第1章 08話 旅立ちとフラグ
まだ街づくりをはじめられない・・・
村で起こったクズ貴族による事件の後、囚われていた子供たちは隣村に返し、兵士たちはマテルを使えなくする腕輪をつけて村の一角に集めて監視をつけている。
村人に話を聞くと、オークの行商人がもうすぐ来るらしくその時に兵士を奴隷として引き取ってもらうようだ。罪人は罪が真実であれば奴隷として奴隷商人に買われ、辛い仕事や激戦地での戦闘をすることになるらしい。
罪の有無については真実のオーブというものがあり、それに触れて話をすると、嘘をついたときに色が変わるため本当に罪を犯したかわかるとのことだ。ただどんなことをしたかは村長が一筆書いて商人に渡すらしい。
一段落したところで隣村と合同の祝勝会を開くことなり、盛大に飲み会を開いてもらった。なんかすごいごり押しでこの村にいてほしいだの、娘を嫁にだの言われたが、次の行商人が来た時に一緒にこの村を出ることを告げた。みんな悲しがっていたが、オレ自身が行商人だということを思い出してくれたようでまた来てくれと笑顔で言ってもらえた。
それから1週間ほど今までと同じく村で過ごしたが、ある程度この世界の文字を読むことができるようになった。まだ難しい文字はわからないが、日本語に似た文法のため文字を覚えたら、どうにか読めるようにはなった。文字を読めるようになると、なんとなく意味が頭の中に浮かぶため理解をすることができた。神様の力すごいけど、どうせならはじめから読めるようにしてほしかった・・・。
村の道具屋に行商人が来ていると子供たちから聞いたため、早速向かってみる。すると村長のゲルダさんも来ており、話をしているところだった。
「というわけで、この先に捕らえている兵士を奴隷として引き取ってもらいたい。これが書状となります」
「わかりました。兵士ということで少し値段を高くしておきます。1名2200バルをお支払いしましょう」
バルとはこの国の通貨だ。子供たちに教えてもらったところによると、1バル=100円ぐらいの価値らしい。簡単に言えばドルと同じぐらいの価値かな。2200バル=22万となる。奴隷の相場はそのぐらいなのだろうか?
「うむ。助かるよろしく頼む。おぉ、ユウ殿いらしていたか。こちらは行商人のジル殿、ジル殿こちらは先ほど話していたユウ殿だ」
「ここらを行商をしております、ジルと申します。ユウさんは同じ行商者とか。不運でしたな。次はエーテハイムの町まで行きますがご一緒いたしますか?」
「同じく行商人のユウです。助かります。ご一緒させていただければと思います。いつ頃出発予定ですか?」
「今のところ3日後に発つ予定です」
「それでは3日後の朝、村の門のところに行きますのでよろしくお願い致します」
「わかりました。特に準備するものはありませんが、食料や水は持参してください。それでは私は道具屋で仕事がありますので失礼します」
3日後に出発に同行することを約束しまた広場に戻った。すると子供たちが集まってきたので3日後にこの村を出ることを告げたが、さびしいと泣きついてくる子や一緒に連れて行ってほしいって子が何人か出てきた。でもさすがに面倒見ていく自信がないためきちんと説明してあきらめてもらった。でも後ろ髪惹かれる思いだ。
出発に向けて食料、野営道具などを準備しようとしたがお金がないことに気付いた。仕方ないので行商人のジルさんにいくつか宝石を買い取ってもらえないか交渉したら、手渡した3つの宝石を見て目の色を変えた。
「ユウさんこれはどこで手に入れましたか?こんな純度の高い宝石は滅多にお目にかかれない。これ1つで豪邸が買えるぐらいの値段になりますよ。3つとも私には買い取れません。町の大きな宝石商に持っていってもらったほうがいいですね」
あまり宝石には詳しくないが、無造作に選んであらかじめ四次元リュックから取り出しポケットに入れておいたものはとてつもない高級品のようだ。でもまだまだあるのだが・・・なんか怖くなってきた。
リュックの中を漁るそぶりを見せかなり小さめの宝石を一掴み取り出し買い取ってもらえないか交渉してみる。
「この大きさなら1つ1000バルで買い取りましょう。1,2,3,4,5,6個ですね6000バルで買い取らせていただきます」
60万か。当面の軍資金として十分だろう。
「ありがとうございます。よろしくお願いします」
軍資金ができたので、野営道具や日持ちする食べ物を購入し別に購入した大き目の肩掛けバックに一部入れて他は無限リュックに入れておく。ためしにあまり日持ちしないものも買って包みごとリュックの中に入れてみた。これで日にちがたっても腐らなければ無限リュックに入れた物は腐らないことになる。
