息を吸って吐くこと 体の力を抜くこと
「まだ6センチ」
と言われどのくらい経っただろうか
陣痛が来て
主人にテニスボールを押し当ててもらい
体の力を抜く
息をゆっくり吸う
これを繰り返す
「目を開けてくださーい」
「目を閉じてしまうと、自分の世界に入ってしまって、力んでしまうから」
「はい」
「ゆっくり息を吸ってー。吐いてー」
「早いよ。もっとゆっくり。そうそうそう。上手」
「力抜いてー。力まないよ。力抜いてー」
声の通りにする
だが、うまくいかなくなったりもする
しまいには
自ら
「力抜いて!!」
「息吸って!!」
「お願い。がんばって。産まれておいで」
「がんばって。がんばって」
と胎児と己に言い聞かせる
痛みの後
息を吸い、力をうまく抜くと
助産師さんがすかさず褒めてくれる
「そうそうそう。上手ですよ」
我は真に単純なので
褒められると嬉しくなって
(もっと力抜くぞ)
(大丈夫。力抜けてる)
(酸素送るぞ!)
と、自信とやる気が満々だった
未だかつてここまで
己に自信をもったことはなかった
「今、陣痛の間隔は何分くらいですか」
(数字を全く覚えていない。朦朧としていたようだ)
「〇分くらいかな」
「ということは、1時間に〇回この痛みが……」
「そういうことは、考えない」
助産師さんに窘められる
主人がぶふっと噴き出した
このやりとりはやけに印象に残っている
「なんか出ちゃいそうです」
「え。確認しますね」
「思ったより、お産の進行が順調です」
「はい」
「早く産まれるかもしれません」
「ううう。出ちゃう」
「分娩室行きましょうか」
「え。でもまだ時間が……」
「うん。頭少し見えてるので、行きましょう」
「え?頭?」
「はい。行きますよ」
立ち上がる
助産師さんが
肩をがっしり掴んでくれ
車椅子に乗る
「旦那さんは待合室でお待ちください」
「はい」
「がんばってくれ」
「うん」
自律神経を整える訓練
ストレッチ以外で
息を吸って吐く
体の力を抜く
この2つの行為を
こんなに長い時間
意識したことはなかったし
難しく感じたことはなかった




