第五夜
こんな夢を見た。
そこは、中学校の同級会の会場。総勢百五十人はいる。
自分が卒業した中学校は田舎にあったが、K町全部と隣のG市の一部を校区とする組合立の中学で、一学年三百五十人位いたから、出席率は五十パーセント未満だ。もう、この世にはいない同級生もいるだろう。顔を見て名前が浮かんでくるのは半分くらいだ。
六十を超えて定年になった記念の同級会だ。三百五十人もいるけれど誰一人有名人はいない。乾杯の音頭は県会議員がした。つまらない連中ばかりだ。
ひょっとすると、この中で自分が一番有名人かも知れない。
皆、年老いている。中学校の時は綺麗だった女の子も、今はお腹の出た小母さんだ。
それでも、あの頃、想いを寄せていた女の子の顔を探す。いない……。
ふと、その中に顔をベールで覆った女に気づいた。女は顔は薄いベールで覆い、それを口に咥え、グレイーのパナマ風ハットを被っている。ベールは薄く、顔がはっきり見える。若い、明らかに四十代だ。同級生ではない。でも名前は出てこないが、見覚えはある。何かの間違いで、この会場に紛れ込んだのだろうか。
幹事は何をしていたのだろう。
隣の男に“あれは誰だ”と尋ねるが、男は笑って答えない。
ふと、気づく。会場は大勢の人でざわついているのに音が「まるで聞こえない。物音一つしない。色もない。白とグレーだけの世界だ。
あの女、ベールに帽子の女が席を立って出口に向かった。自分もその後を追う。
女は同級会の会場となったホテルを出ると、駅とは反対方向に向かって歩き出した。その先には何もないはずだ。街をはずれ山の中に入っていく。その先は、行き止まりだ。
女は誰で、何処へ行こうというのだ。もう夜中の十一時過ぎだ。
女はそれでも、山道をどんどん歩いていく。自分はその後を追う。
女が、突然、視界から消える。自分は立ち止まる。女の姿が完全に消えた。何処に行った。
後に何か気配を感じて振り返る。女がそこにいる。空には月も星もない。外灯もない。でも、女の白い顔がはっきり見える。不気味に笑っている。
女を思い出す。あの女だ。始めての女だ。女の首を絞め殺す。でも、女は死なない。女は生き返り、自分を嘲笑う。また、女の首を絞め、殺す。でも、女は生き返り、自分を嘲笑う。だから、自分は女を、何度も、何度も、女の首を絞める。
それでも、何度も、何度も、女は生き返る。
それで、自分は女を何度も、何度も殺す。
女の顔が、何時の間にか違っているの気づく。
それでも、構わずに、自分は女を殺し続ける。何人も、何人も。自分でも分からないほど大勢の女を殺す。
遠くで誰かが、自分の名前を呼んだ。自分は目覚める。
男が鉄格子の向こうに立っている。刑務官だ。
男がゆっくりと言う。「お前の死刑が、今日、執行される」
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