあっさりと許可したことでロゼッタは一瞬驚きを見せる。

 一方レンヤは望むものを考えたが、これといって思いつかなかった。そこでふと視線に入ったのは、ギル達の知り合いであるはずのジーナという少女。


「なあ、あいつはお前の付き人か何かなのか?」

「付き人ではなく、あたしの都合のいい玩具だ。絶対服従、あたしが何をしても逆らわない。あの女が欲しいのか?」

「ああ」

「オッケー、決まりだ」


 どうやらジーナは酷い扱いを受けているようだ。このような相手に、遠慮はいらない。

 話は終わり、辺りを沈黙が包む。


 そして、決闘が始まる。


「始め!」


 決闘を見届ける役割を果たす審判――戦闘科の教師が決闘の開始を告げる。

 その瞬間。


「終わりだ」


 ロゼッタの首元に、ナイフが添えられていた。





お読みいただきありがとうございました。

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