第1章 13話 それは愛でるもの
クロさんご乱心wなんかうぶです。
街をぶらぶらする。たまにタタを見かけるが、うまくやっているようで、旅人にガイドとして街を案内る姿を見かける。こっちを見ると挨拶してくれるので、弟子を見ているようで少し恥ずかしくもあり心配でもある。まぁあいつなら大丈夫だろう。
大通りを歩いていると怒声が聞こえてきた。
「このクズが!毎回言うことを聞かずにオレを無視したな!罰を与えなければわからないのか!」
太ったおっさんが奴隷の娘に手を挙げている。どんな理由があろうと手を上げるのはいかん。それにあの娘は猫耳!!
「人の店の前で何をしておる。迷惑だから他へ行ってくれ」
「バルバリー!お前のところで買った奴隷だが、一つも言うことを聞かないぞ!夜の相手もしなければ、家事もしようとしない。こんな欠陥品を売りつけたのか!!返品だ!それに慰謝料も払ってもらうぞ!」
なんかまた人間のクズがわめいているようだ。この世界の人族は本当にクズが多いな。タタやカツアゲしていたガキのほうがまともに見える。女の子に手を上げるなんて言語道断!ここは一言いってやりたい。
「おい!ちょっ「ちょっとそこのお前、その子から汚い手をどけろ!」」
あれ?!クールなクロが珍しく大きな声を上げている。
「ん?なんだぁお前は。自分の奴隷に手を上げようが私の勝手だ!お前こそ執事の分際で私に物申すというなら?!」
目の前のクズはそれ以上の言葉は続けられなかった。瞬時にクズの横に移動したクロが耳元で何か話している。
「執事が物申せばなんなんだ?お前のその汚い口も、死んでしまっては何も発することが出来まい。私は簡単にお前を消すこともできる。それ以上その女性に手を挙げるならそのときは・・・」
「っく、わしはもうこんな奴隷いらん。そこまで言うならお前の主人に頼んで買い取れ!元値は5000バルだが、お前には恥をかかされた7000バルで売ってやる」
なんかよくわからないがあの猫耳奴隷を買い取れと言っているようだ。クロの様子がおかしかったし何か事情があるのか?後で事情は聞こう。
「わかった。その奴隷を買おう。ほら金コインだこれで文句はないだろう釣りはいらないさっさと消えな」
「ユウ様!!それはいけません。そんな大金を・・・。私の失態です。あやつを仕留めて・・・」
「クロ!もういい。その娘の様子を見てやれ。バルバリーさん。店の前で騒いで悪かった。これで勘弁してくれ」
オレはバルバリーさんに銀コインを1枚投げた。
「わかった。このことに関してはオレはもう何も言わん。ただ、奴隷の譲渡をするならちょっと待っていろ。手続してやる」
バルバリーさんが猫むすめに手をかざすと何かマテルを使ったようだ。後で聞くと奴隷の契約を変更するためにマテルで奴隷の所有者をオレに変更してくれたらしい。
本当は奴隷を買う気はまだなかったんだよね。もっとちゃんと稼いで拠点もしっかりしたら戦力増強や手伝いをさせるための奴隷は考慮しただろうけど、まだこの街に来てさほど経っていないんだよね。急展開になってしまった。
「これでこの奴隷はお前の所有になった。ザイル!奴隷にだって意思がある暴力や力でどうにでもなると思うなとあれほど言っただろう。特にこの猫族の娘は能力は高いがプライドが高く扱いにくいことを承知で購入したはず。今回はユウ殿に免じて何も言わん。しかし次はないぞ」
「ふんっ!こんな店で奴隷はもう買わん!」
デブのクズはそういって去っていった。本当に腹が立つ奴が多いな。人族を嫌いになりそうだ。
「ユウ殿 そういうことでこの娘はプライドが高い。扱いづらいかもしれんがよろしく頼む」
バルバリーさんはそういって店に入っていった。オレは一礼をしてから奴隷の娘を見る。
「クロ!その娘の様子はどうだ?」
「今のところ殴られた怪我ぐらいのようです。ユウ様、この度は私の失態であります。お支払いされた金コイン1枚と銀コイン1枚は私が稼ぎお返しいたします。そのため別行動をとる許可をいただきたいのです」
「クロ、気にしないでもいい。稼ぐならまた廃墟で戦闘訓練をつけてくれながらやればいい。ただ、なぜあそこまであの娘をかばおうとしたのか教えてほしい」
「わかりました、お話いたします。これは先日住居より買出しのため街に出てきたときのこと。いつも通りに店を回り必要なものを買っていると、奴隷商の店の前であのザイルという商人がこの娘を買い上げて帰るところに居合わせました。私は特に気にしていませんでしたが、この娘と一瞬目が合ったとき、全身に電撃が走りました。すべてを見抜かれたような感覚に陥り、私はその場で動けなくなりました。それからことあるごとにその娘のことを思い出し苦悩していたのです。そんな中、今日また出会うことができた。しかし暴力を振るわれているところを見たとたんにわれを忘れてしまいました。執事としてあるまじき行為です」
