陣痛 赤富士
「これに着替えてください」
前開きの服を渡された
入院着のようだ
「破水しているので、促進剤打ちますね」
「お願いします」
助産師さんが来ては
ときどき様子を伺ってくれる
「どこが今いたい?」
「下腹部が」
「うん。今赤ちゃんが頭通ろうとしてるからそこ痛いんだと思う。ちゃんと息して酸素送ってあげてね」
「はい」
促進剤を打ってから
痛みが増す一方だ
「ちょっと様子見せてね」
「いま6センチ。順調だね」
「……あと4センチですね……」
たしか10センチは開かないといけないはずだ
「いつごろ産まれますか」
「夕方くらいかな」
「夕方って何時ですか」
「18時くらい」
「そんなに!!!」
主人は、このとき
噴き出していたらしい
夕方と聞いて
時間を具体的に尋ねるから
こんな時でも
相変わらずだなあと感じたそうだ
まだまだかかりそうなので
主人には食事へ行ってもらう
鞄からスケッチブックと赤いマジックを取り出す
おさななじみに書いてと頼まれた
赤富士を描く
陣痛中
紙に赤いペンで
富士山、太陽、子宝の絵を
書く
それをプレゼントされた人は
妊娠するというジンクスがある
依頼され、グーグルで画像を調べてから
妊娠中に
せっせと絵を練習した
我は壊滅的に絵が下手だ
だが、赤富士には
絵の上手、下手は関係がない
休み休みではあるが
なんとか描けた
良かった
約束は果たせる
陣痛は
1にも2にも
リラックスすることが大事
読書するひともいるらしい
(息を止めない)
(リラックスだ)
何度も己に言い聞かせる
「力抜いて」
声に出して言う
(酸素を送らねば!)
我が苦しいときは
胎児も苦しいときだ
「がんばって」
「がんばって」
何度も声に出す
胎児には
聞こえているのだろうか
それどころでは
ないかもしれぬ
どうか産まれてきてほしい




