第2章 11話 意思
オレの体調が戻ってから数日経った。
後で詳しく聞くと、クロの使った闇のマテルは秘技らしく、自分の姿を霧状にし、影に同化することで、誰にも見つからずに治癒に専念できるらしい。使用する条件としては、瀕死であること、近くに信頼できる相手の影があることという条件のようだ。
なんでも、本当はもっと早く発動するはずだったのだが、オレが神秘の力をどんどん流し込んだため、なかなか発動できずに逆に苦しい思いをしたらしい。そんなの知ったことか!!
この秘技のおかげで、闇族は怪我で死ぬことはまずないらしい。頭を吹き飛ばされたらどうしようもないが、それ以外の怪我なら問題ないようだ。
ここ数日で村のみんなも落ち着きを取り戻してきた。そんな中、一つ困った事が起きている。魔物を大量に倒したため、食用となる肉が大量にある。悪魔と戦った次の日、クロとミミがマテルで氷を作り、肉を保存している。しかし、氷が溶けないように神秘の力を注ぐ必要があり、かなりの労力のためどうにかできないか話し合うことになった。
「クロ、ミミ、ティカ、あの肉の保存なんだけど、なんかいい方法ないかな?」
「売ってしまうのはどうですか?」
ティカはあまり量を食べられないので、そんなにいらないと思ってるんだろうな。でもほかの住人の肉を見る目を見てると・・・売れない。
「他のみんなは、自分たちの肉だ!!って感じで思ってるみたいだから、さすがに売れないよ」
「それでは乾燥肉にしてみてはどうでしょうか?」
クロは保存食として保管することも考えてくれているみたいだが、乾燥させたベーコンみたいな肉をあんなに大量に作ったら、めちゃくちゃ手間がかかって大変だろう。
「一部は乾燥肉にしてもいいと思うけど、全部乾燥肉にするのは大変でしょ」
「食べちゃうにゃ。毎日パーティーにゃ」
ミミは食べてしまえばいいと考えているが、どう考えても多すぎる。3食肉ばかり食べていると、絶対に飽きる。
「かなり量があるんでしょ。毎日パーティーをしてたら体に悪い!パーティーはたまにやるからいいんだと思うよ」
食用として置いておくのはいいが、保管方法だよな。なんかいい道具なかったか?
オレはリュックの中からいろいろと取り出してテーブルの上に並べていく。何か役に立つものがないか、クロにいろいろと見てもらう。
「?!こっ、これは!!フィアドラゴンの牙ではないですか!何でこんなもの持っているのですか!」
「あぁそれ、魔王城ぶっ壊したときに一緒に倒しちゃったから、記念にもらっておいた」
「これは記念でもらってくるような品ではないです!この牙から削りだした武器は刃こぼれせず、フィアのマテルの効果が付与するため、切ったものが燃えるようになります。とんでもない金額で取引されるでしょう。金貨1000枚はしますよ」
そんなに高価だったのか。でもこれは記念としてそのまま持っていよう。
「こっちは骸骨戦士の武器防具ですが、数が多い。それぞれ金貨10枚ぐらいします。そしてマテル備蓄の石、神秘の力回復薬、これは光る石ですね。部屋の灯りとして使うといいです」
あの光る石は・・・ガレム村の子供たちが村を出るときにくれたやつだ。完全に忘れてた。家の中の照明にできるならちょうどいい。あとで各家に設置してもらおう。
「マテル備蓄の石を使って、肉を保管することはできないかな?常に冷たい風を送るように力を籠め、地下室でも作って一緒に入れておけば、長持ちしそうじゃない?」
「確かに・・・はじめは多くの力を込める必要がありますが、この大きさの石ならば1回の神秘の力の補充で1ヶ月は使えます」
おお!1カ月も持つならいいね。定期的に力が多い人が補充すれば冷蔵庫としていろいろ保存できる。
「それじゃ、地下室作って、マテル備蓄の石に神秘の力を込めて肉と一緒に保存しよう」
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そのあと、村のみんなを集めて肉の保存について話をした。一部の肉は乾燥肉にするので分けておく。今回はティカがやってみたいというので、ヴァンスさんたちにうちに運んでもらった。
地下室はオレ達の家の横に入口と階段を作り、地面より2mぐらいのところに部屋を作った。地下は一定の気温を保つから今の状態でもそれなりに涼しいが、マテル備蓄の石を部屋の中心に柱を立て、胸の高さぐらいに固定する。そして冷たい風を少しずつ出すようにイメージしながら、神秘の力を込めていく。
