第2章 10話 襲撃(2)
クロが消えた・・・今朝はいつもどおりにクロに起こしてもらい、ミミとのやり取りを見ながら平和な一日の始まりだったはずだ。
なのになぜ今、クロは消えてしまったのだろうか。原因はわかっている。あのデスという悪魔のことだ。紫色の肌に黄色い目、牙の生えた口という悪魔というのが一番しっくり来るだろう。あいつのせいでクロが消えてしまった。
「よくも・・・よくもクロさんを!!あの人にゃら・・・あの人とにゃら私は!おのれ!!!」
ミミが理性を失いデスに向かっていく。しかしデスはすばやい動きでミミの攻撃をことごとくかわしていく。
「猫の分際で、攻撃が当たるとおもってるのか?ふざけるな!」
手を一振りしただけでミミは吹き飛ばされ木に叩きつけられてしまった。
「ミミ!!」
ミミまで失うわけには行かない。急いで治癒のマテルで傷を癒していく。どうやら傷は治ったが木にぶつかった衝撃で意識がはっきりしないようだ。
「お前はここで休んでいろ」
オレは自分の感情が良くわからなくなって、無心のような状態でデスに向かい近づいていく。
「やっとお前が相手をしてくれるか。本来は他の目的があったが、お前が魔物をすべて倒してしまったからな。この分の損害をお前が戦って、俺を満足させればチャラにしてやる」
何かしゃべっているが、オレにはまったく聞こえてこない。ただ目の前に倒さなければいけない敵がいるだけだ。
瞬時に神秘の剣を作り相手に投げつける。両手で次々に作り避けられたら避けられた先に投げつける。
「ちょっとまて!破れかぶれか?!ただそんな攻撃じゃ長くは持たないだろう。オレをがっかりさせないでくれよ」
デスは不気味な笑みを浮かべオレの神秘の剣を避けながらマテルを放ってくる。闇のマテルの一種だろうか?神秘の剣が黒い玉に触れると飲み込まれるように消えていってしまう。
「これはどうだ?」
デスは身を低くし突進してきた。そして目で追いつかないほどのスピードで首を狙い、手で掴んできた。指が首に食い込み息ができない。しかしそんなことはお構いなしに神秘の剣でやつの肩を貫く。
「くっ。首を引きちぎってやろうとしたが・・・お前は本当に人族なのか?ずいぶんと丈夫だな。おかげでこっちが手傷を負ってしまった」
苦しかった。痛かった。悲しかった。辛かった。いきなりこの世界に送り込まれ、気楽な気持ちで村を作り始めたけど、本当に毎日が充実していた。みんな笑顔だった。なのにもうあの日々は戻ってこない。
戻ったとしてもクロが・・・クロが・・・。
「ぐ・・・そ・・・・・!!!」
オレは途切れそうな意識の中で、神秘の力を大量に解放した。
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光を感じる。そして声が聞こえる。誰だろう。もう朝かな?
「ユウ様!ユウ様!!」
誰だろう。まだすごく眠い。疲れているのかな。クロが起こしに来たのかな?
「ユウ様!目を開けて!お願いします。ユウ様!」
女の子だ。女の子を泣かせたらだめだって母ちゃんにいつも言われていたな。おきなきゃだめだろうな。
ゆっくりと目を開けて、胸の上で泣いている女の子の頭をなでる。
「ユウ様!!よかった。本当に良かった」
その女の子はティカだった。小さな手で涙を拭きながらオレが起きたことに安堵しているようだ。
「あれ?オレは何でこんなところで寝てる?」ここは・・・村の森?」
「?!覚えていないのですか?」
なんだろう。思い出しそうで思い出せない。なんか体が異常にだるいけど・・・何かしてたんだっけ?
「ユウ様。私達は魔物の群れと戦ってたにゃ」
魔物の群れ?そうだっけ?まだ良く理解できない。
「ユウ様は悪魔にやられそうににゃって、神秘の力を解放したにゃ」
神秘の力の解放?俺が開放するって言ったら、魔王を倒したときとかクズ貴族をやっつけたときにやったあれだよな。
「悪魔は瀕死の傷を負って、いろいろしゃべってたけど、駆けつけた村のみんにゃでやっつけたにゃ」
わからない。でもみんな頑張ったんだな。
「そっか。みんな頑張ったんだね。ありがとう。なんか体に力が入らなくて起き上がれないよ。クロ、クロいる?ちょっと手を貸して」
「?!」
みんななぜか目を伏せている。ミミは泣き始めてしまった。何でだろう。クロはどこにいるんだろう。
「ご主人様。あんた覚えてないんだね。私も遠くからしか見えなかったから詳しくはわからないけど、執事さんは・・・クロさんは悪魔にやられて・・・」
ケンが何を言っているのかわからない。クロがやられた?悪魔に?
