再びここへ
クラスの中心人物であり異世界人でもある紫苑の誘拐及びレンヤの正体。この情報が広まれば世界が混乱することは確実であり、それを危惧したイクリード王国上層部は箝口令を敷いた。しかし人の口に戸は立てられぬという。これから先は時間との戦いになるだろう。
情報はイクリード王国とヴェンダル帝国のみで共有することになり、魔王捜索隊が派遣されることとなる。
異世界から来た少年少女達は城で大人しくしているしかなく、リオン達も魔王と共にいる時間が長かったことから監視が置かれるようになった。
ヴェンダル帝国へと戻ってきたリオン達は溜まり場でもある喫茶ラスクの二階に集まっていた。集まったメンバーを見渡し、リオンが一言。
「することがない」
「えっ」
メルが驚きのあまり声を漏らす。
「僕達はレンヤ風に言うと脳筋だからね。情報が集まるのを待つしかないのが現状だよ」
「だからアリシアがこの場にいないわけですし」
アリシアは諜報部隊の指揮を執るべく本部に籠っている。しかしこの場にいないのはアリシアだけではなかった。
「ミクルーアがいないのは?」
「とある理由で療養中だね」
「療養って大丈夫なの?」
「病気とかじゃないから安心してよ」
ほっと安堵すると、メルは重大なことに気付く。
「あれ? 監視の人がいない?」
魔王であるレンヤと関わりが深かったリオン達にはイクリード王国からの監視があったはずだ。そのはずがそれが無いことに気付いた。
「ああ、それなら帰ってもらったよ」
「帰ってもらったって……」
「『機関』の権力ってとこかな」
メルはレンヤ達に振り回されるあまり忘れかけていたが、『機関』は大っぴらには出来ない裏の仕事を遂行する組織だ。王家との繋がりもあり、そのような権力があっても不思議ではない。
「それにしても寂しいですねぇ」
レンヤとセリアは逃避行、ミクルーアは療養中でアリシアは仕事。この場にいるのはメルにリオン、そしてサクヤの三人のみだ。
リオンとサクヤは前線に出る、いわば実働部隊だとして、メルは自分の役割が気になった。
「私って何をすれば……」
「それなら事前にレンヤから伝えられてるよ。代理でリーダーでもやらせとけって」
「はい?」
「というわけで僕とサクヤはメルに付いていくよ」
「よろしくお願いしますね? リーダー」
今度はメルがレンヤの苦労を背負う羽目になり、突然聞こえた叫び声に、一階にいた客が驚いたという。
※※※
「今頃メルが苦しんでる頃か」
「どうしたのレンヤくん?」
「いや、なんでもない」
小さく揺れる馬車でレンヤとセリアは静かな時を過ごしていた。
「レンヤ、言われた通りに進んでいるがこの先にあるのは……」
御者を務めているロゼッタが振り返りながら疑問に思っていたことの確認を取る。イリスはロゼッタの肩にもたれかかり寝息を立てている。
「凶暴化した魔物がうじゃうじゃいるんだ。誰も近寄ろうとはしないし身を隠すにはうってつけだろ?」
「ということは……」
魔王としてはあまりにも合わないだろうけどなとレンヤは内心苦笑する。
「魔王封印の地、『終焉の森』だ。
舞台は終焉の森へ