・・・それってただの一目ぼれとか恋とかいうやつだよね。っていうかそうとしか考えられないよね。クロ・・・クールな癖してそんなにピュアなやつだったのか?!なんか心配して損したわ。
「クロ、もういい。それはお前がその子に一目ぼれしたからじゃないのか?」
「一目ぼれ・・・いやそんなことは・・・しかしこれは・・・いやでも・・・」
クロさん完全に機能停止です。いつものキレもなくあーでもない、こーでもないといってます。こりゃ重症だ。
「クロ、もしその娘が他の男と手をつないで歩いているところを見たら、楽しそうに話しているところを見たらどう思う?」
「うっ。そっそれは・・・くるしい・・・苦しいと感じます」
「それは恋だ!」
「これが!!私はこれまでにそんな経験をしたことがないためわかりませんでした・・・これが恋・・・」
はぁ~万能執事がポンコツ執事に見えてきた。まぁいい。買った奴隷はどんな子なのかわからないが、メイドとしてクロに教育してもらえばいいだろう。
「クロ、これからこの娘の教育係に任命する。メイドとしていろいろといろはを教えてやれ。そして面倒を見ろ!」
「わかりました。一流のメイドとしてユウ様に恥をかかせないよう、教育をいたします。では早速名前をつけていただけますでしょうか?」
忘れていた。名前をつけなきゃいけないんだよね。猫むすめを見ると殴られたり蹴られたりした後が痛々しいので治癒のマテルで瞬時に直した。すると猫むすめが驚いた顔をしてこちらを見てくる。
「前の主人にはなんて名前でよばれていたんだい?」
「・・・ミーティアンって呼ばれてたにゃ」
うーんさすがに同じ名前はいやだろうから違う名前をつけよう。何がいいかな・・・猫・・・猫むすめ・・・猫耳・・・猫みみ・・・みみ・・・ミミ!!
「それでは今日から君はミミ。君の名前はミミにする」
「ミミ・・・わかったにゃ」
「オレは行商人のユウ。君は今日から僕の奴隷だけど、基本的にはメイドとしての教育を執事のクロに任せる、言うことを聞くようにね。それに嫌なことや自分の意見があったら遠慮せずにちゃんといってね」
「私はユウ様の執事 クロという。今日からミミの教育係でもある。厳しいこともあるかと思うがよろしく頼む」
「ユウ様にクロさん よろしくにゃ」
ミミは猫むすめだが、見た目は人に近い。顔の猫ひげと頭の髪の間からピコピコ動いている猫耳と尻尾、そして手は人と同じだが肘から先に猫毛が生えていることが猫族の特徴といえる。赤トラの猫毛でモフモフしたい。
でもここは我慢し頭をなでるだけにした。少しだけクロが反応したように見えたがまぁこのぐらいは許してもらおう。
ミミはシーツをに穴を開け頭からかぶったような簡単な服しか身につけておらず、さすがに連れて歩くのもかわいそうなのでとりあえず予備のローブを羽織らせ、服を買いに出かけた。
「洋服であればこの店が良いかと思います」
クロが洋服の店に案内してくれる。店の中に入るといろんな種類の服が置いてあり、服だけでなくこの世界の簡単な下着や女性用の品もいろいろと置いてあった。
「いらっしゃいませ。どのようなものをお求めでしょうか?」
40代ぐらいの女性が中から出てきた。女性の服はよくわからないのでお店の人に見繕ってもらおう。
「この娘はメイドなのだがメイドとして動きやすい服装と下着などの必要品をそろえてくれ」
「わかりました。では採寸をして合う服をお出しいたします」
「ミミ、この人に服を用意してもらいそれを着てみてくれ」
「わかったにゃ。動きやすいものがいいにゃ」
その後クロと話しながら待っていると20分ぐらいでミミが出てきた。
うん。完全にメイド服だね。この世界でもあるんだな。バルバリーさんのところでもメイド服を着た人がいたからメイド服は次元を超えて共通なのかもしれない。・・・!!これはノーベル賞ものの発見じゃないか?
そんな馬鹿なことを考えているとクロが話しかけてきた。
「ユウ様どうでしょうか?」
「メイド服はやっぱりああいう感じなの?」
「はい。メイド服はたいていがロングスカートでレースが多く使われているものが大半です。しかし動きやすさは考慮されているとのことです」
「ミミ、その服を着ていて違和感はない?」
「無いにゃ、でもこんな上等な服を買ってもらっていいのかにゃ?」
「クロとミミにはしっかり働いてもらうから、そのための先行投資ってことだな。すみませんがこの服2着と下着とか必要なものをいくつか見繕っていくらになりますか?」
「この子は体の線も綺麗だし、既製品で体に合うようだから1着500バル、2着と必要品を合わせると1300バルになるよ。」
(ユウ様、値段は相応な金額と思われます)
クロがすかさず耳元でアドバイスをくれた。
「わかりました。それを頂きます」
「毎度ありがとうございます。このまま服を着ていかれますか?」
「はい、そうしてください」
ミミは嬉しそうにニコニコしている。結構表情も豊かになってきたようだ。緊張がとけてきたのかな?