そのとき何か頭の中で「カチッ」とつながった。そうか・・・魔物の群れにいた悪魔にやられそうになって。クロはオレをかばって・・・。
「くそーーーーっ!クロ!!何で俺なんかをかばって!お前はミミを、ミミを置いていくのか!ご主人様をおいていくのか!!!」
起き上がれないオレは地面を叩き、仰向けのまま涙を流す。
「だめです。それ以上動いたらクロさんが命を懸けて助けてくれた体を傷つけてしまいます」
ティカが必死にオレの手足を押さえて、落ち着かせようとしてくれる。泣きながら・・・でも気丈にオレを正気に戻そうとしている。
「なっていませんね。何を学んだんですか?」
???クロの声が聞こえる。みんなぽかんとしている。
するとオレの背中の影の下から、黒い霧が出てきて人の形を象っていく。
「淑女を目指し学んだのなら、主人が正気ではないときは顔を平手打ちしてから抱きしめる!!そのぐらいしなければいけません!」
なんかクロが出てきた。何だこりゃ。シリアスなシーンだったのに、一人で淑女とは・・・と語っている。
「クロ!?お前・・・あの時やられて消えてしまったんじゃ・・・」
「ええ、ユウ様にはちゃんといったじゃないですか。このぐらいではやられないので心配しないでくださいと。ずっとそばにいると」
全然話が見えてこない。確かにそんなことを言っていたかもしれないが、それがなぜ俺の影から出てくるのだ。
「でも、あの時確かに消えてしまっただろ?!」
「あれは、闇のマテルの一種です。瀕死の状態でしたので、一度やみに潜み、傷の治癒に専念しました。そのおかげで今は傷も塞がり問題ありません。一番近くにあった影がユウ様の影でしたので少しお邪魔していました」
「お邪魔していましたじゃねーよ!何だよそれ。心配して、悲しんで損したよ!」
安心したのか、どっと疲れが出てきた。もう寝たい。
「そういえばミミ、私となら・・・なんなのですか?何か言いかけていたようですが」
「クロさんなんてだーーいきらいにゃ!!!」
ミミはクロの頬にビンタを食らわせて、その頭を胸に抱く。おお!これがいわゆるツンデレか?ツンデレなのか?淑女の道なのか?!
「わっ、私もユウさんに!ユウさんに!」
ティカが慌ててオレの頬を叩き、腕で頭を抱えている。ビンタといえないほどのやさしいタッチで、大事なものを包み込むように頭を抱えられた。オレはもう好きなようにさせている。
ん?!ティカは順調に成長しているようだ。頭に感じるやわらかい感覚を満足しながら感じていた。
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その後、オレは3日間寝込んでいた。クロは平常運転。ミミは前よりクロを気にかけているようだ。ティカは俺の世話を精一杯やってくれている。ただ、一生懸命すぎて、トイレに行くときまで一緒に来ようとするので、丁重にお断りした。
魔物の襲撃は、悪魔の最後の言葉から理由がわかったらしい。魔王の城が何者かに廃墟とされ、誰も統治できるものがいなかった。その噂を聞いた悪魔のデスが森の奥にある住処としていた洞窟から出てきて、魔物たちを従えてから魔王城を目指して移動中にこの村にぶつかったということらしい。
「ごめん。俺のせいでもある。実は魔王城を吹き飛ばしたの・・・オレなんだ」
クロはいつも持っているスティックを落とした。ミミは持っていた皿を落としている。ティカは果物をむいていたナイフを落として、俺の顔のすぐそばに落ちた。あぶねっ!!
「それは、ユウ様らしいですね」
そういうことで、3人は納得してくれた。というかオレが悪魔に放った神秘の力の解放により、直径200mぐらいクレーターができ、近くの川から水が流れ込み、湖ができたらしい。
その光景を見ていたから、「魔王城を吹き飛ばした」といわれても信じることができるらしい。まぁ本当だけどね。
村の近くに湖ができるのは後々いいかもしれないな。まぁ怪我の功名ということで、ポジティブに考えておこう。
村のみんなは魔物の肉を集めたり、換金可能な部位を集めたりして、残りの不要な部分をオレが空けた落とし穴に埋めてくれているようだ。ちょうど良かったらしい。
初めての村の襲撃は、怪我人は出たものの、犠牲者は出さずに乗り切ることができた。
クロ復活。というかそんなマテルがあったのね。




