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私の王子様

アリシアの髪の色を変更しました。

あらすじとキーワードを追加しました。

「誰か……誰か助けて!」


 少女が必死に助けを呼ぶ。恐怖で動かない足の影響で地面にぺたんと座り込みながら。





 少女は通っている学園の夏季休暇――――夏休みを利用して帰郷していた。しばらく故郷でのんびりと過ごし、自身が在籍している学園があるヴェンダル帝国の首都ヴェルムへと馬車で向かっていた。


 過保護であった親によって雇われた護衛三人に守られながら、途中にある村などで宿をとったりしながら二日が経った。

 あと一日もかからずにヴェルムに着く、そんな時だった。


「そこの馬車、止まりな!!」


 突如現れたのは汚れきったボロボロの服を着た男達。数は十五ほど。恐らく盗賊だ。


 襲いかかってきた盗賊達に護衛達は腰に差していた剣を抜いて応戦するが、数の暴力には勝てずに命を落とした。

 そもそもこの辺りで盗賊が出るという話は無かったので、護衛はそんなに多くなくても良いだろうと高を括っていたのがいけなかった。


 護衛を排除した盗賊達は少女へと顔を向ける。それは欲にまみれた卑しいものだった。


 少女には夢があった。

 白馬の王子様と結婚すること。友達に話したところ、夢物語だ現実を見ろと言われたが少女は諦めなかった。いつか私の前に白馬の王子様がやって来てくれると信じ続けていた。


 だからだろうか、この絶望的な状況下でこんなことを思ったのは。


ーーーー助けて! 私の王子様!


 目を閉じ手を組んで祈る。しかし無情にも盗賊達の足音が近付いてくる。


 ――――ごめんね、お母さんお父さん、メル。


 両親に、そしてヴェルムで待ってるであろう親友に謝罪を。そして上げる最後の叫び。


「誰か……誰か助けてよぉ!」

「うん、分かった」


 届かないと思った言葉に返事がきたことに驚き、少女は目を開いた。


 目の前に広がるのは、倒れ伏した盗賊達とフードを深く被った黒のローブ姿の人間が二人。顔はフードによって隠れていて見えない。

 その内の片方が少女の前にやってくる。


「大丈夫かい?」


 フードを下ろし、手を差し伸べてきたのは少女よりも少しだけ歳が上であろう大人びた少年だった。綺麗な金の髪に意志の強さを感じさせるような輝きを放つ碧眼。そしてなによりもこちらに向けてくる柔和な笑顔に、少女は返事もできずに見惚れてしまっていた。


「またそうやって女の子を落として……」


 いつの間にか少年の隣にもう一人が立っており、顔を晒していた。こちらも見惚れてしまうような美しい少女だった。

 艶のある漆黒の長髪に、同色で妖しげな光が灯った瞳。佇まいは物腰丁寧で凛としているが、何よりも目を引くのは母性の象徴ともいえる二つの膨らみが、これでもかと言わんばかりに主張しているところだろう。


 ともかく、どちらもかなり整った容姿をしていた。


「救援を呼んだのでしばらくしたら新しい護衛が来ると思います。それでは私達はこれで」


 そう言い残して黒髪の少女は物凄い速さでその場から去っていった。その後を追うように少年も足を動かそうとしたが、突然少女に再び顔を向けた。


「そうそう、君は見た感じ学生のようだから一応。もしレンヤという男に会ったら、もうすぐリオンとサクヤが帰ってくると伝えてもらえると助かるよ。それじゃ」


 そしてその場には盗賊に襲われていた少女と、盗賊の死体だけが残っていた。ほぼ放心状態だった少女は、ぽつりと呟いた。


「見つけた……私の王子様」


 ※※※


 レンヤが転入というかたちでヴェンダル帝国総合学園にきて二日目の朝。戦闘科と決闘し勝利したという話が学園中へと広まっていた。レンヤのクラスである2-Cの教室の前には噂の人物を見ようと生徒が押し掛けていた。


「おいレンヤ。お前見たさに凄い数の生徒が来てるぞ。しかも女子が九割。ミクルーアちゃんも大変だなあ……聞いてんのか?」

「……すぅ………」

「寝てる……」


 腕を組んで顔を俯かせていたレンヤにギルが話しかけたが何も反応は返ってこず、メルが顔を覗き込むとかすかに寝息が聞こえた。この状況でも寝ていられるとは、レンヤの肝は据わっているようだ。