村のみんなからもいろいろ頂いた。野菜や薬草、子供たちからは近くの河原で拾ったという光る石をもらった。何でも神秘の力を込めるとぼんやりと光る石で、ここらではたまに見つかるらしい。野営では明かりの代わりにできるようだ。
武器屋のラグさんからは剣を手入れする研ぎ石や磨き布などいろいろもらった。武器自体はいくつか持っているし、防具は動きづらくなるから今のところはローブだけつけていこうと思う。
「いろいろとありがとうございました。お世話になりっぱなしであまり恩返しもできていませんが、いつか戻ってきて少しでもお返しできるようにします」
「いやいや私は命を救われた。それに村のみんなのことも助けてくれたんだ、私たちはあなたを家族だと思っているいつでもまた戻ってきてください」
村長が村人を代表して挨拶をしてくれた。朝早いのに門のところに村人のほとんどが集まって見送ってくれている。
「兄ちゃんこれ父ちゃんとつくったんだ。途中で食べてくれよ」
宿屋の息子のライがオレの大好物のロッコの煮物を挟んだパンをくれた。村の子供たちは本当にいい子ばかりだった。なんだかんだ言って一番お世話になっていたかもしれない。勉強させてもらったのは今後に役立つだろう。
「ありがとうライ。いろいろありがとな!このまま努力をすればマテル使いになれるぞ!頑張れ!他のみんなも勉強も手伝いも頑張れよ!」
そう挨拶をするとジンさんの馬車に同乗させてもらい出発する。なんだかんだあったがいい人たちだった。この世界に来て一番最初に会った人があの人たちでよかったと思う。
エーテハイムの町までは馬車で1週間ぐらいかかるらしい。途中小さな村はあるが1日滞在してすぐに出るらしい。大きな街道を進むためあまり魔物は出ないらしい。それに魔物が嫌う薬草を潰したものを馬車にぶら下げておくため滅多なことがなければ襲われることがないらしい。
馬車とは別に奴隷として連れて行く兵士を乗せる荷台を引っ張っている2匹の馬もいる。そっちの馬はオーク族の村人を1名雇って馬車の後を付いてきてもらっている。兵士は神秘の力を抑える腕輪をつけているため、ぐったりして座ったままあまり動かない。
そんなこんなで馬車に揺られて5日たったとき、街道の進む先でいくつかの気配が集まっている。その中で2つの強い気配を感じた。ただすぐに小さな気配になったためにマテルを使ったのかもしれない。
「この先で何か起こっているみたいです。いくつかの気配を感じるので少しスピードを落としたほうがいいかもしれません」
「ん?気配?ユウさんは何か特殊な特技があるのですか?私には何も見えませんが・・・」
まずい。普通に感じていたことを説明してしまったが、一般の人にはただの特殊な能力として捕らえられてしまうのだ。
「えぇっと・・・実は生きているものの気配を感じることができるんですよ。この先でマテルを使ったような気配を感じたので危険かもしれません」
「まさか、ユウさんはエルフ族の血が入っているのですか?エルフ族は風を読み森と話をすることで遠く離れたところで起きたことを知ることができると聞いたことがあります」
「たったぶんそうなんだとおもいます。私の親は人族でしたがどのような家系なのかまではわからないので・・・」
「そうでしたか。でもそのお話は本当のようです。だいぶ先ですが、馬車が盗賊か何かに襲われているようです。少しずつ見えてきました」
目を凝らすとまっすぐ行った森沿いの道に馬車が2台停まっていて、その周りを甲冑を着た兵士が5人で囲み、それと対峙するように10人ぐらいの盗賊らしきやつらが取り囲んでいる。
ちょっとまて、盗賊に襲われている馬車って場面は何かフラグが立ってしまう気がする。助けたらお姫様が出てくるとか、王様が馬車に乗っていて、褒美がもらえるが、貴族になるよう言われて良いように駒として使われそうだ。
このまま様子を見ようとしたところ、甲冑を来た兵士が敵のマテルで倒れ3対10となってしまった。さすがに見てみぬ振りすると後味が悪い。
「ジルさんちょっと加勢しに行きますので馬車を止めて隠れていてください」
「ユウさん大丈夫なんですか?あれはエーテハイムの領主軍兵士の鎧です。それを倒す盗賊はここらを荒らしている盗賊団の「骸の爪」ですよ。いくらなんでもかないっこありません。」
「そのときはジルさんだけでも逃げてください。とりあえず頑張ってみます」
そういうと、争っている場所まで全力で走り出した。