第2章 21話 黒い誘惑
ここ最近ケンに元気がない。やっぱり行商人に聞いた、グングルトの街にいたという馬人族のことが気になるのだろうか?
「ケン、最近元気ないみたいだけど前に話していた馬人族のことが気になってるのか?」
「あら、ご主人様は私のこと気にかけてくれるの?うれしいわ・・・はぁ」
うん。なんか煮え切らない。いつもの勢いでくるなら、「なんだよ元気じゃねーか!」って突っ込めるが、元気があまりないのは確かなようだ。
「どうしたんだ?いつものやり取りができないほどに悩んでいるのか?」
「それは・・・うーん。ご主人様に話して良いかどうか・・・」
気持ち悪い。ケンタウロスで上半身はテ〇マエ・ロ〇エにでてくるような堀の深いおっさんなのに、もじもじして恥らっている。実に気持ち悪い。
「実は、私・・・できちゃったの」
?!どういうこと?できたってなにが?えっ?ナニができたのか?まったく意味がわからない。
「できたのは良いんだけど、誰も責任とってくれないのよ・・・いつも私一人でどうしようか悩んでるの」
「なにが、どうできて、責任を取ってもらえないのかはっきり言ってくれ!」
もう何がなんだかわからないが、とりあえず内容がはっきりしなくては対処のできない。
「もうっ!せっかちなんだから。もう少しからかってあげようかと思ったのに」
からかってたのかよ。いつものことだが、ケンのからかいは本格的過ぎて気付けない。ある意味やり手だ。
「料理よ、料理!みんなが私にもやってみたらって言ってくれたから少しやってみたんだけど、うまくいってね。私はおいしいと思うんだけど、みんなは気持ち悪がって誰も食べてくれないの」
料理か。よかった変なことじゃなくて。でも気持ち悪くて食べてくれないってどんなものなんだろう。
「ここ数日元気がなかったのはそれが原因だったのか。毎日作ってるのか?」
「そう、毎日料理してるわよ。どんどん上達してるからみんなに食べてほしいんだけど、遠慮されちゃうのよ。ご主人様は食べてくれるでしょ?」
うっ。ここまで話を聞いておいて食べないとは言えないな・・・。
「わかったよ。それじゃ食べるから料理を見せてくれないか?」
「いいわよ、それじゃうちについてきて」
それから、ケンが住んでいる家に向かう。
ケンはババルさんと一緒の家に住んでいる。もともとババルさんとほかのオーク族を一緒にしようとしたら、ババルさんが気を使わせたくないからと言ったのでほかの家を割り当てたが、ケンが一人は淋しいから嫌だと言ってきかなかったので、ババルさんにお願いし、家に置いてもらっている。
ババルさんも男ならということで了承してもらったが・・・今のところ何も苦情は出ていないから大丈夫なのだろう。
「そこに座っていて、すぐ持ってくるわ。さっき作ったのがあるの」
家に入ると、テーブルに備え付けてある椅子に座り、料理が出てくるのを待つ。
「はーい、お待たせ。いっぱい作ったから遠慮しないで食べていいわよ」
「なっ!」
目の前に出ていたものは、本当に食い物なのだろうか?黒い。なんかとてつもなく黒い。そしてでかい。
「これ・・・なに?」
「あら、わからない。ロッコ肉の直火焼きよ」
・・・それって、肉の塊を火に直接かけて焼いただけだよな。でもこんなにでかい肉を真っ黒になるまで焼いちゃったのかよ。もったいない。
「直火焼きしたにしても、これって焼き過ぎじゃないか?真っ黒焦げだぞ」
「そう?周り少し焼きすぎたかもしれないけど、中はいい具合に焼けているはずよ」
恐る恐るナイフで肉を切ってみる。おっ!中は丁度良く焼けてる。火が強すぎて周りは焦げてるけど、そのあとじっくり火が通ってなかなかいい焼け具合になったみたいだ。
周りの焦げた肉をそぎ取り、うまい具合に焼けた肉の部分をとって、塩を振って食べる。
「これいいよ!うまいうまい。外はかなり焦げてて食べられないけど、中はうまい具合に火が通ってる。直接火で焼くわけじゃないからいつもと違う触感になってるし、これはこれでちゃんとした料理の一つだよ」
「やっぱりご主人様はわかってるわ。そうなの、見た目はよくないけど、ちゃんと中は焼けてるのよ。でもみんなこの見た目で判断しちゃうから食べてくれないのよ」
そりゃそうだ。こんな黒い塊を見たら料理だとはわからない。
「黒い部分を取ってからみんなに分ければいいのに。それならみんな食べてくれるでしょ」
「それじゃダメなのよ。黒い部分を取っちゃうと冷めちゃうでしょ。食べるときに切り取るのがいいのよ」
なんかこだわりがあるみたいだな。まぁでもみんなの前でオレが食べていれば、少しずつ手を付けてくれそうだな。
「そっか、じゃあ今度みんなで食事するときにでもまた作ってよ。オレが食べればみんなも手を出しやすくなるでしょ。そこでおいしいことが分かれば次からはみんな食べてくれるとおもう」
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オレがケンの料理を食べたということが広がり、次の日の夕食はみんなで食べるということとなった。
「じゃあ、私が愛を込めて作った料理を持ってくるからみんな待っててね」
みんな表情が硬い。
「ユウ様、私はどのようなものかわからないのですが、皆の表情を見ている限りかなり強敵なのかと思うのですが、どんなものが出てくるのでしょうか?」
