第1章 17話 奇跡の色
いよいよ第1章も終盤です。
夕方までに買い出しと作戦のまとめを行った。買い出しはミミに金貨3枚を渡しオレの無限リュックを預けた。クロにお願いしてもよかったが、人前で闇ストレージを出すのはさすがにちょっと目立ちすぎる。
無限リュックを肩掛けのバックの中に入れてリュックの存在はわからなくしている。この世界にも無限バックはあるが高級なためあまり一般には普及していない。オレのリュックは見たことない生地のため目立つのだが、バックに入れれば問題ないだろう。
クロにはアライルの悪事をいくつか聞いた。低級貴族の娘に手をだし、周りに言わないように脅していたり、手下の貴族に命令して辺境の荒野で子供をさらわせてきて、散々こき使ってから奴隷商に売ったり・・・あれ?なんかこれってこの前オーク族の村であったことに似てるよな?
「クロ、そのさらわれてきた子供にオーク族はいたのか?」
「はい、以前に連れてきた奴隷はオーク族だったと記憶しております」
やはりそうだ。クズ貴族のヴォルーダ・・・だっけか?あいつはアライルの手先なんだろう。子供をさらってはアライルに渡していたんだと思う。それが捕まったので手に入らなくなり機嫌が悪かったのか?もしくは自分で奴隷になりそうな子供を探していたのかもしれない。
どこまでも腐った野郎だ。自分より力の弱い子供を奴隷とすることで、何か失敗をしたら難癖をつけて暴行していたのであろう。本当にクズだな。
取りあえずいろいろと情報を手に入れたのでどのような作戦がいいかクロと話し始めた。この時オレの中ではこの街にいることが少し不満に思っていた。こういうクズがいるところに居るのが嫌な感じがする。家をせっかく買ったが気が早すぎたかもしれない。ミミも帰ってきたし、作戦も決まった。
「こんばんわ」
ドアの外でヴァンスさんの声がした。ミミが扉を開けて迎えいれる。
「ユウ殿、この方達がユウ殿の従者の方ですな? 私はヴァンス、今回は無理なお願をユウ殿に相談し、助けていただくこととなりました。。よろしくお願い致します」
「私はユウ様の執事をしているクロと申します。以後お見知りおきを」
「私はミミにゃ。ユウ様のメイドにゃ」
「ユウ殿、執事にメイド・・・かなり富裕層の商人でしたか?!」
「いや。放浪行商人ですよ。ぜんぜん名も売れていない駆け出しです。ですが、良い巡り合わせにより有能な従者と会うことができました」
「そうですか。私もユウ殿に助けていただけて良い巡り会わせだと思っております。それでどのような方法で救出しましょうか?」
「犬族の家族を全員奴隷として買い取ります。」
「?!それではユウ殿が何もメリットが!!いや奴隷として売りさばけば命だけは助けられるが・・・家族はばらばらに。それに!アライル様がそれをみすみす許すはずがありません」
「落ち着いてください」
クロがヴァンスさんをなだめて落ち着かせ、説明を始めた。
「ユウ様はいろいろと可能性を考えて一番安全に事を収める方法としてこの方法で助け出すことを決断しました。まず明日の処刑執行前に全員がそろっているところで奴隷として買い取るといいます。次にアライルが文句を言ってきたところで本人に今までの悪行をばらすと脅しをかけます」
「アライル様はそんなことでは屈しないでしょう。むしろ文句を言いつけたと逆に罪に問われてしまいます」
「そこであなたが姿を現せてアライルが見える位置にいてください。多くの人、多くの貴族が見ている前で隊長だったあなたの証言があれば、いくら権力があろうとも周りの心象も悪いため罪を逃れることはできないと話します。そこまで言えばいくら馬鹿貴族といえども自分が不利なことぐらいわかると思います」
「しかし、本当にそれで売ってくれるでしょうか?」
「もしこじれた場合は、脅した上で家族を無理やり連れて行きます。どちらにしてもこの街での生活は厳しくなるでしょう。貴族から目をつけられる可能性もありますので、犬族の家族、貴方の家族共に街を出ることとします」
「まっ待ってくれ。確かにこの町にいることは厳しいと思う。しかし逃げても追っ手がかかります!それに私の妻は体が弱っているため耐えられません」
「追っ手は私達が対処します。奥様は一度ユウ様が状況を見て判断するとのことです。とりあえず他の町か新たな土地を目指すこととなります」
