第2章 20話 木陰
ここ数日、村の住人の手伝いや釣り、モーンの世話などをして1週間ほどゆっくり過ごした。
今まで結構ばたばたな生活をしていたので、こういう落ち着いた、そしてゆっくりとした時間の流れを感じるのは久々な気がする。
「今日も天気が良いな」
「モーーーン」
モーンがオレの独り言に答えてくれる。最近はモーンを畑の中に放し、雑草を食べさせることが多い。
カイルさんによると、モーンは人の作っている野菜などは避けて雑草などを食べるらしい。カイルさんがちゃんと言い聞かせているというのもあるらしいけど、ちゃんと丁寧に育てられたモーンは人に害となることはしないそうだ。
モーンの面倒を見ている振りをして、畑の端にある草原で寝転んでいる。天気もいいし、暑い時期に差し掛かっているが、畑の周りに残してあった木がちょうど木陰になり気持ちいい。
地球に居るときにはこんな余裕はなかったよな。サラリーマンは本当に大変だと思う。お金をもらうために一生懸命働いたが、あれだけ働いてももらえる額はあまり変わらない。外国から見ると日本人は働き過ぎといわれるが、働きすぎというより、責任感が強いので人に迷惑をかけないように頑張ってしまうのが、そうなってしまうのだろう。
そんなことを考えていると、何かが走ってくる音がする。ん?これは村の外からだな。やばい・・・。地響きがしてゆれている。地震か?
少し身構えていると、音が近くなり10mぐらい離れた街の壁が破壊された。なんだ!!何が起きた!!
急いで立ち上がりモーンを後ろに逃がし、壊れた壁のほうに向き直ると、そこには大きなサイのような魔物が壁を破壊して畑の中を進んでいき、急ブレーキをかけたかのように滑ってから停まった。
何だ?この生き物は。像ぐらいのでかさがあるが、鎧を着たような皮膚をしているので、サイの一種なんだろう。
「モーン!危ないから村に帰れ!」
「モンモン!もんもーん!」
首を振って帰ろうとしない。なぜか5匹が俺の後ろに横一列に並んでいる。
「怪我するなよ!オレの後ろにいろよ!」
サイのような生き物に火のマテルを飛ばす。でも鎧のような皮膚にはまったく意味がない。次はいつもの落とし穴だ。力をかなり込め、大き目の落とし穴をサイの近くに作ってが、サイはその穴を避けてこちらに向かってくる。
かなりのスピードで突っ込んできたので、咄嗟に土のマテルでかなり硬度を上げた石の壁を3重に張った。ドーンっ!と轟音をたてて、壁にサイが激突した。停まったか?
その一瞬の隙がいけなかった。サイはぶつかってから、ギアを1段階上げたように勢いを増して、壁を破壊して突っ込んできたのだ。サイの体当たりにオレは吹き飛んだ。思いっきり角がわき腹に刺さった。熱い。わき腹が燃えるように熱い。
手を当てると手のひらに生ぬるい感触がある。ぬるぬるしてい手気持ち悪い。これを見てしまうと血の気が引いてしまいそうだ。
しかしこのまま倒れていたら、モーンや街のみんなが大変なことになってしまう。ここはなんとしても持ちこたえなければ・・・クロ、ミミそして、ティカはどうしているのか?あの轟音だしマテルも使ったから気付いてこっちに来てもいいと思うが。
意識を飛ばしそうになりながら、どうにか踏ん張っていると、モーンたちが俺の前に並んだ。
「やめろ、いくらお前達が5匹で頑張ってもあんなやつにかなうわけない・・・くそっ」
痛さで立っていられない。ひざを突いて、モーンたちを見ると1匹が振り返って一瞬こちらを見た。
「ユウさんは私達が守る!」
ん?!モーンがしゃべった・・・しゃべった?!
「モーンチェーーーンジ!」
さっきしゃべったモーンが合言葉みたいなものを叫ぶと、他のモーンたちも同じ合言葉みたいなのを叫んだ。すると、モーンたちが眩しく輝き見えなくなってしまった。
次の瞬間、モーンが二本足で立ち、いつものモーン柄の鎧を着た人間の姿に変わった。見た目は人族だが、牛の耳がついており、尻尾もある。みんな美男美女でスタイル抜群だ。
「私達魔物のモーンは一生に1度だけ人の姿になることができるのです。ユウさんを守るためであれば、私達は命をかけます!」
「俺達はユウさんの村で悠々と過ごしてきた。何一つ不自由なく。その恩を返すとき!」
モーンたちはそれぞれ剣や斧、弓などを持っている。サイはこちらを向いて、今にも走り出そうとしている
双方一斉に動き、モーンたちはサイの周囲を囲もうと移動し、サイは囲まれまいと突進を続ける。しかし、モーンの足への攻撃をくらい、動きが鈍くなってきた。
うまい。ひざの裏側などの関節でも稼動する部分を狙い攻撃をし、とうとう動きをとめることができた。しかし、頭や尻尾を振り回しモーン戦士達を寄せ付けまいと抵抗する。
それからは斧を持ったパワーファイターのオスのモーン戦士が、高く舞い上がり、尻尾めがけて斧を振り下ろす。すると尻尾を元から切断できた。
さすがにこれは聞いたらしく、サイも動きが悪くなった。このままみんなで攻撃を続けてあと一息で息の根を止められるところまで来た。
するとモーンたちが1箇所に集まり、みんなの神秘の力を集めて大きな1つの力として放出した。
これはオレがやる波〇拳と同じような技だが、一人の力では足りないためみんなで1つに合わせて放出したのだ。
そのすさまじい攻撃に、サイの魔物は跡形もなく吹き飛んだ。
「やった・・・。やったよみんな!君たちのおかげで命拾いしたよ。それにそんな特技があったなんて・・・」
「もうこの姿に戻ることはないです。せめて戻ってしまうまでみなと一緒にここで過ごしてくださいませんか?」
そうか・・・もうこの姿には・・・
「わかった。一緒に過ごそう」
みんなオレの胸の中に入ってきた。頭をなでて慰めてやる。モーンはかわいい。みんなにあえなくなるのは悲しいが、今までのモーンとして村のために頑張ってもらえればと思う。
モーンたちが顔を舐めてくる。牛のような長い舌でなめてくるが・・・気持ち悪い。
気持ち悪い、気持ち悪い・気持・・・きもち・・・きも・・・き・・・
はっ!!目が覚めた。モーンが俺の顔を舐めている。
いつの間にか寝てしまっていて、変な夢を見たようだ。
寝てしまって、その周りをモーンがばたばた歩いているのが、サイが走ってきたことにつながり、そのうちモーンの足がオレのわき腹に当たり激痛を感じたが、モーンが俺の手を舐めたため血が出ていると錯覚したようだ。
なんだかいやな夢だったような面白い夢だったような・・・
「どんな夢を見ていたのですか?」
?!モーンがしゃべった!やっぱりあれは夢ではない?!
するとモーンの後ろからティカが顔を出した。
オレは空を見上げる。雲がゆっくりと流れている。気持ちがいい昼前の時間は、変な夢を見てしまった。
でも、モーンが変身するなら、ぜひ見てみたい。
たまたま目が合ったモーンが俺に向かった一瞬ウィンクしているように見えた。
モーンの変身はぜひ見てみたい。




