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今後の対応

本日2話投稿。こちら1話目。

作品のタイトルを少し変更しました。

「見え無き死の刃は怠惰に過ごしたい」→「最強の元王子様は怠惰に過ごしたい?」

「……はい?」


 前振りからなんとなくメルは察していたが、間抜けな声を出してしまう。


 レンヤ達の肩に乗っていた妖精達がふわふわと飛び回り始める。

 色違いのワンピースのような服を着た妖精達の姿は愛くるしいが、これは伝承の妖精王達なのだ。


「…………」

「なに呆けてるんだ。ヤミ、起こしてやれ」

『ふぁ~い……』


 黒色のワンピースの妖精がメルの頭の上に乗る。


「……え!? いや、やめて! 何これぇぇぇぇ!!!」

「そのぐらいにしてやれヤミ。目は覚めたか?」

「覚めたよ! ていうか今のは何!?」

「トラウマを思い出させる魔法だな。小さい頃よくお漏らししていたのは誰にも言わないから安心しろ」

「言ってる! 既に言ってるから! 人の記憶を見るなんて最低!!」


 恥ずかしい過去を暴露されて顔を真っ赤にして詰め寄るメル。レンヤはメルをからかうのが楽しかったのか生き生きとしている。


 その時、レンヤの左肩が重くなる。ミクルーアがふてくされた表情で顔を乗せてきていた。

 私にも構って、と言わんばかりのミクルーアを見てレンヤは軽く微笑みながらミクルーアの頬をそっと撫でる。


「あーあー、お熱いことね」

「ミクルーアちゃん、幸せそう……」

「セリアもレンヤにあのようにしてもらいたいですか?」

「ふぇ?」

「早く告白なりなんなりしないとね。僕が言うのもアレだけど」

「ふぇええええ!?」

「慌てるセリアちゃんかわい~」


 熱々新婚夫婦を肴にセリアが用意した飲み物で喉を潤しながら雑談が始まる。説明はまだ途中ではあるが二人が完全に自分たちの世界に入ってしまっているのでメルは適当に時間を潰す。

 しばらくして話は再開され、レンヤが口を開く。


「まあ超越者が六人いるからって何か野心があるわけでもない。俺達はただ平和にのんびりと過ごせればそれでいいからな」


 きっとこの六人がやる気を出せばヴェンダル帝国はあっという間に消されるか乗っ取られることだろう。


「んじゃメルに対する説明も終わったことだし、ここからが本題だ。一週間以内に魔物の大軍が押し寄せてくるかもしれん」


 レンヤは『亡国の騎士』から知り得た情報を話し始めた。


 『正義の騎士』のリーダーの男はある日謎の人物と接触した。ローブで顔まで隠したその人物は男に「学園に隠れている亡国の王子を連れてくれば莫大な報酬を与える」と言い前金としてかなりの現金をその場で差し出してきた。欲に負けて男は依頼を引き受け『亡国の騎士』として学園を襲った。


 重要なのは男が依頼を引き受けた際に謎の人物の目的が気になり、尋ねたことだ。返ってきた答えは


「そのようなことは気にするな。直にこの都市は魔物に押し潰されるのだからな」


 本来魔物は人が大勢存在する場所には来ない。直感的なものなのか、数の利というものを理解しているからだ。だが何かしらの方法を用いて魔物を引き寄せ、ここヴェンダル帝国の首都ヴェルムを襲わせる。その方法は知らぬが、不可能なことではない。


 レンヤが知り得た情報を話し終わると、『機関』の代表として姐さんが補足を始める。


 もし本当に魔物が押し寄せてきた場合、いくらエリートが集まっている帝国騎士団であろうと苦戦するのは避けられないであろう。長く続く平和は危機感を鈍らせ、自身の向上心をも鈍らせる。実戦経験もほとんど無い平和ボケした騎士達には魔物達の相手は荷が重いのではないか。


 この世界には冒険者という主に魔物の討伐を仕事としている者達もいるが、彼等は自由を好む。騎士団に好意的に協力してくれる可能性は低い。活動拠点となる場所を守る為に力を貸してはくれるだろうが、上手く連携がとれる保証は無い。