「ヴァンスさん、奥さんは何か病気にでも?」
「実は・・・前に風邪をこじらせたのですが、なかなか治らずアライル様がお抱えの医者に見てもらえるよう手配してくれたのですが、薬を飲んでも良くならずむしろ少しずつ弱っているように思うのです。何の病気なのかもわかりません」
ん?アライルのお抱えの医者?なんか引っかかるな。それに風邪がそこまで悪化したのもおかしい。やはり一度見たほうがいい気がする。
「わかりました。では明日の朝に一度ヴァンスさんが泊まっている宿に寄ってから処刑会場に向かいましょう。何か奥さんの治療をできるかもしれません。朝に一度この宿に来ていただき家に案内してください。それまでに街を出る準備もしてください」
「こうしてはいられない。いろいろ買い集めなかればならない!」
「安心するにゃ。みんな逃げても問題ないだけの食料といろいろなものを買ってきてあるにゃ。ユウ様に全部任まかせるにゃ」
「なにからなにまで・・・私は貴方のような方に忠誠を誓うために兵士になったのだ。この件が終えたら、ユウ殿私を私兵として雇ってもらえないだろうか?」
「まぁ考えておきます。とりあえずは目先のことを考えましょう!それでは明日の朝一度こちらに来てください」
「承知した。それでは」
ヴァンスさんは根っからの兵士なんだろうな。オレとしてもあれだけ忠誠心のある人が兵士としていてくれるなら心強いが・・・でもオレ行商人ってことになってるんだけどね。一緒に連れて歩いたら家族がかわいそうだ。
「それではユウ様、明日は私がユウ様と一緒に犬族の家族を購入しに行き、ミミはヴァンスさんの家族を連れ出し、馬車に乗り街の外で待っているということでいいでしょうか?」
「そうだね、明日は忙しくなるけどよろしくね」
「大丈夫にゃ。何も心配いらにゃいにゃ」
その日は軽く食事を取り早くに寝た。
次の日、日が昇る前に目が覚め、今日の準備をする。といっても行商らしい旅人の服を着て骸骨騎士のローブを着てから、無限リュックを肩掛けバックの中にいれたものを肩から掛ける。あまり持ち歩くものはないのでこんなものだろう。
クロはいつも持ち歩いているスティックと昨日ミミとデートしたときに似合っているといわれて即買いしたという漫画の執事がつけているような丸めがね。そして白い手袋をしていた。
ミミはいつものメイド服だが新しいものに着替え、クロに飼ってもらったというレースをふんだんに使ったエプロンをつけている・・・なぜに?今つける必要あるのか?
その姿を見てクロがまたもじもじして気持ち悪い。
「ミミ、何でエプロンするの?」
「クロさんが「これはメイドの正装だ!」っていってここぞというときに着けるようにおしえてもらったにゃ」
クロ・・・お前は何を教えてるんだ?自分の趣味か?そうなのか?まぁ似合っているし本人もやる気がでてるようだからそのままにしておこう。
トントン
ドアがノックされ扉を開けるとヴァンスさんがいた。
「おはようございます。今日はよろしくお願いします。私の使っている宿に案内します」
ヴァンスさんを加えて4人で昨日購入した馬車3台を連ねてヴァンスさんの使っている宿に向かった。
「ここが私の使っている宿です」
そこは西地区のなかでもスラムにあるボロ宿だった。ここにいたら俺でも具合が悪くなりそうだ。まずは奥さんと息子さんに合い挨拶を交わした。
奥さんはソリアさん、息子さんはナルくんというようだ。ソリアさんは顔色が悪く体の線も細い。咳も良くしているようだ。
「ソリアさん、具合が悪いというのはどんな症状ですか?」
「はい・・・。胸の辺りが苦しく、咳が良く・・・ゴホッゴホッ・・・でます。いつもだるくて日に日に体が重くなって・・・」
「それでは少し調べますので右手を出してください」
オレはどうすればいいかわからないがとりあえず神秘の力で調べてみる。いろいろ使っているうちに神秘の力で相手を調べると、相手の感情や状態がなんとなくわかるようになった。前にミミにやったみたいに神秘の力でソリアさんの体の中の力を確認してみようと思う。
ソリアさんの右手を両手で掴み神秘の力で探ってみる。少しソリアさんの顔が赤くなってもじもじしている。やっぱりくすぐったいのだろうか?