「これって、どこまで力を注げばいいんだ?」
「通常は力がいっぱいになると赤く光りますが・・・まだまだ大丈夫そうですね」
まだ赤く光らない。もう結構な量の力を込めてるが・・・もう少し込める量を増やしてみるか。
それから5分ぐらい力を注ぎ続けてやっと光った。でも赤くないぞ。青く光っている。ずいぶん力を補充できるんだな。まぁ1カ月持つならいいや。
「ユウ様、この石・・・何かおかしいです。通常このぐらいの石ならすぐに充填できるはずです。それに赤く光らずに青く光るとは・・・青く光る?!もしや!」
「なんかわかったのか?」
「通常のマテル備蓄の石は、充填できると赤く光りますが、ごくごく稀に充填すると青く光るものがあります。それは石の純度が高く、赤いものより10倍は備蓄できるといわれていますが・・・私も見るのは初めてです」
マテル備蓄の石は、石と言われているが少し霞のかかった水晶のような鉱石だ。目の前の石は少し霞んでいるが、他の小さな石に比べると透明度が高い。そして青く光っているので、クロの考えで間違えないだろう。
「じゃあ、当分の間は持ちそうだね。よかった、年に何回も供給するよりは楽だね」
素直に感想を述べたのだが、クロには呆れられてしまった。
「ユウ様、その大物ぶりは大したものですが、よく考えてください。この備蓄の石に日ごろから力を込めて大きな戦の時に使用したり、街のいろいろな運用に使用することが可能です。それに王がいる街にこれを持っていけば、それだけで一生食べていけるような金額が手に入るのですよ。それだけすごいものを持っているということは、他に知られれば狙われるということになります」
「そんなに難しく考えないでいいんじゃない?地下室だから村人以外は入らないだろうし、柱の中に固定したからちょっとやそっとじゃ盗れないし。保管庫が長く使えて便利だなーってそれでいいよ」
「はぁ、野心がないのはいいことなのか、どうなのか・・・」
「ユウ様はそこがいいのです。力に溺れず、弱きものに手を差し伸べ、自分は贅沢をしようとしない。まさに理想の方です」
ティカはオレを美化しすぎてるな。適当な性格だからそんなに立派なもんじゃないぞ。
「ユウ様は意外と抜けてるにゃ。だから私たちが助けるにゃ」
ミミはストレートに言ってくれるな。でも間違ってはいないから言い返せないな。メイドに抜けてるといわれると・・・結構心に刺さるな。頑張れオレ。
そんなオレの議論をしているうちに、他のみんなが肉を地下室内に運び込んでくれたようだ。広さは10畳間ぐらいあるので、肉を入れてもスペースが余っており、みんな地下室に集まってきた。
力を込めた石を発動させるため、手をかざし力を込める。冷たい風が出てきた。予想以上に冷たい。これなら凍るだろう。そうすればさらに長持ちしそうだな。
「よし!、これで肉は当分困らないね。でも、新鮮な肉のほうがおいしいから、寒い時期になるまで狩りで捕ってきた肉は優先的にみんなで食べることにしよう!」
猫族と兎族の狩人たちは、笑顔でうなづいた。肉は必要ないと言ったら悲しんだだろう。肉以外に素材集めはできるが、捨ててくるのももったいないし、食べられるなら優先的に食べよう。
「ユウ、こんなに肉があるなら、ガレム村にも少し分けてやるのはどうだ?オレ達だけで食べるにしても何年分もあるぞ」
お!その手もあったか。ババルさんは自分がいた村だし、村のみんなに少しでも恩返しをしたいのだろう。みんながいいと言ってくれれば持っていくかな。
「そうだね。みんな、この肉を少し分けてもらいたいんだけど、いいかな?ババルさんのいた村に分けてあげたいんだ」
みんなに語り掛けた。特に文句も出ず、了承してくれた。
「ユウ様、私たちが言える立場ではないのですが・・・私たちがいた村にも分けていただけませんでしょうか?そして村へ行くときに同行させていただけませんでしょうか?私たちは村に帰っていないので、みんなにも会いたいのですが・・・」
そうだった。ババルさん以外のオーク族は、他の村出身でさらわれて奴隷になったんだった。そりゃ出身の村に帰りたいよな。
