第2章 07話 木漏れ日の中で
ケンタウロス・・・やつはキャラが濃いが、嫌いじゃない。
ケンタウロスの一波乱があった日の夜、食事を食べた後みんなで片づけをして恒例のお風呂タイムにしようとしたら、クロから話しかけてきた。
「ユウ様 奴隷から開放したとはいえ名前はどうしましょうか?」
「奴隷解放したから元の名前でいいんじゃないの?」
「いえ、奴隷はなったその日から前の氏名を語ることができなくなります。ただ、奴隷になり1人目の主人に仕える際、主人が名前を指定しなかった場合は元の名前を名乗って問題ありません」
そうだったのか?そういえば犬族のカイルさん一家は、特に名前をつけてないから、そのままの名前を使ってるんだな。
「1人目の主人に名前をつけてもらった奴隷は、主人が変われば前の主人のものではないので、名前をつけて欲しいというでしょう。今回は兎族の2名以外全員、以前、他の主人がいたようなので、名前をつけた方が良いかと思います」
そっか、特に問題なかった兎族の2人は、最近奴隷になったといっていたな。
「それなら、風呂に入る前にみんなに名前をつけよう。風呂については、男はクロ、女はミミが入り方を教えてあげて」
「承知しました」「わかったにゃ」
それから兎族の2人と寝ている1人以外は一人ずつ名前をつけていった。
オーク族 病弱な男 サイガ
オーク族 病弱な女 テーナ
オーク族 足を怪我した女 マーラ
※マールさんに似ているからではない。決してそうではない。
猫族 女 ユシカ
猫族 男 ライゼ
兎族 男 ナジ(実名)
兎族 女 アルニ(実名)
馬人族 ケン
みんな自分の新しい名前を何度も繰り返し口にして覚えているようだ。・・・俺が忘れちゃいそうだな。なんとなくでつけちゃったから忘れたら聞くしかないな。
それから、風呂に入るため5人ぐらい入れる浴槽を、男女用それぞれ1つずつマテルで作る。村からエーテハイムの街に行くときにも、毎晩入っていたのでもう手馴れたものだ。
今回はクロとミミは風呂の入り方を教えているため、俺が二つの風呂のお湯をマテルを使い溜めていく。一連の作業を見て新たな仲間たちは目を見開いて釘付けになっていた。
「ユウ様はやはりマテュリス様なんですか!!私はマテュリス様に憧れていたのです!」
「違うよ、行商人だよ。商売がうまくない行商人だけど、マテルが使えるだけだよ」
なんかマーラさんがキラキラした目で俺を見てくる。オレはできるだけ棒読みにならないように・・・なってるがマテュリスではないと説明した。
「ご主人様は、私や兎族の髪の長い子の契約も解除したんだから、マテュリス以上の力があるってことはわかっているのよ!ネタは上がってるの。さぁ私とお風呂に入りなさい!」
うん、ケンが暴走してる。一緒に風呂に入りたくない。なにか男の子として大切な何かをなくしてしまいそうな気がする。何かはわからないが、失いたくない何かだ。
「お前は一人で入れ。というか別の風呂を作ってやるからそこに入れ」
「そんな!!私だけ、と・く・べ・つにお風呂を作ってくれるの!うれしい!」
だめだこいつ、(脳みそが)腐ってやがる。(奴隷解放するのが)早すぎたんだ・・・。なんか風が吹く谷の話で、7日間で世界を滅亡させる種族が出てきそうなセリフを脳内で再生してしまった。
「はいはい。風呂の入り方はクロに教わっただろ?ここに風呂作ってやるからちゃんと入れよ」
それから男と、女と、ケンの3つに分かれて風呂に入った。始めてはいる風呂にみんな興奮していたが、湯船に浸かるとみんな気持ちよさそうにしている。
やはり風呂はいい。みんな疲れていただろうし、今日はゆっくり寝られるだろう。オレはまだまだ体力有り余ってる。超人的な体で5日ぐらい寝なくても大丈夫だから、今日の火の番は俺がやってやろう。
「申し訳ありません、ユウ様。それでは、お言葉に甘えさせていただき、休ませていただきます」
風呂を楽しんだ後は、風呂を崩し、即席の小屋を土で作る。ただの豆腐小屋だが、それぞれが寝やすいようにベッドを作り、毛皮などを敷いて寝に入った。
マテルを使うごとにみんな釘付けになっていたが、
「このマテルは特殊だから、あまり他の人に言わないでくれ」
とオレがいうと、顔を見合わせて何かこそこそと話していた。しかしミミが
「ユウ様はマテルを開発してるにゃ。誰かに言ったらお風呂に入れにゃくにゃるにゃ!」
といったら、みんな誰にも言わないと素直に言うことを聞いていた。そんなこともあり小屋を造っても新しいマテルとして認識してくれたようだ。
というか風呂がそんなに良かったのか?オレの威厳は?
