第4章 06話 苦行
3話アップの2話目です。
翌日、久しぶりにゆっくりと寝ることができたためか体がだいぶ楽になった。
俺は早速技術を伝授するとしても生活水準がどのぐらいなのか見る必要があるので街に出ることにした。一人では迷子になるのでテューにお願いしようとしたが、今日は隊長としての仕事があるので手が離せないとの事だったのでメイドさんにお願いした。
メイドさんの名前はサミーさんといい、メイドとしてはベテランの部類に入るらしい。でも年齢は20代前半って感じだがそんなにベテランなのだろうか?
「私は8歳のころからメイドとして教育を受けていましたのでもうだいぶ長いのですよ。でも年齢まではお教えできませんよ」
サミーさんがオレが不思議そうな顔をしていたのを察して説明してくれた。女性に年齢を聞くなんてそんな恐ろしいことは出来ません。
彼女いわく、翼人族は神秘の力で何でもやろうとするので今の生活でも問題ないらしい。でもそれが故に生活水準が上がらず、変えようともしない。ある意味面倒くさがり屋なのだそうだ。
スフィラの街の生活水準はエーテハイムとかの街に比べると少し低い。城でもそうだったがトイレはぼっとん、水もちゃんと掘った井戸で汲むか雨水を溜めて使っている。
街の道も土を踏み固めただけのためそこらじゅうに穴が開いて歩きづらい。建物は木造だが正直バラックと変わらない建物が多い。
「サミーさん、城があそこまですごいのになぜに一般の家がここまでひどいのですか?マテルを使えば石の家も作れそうですが・・・」
「それは、私達は神秘の力の使い方に長けていますが、マテルとして使うことには慣れていません。そしてあまり家の見た目にこだわりを持たないので家として雨風しのげればいいと考えています。城は10代の前の翼長が見栄を張る方で、他の種族との差別化を図るために建てたと聞いております」
なんかすごい割り切った生活してるのか?雨風凌げればいいって・・・。まぁそこらへんは翼人族の考えもあるだろうからとりあえずマテルの練習方法も教えておこう。
街の様子を見てから城に戻ってきて、とりあえず今すぐに教えられることを紙に書いていく。今回は5つのことを伝える。
①マテル石を置いた給水タンクを設置し配管を通して水を供給する水道システム
②下水道を地下に通し、トイレや生活排水を流して一箇所に集め処分するシステム
③街の道路を幅8m確保し石畳または砂利を敷いて固め、線を引くことで馬車の往来を規制する方法
④マテル石を2つ使いお湯を出し風呂を入れる方法
⑤マテルの訓練方法
まぁこれだけ教えればだいぶ変わるだろう。
基本的には⑤のマテルの訓練を進めてその技術を使って他を進めるのが一番だが、無駄に力がある翼人族なら人力で進めることも出来るだろう。
この案を翼長に説明をしながら伝えたところ、感心したようにうなづき明日からマテルの使用方法や工事を進める内容などの担当者に教えることになった。
午前中はオレが教えて、午後からはオレがテューに教えてもらうというスケジュールだ。一日二日で出来ることではないので根気強く頑張るしかないな。
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修行を続けて数日、まだテューに比べたらひよっこだが少しずつコツがわかってきた。
神秘の力をマテルを発動するために使うのではなく、血液と同じように体に巡らすのだが頭で理解できても実際にやるのは相当難しい。
今まで自然に行えていたマテルの使い方はわかりやすく言えば手足の様に動かして体に添わせていたのだ。体の中に巡らせるのと、体の外に纏わせる違いとでもいえばいいだろう。
結果としては同じなのだが、結果の現れ方が違う。だからオレが頑張って神秘の力を体に纏わせても、テューの体の中を巡らせた力には遠く及ばないのだ。
「本物と偽物」
