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里への入り口

お久しぶりです。

 『終焉の森』――――


 それはかつて世界を混乱へと陥れた魔王が封印されていた地である。外見だけならよくありそうな鬱蒼とした森であるが実状は全くもって違った。


 まず不可視の結界が森を囲うように幾重にも張られている。外部から人が侵入しない為でもあるが、内部からの魔物の脱走を封じ込めることが主な目的となっている。封印されてもなお溢れ出る魔王の瘴気によって魔物が狂暴化し、手に負えないほど強大になっているからだ。魔王封印の地であり、そのような魔物がうじゃうじゃいる場所に好き好んで近付く者など当然いるはずがなかった。


 しかし、たった今『終焉の森』へと四人組が訪れていた。逃走中のレンヤ達だ。


『懐かしいのぉ。まるで帰郷した気分じゃ』

『随分物騒な故郷だな』

『住めば都と言うしの』


 封印されていた魔王と呑気に会話しているレンヤとは対照的に、女性三人は森を前に圧倒されていた。誰も足を踏み入れない秘境へと入ろうとしているのだからそれも当然だろう。


「それで……どうやって中に入るんだ?」

「とりあえずついてこい」


 すたすたと先に歩いていくレンヤを慌てて追いかけていく三人。森の外周を伝う様にしばらく進んでいくとレンヤは足を止める。


「ここだ」


 地面に生えていた草が不自然に途切れている場所。そこでレンヤがつま先で地面を軽く三回蹴った。その瞬間――――


「な、なに!?」


 急に足元が揺れ始め、イリスはロゼッタに飛びつく。ゴゴゴゴ……とレンヤが立っていた場所が沈んでいき、そこには階段が現れた。


「行くぞ」


 いかにも怪しげな入り口に冒険心をくすぐられたのかロゼッタは目を輝かせていた。


 階段を降りると人がギリギリ通れる程度の大きさの道があった。薄暗い中をどうにかして進んでいくと出口だろうか、先の方で光が差し込んでいた。進み終わり、眩しさに目が慣れ始めると――――


「うわぁ……すごい……」


 イリスだけが感嘆の溜息を漏らすが、ロゼッタとセリアも目の前に広がる風景に心奪われていた。。


 『終焉の森』とは違ってしっかりと管理されているであろう、綺麗に整えられた木や花が爽やかな風が吹き抜ける事によってそよそよと揺れている。畑なども見られる自然を感じさせる環境には丁寧に作り上げられた木造家屋が並び、風情を感じさせる。


 どこか落ち着くような、のどかな雰囲気を感じさせる風景を彩るのは空中をふよふよと揺れながら飛んでいる下位精霊達だ。下位故に人の形はとれず小さな光の玉となっている精霊によって輝かしく彩られた風景は、現実ではないかのような幻想的なものを感じさせる。


「特に名前は無いが……まあ里でいいか。セリアはここについて聞いたことがあるだろ?」

「う、うん……。『機関』が秘密裏に亜人を匿っている場所があって、定期的に物資を運んでるって……」

「亜人だと!?」


 セリアの言葉に過剰な反応を示したのはロゼッタだ。


「亜人というと、過去の大戦において滅んだはずだったのでは!?」


 過去に魔王が世界征服に乗り出し、様々な被害を人間に対しもたらした。やりかえそうにも魔王の勢力は強力であり、難しいことであった。そこで人間側が目を付けたのは亜人と呼ばれる者達だ。


 人ならざる者――――


 かつて人間は異種族との交流を持っていた。獣の特性を引き継いだ獣人や、とがった耳が特徴で魔法を得意とするエルフなど。共に手を取り合い日々を過ごしていたのだ。


 しかし魔王による被害が拡大することで、異種族に対する迫害が起き始めた。魔王軍には人間は存在せず、魔物や魔人といった異種族が占めていた。


 要は八つ当たりだ。人ならざる者に被害を受けた。しかし力を持たぬ者達には反抗する手立てがない。しかし近くにも人ならざる者がいるじゃないかと。


 それまで親しくしていた異種族を差別的な意味を込めて亜人と呼ぶようになり、その亜人達は突然の人間側の変化に逃げ惑うことしか出来なかった。


 人間側の執念はかなりのもので、亜人達は次々と捕まり公開処刑にされるなど、人間の鬱憤晴らしに使われることで数を減らしていった。そしてついには滅んでしまったとされていたはずだ。


「生き残ってる奴を見つけてな。『機関』で匿うことにした。あいつらはあくまでも被害者だ」


 ある日、隠れるように細々と暮らしていた亜人達の集落を見つけた『機関』。当時はともかく、今は差別的な考えはないが、結局は同じ人間。亜人側にとって畏怖の対象に見つかってしまった時の警戒心は相当なものだった。


 時間をかけることでどうにか和解に成功し、こうして安全地帯を提供するに至ったのだ。

 

「ミアとの余生はここで過ごそうと決めていたんだが……随分早い再訪になってしまったな」


 ――――こんな素敵な場所でレンヤくんと二人きりで……


 セリアは自然と頭に浮かんできたレンヤと家の縁側でお茶を飲みながらゆったりするという妄想を頭を振ってリセットし、レンヤへと問いかける。


「こ、この後はどうするの?」

「ん、とりあえずは長に挨拶だな。しばらくはここに滞在させてもらうつもりだ」


 『終焉の森』の地下。そこには亜人達の住む里が存在していた。


 メル達が色々と準備を進ませている間、ここでまったりしていようと決めていた。そのはずが――――


「なぜ、俺は喫茶店なんてやってるんだ……」



前作を読んでくださった方はご存知かもしれませんが、作者は亜人というか、もふもふ獣人や残念エルフなどが好きなんです。

つまり、次話で出します。


評価や感想、ブクマなどよろしければ是非。


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