まぁみんなゆっくりと寝たようだから、オレはいつものようにマテルのテストに取り掛かる。
まずは神秘の力を手から出して、手のように使うことだ。前にやっていたときはかろうじて物をつかめる程度だったが、今はいろいろな形にできるようになった。今気に入っているのは、剣の形にして手で握り、光のマテルで少し光らせることでビー〇サーベルのようになる。ちゃんと刃もついているから、なまくらな剣なら切り飛ばすことができるだろう。
その剣を使い少し素振りをしていると、馬車から物音がした。
「あれ?起きちゃったか?」
さ〇子ちゃんが起きたようで馬車の荷台から出てきた。
「・・・おなかが減ってしまって」
もじもじとして恥ずかしそうに空腹を訴えていた。ちゃんと起きたときに食べられるように、一人分の夜飯を用意してある。焚き火のところに呼んで隣に座らせる。
「これ食べな。みんな同じもの食べたんだけど足りなかったら他にもあるからいってね」
「ありがとうございます。パンやお肉まである・・・こんなに頂いていいのでしょうか?」
「いいよ。もう奴隷じゃないんだから、好きなだけ食べな。髪の毛が邪魔だろう?縛ってあげようか?」
「・・・こっ怖い・・・本当に大丈夫でしょうか?」
なんか髪の毛を触られるのを怖がってるな。やはりなんか条件をつけられていたのかな?
「どんな制約をつけられていたのか、教えてもらってもいいかな?」
「・・・髪の毛を他の人に触らせたり、自分で切ったり縛ったりすると、息ができなくなる契約となっていました」
ひどいな。だから髪の毛を切ることができず、縛ることもできないから伸ばし放題だったのか。息ができなくなるなんて怖すぎる。
「大丈夫だよ。君は人としゃべることも制限されていたんじゃない?今は普通に話してるのになんでもないでしょ?」
「あっ!私・・・声が出ています。いつもマテュリス様と出会い奴隷解放してくださる夢を見ていました。起きてから、本当は解放してもらったんじゃないかと思い声を出そうとして、声が出なく肩を落とす日々を繰り返していましたが、今日は本当に声が出ています」
相当辛かっただろうな。まだ小さいし話をいっぱいしたいのに声を出せなくされていたのか。
「そっか。ならちゃんと話ができているし、髪の毛を触っても大丈夫だよ。縛ってあげるから後ろを向いて」
少し考えていたようだが、ゆっくりと後ろを向く。前髪が長いので全部後ろにもって行き、ポニーテールにして皮ひもで髪を縛る。
「ほら、大丈夫だろ?お腹すいただろうから、ご飯食べな」
「本当に・・・本当に解放していただけたのですね。私はもう一生話すことも髪を切ることもできないと思っていました。ありがとうございます。えっと・・・」
女の子は振り返り俺のほうを向く。
!!!