修行を始めたときにテューに言われた言葉はこのことを意味していたのだ。今まではオレの手から相手の体に神秘の力を「流し込む」ことや自分の体の表面に「纏う」ことはしていたが、自分の体の中を血液のように「巡らせる」事とはまた違うのだ。
「ユウ様、難しい顔をしていらっしゃいますよ。また考え事ですか?」
ティカがオレの顔をみて話しかけてきた。どうやらお茶を入れてくれたようだ。
今オレはモーン村に帰ってきている。正直あちらで修行を続けてもいいのだが、村のみんなも心配しているので今はモーン村にいることが多く、定期的にスフィラに行き指導や修業をしいる。
正直今のオレではテューの練習相手にもならないのでとりあえず24時間神秘の力を体に巡らせるようにしろと言われている。それが意識をせずにスムーズにできるようになって初めて本格的な修行に入れるらしい。
「テューの修業のことを考えていてちょっとね」
「テュー様は先日ユウ様が助けていただいた翼人族の方ですよね?かなりお強いとお聞きしましたが、ユウ様でもかなわないのですか?」
「テューは強い、今のオレでは子供をあしらうようにされてまったく相手にされないよ」
ティカは驚いている。するとドアをたたく音がした。
「はい!?どちら様でしょうか?」
ティカはすぐに扉に近づき客を迎える準備を始めた。
「クロとミミです」
扉を開けると二人が中に入ってきた。オレは二人には勝手に入ってきてもいいと言っているのだが「イチャイチャいしてたら邪魔しちゃうからちゃんと断ってからはいるにゃ」とミミがニヤニヤしながらいうので勝手にさせている。
まぁイチャイチャしていないことはないのでありがたいともいえる。親しき仲にも礼儀ありともいうのでオレ達もクロとミミの家に行く時は同じようにしようと話をしている。
「ユウ様、モーン村も軌道に乗り私たちが率先して行動することも少なくなってきました。今では人口は500に近づいております」
この数カ月で爆発的に人口が増えているな。でもそれは村の総意であってみんなで頑張ってきた結果でもある。
人が増えれば仕事も増えるのだが、オレ達が前に出ないでもやって行ける程度にはいろいろ体制を整えたつもりだ。
「そうだね、みんな頑張ってくれたからここまでできたよ。少しはゆっくりできるかな?」
「そうは言っても、ユウ様はいろいろと忙しいようですが・・・」
クロはオレがいろいろ修行をしていることに興味を持っているようだ。秘密にしているわけではないから聞かれれば答えている。
「ほう、神秘の力を体に纏わせるのではなく巡らせる、ですか」
やはりオレの話を聞いて興味を持ったようだ。自分でも試そうとしているがまだよくわからないようである。
本当はやり方を教えてやりたいのだが・・・少し躊躇ってしまう。
オレがテューから手ほどきを受けてやっと出来るようになった神秘の力を体の中に巡らせる方法だが、これが思っている以上に屈辱的な方法なのだ。
「クロ、オレが手伝ってやってもいいけど・・・耐えられるか?」
「はい?!耐えられるかと言いますと・・・?」
「オレが翼人族に教えてもらったやり方が・・・まぁなんだ、めちゃくちゃ恥ずかしい方法だから耐えられそうかどうかと・・・」
・・・
二人の間に気まずい空気が流れている。
「何が恥ずかしいにゃ?」
そこで丁度キッチンでティカとお茶菓子の用意をしていたミミが来た。
「神秘の力を体の中に巡らせる方法を教えてあげたいんだけど、かなり恥ずかしい方法なんだよね」
「なんか面白そうにゃ。ユウ様、クロにやってあげてほしいにゃ」
ミミは完全に他人事で楽しんでるな。
「おい!?ミミ!!そんな勝手に言わないでほしいのだが・・・しかしこのままではコツがつかめない・・・」
クロが悩んでいるとティカがルルナとナミを連れてやってきた。二人は一緒の部屋で寝起きしているのだがやっと起きてきたようだ。