クロが心配そうに聞いてくる。ミミとティカは楽しみにしているようで、にこにこしている。やはり料理をしているため興味があるのだろう。
「見た目は・・・真っ黒い炭だな。そしてでかい。この2つの特徴を持っている」
「それは、食べ物ですか?」
うん、クロの疑問はもっとものことだが、食い物には違いない。うまいよ、中身は。
「はーい。おまたせ。今日はいっぱい作ったからみんな遠慮しないで食べてね」
ケンが両手にそれぞれ黒い塊を乗せた皿を持て来た。木の皿の上に真っ黒く炭のようになった肉の塊・・・肉と分らないような黒い物体がそれぞれ乗っている。
みんなの顔が引きつっている。そりゃそうだ。真っ黒い塊を食えと言われて食いたいと思う人はいない。
(ユウ様、あれが食べ物なのですか?炭ですよ、炭。食べたら体調を崩してしまう者が出てきます)
クロが耳打ちしてきた。
(大丈夫だって、オレが食べるの見ていればそんなことにならないよ)
誰も手を付けない黒い塊に手を伸ばす。みんなの視線を独り占め状態だ。
黒い塊にナイフを入れて、黒い部分を取り除く。すると丁度いい具合に火が通った肉が出てきた。これは食べた人にしかわからないが、意外なほど柔らかい肉に塩を一振りし、一噛みするだけでシンプルな肉のうまみが出てくるのを想像し、口の中によだれが出てくる。
肉を切り取ると、その所作をみんな食い入るように見ている。
「この肉がうまいんだ。外側の見た目は悪いけど、味は格別だ。先に頂くね」
塩を一振りして、一気に口の中へ運ぶ。
一噛み、二噛みと噛むごとに肉本来のうまさが口の中に広がる。うまい。本当にこりゃ病みつきになるうまさだな。シンプルで簡単そうだけど、こんな調理の仕方をしている人はこっちの世界に来てから見たことないな。
味を楽しんだ後、肉を飲み込む。
「やっぱりこの肉はすごくうまい。ケン、食堂開いてもいいと思えるぐらいうまいよ。ほら、みんな食べてみな」
みんな、オレの言葉を聞いて、恐る恐るではあるが、少しずつ肉を切り取り黒い部分を削いで塩をかけた肉を口に運ぶ。
次の瞬間、みんなの顔が至福の顔となっている。ミミとティカは泣いて喜んでいる。クロも目を見開いてそのうまさに驚いているようだ。
「これは・・・私も執事として長い間料理をしておりましたが、ここまでシンプルでおいしいものは初めてです。これはぜひつくり方を教えてもらいたいですね」
「おいしいにゃ、おいしいにゃ」
「これがいつものロッコ肉なんですか?!この柔らかさと肉のうまみは・・・なんてこと!」
みんなうまさに驚いている。そうだろう、そうだろう。うまいよな。
なんか隠れ家的うまい店を見つけて、それを知り合いに教えたら喜んでもらえたような感じだ。オレもうれしくなる。
「ご主人様のおかげでみんなも食べてくれたわ!ありがとう!」
ケンが抱き付いてきた。オレは少し左に体をずらしスルーする。
「つれないわね。こういう時ぐらいいいじゃない」
「だめです!ケンさんは男性です。ユウ様はそういう趣向はないです」
ティカが助け船を出してくれた。
「それに料理を作って抱き付けるなら、私は毎日抱き付いていいことになります」
ん?助け船なのか?
「私は女性ですし、料理も作っているので抱き付いていいということになります。ではユウ様抱き付かせていただきます」
兎耳の内側を赤くして恥ずかしがっているティカが、両手を広げてオレに向ってくる。かわいい。背が少し伸びたが、まだまだ小さいので子供が両手を広げて抱っこをしてほしがっているように見える。
咄嗟にオレはティカの脇に手を入れて、高い高いをしてしまった。
「あわわわ、ユウ様。私はこどもじゃないです。そんなに軽々と持ち上げないでください!!」
軽い。超人的な力になっているのもあるが、それでもティカはだいぶ軽い。前より少し大人びた体つきになったが、それでも十分スリムな体型だ。
「おっと、ごめんごめん。つい高い高いしちゃったよ」
高い高いをしている状態から下に降ろし、そのまま抱っこのような状態で、抱きしめてやった。なんか甥っ子が遊びに来た時に同じことをやっていた気がする。
「あわわわ、そんなっいきなりすぎで・・す・・・。ふにゃ~」
ティカがふにゃふにゃになってしまった。そのまま気を失ってしまったので、ミミにティカを預ける。
すると後ろから誰かが抱き付いてきた。
「私にも少しぐらいはいいわよね」
ケンが後ろから抱き付いてきたようだ。まぁまだ顔が見えないだけいいが、ごつごつした筋肉質の腕が怖い。
「もういいだろ!お前は男だからごつごつしてるし痛いんだよ。それにそういう趣味はない」
ケンを引き剥がし、また肉を食べるために席に戻ろうとしたが、一つ思い出したのでケンに話しかける。
「ケン、前に言っていた馬人族の様子を見に、もう少ししたら行こうと思う。その時はお前も付いてきてくれ」
(・・・ありがとう、本当にあなたのところに来てよかったわ)
ケンは小声でそういってみんなの中に戻って行った。
村には肉好きが集まっているので、この料理法は受け入れられた。それからこの村で飲み会やお祝いがあるときは、料理の定番としてケンの考案した「黒い誘惑」という肉料理が振る舞われることとなった。