なんじゃ?!このおなごは!髪の毛で隠れていたからか、顔は色白で目はパッチリ、かなりの美少女だ。あまりの衝撃にしばし言葉をなくしていたが、不思議そうに見上げてくるのを見て慌てて我に返る。
「おっオレはユウ。行商人をしているが、今は村を作ろうと思い、いろいろやってるところだ」
「ユウ様、本当にありがとうございます。私は・・・不器用で何も特技がなく、一人では街で生きていくこともできません。ユウ様、私を村に住まわせていただけませんでしょうか?一生懸命覚えて、何でもお手伝いできるようになります。もしよければ、私に名前をいただけませんでしょうか?」
なんかすごく謙虚でいい子だ。幼いのに話し方も上品だし、兎族の貴族か何かだったのかな?
「わかった。君の本当の名前は何かな?」
「本当の名前は奴隷になるときに捨てました・・・」
「いいんだよ。名前は付けるけど、本当の名前を一度教えてもらいたい」
「ティータ・カライン」
「ありがとう。・・・それでは、今日から君はティカ、ティカという名前にする。これからよろしくね」
「ティカ・・・ありがとうございます。(私は一生ユウ様のおそばに・・・)」
ティカが何か言っていたが、声が小さく俺にはよく聞こえなかった。
そのあとも、ご飯を食べながらいろいろ話をした。やはりティカは兎族の貴族の娘さんのようだ。しかし、父親が人族にだまされ没落し、両親が病気で他界したため奴隷になったとのことだ。ご飯を食べて眠くなったらしく、舟をこぎ始めたので、肩を貸してやりローブをかけてやった。
次の日、朝一番でミミにお願いし、ティカをお風呂に入れてあげることとした。
お風呂を準備したところ、ティカにもマテュリスなのかと聞かれたが、いつもと同じく違うことを説明し納得してもらった。
風呂から出てきたティカを見て、オレは固まった。
「どう・・・したんだ?」
「私は昨日までの私ではないのです。生まれ変わった気持ちでティカとして残りの人生を生きます」
ティカは長かった髪をバッサリ切り、肩ぐらいの長さになっていた。前髪も切り、縛らないでも顔がちゃんと出ている。頭を洗ったからなのか、髪の毛は黒ではなく薄い青っぽい色でサラサラなストレートだった。そして透き通るような白い肌。汚れが落ちて、本来のきめの細かい肌が出てきたのだ。
昨日のぼさぼさ頭はなんだったのか。ずっと頭も洗えず汚れており、ゴワゴワになってくすんでいたのだろう。本当、別人に見える。なんか・・・いい。
「まるで別人だな。綺麗になってよかったな。その髪型のほうが似合ってる」
「ありがとうございます。なんかすっきりしました。お風呂いいですね。私は大好きです」
それから俺たちの村に向けて出発した。モーンが腹が減ったらしく、途中の草原でむしゃむしゃと草を食べているので移動に時間がかかりそうだ。あとで草を刈ってまとめておこうかな?
時間はある。ゆっくりと森の横の街道を進んでいく。オレが馬車を操作するときは必ず隣にティカが座りいろいろな話をした。
森の木の間から降り注ぐ木漏れ日が心地よく、穏やかな時間が流れていた。
「あたしも仲間に入れてよ。一人で走っていても面白くないじゃない」
最悪だ。なんかいい感じだったのに、このままフェードアウトな感じだったのに!
「お前はモーンでも相手にしてろ!」
怒りに任せて言ったが、ケンにはダメージはないようだ。今度寝ている間に、胸に七つ・・・ではなく、オリオン座のような傷をつけてやる!
「ユウ様、ケンさんも一緒にお話しましょう。皆さん一緒のほうが楽しいですよ」
ティカはなんていい子なんだ。うんうん、みんなで話したほうがいいかもね。
「あら、あんた子供かと思ったけど、結構わかってるじゃないの」
「うふふ。ケンさん私を子ども扱いしないでください。こう見えても、もう25歳ですよ」
「なんだって!!!」
「なにそれ!!」
「そんなのおかしいわ!」
「神のいたずらか!」
「私より年上?!」
「今聞いたことをありのまま話すぜ」
「モーーーーン?!」
馬車の中にいたメンバーから、モーンまでもが驚いた真実だった。