 授業が始まってもレンヤは寝たままだった。転入初日にあのような騒ぎに巻き込まれ疲れているのだろうと教師達は何も言わなかった。


 そして昼休みとなった。学園には食堂があり、そこへ食事に行く者。購買でパンなどを買う者。弁当を持ってくる者など様々だ。ギル達いつものメンバーは、全員が弁当のようだ。ギルだけは親や自炊ではなくルリスに作ってもらってきているようだが。ちなみにレンヤは愛妻弁当である。


 健康に気を遣ってか、バランス良く盛り付けられた愛妻弁当を楽しんでいた時だった。


「レンヤ! 来てやったわよ!」


 教室の扉のところで大声を上げる少女――アリシアに教室中の視線が集まる。

 呼ばれた本人であるレンヤは愛妻弁当に夢中で耳に入っていなかったようだが。その姿を見てアリシアはため息をこぼし、一歩足を進めたその瞬間。


 アリシアに向かって一本のナイフが飛んできた。


「あっぶないわねレンヤ! それがか弱い女の子にすること!?」


 アリシアはナイフと自分の間に水の壁(・・・)を発生させて受け止めた。壁に刺さっているナイフを引き抜くと刃の部分を凝視する。そこには水とは違う液体が塗ってあった。


「これ毒塗ってあるじゃない! そんなに食事を止めるのが嫌だったわけ!?」

「そうだ。麻痺毒だから死にはしないぞ」

「そういう問題じゃないわよ!」


 地団太を踏みながら怒るアリシアと、それをスルーして弁当を味わい続けるレンヤ。共に美男美女ではあるが、まるで小さい子供のようなやりとりに周りの生徒は呆然とするしかなかった。


 レンヤは食べ終わると、早速話を始めようとした。

 レンヤは昨夜、ミクルーアと事を済ませた後にアリシアに明日の昼休みに教室に来いと連絡をしていた。用件はもちろんロゼッタ=キャンベルについて。

 その結果、ちゃんとアリシアは来た。しかもこの学園の制服姿で。 


「やっぱり入学してたのかお前は」

「レンヤと一緒にいたいんだもの」

「誤解を招くような発言はやめろ」


 なぜか座っているレンヤの正面ではなく、後ろに立っているアリシア。しかも問題発言をしたと同時にレンヤの頭を抱きしめ、自身の胸を押し当てている。

 当然色めき立つのはそれを見ていた生徒達。


「……アリシア、場所を変えるぞ」

「ムラムラしてきたからって私をどこに連れていくつもり?」

「殺すぞ」

「嫌ね、冗談よ」


 睨まれても飄々としているアリシアを連れて教室を出た。


「あの、メルちゃんはいますか?」


 教室を出てすぐに、一人の女生徒に声を掛けられた。どこか幼さを残した顔立ちのこの少女はメルの知り合いのようだ。


「中にいるぞ」

「ありがとうございます!」

「レンヤさっさと行くわよ」

「ああ」


 再び移動を開始しようとするが、レンヤの制服の袖がきゅっと摘ままれた。摘まんだのは先程の少女だった。


「あの……貴方がレンヤさんでしょうか?」

「そうだが?」

「やった! 見つけた!」


 嬉しそうにその場をぴょんぴょんと跳ねる少女に、どういうことだとレンヤはアリシアへと視線を送るが首を振られる。どうやらアリシアも困惑しているようだ。


「伝言! 伝言を預かってます!」

「伝言? 誰にだ?」

「えっと、名前は知らないんですけど……同い年くらいの爽やかで物凄くかっこいい金髪碧眼の男性です。あ、胸がすごく大きい黒髪の女性もいました」


 人物像を聞いた瞬間、レンヤの背中に冷や汗が流れた。一方アリシアは何かを察したのか、レンヤを見ながらニヤニヤしている。


「もうすぐリオンとサクヤが帰ってくると伝えてくれと。……ん? もしかしてあのお方の名前はリオン? リオン様……私の王子様」


 伝言を伝えた後にぼそぼそと呟き始めたと思ったら、うっとりとした表情になる少女。


 レンヤはその伝言を聞き、肩を落としていた。アリシアはその肩をぽんぽんと叩くと、良い笑顔で口を開いた。


「久しぶりに『超越者』全員集合ね。良かったじゃない」

「良くねぇよ……」


 怠惰に過ごしたいレンヤの意思とは真逆の、騒がしくて面倒臭い日常がすぐそこまで迫ってきていた。



お読みいただきありがとうございました。

この回から本格的に物語が始まります。

レンヤがなんやかんやで個性的な仲間と共に色んな事に巻き込まれていきます。

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