表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/61

魔物の軍勢 後編

章分けしてみました。

「ハズレを引きました」


 ふてくされた表情でサクヤは戦場を眺めていた。リオンやアリシアの担当していた場所とは違い、こちらには優秀な人材がいたようで優位に立っている。その中で最も活躍をしているのがラルフだった。流石は御三家といったところか。


 レンヤから命じられたのは不味い状況になったら手を貸せというもの。つまりサクヤはこのままだと何もせず帰投することになる。ただぼーっとするだけだった。


 ふと、サクヤは背後に気配を感じた。


「アリシアですか。そちらは終わったのですか?」

「一応ね。こっちは楽そうでいいわね」

「つまらないだけです」


 振り返ることなく会話を続ける。


「別に待たなくてもいいんじゃない? レンヤはなんやかんやで甘いし許してくれるでしょ」

「!! そうですね! そうですよね!」


 途端に目を輝かせ始めるサクヤ。


「アリシアは何をしてきたんですか?」

「噴き上がらせただけよ」


 軽く説明すると、サクヤは次第に笑みを浮かべ始めた。そしてバッと両手を広げ、声を上げる。


「血の雨を降らしましょう!!」






 サクヤとアリシアは並び立っていた。


「それでは始めましょうか。『乱斬竜巻クーペ・ヴィント』」


 敵味方入り交じる戦場の中心に巨大な竜巻が発生する。竜巻に吸い込まれるようにして魔物だけが飲み込まれる。竜巻の中で風によって身体を切り刻まれズタズタにされ、流れに乗せられ上へ上へと登っていく。そして頂点から次々と死体が飛び出し、魔物の血液が大量に飛び散っていく。


「出来ました、血の雨です!」


 天から降り注ぐのは赤黒いものもあれば緑色だったりと様々な色の魔物の血液。サクヤはそれを見てうっとりとしている。


「風情がありますねぇ……」

「そんな風情は無くなればいいと思うけど」


 一番辛いのはそんな雨を浴びている兵士達だろう。アリシアは珍しく同情していた。


「うーん……」


 しばらくするとサクヤが唸り始めた。


「どうしたのよ?」

「飽きました。やっぱり人間の血の方が綺麗で素敵ですね。もう帰りましょう」

「報われなさすぎる……」


 アリシアは別の被害を受けつつも残りの魔物達と戦う兵達に哀れみの目を向けると、先に去ったサクヤの後を追った。


※※※


 リオンやサクヤが真面目に(?)仕事している間、レンヤは司令部から抜け出してミクルーアとセリアと合流していた。そして


「いつも通り美味い紅茶だ」

「このケーキも美味しいです」

「ふふ、ありがとう」


 なぜかティータイムを三人で楽しんでいた。壁の上では風が強いので地上にテーブルと椅子を設置し、セリアが入れた紅茶と作ったケーキを堪能する。遠目で見える位置ではもちろん兵士達は今も必死で戦っている。


 すると突然レンヤがセリアへと手を伸ばす。そして口元についていたクリームを指で掬いとり、レンヤがそれを自身の口元へと運び、食べてしまう。


「意地汚いなんて言うなよ? 食べれるってことはありがたいことなんだ」


 セリアがぽかんと見つめてくるので釈明をする。実際、レンヤは過去の辛い経験から普通の食事が出来ることに感謝の念を抱いていた。その為、残っていた少量のクリームでさえ食べないのはもったいないと思っていただけだ。


 だがセリアは責めていたわけではなかった。微かに唇に触れたレンヤの指、さらにはカップルがよくやるシチュエーションを自分が体験したことに頭の処理が追いついていなかっただけだ。その相手が想い人なだけに威力は抜群だった。


「よかったですね、セリアちゃん」


 耳元で囁く声で正気に戻る。声のするほうを見るとミクルーアが笑顔で立っていた。一気にセリアの顔が真っ赤になる。


 親友でもあるミクルーアはセリアの気持ちを知っている。その気持ちに対して応援もしてくれている。先にくっついたことによる優越感からでもなく、純粋に応援してくれるミクルーアの言葉が、先程の流れを頭の中で思い出させた。どんどん顔が熱を持ち、胸の鼓動が早くなる。