 今までの話を聞いていたメルは突然のヴェルムの危機に身震いするが、ここにいる者達がどのような存在かをすぐに思い出す。


「そうだ! レンヤ達が力を貸せば!」

「あくまで俺達は保険だ」

「え?」

「国の未来の為にも、俺達は極力手を出さないようにする」


 保険として『機関』が力を貸す。超越者の存在を国のごく一部の者達しか知らないのは頼りすぎるのを防ぐ為だ。超越者といえども結局は人であり、いずれは亡くなる。国の未来を見据えると、超越者達がいるから大丈夫だと思っているようではいけない。


 メルは納得したと頷く。


「というわけでお前達を東西南北の四方向に配置する為に分ける。北がリオン、東がミアとセリア、南がサクヤ、西がアリシアだ」

「レンヤはどうするの?」

「司令部でのんびり……じゃなくて指示を出す」

「今のんびりって言ったよね!?」

「別にいいだろ。のんびり出来る時はのんびりする。それが俺のルールだ」

「また自己中ルール……」


 本日二つ目のレンヤの持論。メルが既にツッコミ役になりつつある。


「お前達は所定の位置で戦況を監視しながら、こちら側が不利だと判断したら手伝ってやれ。やりすぎるなよ? 特にサクヤ」

「魔物の血は汚くてあまり好みではないので大丈夫です」

「その理論はよく分からんが、まあいい。何か質問ある奴はいるか?」


 アリシアが手を挙げる。


「『亡国の騎士』に接触した変な奴はどうするの?」

「『機関』と国の諜報部に動いてもらう。もちろんお前もだぞ」

「了解。報酬はレンヤのキスね。もちろん唇に」

「却下。陛下から適当にふんだくっとけ」

「もうめぼしい物は全部ふんだくったのよねぇ」


 なにか恐ろしい会話が繰り広げられているがメルは気にしない。一々驚いていては疲れるだけだと学んだ。ここにいるメンバーは何でもありなのだ


「今回はここまでだな。メルの『機関』への加入と魔物の団体さんご来場の際の国への支援。陛下には明日、俺とミアが知らせに行く。他に何か連絡事項はあるか? ……無いようだな。んじゃ、解散」


 各々が去っていく。大物に囲まれて常に肩に力が入っていたメルは、やっと落ち着くことが出来た。


 メルは後になって『機関』への加入が自分の意思とは関係なく決まってしまったことに気付くが、後の祭りだった。


 ※※※


 喫茶ラスクの二階にはミクルーアとメルが残っていた。レンヤによる解散の宣言の後にミクルーアが話があると言ってメルを呼び止めた。レンヤはミクルーアと一緒に帰る為に一階でケーキを楽しみながら待っている。


 メルは向かいに座るミクルーアを見て、心の中で感嘆の声を漏らす。


 綺麗だ――――


 ミクルーアを構成する全てが女の子として完璧だと思った。女神だと言われても不思議とは思わないであろうその容姿に、ミクルーアが口を開くまでぽけーっと見惚れてしまっていた。


「………私はアルフォンス王国公爵位のアンドリス家、その一人娘でした」


 ハッとメルは現実に引き戻される。


「公爵って、物凄い偉いんじゃ」

「ええ。なので私は第三王子の婚約者に選ばれたんです」


 第三王子、つまりレンヤだ。


「もちろん政略的なものでしたが、嫌ではありませんでした。実際にレンヤくんと会ってみて、この人ならって思いました。レンヤくんと一緒に過ごす時間はとても楽しくて、私にとっては欠かせない時間でした」