ソリアさんの神秘の力は橙色だったが、なんか、くすんでいる。はっきり言って綺麗な色じゃない。なぜだろうか?原因はわからないが相手が優れない体調なのが伝わってきている。これは辛いだろう。息が上がって呼吸が苦しい感じが伝わってくる。このまま続けると体に悪影響になりそうなので一度手を離す。
「ソリアさん、マテルは使いますか?」
「はい、簡単な生活のマテルは使いますが、今はあまり神秘の力が出てくれなくて使えなくなってしまいました」
やっぱりそうか。あんなにくすんでドロドロしてるとうまく引き出せないだろう。でも原因がわからない。
「すみません薬を飲む時間なので先に飲ませていただいてもいいですか?」
「あっはい。どうぞ気にしないでください」
ソリアさんはヴァンスさんに手伝ってもらいながら粉薬を水で飲んでいる。ん?薬を飲んだら神秘の力が弱くなったぞ!こりゃ心配していたことが現実味を帯びてきた。
「ヴァンスさん、この薬は?」
「これはアライル様のお抱えの医者が毎日朝、晩飲むようにといって処方してくださったものです」
「言いづらいですが、この薬は毒の可能性があります」
「ちょっと失礼します。この薬の中身を確認します」
クロが薬が入っていた包みを手に取り、闇のマテルで何かをしている。こういうときはすごい万能執事だな。
「こっこれは・・・。ユウ様この薬は弱毒性のポイズントードの毒です。通常は強毒性ですが、何かで薄めてゆっくりと毒が体に回るように加工されています」
「なに?!毒だって!!何てことだ・・・アライル様、いやアライルにだまされていたのか!ゆるせん・・・ゆるせんぞ!!!」
ヴァンスさんが激高して今にも飛び出しかねない。クロが止めたが、飛び出して行きたい気持ちはわかる。何が目的でこんなことをしたのだろう?お抱えの医者もグルということになる。
「お兄ちゃんママをたすけてくれるの?ママ大丈夫だよね?すぐ元気になるよね?」
ナルが足にしがみつき上を向いてオレの目を見て訴えかけてくる。助けるさ。ここで助けなきゃバッドエンドになる!そんなことは俺達の誰も望んでいない。
「大丈夫だよナル。今から珍しいマテルを見せてあげるからね。そしたらママは元気になるぞ!」
毒であればどうにかなる。解毒をすればいいのだが・・・イメージとしてはフィルターを通して綺麗にする感じかな?水道の浄水器みたいな感じ。そして神秘の力が濁っていたので、その原因を取り除けば大丈夫だと思う。
今度はソリアさんの両手をそれぞれ掴み、神秘の力を流し込む、1つはフィルターをイメージし体の毒素を抜いていく、もう一つは濁った神秘の力の流れをさかのぼり原因を取り除くため探っていく。
毒素がだんだん抜けていたらしくソリアさんの苦しそうな呼吸が普通の呼吸に変わった。そして神秘の力の流れをたどっていくと途中に黒くまがまがしい塊がくっ付いていた。なんかドロドロしていそうな感じの塊だ。こりゃこれが原因だな。っていうかこれ以外考えられない。
俺の神秘の力でその毒素?を包み込んでとりあえず俺の体の中に引っ張り隔離する。すると橙色の神秘の力が少しずつ綺麗になってきた。なんとなく力ない色で時間がかかっているようなので自分の神秘の力を流し込んでみたらとたんに綺麗な橙色に変わった。
俺の力は白い色なのでどんな色でも応用が利くのかな?浄化もすんだようなので手を離す。ソリアさんはゆっくりと目を開けた。
「こんな・・・信じられない。あなた!ぜんぜん苦しくないわ。なんかすごく力がわいてきた感じがする。もう咳も出ないわ!」
「奇跡だ・・・どこの医者に見せても解決しなかったのに。ユウ様このご恩は一生かけてお返しいたします」
それは少しの間ヴァンスさん家族は3人で抱き合って泣いていた。そこにずっとるのも野暮なので。外に出て待っていると3人とも笑顔で荷物を抱えて出てきた。
「お待たせいたしました。これから犬族の家族を助ける間家族をお願い致します」
「任せるにゃ」
「それではわれわれも向かいましょう。もうすぐ犬族の家族が出てくると思います」
それからオレとクロとヴァンスさんの3人で処刑会場へと向かった。