第2章 05話 解放
ババルさんとジンさんの歓迎会の次の日、さっそく畑が見たいというので、朝から畑にする予定の場所に案内する。
農家の人は朝が早いというが、この世界でも同じようだ。日が出る前に家の扉が叩かれた。前の日に話を聞いていたクロが、朝起こしてくれたのでよかった。こういう時は万能なんだよな。
案内にはクロとババルさんと畑に向かったが、途中でカイルさんも家から出てきてついてきた。
「ここが整地をした場所です。整地しただけで何もしていないのですが、どうでしょうか?」
「ずいぶんと整地したな。畑としては少しずつ広げていこうと思う。まずは村に近いところから作付けしていこう。この村では家畜魔物は飼わないのか?」
家畜魔物?なんだそりゃ。ガレム村やエーテハイムの街では特に見なかったが・・・
「すみません。家畜魔物とはなんですか?」
「ん?知らないのか?家畜魔物は、魔物の中でもおとなしく草を食べるものを飼って、畑に生えた草を食べさせ、フンを肥料にするんだ。ガレム村ではモーンを飼っていたが、見たことなかったか?」
ガレム村にいたのか?全然わからなかった。でも日本でも牛のふんや落ち葉を肥料にすることがあるから同じことなんだろう。草を食べるなら周りにたくさんあるから困らなそうだし何匹かかってきてもいいな。
「村にいたのは知りませんでした。でも必要なら何頭か買ってきます。どのぐらい必要ですか?」
「とりあえず5匹もいればいいだろう。2匹はオスで3匹はメスがいい。簡単な小屋を作りそこで飼うが世話はどうするか・・・俺一人では手が回らないな」
さすがに畑を見ながら家畜魔物の世話をするのは大変だろう。人手が必要だな。奴隷を買って村民として住んでもらうのはどうかな?
「それならば、私にやらせてください。犬族は家畜魔物の感情を読むことができるので、飼うことを仕事とするものが多いのです。家族でやれば20匹程度まで世話をできます」
犬族は家畜魔物の感情を読めるのか。適材適所という感じで丁度いいね。
「それではカイルさん家族に家畜魔物の世話を頼みましょう。後は、ババルさんの手伝いとして、奴隷を購入しこの村の通常の住人として迎え入れようかと思ってるんですがどうですか?」
「それなら・・・一つ頼みがある。ほかのオーク族の村で、前にお前が捕まえた人族貴族に連れていかれ、奴隷となったものがいると聞いた。同じオーク族なら畑仕事には向いてるし、助けてやりたいと思う。図々しいお願いだと思うが、そういう奴らを優先して購入してもらえないか?」
そうえばエーテハイムの馬鹿貴族がクズ貴族を使ってほかの村からも連れ帰った人がいるはずだ。せっかく村に移住してくれたババルさんの希望だし、オレとしてもその方がいいと思う。
「そういうことなら、わかりました。オーク族を見つけたらできる限り購入することとします」
「ユウ様、私からも一つよろしいでしょうか?」
クロからも何かあるようだ。こういう時のクロの意見は、オレが気づいていない部分をカバーしてくれるので助かる。
「いいよ、どうした?」
「この村の周りは森となっており、豊かな狩場でもあります。行商の方や街に買いに行くことも一つですが、狩りを得意とする猫族や兎族を増やし、肉類を得るのもよいかと思います」
兎族か。街で見たことあるが、本当に兎耳が頭の上のほうから生えてるんだよね。猫族はミミが足音立てずに走ったりしてたからわかるんだけど、兎族はなんで狩りが得意なんだろう。
「そうだね。狩りも重要だな。猫族はミミの動きを見て狩りが得意そうなのはわかるんだけど、兎族ってなんで狩りが得意なの?」
「兎族は耳が良く、遠くの音を聞くことができます。猫族とコンビを組んで狩りをするものも多く、罠などに詳しい者も多いです」
確かに、兎族が魔物の居場所を確認し、猫族が忍び足で近づけばかなり効率がよさそうだ。小さい時から狩りの特訓を受けるため、15歳を過ぎるころには一人前になるらしい。
とりあえず、今の資金でなら結構人数は確保できそうだが、奴隷商のところに行って実際に見て決めよう。奴隷商といってもバルバリーしか知らないんだよね。あまり気が進まないが、オーク族の奴隷がいるかもしれないから一度エーテハイムにはいくしかないな。
バルバリーと言えば、街を出るときに何かもらったよな。投げてきたので、咄嗟に取ってローブのポケットに入れたままだった。
「クロ、エーテハイムを出るときにバルバリーがこれをくれたんだけど、なんだかわかる?」
ローブから取り出した小さな箱を見せ、ふたを開けてみた。すると中には銀の指輪が出てきた。指輪の周りには何か文字が刻まれている。
「それは!奴隷の契約や解放をすることが出来る「契約の指輪」です。奴隷商の商売道具ですね。値段としては金貨10枚はくだらないと思いますが、マテル道具の一つです」
そんな高価なものだったのか?!落とさないでよかった。でもなんでこんなもんを俺に渡したのかがわからない。
商売道具を渡してまで俺に何をしろというのだろうか?ミミのことをやたらと気にかけていたから奴隷解放しろということか?意図はわからないが、ミミや犬族家族の解放はしたいと思う。
奴隷としてではなく住人として付き合いたいしね。お互いに気分もいいだろう。
「じゃあ、ミミと犬族家族はさっさと奴隷解放しちゃおうか。奴隷じゃなくてちゃんと住人になってもらおう」
「えっ!!本当なのですか?!私たち家族も解放していただけるのですか?なんて心の広い方なんだ。私はなんとお礼を言っていいのか。家族も喜びます!さっそく呼んできます」
カイルさんが相当興奮した様子で走っていったが、なんだろう?奴隷解放は、やっぱりうれしいらしい。
「ユウ様、奴隷という立場は主人の所有物となるため、買い物するにしても許可が必要ですし、買ったものも主人の所有物です。そして結婚までも主人の許可が必要なのです。主人が何人も奴隷妻として迎えることも、夫と別れさせ自分の妻とすることも、すべて主人の指示に従わなければなりません」
なんて俺様条件!某アニメの、歌がよろしくないガキ大将もびっくりだ。そんなことは人族貴族のクソ野郎どもが考えそうなパターンだろうが、さすがに俺はハーレムを望んでいるわけじゃないし、生涯1人の伴侶が居ればいい。何人もいれば絶対修羅場があるはずだ。そんなの精神が持たない。
「主人に歯向かったり、命令に背くと死ぬほどの苦しみを味わうといわれています」
「そうだったのか。オレはそんなの望んでないし自由になってほしいね。ミミも解放して自由にしよう。クロも、もともと自由だけど、その方がいいでしょ?
