依頼
「おいアイリ、お前に依頼だ、えっと……メリダさんのところに荷物を届けて欲しいっていう内容なんだがどうする? いや、今のお前に拒否権なんかなかったよな、よし行ってこい場所はわかるだろ?」
朝早くからネロさんが僕を呼んでいる……メリダさんというと、あのお店のメリダさんだろうか何回か話したこともあるし場所だってわかる……というかなんかおかしいセリフが聞こえた気がする。
「ええ、わかりますよ、何回か他の依頼の時に行ったことがありますからね……というかやっぱり今の僕って拒否権ないんですね……もう1ヶ月は拒否権がない状態で働いてますけど、いつ拒否権がもらえるんですか?」
「ああ、もうあれから1ヶ月もたったのか、あの時のお前は酷かったなぁなんせ目が死んでたもんな」
拒否権についてはスルーですかそうですか。
けど今の僕は言い返すことができない。
僕がこのギルドに入ってから……いや、拾われてから1ヶ月が経っている。そしてその1ヶ月の間僕は休むことなく毎日誰かから送られてきている依頼をこなす日々を続けている。
そもそも僕は冒険者になりたかった……華麗に剣を使い、魔法を使ったりしてモンスターを倒し町の人から感謝される冒険者に……だけどその夢は叶わなかった。
冒険者になるためには冒険者ギルドに採用されなければならない、だが僕は不採用だった、そんな時に僕を雇って……拾ってくれたのがこのギルドのマスターであるネロさんだ。
「そりゃあ、冒険者になるという夢を叶えるために町に出てきたのに夢を叶える一歩目の冒険者ギルドに採用されなかったら目も死にますよ……ところでネロさん、シューダーさんはどこに行ってるんです?」
いつもだったらこの部屋にあるソファで寝ているシューダーさんが見当たらない。
「あいつは護衛の依頼に行ってるぞ、どこの誰を護衛してるかは知らんがな、というかまだ行かないのか?」
シューダーさんは魔法を使うことができるので護衛などの依頼がよく来る。
ちなみに、ネロさんやシューダーさんは冒険者ギルドに入っていない。入らなくてもモンスターは倒せるそうだ。
「へーそうなんですね……まぁ行ってきます、届ける荷物ってこれでいいんですか?」
僕はドアの前に置いてある小包を指差して言った。
「おーそうだな……っとまた依頼か……ゴブリンの森の調査か……調査だけならいいんだが、もしかしたら戦闘になるかもな……けどあいついねぇしなぁ、あー俺が行くしかないか」
荷物はこれであってたらしい……新しい依頼がどうやらきたみたいだ、ネロさんが難しい顔をしている、聞こえた感じではゴブリンの森の調査か、ゴブリンの森というとこの町から少し北に行ったところにある森のことだろう。そして今シューダーさんはいない。ネロさんは用事がない限りこの部屋から出ない……冒険者ギルドに認めてもらうチャンスか?
「ネロさん、その依頼僕に任せてくれませんか?」
その依頼を達成できたら冒険者ギルドに採用されるかもしれないと思い僕はネロさんにお願いしてみた。
「なんだ、お前まだ行ってなかったのか……というかお前って戦えんのか?」
失礼な……田舎育ちでも剣ぐらいは僕だって使ったことはある。
動物を狩ったりしたからね。
「多少は戦えると思うんですけど……」
「お前が使う武器ってなんだ?」
おっと、もしかしたら依頼を僕が受けることができるかもしれない。
「短剣ですけど……ダメですかね?」
使う武器というか動物を狩る時には短剣が一番使いやすいのだ。
「短剣か……お前魔法が使えたりスクールとかに通ったことはあるか?」
スクールか……そういえば冒険者ギルドに採用されなかったあの時も言われた気がする……スクールに通ってないからダメだ……と。 スクールなんて僕が住んでた場所にはない。さらに魔法だって使えない。
「魔法は使えません。 スクールって……田舎育ちの僕が通ったと思いますか?」
「じゃあやめておけ、スクールに通わず戦えるモンスターじゃない」
むむ……スクールといったってあそこは剣術や魔術を習うだけの場所らしいし、しかもゴブリンというとモンスターの中でも弱い部類だったと思う。
「ゴブリンってそんなに強かったですっけ? 弱いって聞いたことがあるんですけど」
「ああ弱いぞ、モンスターの中でも弱いだろうな」
「だったら戦わせてくださいよ、弱いんだったらいいじゃないですか」
「もしものことを考えてるんだよ俺は、まぁこの依頼は俺が受けることにする、お前はさっさとその荷物を届けに行ってこい」
うーん、ダメだった……けどネロさんの優しさが見れたからよしとするか?
いや……でも……スクールかぁ今更通うのもなぁ……ネロさんに頼んだら僕に剣術を教えてくれるかな?
なんて思いながら僕は依頼の荷物を持ち外へ出た。
そっか……もう1ヶ月なんだよな……あの日から……