他の人たちも村に帰りたい人がいるかもしれない。後でみんな一度は村に帰ってもらおうかな。オレも付いて行って観光とかしたい。まだガレム村とエーテハイムしか人が住む場所に行ったことないもんな。
「いいよ。そしたらガレム村に行ってから、マーラさん達が住んでいた村に行こう。肉はマテルで凍らせれば長持ちするし大丈夫だろ」
「ありがとうございます。親やみんなに会って、ちゃんとこの村に住んでいるということも話ししたかったので、うれしいです」
「出身の村に帰ったら、やっぱり戻りたくなるんじゃない?この村には無理やり連れてきちゃったから、納得できないなら元の村に戻っても・・・」
そういうと、みんな目を見開いてオレのことを見る。
「見くびってもらっては困ります!私達は、ユウ様のやさしいお気持ちにお答えしたくて、自分たちの意思でここにいます。奴隷でもなく、監視もされていない私たちは、嫌ならとっくに逃げ出してます」
マーラさんご立腹だ。でもうれしいことだ。みんなこの村を好きになってくれているんだな。オレも村長として自覚がないが、こういう人がいてくれるなら村をより良くしていきたいと思う。
「ごめん、みんな。オレは無理やり連れてきちゃってたから、みんながどう思っているかわからなかった。でも今の言葉を聞いて安心したよ。他のみんなも元いた村や街に帰りたいときは言ってね。オレも観光がてら見てみたいし、みんなには自由にしてもらいたい。別に里帰りしたければ好きにしてもいい」
みんなの気持ちを知ったからというわけではないが、オレが自分のいた世界に戻ることがすぐには難しいので、戻れる人は戻りたいと思ったときに自由にしてもらいたいと思った。
「でも、ちゃんとこの村に戻ってきてほしい。いや、戻ってきたいと思えるような村を作ろう。みんなで力を合わせれば、時間はかかっても少しずつ良くできると思う。だからみんなで意見を出して良くしていこう」
みんなオレのことを真っ直ぐに見て、力強くうなづいてくれた。よかった。
「ねぇ、ごっ、ご主人様。みんなかっ、感動しているところ悪いんだけど、もうそろそろそっ、外に出ない?私、上半身裸だから、さっ、寒くて寒くて、冷凍肉になっちゃいそう」
ケン!だからいつも何かを着ろと言っていただろう!自業自得だ。でもさすがに寒いから外に出よう。
そんなことで、2つのオークの村に行くこととなった。行くメンバーとしてはオレとクロとミミ、ティカとオーク族の4人だ。
なぜティカが入るのかというと、いつの間にかメイド見習いのような状態になっており、修行のためとか言っていた。あと、旅をしたこともないため、いろいろ見てみたいらしい。
前と同じく、他のみんなには食料を置いていく。保管庫に置いておけるので多めに置いた。そして、畑については兎族の二人に何かをお願いしているようだ。
オレも、悪魔襲撃後に完成させた壁と門を一通り見て周り、問題ないことを確認した後、モーンのところにも寄った。
「モーン?」
「ん?これからちょっと出てくるな。オーク族の村に行ってくる」
「モーン、モーーーン」
「今回は連れていけないよ。でも他の村の干し草でも買ってきてやるよ」
「モーン!モモモーン」
喜んでいる。やっぱり言葉がわかるのか?はっ!?オレもモーンの気持ちを理解している?!初めは気持ち悪いと思っていたが、なんか最近は見慣れてかわいく感じてきた。ちょっとした癒しだ。
「帰ってくるまで、ちゃんとカイルさんの言うこと聞いて、おとなしくしてるんだぞ!」
「モン、モーン」
「よし、じゃあ行ってくるな」
「モーン!」
モーンへの挨拶を終え馬車のところに行くと、みんな準備が出来ていたようだ。
「ユウ様、モーンの気持ちがわかるのですか?会話をされていたようですが・・・」
カイルさんが不思議そうに聞いてくる。俺にもわからん。なぜだかわかる感じがする。表情とかで読み取ってるのか?謎だ。
「わかるというほどじゃないけど、何となくね。それじゃ、みんな行ってくるね。留守の間よろしくね」
それから、門を出てまずはガレム村に向かう。今回は肉もあるため馬車2台で進む。馬車を引いている生き物は馬だと思っていたが、これはウーグという魔物らしい。馬との違いといえばしっぽが兎のように丸いということぐらいだろう。
ガレム村までは、1日あれば着くだろう。ゆっくりと辺境の荒野を進んでいった。