「そっそっそりゃそうです。仲間は・・・仲間はみんな自由がいいです。自由恋愛がいいです。私はミミを呼んで来ますのです、すぐさま、すぐさま解放してやってください。犬族家族よりも先に!すぐさま解放してください!すぐ」
「すぐさま、すぐさまうるさいよ!わかったから早く連れて来て」
ポンコツ執事警報発令中だな。ミミは奴隷だったから今までクロに素っ気なくしてたのかな?解放したら今よりさらにクロと仲良くなればいいけど、クロは使い物にならなくなったら困るな。それだけは注意しておこう
それから犬族家族とミミが集合したので、オレは契約の指輪を着けて神秘の力を流す。バルバリーがやっていた様に対象者の頭に手をかざす。何かを言っていたようだが、覚えていない。とりあえず指輪に書かれている文字を読んでみた。
「所有者の固定を解除する」
すると指輪が強く光り、だんだんと光が弱くなり収まった。これでいいのかな?
「ありがとうにゃ。自由になったにゃ。でも私はこれからもユウ様のメイドにゃ」
うまくいったようだ。本人には奴隷から解放されたことがわかるようだ。犬族の家族も一人ずつ解放していく。犬族家族も喜んでいる。よかったよかった。
まだ日が出てそんなに経っていない。今日からエーテハイムの街に向かい、モーンと奴隷を見てこよう。今回はクロとミミも連れていくことにする。
ババルさんや他のみんなに数日留守にすることを言って、馬車に乗りエーテハイムの街に向かう。前回は今の村の位置まで6日かかった。
馬車が少ないこともあり、5日で街に着くことが出来た。しかし、前回の騒動があるため堂々と街に入るのは問題があるかもしれない。
今回はミミに馬車を任せ、街に入るためのお金を渡す。オレとクロは、暗くなってきてから闇のマテルで姿を見えづらくし、壁を飛び越えて街に入った。
その日の夜は門の近くにある中級レベルの宿に泊まった。
翌日は朝からまずはモーンを見に行く。ここはクロが詳しかったので家畜魔物を扱う店に案内してもらった。店は街の西側地区の端にあり、広い土地に見た目は牛だが、キリンのような模様をしていて、白地に黄色の色合いがなんともいえない、家畜魔物が何頭も放し飼いされていた。
「あれがモーンです。性格は温厚ですが、怒らせるとなかなか厄介な相手です」
正直気持ち悪い。色遣いもそうだがなぜキリン柄。よく見れば牛だが・・・わからんこのセンス。わからん。
「とりあえず店にって、元気がよさそうなのを買っちゃおうかね」
そのあと店に入り、やたらと愛想がいい犬族のお姉さんが対応してくれた。
「モーンをお求めですね。ありがとうございます。私共のモーンは5歳以下でまだまだ元気なものだけを販売しております。オスは1匹1000バル、メスは1500バルです」
(少し高い気もしますが、5歳以下という条件があるからでしょう。問題ないと思います)
クロが情報を伝えてくれる。いつの間に相場を調べていたのだろう。謎だ。
「それではオス2頭、メス3頭をお願いします。あとで引き取りに来たいのですがそれまでに連れて歩けるように準備していただけますか?」
「お買い上げありがとうございます!それではお昼の休憩以降であれば引き取りできるように準備しておきますね」
次は奴隷商だ。バルバリーのところはあまり気が進まないが・・・しかたない。行ってみよう。
「バルバリーさんはいるかい?」
受付のメイドにバルバリーを呼んでもらうようにお願いする。
「なんだ?また街に戻ってきていたのか!あまり目立つ行動しないほうがいいのではないか?私はお前のお蔭でだいぶ儲けさせてもらったが、あの騒動で損をしたものも多い」
「そうだと思って、なるべく短時間で帰りたいですね。今日は奴隷を買いに来ました。オーク族と兎族と猫族の奴隷はいますか?」
「ああ、いる。今うちにいるのはオーク族3人に兎族3人、猫族2人だ。そこで待っていろ、連れてくる」
3人でソファーに座りバルバリーが戻るのを待つ。そこで衝撃的な出会いをするなんて、この時は考えてもなかった。




