嫌な予感
忙しくてあまり誤字脱字などの確認が出来なかった。反省。
異世界から呼び出した若者達がダンジョンへと発つ前日の夜。シルフィーナはイクリード王国の国王、ユリウス=イクリードと食事を共にしていた。人払いが済ませてあることから、内密の話があるようだ。
静かに食事を進めながらも、シルフィーナはチラリとユリウスを覗き見る。
いかにもな優男といった風貌で、どこかチャラチャラとした印象を受ける。好色であり、後宮にはかなりの数の女がいるという話は有名である。
偉丈夫の父と比べると線は細く頼りないが、実はかなりの切れ者だ。あの優秀な父と昔馴染みとして今もなお仲が良いというのも、互いにその能力を認めているからであろう。
そんな彼がこのような場を作るということは、良い話ではないということは確かだ。
「前置きはよしておこう。単刀直入に言うと、どうやらこの国に怪しい奴らがうろついているようでね」
「怪しい……魔王が復活した、ということと何か関係が?」
「うん、その通り。僕お抱えの諜報部隊からは魔王の事なんか何一つ知らされてないんだけど、一部の有力貴族達が騒ぎ出しててね。魔王が蘇るから英雄を召喚しろーって。その怪しい奴らが煽ったのかもしれない。とにかく、そいつらは異世界人を必要としていたわけだ」
必要、ということはそこには何かしらの理由があるはずだ。国を盛り上げるための話題作りだとしても、魔王の名をわざわざ出す必要はない。
「地道に念入りに手を回していたみたいでね。痕跡も消されるし追跡もかわされるし、かなりの手練れみたいだ。きっと何年も練り上げた計画なんだろう。君たちがいて本当に心強いよ」
「それは偶然ですか?」
「さあどうだろうね。少なくとも、僕は娘を大切にしているよ」
脈絡のない話であったが、シルフィーナはそこに隠された意味をしっかり読み取った。
大事な娘が消息不明になっているにも関わらずこの落ち着きよう。一国の王なら一人の娘より多くの国民の安全を優先するのは分からなくもない。
だからこそ、娘が大切という言葉は現状をわざと看過しているということに繋がるのだろう。きっと既に娘の居場所など把握していて、安全なところに自分から逃げてもらうことで国の事だけに集中しているのだ。娘が外の世界に憧れていて、ここを出ていこうと考えているのを知っていて、あえてそれを見逃した。わざと逃げ出しやすいタイミングなども作ったのではなかろうか。
そして、娘の消息不明を理由にシルフィーナ達を呼び出した。
「全ては望む展開通りですか」
「んー、よく意味は分からないけど。そういえば、君の騎士達は面白いね」
本当に食えない男だ。はっきりと口にはしないが、着実にこの男の想定通りに物事は進んでいる。
「レンヤ、ミクルーア、サクヤ、リオン、アリシア、セリア……よくこれだけ見つけたもんだ。特にレンヤ。彼は本当に興味深い」
「……どのあたりが、と一応聞いておきます」
「職業柄、相手の目を見ればどんな人物かというのは分かるんだよ。彼の目に宿っていたのは様々な負の感情。怯え、不安、絶望、恐怖、恨み、苦しみ、後悔……それに、隠しきれない死の匂い。きっと彼は人間の醜いところを多く見て育ってきたんだろう」
皇女として、一人の恋する女としてレンヤの事はミクルーアほどではないが理解していた。この男はそれを一瞬で見極めたようだ。
「だからこそ、彼は強いし弱い。どん底から這い上がって来た経験は何よりの強みでもあるし、彼の周りには頼れる仲間もいる。けれどもミクルーアという存在が彼の弱みだ。彼女がレンヤの唯一無二の存在である限りはね」
「それは……」
シルフィーナは何も言い返せない。それは、自分でも分かっていたから。
「とまあ、真面目な話はこのぐらいにして。あ、レンやの事を興味深いと思ってるのは本当だよ? 彼は王の器だ。立場云々抜きにしてうちの娘の婿さんになってほしいぐらいだ」
「むっ……」
「おっ、君のむくれる顔は初めて見た。そんなにお熱なのかい?」
さっきとは打って変わって和やかなムードになる。
「とにかく、こちらにいる間は助力よろしくね。頼りにしてるよ」
さわやかな笑みが、シルフィーナには悪魔の笑みに見えたとかなんとか。
※※※
「やることはやったよね……」
優人は一人、ベッドの上で横になりながら呟く。
ダンジョンを明日に控え、早く寝ようとは思うものの中々寝付くことが出来なかった。なぜなら優斗はただ一人、戦闘技術というものを習得できなかったからだ。才能云々の話ではなく、そんなの無くてよいとレンヤにくぎを刺されていた。
優人は訓練初日から書庫に足繁く通い、ダンジョンに関する知識を頭に詰め込んでいた。その結果、魔物やダンジョンの構造については誰よりも詳しいと言えるほどにはなったが、一つの懸念があった。
「そもそも俺の言うことを聞いてくれる人がいるかどうか……」
優人はクラスカーストでは中の下あたりにいる。嫌われているわけではないが、事情を知らない他人から見ると、訓練も受けずにどこかをほっつき歩いている風に見える優人の言葉を真面目に聞いてくれる者がいるか怪しいところだ。
何をしているのかバラすなとレンヤに忠告されているのでどうしようもないのだが。
落ち着かず、何回も寝返りをしているとドアを控えめに叩く音がした。既に時間も遅いため用心しながらドアを開けると、そこには歌穂が立っていた。
「あの……少しいい?」
「う、うん……入って」
夜中に女子と二人きりという状況に内心慌てふためきながらも入室を促す。急いで湯を沸かし紅茶を用意すると、元から部屋に備え付けられていたソファに歌穂が座っていたので間を空けて隣に腰を下ろす。
「……今回のダンジョン遠征、杉山くんはどう思う?」
「どう思うって……正直行かない方がいいと思う」
「危険だから?」
「うん」
優人が調べたところ、ダンジョンの浅い階層に出現する魔物ははっきり言って弱い。だがそれはあくまでもこちらの世界の基準であって、自分達には当てはまらないのだ。何かあってからでは遅いし、行かない方がいいのは当然だ。
歌穂は紅茶を一口。ふぅ……と、どこか不安気な溜息をこぼす。
「今日のお昼にね、友達と街に遊びに出たの。そこで柄の悪い人に絡まれちゃって。最近訓練をつけてもらってるからか、友達はむしろかかってきなさいって感じだったんだけど、私は怖くて……。人相手でも怖いのに、いざ魔物を前にした時はどうなっちゃうんだろうって」
恐怖からか体を震わせる歌穂。平和な世界で育ってきたが故の、死が隣り合う戦いに怖気づいてしまったようだ。
「皆ダンジョンに対して乗り気だけど、私は怖い……。どうすればいいのかな……」
その『皆』の中に訓練に参加していない優人は含まれていない。だからこそここに来たのだろう。
どんな言葉をかけていいか優人は分からなかった。
「嫌な予感がするの……怖い……怖いよぉ……」
歌穂は涙を流し、優人の胸に飛び込んだ。胸の中で震えながら嗚咽を漏らす歌穂の背中をぎこちない手つきながらも優しく撫でることしか、優人には出来なかった。
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次回更新は明後日17時予定。
追記。18時更新に変更です。風に飛ばされないように物を移動させるのに少々てこずっております。