「何か楽しいお話でもしていたのですか?ミミさんは楽しそうで、クロさんは何か悩んでおられるようですが?」
まだ眠たそうなルルナとナミを連れたティカはオレ達の様子を見て不思議そうにしているため話の流れを説明した。
「クロ様はユウ様と同じく修行をしたいのですか?男の人はどうしてみなさんそこまで強くなろうとするのでしょうか?」
「そりゃいざというときにみんなを、大切な人、愛する人たちを守るためだろ」
まぁそれが普通だよな。大切な人を守れる力は持ちたい。家族を持つ男なら皆そのぐらいのことは考えるだろう。
「愛する人・・・ユウ様、私は覚悟を決めました。手ほどきをお願いいたします」
クロがやっと決意した様だ。ただ、やるオレも恥ずかしいんだよな。
「わかった。ではこれから手ほどきをする。これでコツがつかめれば後は日々練習することで少しずつ感覚が研ぎ澄まされていく。では準備をしよう」
それからオレは準備に取り掛かる。必要なものは椅子とロープだ。
まずは、クロを椅子に座らせる。次に椅子の背もたれに両手を縛り付ける。そして足も椅子の足に縛る。
これで動けない。
そしてオレは指を二本クロの鼻に突っ込む。その瞬間クロの体がビクッと驚きと恥ずかしさに震える。
この時点でティカ、ミミ、ナミ、ルルナは笑いをこらえるのに必死だ。
傍から見たらおっさんが身動きが取れない状態にされ、鼻の中に指を突っ込まれて悶絶しているだけなのだ。
神秘の力を展開し、鼻から体の中に一気に流し込む。そしてクロの神秘の力をつかんで血液に乗せるように体の中に巡らせる。
フガフガ言いながら暴れようとしていたクロだが、神秘の力が少しずつ体の中を巡る感覚がわかったのか落ち着きを取り戻していた。
「くぉれがぉ、くぁらぁどぁどぉだがをべぐぅるどいうごぉどだぁんでずで(これが、体の中を巡るという事なんですね)」
何を言っているのかわからないが、何となく納得したようなことはわかる。
オレは神秘の力を注ぎ込むのをやめ、指を引っ張りぬく。ちょっと液体が指に付いてびよーんと伸びたが、オレも同じだったので気にしないことにしよう。
すぐにティカがタオルを持ってきてくれた。オレは手を拭き、ミミはクロの顔を拭いている。
「クロ兄さんおもしろーい」
ルルナはクロの無様な姿が面白かったようだ。クロも困った顔をしていたがルルナの楽しそうな顔を見て気にすることをやめたようだ。
「それにしても翼人族はずいぶんアグレッシブな修行をするようだな。さすがの私も知らなかったわ」
ナミは見た目こそ小さい子供だが、年齢はオレ達の中で一番なのだ。
シュッ!!
なにかオレの顔の横を通り過ぎて行った。ふと、振り返ると、オレのいた後ろの壁にフォークが突き刺さっている。
「お主、何か良くないことを考えていなかったか?」
「いえ・・・なにも」
やばいやばい。年齢の話はかなりのタブーなのだが、オレが考えていることがなぜわかったのか?恐るべし。
「クロさんの修業はこれで終わりなのかにゃ?」
「そうだよ。後は自分で頑張るしかないな。クロ、オレもゆっくり頑張ってるから気長に頑張ろう」
「はい、ありがとうございます。ちなみに、このロープはいつ外していただけるのですか?」
忘れていた。まぁミミが笑いながら外してくれているからいいか。
オレもここ数日寝ているときもなるべく体の中を巡るように意識して寝ているので少しは上達して来ているとはおもう。でもまだまだテューには追い付かない。あの強さを手に入れられるなら。大切な人を守る力が手に入るなら。オレはまだまだ頑張れる。
ただの死なないサラリーマンだった俺も守りたいと思う存在、家族と呼べる存在ができてここまで変わるとは。日本にいたときには考えもしなかったな。まぁ結婚するとみんなそんな風になるのかな?
修行ではなく苦行となったイベントを終え、オレもクロも一回り成長したのであった。
誤字脱字が多いかと思いますが後ほどまとめて修正いたします。