 当時を思い出しているのか、軽く微笑みながら語る。


「そんな時間にも終わりが訪れました。いつの間にか王宮にまで他国の侵略の手が伸びてきたのです」


 侍女の案内の元、どうにか国を抜け出すも、その侍女も敵国の内通者であり、レンヤとミクルーアは奴隷として売り渡されそうになった。

 その時謎の光が輝やいた。当時は気付かなかったがそれはミクルーアが無意識に放った魔法だった。そしてかろうじてその場から逃げ出すことに成功した。


 そこからレンヤは堕ちていった。

 生き延びる為に何でも、それこそ犯罪にすらレンヤは手を染めた。それは体が弱かったミクルーアの為でもあった。劣悪な環境によって病気にかかったミクルーアをレンヤは見捨てることなく、無理をして足掻き続けた。そしてついに限界が訪れた時、『機関』に拾われた。


 そう語るミクルーアは哀しい目をしていた。


「それからもレンヤくんは無理をし続けました。私の為に、『機関』の為に。レンヤくんの体には多くの傷跡が残っています」


 『異能』によってレンヤには魔法による回復が効かない。特訓や実戦によって出来た傷跡は消えることなく残っている。


「あの頃のレンヤくんには鬼気迫るものがありました」


 ほぼ休むことなく仕事をこなしていった。まだ幼かった故に失敗することもあり、死にかけることもあった。


「私はそんなレンヤくんを孤児院で迎えることしか出来なかった」


 ボロボロになりながらも帰ってくるレンヤを、自分は彼に何も出来ないという不甲斐なさを必死に抑え、笑顔で迎える。


「どんなに疲れていても、レンヤくんは私には優しくしてくれました」


 自分を見捨てずに最後まで傍に寄り添ってくれた。自分は孤児院で子供達の世話を見ているだけだ。それも大事な仕事だからと言ってはくれるが、レンヤの方が数倍大変だということは分かっている。


「だからこそ、私はレンヤくんを傍で支え続けようと思いました」


 それは婚約者だからでもなく、幼馴染みだからでもない。愛する人の力になりたいという、一人の女としての想い。


「大事な人を失い、我を失っていた私の目を覚ましてくれました。私の笑顔が好きだと言ってくれました。レンヤくんとの思い出は、私にとっては宝物です」


 勝てない。メルはそう思った。

 レンヤもミクルーアも同い年である自分とは違って達観しているように思えた。だがそのような壮絶な過去を経験していれば納得だ。

 そしてその分、レンヤとミクルーアの絆は固くなる。


「リオンくんやサクヤちゃん、アリシアちゃんにセリアちゃん、そして私。誰もがレンヤくんによって絶望から救われました。私達は何があっても彼に付いていくことでしょう」


 絶望。それがどのようなものかは知らぬが、全員レンヤによって救い出された。その恩があるからこそレンヤは皆に慕われ、リーダーに選ばれている。超越者達の中心にいるのはレンヤだ。


「レンヤくんは不器用なんです」


 仲間が増えたことによって仕事の量も減り、暇な時間というのが出来た。しかし今まで働き詰めだったレンヤは趣味なども無く、何をして過ごせばいいか分からなくなっていた。

 だからこそひたすら寝るという選択肢を選び、その怠惰的な生活にハマるようになった。

 今ではミクルーアが誘わなければ外出すらせず、ひたすらぐーたらしていることだろう。


 だが誰もそんなレンヤを責めることはない。冗談で責めることはあれど、今までのレンヤを知っていれば、むしろもっと休んでくれと願う。


 極端に怠けるか、極端に働くか。レンヤにはその二択しか無いのだ。


「そんなレンヤくんに、姐さんは普通の人生というものを過ごして欲しかったみたいです」


 子供らしからぬ人生を歩んできたレンヤ。そんなレンヤに普通の青春を楽しんでもらう為に適当な仕事をでっち上げて学園に通わせることにした。


「だからメルちゃんには学園で出来る限りでいいのでレンヤくんの様子を見ていて欲しいんです」


 不器用な旦那を心配する嫁。素直に協力してあげたいとメルは思った。分かったと返事をする。

 なんていい話だ。まるで物語の世界みたいだ。そう思うメルだったが、次のミクルーアの言葉によって全てが崩れ去った。


「出来れば、レンヤくんの妻にもなってもらえると……」

「へ?」



お読みいただきありがとうございました。

次回更新は本日午後8時です。

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