 そしてセリアの脳内小劇場の幕が上がった。


《またクリームが付いてるぞセリア。俺が取ってやる》

《指じゃなくて、今度は口でお願いします》

《分かった。その可愛い唇を心ゆくまで堪能させてもらうよ》

《はい、召し上がれ♪》


「そして段々とレンヤくんの顔が近付いてきて……」

「セリア、食べないなら残りは俺が食べてもいいか?」

「そしてついに二人は唇を合わせて……」

「セリア? おーい」

「気付けば夢中で貪りあうような激し………ふぇ?」


 自分の世界に入っていると、いつの間にかレンヤの怪訝な表情が目の前にあった。セリアは頭の中が真っ白になってしまい、返事が出来ない。


「ミア、こいつはどうしたんだ?」

「レンヤくんには分からない乙女心です。食べるのなら私のを少しあげますよ?」

「お、ありがとう。セリアの(作ったケーキ)は好きなんだ。甘さが丁度いい」

「……今の言葉を聞いたら今度は倒れちゃうかもしれませんね」


 フリーズしてしまっている恥ずかしがり屋で妄想癖がひどい親友に、思わず苦笑が漏れる。


 そうして談笑していた時だった。


「第二陣か。厳しそうだな」


 魔物側の増援が来たのが見える。着々と数を削っていた兵士達にとっては絶望的だ。


「レンヤくん」

「分かってる。セリア、出番だ」

「…………」

「……ミア、こいつをどうにかしてくれ」

「分かりました」


 放心しているセリアの耳元でミクルーアは何かを囁く。するとセリアは体をビクッと痙攣させたかと思うと、キョロキョロとしはじめた。


「はっ!? 私は一体なにを……?」

「セリア、仕事だ」

「えっあっ、うん!」


 とりあえず現状を確かめ、魔法の準備を始める。


「ええっと、『土壁挟撃ソイル・ドルック』」


 セリアが魔法を唱えるとゴゴゴゴと戦場に巨大な土壁が二つせり上がる。距離を置いて作られた土壁の間には魔物が多く存在しており、壁同士が引き寄せられるように素早く動いていく。このまま圧死させようという目的だろう。


 だがセリアは一つミスを犯していた。勇敢に魔物の群れに飛び込んでいた人間もそこにはいたのだ。計二人の姿が見える。


「手間がかかるな」


 瞬間、レンヤはその場から姿を消した。その後すぐに姿を見せたが、両肩に人間を担いでいた。


「助けたはいいものの、見たことある顔ばっかりなんだが」

「貴様は……!」

「早く下ろせ!」


 誰にも見られないような速さで回収してきたは二人は見覚えのある顔だった。ついこの前騎士団長室で会ったミレーヌと転入初日に決闘を挑んできたロゼッタだ。レンヤは二人を放り投げる。当然睨まれるがレンヤはどこ吹く風だ。


「お前らは馬鹿なのか? 二人であの群れに突っ込むなんて死にに行くようなものだぞ?」


 一応忠告はしたが理由は分かっている。どっちも御三家の者であり、他家より武勲を立てようと必死だったのだろう。武で名を挙げた家なだけに、その分戦場で武を示し続けなければいけない。


「なんとも面倒臭い身分だな」

「黙れ! あ、いやその……」

「婚約者の件ならバルトルトの冗談だぞ。態度を改める必要は無い」

「……そうか。なら問おう。お前は一体何者だ?」


 ミレーヌの問いかけに正直に答えるのは説明が面倒臭いとレンヤは当たり障りの無い答えを出す。


「シルフィに頼まれてお前達の助けに来たただの学生だよ」

「納得する訳ないだろう!」

「レンヤくん、流石にそれは……」


 ミクルーアにまで苦い顔をされて、声を詰まらせる。この後のレンヤの行動パターンは決まっていた。


「面倒臭いし帰るか。ミア、セリア、行くぞ」

「えっ、ちょっ!」


 ロゼッタが何かを言おうとしているが無視をキメる。ミクルーアとセリアは分かってましたとばかりに既に帰る支度を済ませていた。


「後は頑張ってくれ。じゃあな」


 レンヤ達は二人を置いてさっさと移動を開始した。


 そしてレンヤたちの助力もあり、被害は出つつも帝国側の勝利でどうにか終わることが出来たのであった。



お読みいただきありがとうございました。


感想お待ちしております。ブックマーク、評価等もしていただけると嬉しいです。


前書きでも書きましたが章分けしてみました。1章、2章共にまんまのタイトルですね。


あと3話ほどで第3章「真紅の反抗」に移る予定です。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