じゃあ次は靴と護身用の武器とバックとか小物かな。
クロと相談しながらミミの身の回りの品をそろえていく。なんだかんだでその後も1000バルぐらい使ってしまった。結構痛い出費だが明日からまた稼げばいいだろう。
夕方になり宿屋の戻るがカイさんにまた人数が増えたことを告げると
「ずいぶん羽振りが良くなったな!毎日人数が増えているが養えるほどの稼ぎがあるなら広い部屋に移るか?」
カイさんの勧めで前よりも広い部屋に移動した。金額は前の1.5倍だがベッドも3つにしてもらい1泊1名75バルのところを3名で200バルにしてもらった。とりあえず1週間分の料金を払った。
少し手持ちの金が心もとないため明日宝石商のところに行って現金に換えてこよう。
その日は歓迎会もかねて3人で食事をとりながら酒を飲んだ。2日連続だが飲みすぎているわけでもないので特に問題は無い。
クロはワインのような果実酒をたしなむ程度飲んでいる。ミミはミルクのような甘いお酒をちびちび飲んでいる。オレはビールのような酒を2杯飲んでやめておいた。料理も肉、魚、野菜とバランスよく頼んだが、
クロは野菜中心、ミミは魚中心、オレは肉中心とうまく分かれていた。ミミは魚料理に目がないようでがっついて食べていたため、クロに怒られ教育をされていた。まぁここらはクロに任せておけば問題ないだろう。
次の日クロの案内で宝石商のところに行く。今回は富裕層のいる東地区に行くためみすぼらしい格好はよろしくないということで、いつもの旅人の服ではなく少し上等な布であつらえたズボンとシャツを着ていく。これはクロに言われてミミの服を買うときに別な店で買ったものだ。
宝石商の中に入ると成金っぽい店主が出てきて対応をし始めた。
「いらっしゃいませ。この度はどのようなご用件でしょうか?」
「私の持っている宝石を買い取ってもらいたい」
「かしこまりました。ではこちらにどうぞ」
店の奥に通され応接スペースのようなところに座らされる。座るのは俺だけであり、執事のクロとメイドのミミは椅子の後ろに立っている。周りをきょろきょろ見ているミミをクロが注意している。でもいろいろきらきら光るものがあるから見たくもなるよね。
「では、今回売っていただく宝石を拝見させていただきます」
「これを買っていただきたい」
「?!これは! このような純度の宝石は滅多にお目にかかれません。それにこの大きさ!しょ、少々お待ちください」
やはり驚いているようだ。これは前に行商人のジンさんに買い取ってもらおうとした、大きな宝石をひとつ出したのだがあの時は家が買えるぐらいの金額といっていた。クロに見せたところ上等な宝石といっていたのでかなりの額が期待できる。
少しして店主が戻ってきた。
「お待たせいたしました。店の職人にも見せてまいりました。是非とも30万バルで買い取らせていただきます」
30万バルってことは3000万ってことか?!すげー。拾った石が家になるって事だよね。まだリュックの中にはいくつかあるのだがこれをここで出すとこの店がつぶれてしまいかねないので1つでやめておこう。
(ユウ様、このクラスの宝石は相場が変動しやすいのですが、もう少し高く32万バルぐらいで買い取っていただけるかと思います。)クロが小声で話しかけてきた。
「この宝石は珍しいものです。他の街の宝石商では35万バルはくだらないと言っていました。もう少し色をつけることができませんか?」
「これはこれは、その宝石商は大きく出たようですが、この街では少し相場が違うようです。頑張っても32万バル、それが今私どもが出せるいっぱいの額です。」
「わかりました。32万バルでお譲りいたしましょう」
「では用意いたしますので少々お待ちください」
なんか簡単に5分ぐらいで交渉が決まってしまったがかなり高額な取引だよこれ。金銭感覚がおかしいな。でもこれで当面の資金は確保できた。なんだったら本当の家を持つのもいいかもしれない。拠点として宿屋をずっと使うのも大変だしね。
「お待たせいたしました。32枚の金コインとなります。ご確認ください」
オレはコインを10枚ごとに並べていく、3つの山と残り2枚あるので間違いなく32万バルだ。
「確かに受け取りしました。それではありがとうございました」
「こちらこそありがとうございました。また良い宝石が手に入りましたら、ぜひとも私どもの店にお立ち寄りください」
宝石商を後にしまた大通りを歩く。とりあえず日も高いので廃墟に行くか。ミミの実力を少し確認しよう。